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第十五話 ワンとピーからのひらめき

…………ふざけました。…………

というか毎度のことですが話が雑です。すいません……

「お~あった、あった」


薄暗い倉庫の中で分厚い本を何冊か見つけたマック。

随分と長い間放っておいたせいか埃まみれで、汚れている。

マックは薄暗い倉庫から何冊かの本を持って出てくると、仕事用の小さい木の机の上にドスンッと勢いよく置いた。

本をここまで持ってくる間にしびれたのか、手をぶらぶらと振ってその後に本の表紙をめくった。


「いや~懐かしいなあ…………ん?なんだこの落書き、小さい頃に書いたのかな?」


子供のころに書いたのだろうかグルグルと塗りつぶしたような黒い丸が書いてあるページがあった。

彼は苦笑いしながら早速彼女の死因について調べ始めた。




***




彼が本を読み始めてからどれほど経っただろうか、日が沈み暗くなった部屋の中に明かりが灯される。


「ん~…………分からんなあ。もう役人に任せちゃおうかなあ…………」


彼は、だるそうに本をぺらぺらとめくりながら溜息を吐いてベットに横にしている女性へと目を向ける。眠っているようだが息はしていないのだ。

あまり長い間、死体と一つ屋根の下で暮らすのは遠慮したい。

結局どんなに調べてもこれといった確固たる原因は分からないのだからさっさと役人に死体処理してもらおうかと考えたマックだったが少し死亡の原因らしい病の例も数例見つけているためもう少し調べてみたい。

原因が分かったところで、特に何もないのだが彼自身の自己満足のためにも医療書を見あさるマック。ちなみに何冊もある本のうちまだ1冊目の半分を読み終わったくらいである。


「あ~もう無理…………続きは明日にしよう」


彼は医療書に紙切れをしおりとしてはさんで閉じるとそのまま机に突っ伏して寝始めた。

こうして彼は一つ屋根の下、死体とともに一夜を過ごした。




***




翌日、彼は窓から差し込んでくる太陽の光で目が覚めた。

眠たい眼をこすりながら彼は目を覚ますために紅茶を入れる。

そうして彼は、暖かい紅茶を飲みながらベットに寝かせた死体を覗きこんだ。


「ん~やっぱ美人だなあ…………にしても1日たっても特に変化無しってことは……キエルサイコ病じゃないのか……」


なんだ残念……彼は溜息を吐いてしおり替わりの紙切れをはさんだ本を手に取った。

ちなみにキエルサイコ病とは、眠り蛇と呼ばれる生き物にかまれた際にかかる病気である。この蛇には猛毒があり噛まれると、じわじわと体に毒がまわって眠るように死に至るという。

