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第十九話 襲い来る海底の邪神

 ばたばたと大きな足音を立ててある一室の前にやってくるエルフィーナ達。アニーとグラックも後を付けてきた。一呼吸置くとエルフィーナはバタンとドアを突き破るかの勢いでその部屋に入る。その時のドアを開ける音は船中に聞こえたのではないかというほど大きな物であった。厳つい大男のグラックも少し体を竦ませた程だ。

 ドアを破壊する勢いでその部屋に入ったエルフィーナはその部屋にとうとう探していた目的の人物を見つける。目的の人物である彼女は、自分の部屋にぞろぞろとエルフィーナ達が入ってきたというのにさもそれが当然と言わんばかりにエルフィーナ達には一瞥も与えず、静かに紅茶を飲んでいる。


「おい!!どうしてお前が先に船に乗っているんだ!!まさか一人で行ってしまうつもりだったのか?」


 ガタンっとテーブルに手を叩きつけながら、エルフィーナは彼女に怒鳴る。彼女が手にテーブルをついた影響でテーブルに乗っていた紅茶のポットが倒れてしまった。彼女はそのことに文句を言うでもなく、エルフィーナの言葉に答えるでもなくテーブルの上に乗っていた一つの小さなベルを鳴らす。

 少ししてから、部屋に一人の女性が現れる。なにやらこの部屋のただならぬ気配を感じているのかびくびくしながら部屋に入ってくると、自分を呼びだした彼女の元にやってくる。そうしてから消え入りそうな声で「何かご用でしょうか?」と彼女に問うた。


「ポットが倒れてしまってな、すまないが新しい物を持ってきてはもらえないだろうか?」


 彼女は先程から黙っているクロの首根っこをムンズと捕まえると、貨幣の入った袋を取り上げその中から数枚を女性にチップとして与えた。


「こ、こんなにたくさん…………」


 女性は小さく礼を言うと素早く倒れたポットを片付け、新しい紅茶をとりに部屋を出ていく。彼女はそれを確認するとまだ残っているカップの紅茶を口に運ぶ。しばらく沈黙する一同だったが、グラックはその沈黙に耐えられなかったのか彼女へと口を開く。


「お前さんの連れはみんなすごく心配してたんだぞ? お前さんが船の中にいるのが分かったから良かったものの……一歩間違えればお前さん達は、離ればなれになっちまうところだったんだぜ?」


「そうだよ、それに俺達だって君の帰るのを港で待っていたのにさ、黙って乗り込んでるなんてひどいだろ」


 グラックに続きアニーも彼女を非難する。彼女はカップを口から離してほっと小さく息をつくと、グラックとアニーへと視線を向ける。そうして少しの間があってから彼女は、面倒くさそうに口を開いた。


「だから、男がお前たちを呼びに行っただろう?あれは私がそうさせたのだ」


「でも君の連れはどうするつもりだったんだい?本当に置いていくつもりだったのかな?」


 アニーの追及の言葉に彼女は口の端を持ちあげる。彼女は自分のそばに置いてある紙袋の中を少し漁ると、一つの小瓶を取り出した。


「これは、相手を一時的に自分の思い通りにする薬物でな。これを町に撒いておいたのだ。つまり私の連れがこの港に来るのは想定済みであって偶然でも何でもない。町の宿を探し回ったが私の連れが止まっている様子もなかったから私を探して町を歩き回っているのだろうと予想したわけだ。こんな時間に町を歩き回るのは私の連れくらいなものだからな、この薬の影響を受けるものは少ないだろうよ。………………しかし3本も使ってしまったのは予想外だったがな」


 そこまで彼女が話した時、ちょうどさっきの女性が紅茶の入ったポットを運んできた。女性からポットを受け取った彼女は暖かい紅茶をカップに注ぐと彼女はそれを先程の様に口に運ぶ。







 アニーとグラックはとりあえずは納得したのか自分達の仕事に戻るために部屋を後にする。ようやく解放されたと言わんばかりに、ガイコツとスライムはエルフィーナの荷物入れから這い出し、クロはごろりと横になる。

魔王はそんなのんきなクロを呆れた様に見下ろすと、一つの疑問を投げかける。


「おい、クロ。私をあの医者の家まで運んだ後、お前は何をしていたのだ?」


「え!?……いや、特には……あ、そうそうそう言えばこの船、貨物船かと思ったら旅客船見たいに豪華な部屋でびっくりだなぁ。料理も頼めば高級ホテル並みの料理が運ばれてくるらしいぞ?何か頼むか?」


「魔王様、何とこの獣は魔王様が死んだなどと、おバカな早とちりをして魔王様を放っておいたのでございます。こんな獣さっさとお捨てになさったらどうでしょう?」


 曖昧に言葉を濁したクロだったが、ガイコツの容赦のない報告でクロは放心状態となって真っ白になった。どんなひどい仕打ちが来るかと思い、体を縮こめたが、いくら待てども何もない。彼女の方へ顔を上げると、カップを口元に運んびながらこちらを見下ろす彼女が目に入った。


「どうしたクロ?そんな顔をして……安心しろ。お前の行動はすべて想定済みだ。特にお前の行動に文句を言うつもりはない。これでおあいこだ」


「おあいこ?……どういう意味だ」


 クロは彼女の言葉に首をかしげる。おあいこ……全く意味がわからない。


「クロにリチュレの名産品をおごるというあれだ。まあ、本来下僕との約束など守ってやる義理は無いのだが……私の慈悲深さに感謝するんだな」





***





「……ったく人騒がせな姉ちゃんだぜ」


 サンダルシアン船の幅広い廊下をグラックは小言を言いながら歩く。言葉とは裏腹に、その顔はニヤケているが……しかし突然そのニヤケ顔はきっと引き締まる。彼の友人で仕事仲間のアニーが声をかけてきたからである。


「どうしたんだよ、グラック。そんなにニヤニヤしちゃって……」


 アニーは人の悪い笑みを浮かべてグラックを冷やかす。また間の悪い時にふがいない顔を見られたものだ。グラックは大きくため息を吐くと、アニーを論するように口を開く。


「俺はもともとこんな顔だ。つまらないこと言ってないで仕事しろ!!」


「いやいや、俺の仕事は終わったんだよ。グラックこそ上の空で仕事全然手付かずじゃないか。」


「うぐっ……い、今からやろうとしてたんだ!!」


 グラックの様子にアニーは微笑むと小さく彼の耳元で囁く。


「確か、彼女の部屋この廊下の先だったな。仕事は俺に任せて彼女と話でもしてこいよ」


 アニーのささやきにグラックはかあっと顔を赤くさせたかと思うと無駄に大きな声を上げながらアニーと距離をとった。頭をガシガシと乱暴にかいて、ニコニコしているアニーを睨む。


「変な気は回すな!!さ、さっさと仕事だ!!」


「おいおい、遠慮するなよ。数日経ったら目的地に着く。そしたら彼女ともお別れなんだぜ?それまでに少しでも親しくなっとけって!!」


 確かにこのサンダルシアン船なら目的地ニフラー王国に着くまで数日とかからない。まだ会ったばかりだが、一目惚れした相手と親しくなっておきたいのは事実だ。仮に相手に恋愛的な好意を持ってもらえなくても、別れるまで少しでも会話しておきたい。


「ほら、ウジウジすんな!!男グラックの名が廃るぞ!!」


 バシッとグラックの背中を叩いて、からからと笑うアニー。とうとうグラックは渋顔で「分かった」と返事をすると、彼女の部屋へと歩いて行った。その後ろ姿を見送りながらアニーは彼がどんな様子で戻ってくるかを考えていた。







 すぐに彼女の部屋までやってきたグラックはどうやって部屋に入ればいいのか彼女の部屋の前で悶々と考えていた。その様子はさながら一人芝居。何度目かのシチュエーションでようやく納得がいったのか、ぎこちない動きで部屋をノックする。彼女の「入れ」という短い言葉が部屋から聞こえ、グラックはごくりと唾を飲み込むと恐る恐ると部屋に入った。


 「何の用だ?」


 何やら部屋に置きっぱなしにされていたと思われる、ボードゲームの様なものをいじくりながら彼女はグラックへと口を開いた。彼女の近くには慌ててフードをかぶったのか、お化けの様な姿のエルフィーナがいたがすぐに荷物を持って慌てて部屋を出ていく。グラックが怪訝な顔をしていると、また彼女から声がかけられた。


「突っ立ていないで座ったらどうだ?」


 彼女に勧められるまま、グラックは彼女と向かい合わせに椅子を腰掛ける。グラックが彼女に口を開こうとするが、その前にずいっとボードゲームの駒が差し出された。そうやら相手をしろということらしい。このボードゲームはグラックも何度か船員仲間とやったことがある。簡単にいえば駒を動かして戦う陣取りゲームのようなものだ。グラックは差し出された駒を見てにやりと笑う。


「本気かい?言っとくが俺はこのゲームじゃ負けなしだぜ?」


「ふふん、では今日は貴様の初敗北の日だな」


 静かに始まった戦いを、クロは床で伏せながら見ていた。

 











 




 

 …………どれほどたったのだろう。一人の男の焦った声が部屋に響く。


「ま、待った!!」


「フッ……駄目に決まっておろうが。もう三回目だぞ」


「……な、なんでだ!!お前このゲーム初めてじゃないのか!?」


 思った以上の彼女のゲームの腕にグラックは慌てて問うが、彼女は紅茶を注いだカップを口に運んで一息つくと当たり前のようにさらりとそれに返す。


「ルールさえ知っていればこんなゲーム勝つことなど造作もない。さあ、どうした貴様の番だぞ。早くしろ」


「ぐむうううう」


 どこをどうやってもすでに負けは決まっているのに、最後までやらせるところが何とも彼女らしいなとクロは寝転びながら思っていた。


!!!ドゴオオオオン!!!


 と、突如鼓膜を突き破るような破裂音が聞こえたかと思うと船が大きく揺れボードゲームがガシャンと大きな音を立ててテーブルから床へと落ちる。


「何か問題か?」


 彼女は少し残念そうな顔で落ちたボードゲームを見ながらグラックへと問う。そんな落ち着いた彼女とは対照的に席を立ったグラックは眉間にしわを寄せて警戒したような低い声で彼女に口を開く。長年の船乗りの感なのか、何やらただ事ではないような気がグラックにはした。


「おかしい、何かあったみたいだ。……俺は様子を見に行くからあんたは、この部屋で……」


 待っていてくれ。そう言おうとした時、部屋のドアが音を立てて開いた。そこにはフードをしっかりとかぶったエルフィーナの焦ったような姿があった。エルフィーナは走ってきたせいなのか乱れている息を整えることもせず、彼女たちに伝えた。


「早く逃げよう!!この船は……沈む!!」



エルフィーナの言葉が終わる前に、またもや大きく船が揺れた。


 








お読みくださり感謝感激です。

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