マックの中では彼女の死因の、かなりの有力候補だったのだがこの症状には死んだ後にも続きがある。

死体は死後しばらくすると皮膚が紫に変色するのだ。この彼女がもし眠り蛇にかまれたのならばとっくに皮膚に変色が起こってもよいのである。


「なんなんだよ~この無駄に白い頬はぁ~紫になれよぉ~」


べしべしと軽く彼女の頬を叩いてみたが反応は無い。


「んん~…………後考えられるのは…………あれ?」


彼が数ページパラパラと流し読みしていくと、あるページから文字が印刷されていない。古い本特有の黄ばんだ色のまっさらなページがただ続くばかり。

……………………落丁本だ。


「あああああ!!!なんで!?落丁本?…………あれ?そう言えば小さい頃はちゃんと読んでなかったから気付かなかったのか?」


マックは頭を抱えながら「分かんないよ~」と泣きごとを言うが、しばらくしてむっくりと無言で立ち上がると家の表の方へと向かう。


「今日は休養日にしとこ…………お客さんに死体見られたらまずいし…………」



…………マックはその後、2冊目を手に取りだらだらと医療書を読んでいくが、特にめぼしい情報も見つからない。今回も一冊を読み終わる前に日が暮れそうだ。

2冊目の本を読みかけに、マックは3冊目に手を伸ばす。


「…………しょうがない…………このままってのもなんだしなんかこの死体(ヒト)で実験でもしよう」


3冊目は主に死体についての医療書だ。それまでの1冊目や2冊目とは内容が多少異なる。


「ん~これにするか。楽だし。…………面白そうだし」


マックは邪悪な笑みを浮かべて準備に取り掛かった。


宮廷医療入門 3章 死体とシラバトロン 頁89 より。

『ここに面白いものがある。シラバトという魔物の尻尾だ。シラバトは良く知られる魔物であるが、その尻尾と死肉の反応が珍しい。まずシラバトの尻尾から精製されたシラバトロンという薬品を生き物の死体の皮膚に付けるとそれが変色するという現象が見られる。これは死体に限ってであり、生きている物の皮膚に付けても反応しない。この原因はいまだに解明しておらず、詳しくは不明。』


シラバトロンならばマックも所有している。

彼は小瓶を持ってくると彼女の元へとやってきた。


「さすがに顔だと役人に渡す時にまずいからなあ…………せめて掌にしておいてあげようか」


マックは彼女の手にシラバトロンで下らない絵を描くと、本へと目を移す。


「後は半日待つだけか。…………ってことは明日の朝だな。これ終わったら役人に渡そうっと」


彼は本を閉じるとその場を離れる。

もはや彼の頭の中からは死因の究明という医者っぽい欲求は消え失せていた。

彼が宮廷医師になれなかったのはこういう所も関係しているのだろうか…………




***





「……着いたな……」


フードを深くかぶったエルフィーナは疲れた顔をしながら港町リチュレへとたどり着いた。

不眠不休でここまで来たのだから疲れていて当然だろう。

対するガイコツとスライムはぴんぴんしているが…………


「ふむ…………どうしましょうかねえ、とりあえず手分けして魔王様をお探ししましょう。死んでなければこの街をうろうろしていると思いますよ」


不吉な物言いにエルフィーナはガイコツを睨むがガイコツは全く意に介さずに続ける。


「ではワタシは医者関係の方を調べますから。貴方達は、宿などの方を調べてください」


「ああ、分かった」


エルフィーナは頷くと手のひらサイズに戻ったスライムとともに町の中にまぎれていった。ガイコツはそれを確認すると人通りの多い表道を避けて裏道へと回る。


「全く…………一体どこに行ったんでしょうねえ…………」


ガイコツは小さくため息を吐くと黒い霧を纏う。しばらくして、霧がはれるとそこにはすらりとした長身の男がいた。切れ長の目で辺りの様子を見渡す。

誰もいないことを確認して男は冷たく笑うと、人通りの多い表道へと歩いて行った。




***




「………………あれ?」


マックは首をひねった。朝起きて彼女の掌を見てみたのだ。なんとそこには!!…………何もなかったのである!!…………

しかし、確かにマックは彼女の両手にシラバトロンで落書きをしたのだ。右手には犬を、左手には鳥を、…………だから彼女の手には、かわいらしいワンちゃんとピーちゃんが現れなければならなかったのである。しかし…………彼女の手には何もない。ワンちゃんもピーちゃんもいないのである。


「やり方を間違えたのかな…………まさか死体じゃないなんてことは…………」


マックは彼女を見下ろす。数日たっているがマックが発見した時から全く変化は見られない。眠っているように見えるままだ。……


「いやいやいやいや!!ないないない…………ははは!!まさかねえ…………ちゃんと脈も取ったしぃ……」


彼はもう一度ちらりと彼女を見る。


「……………………仮死状態になることなんてあるのか?」


マックは乱雑に重ねられた本の一つを手に取った。




***




リチュレの町には似合わない、貴族の様なそれでいて何か違うようなすらりとした男が町をゆっくりと歩く。端整な顔立ちで、長髪を後ろで一つにまとめた彼の姿は町の者の視線を集めた。


「全く、……せっかく化けたのにこれでは意味がありませんねえ……」


そんな小言をいいながら、しかしまんざらでもないような顔をして彼は近くでこちらを見ていた少女に声をかける。


「すみません、ここの町で医者をやっている場所はどこにあるでしょうか?」


「えっ!!あっ……あのっ……確かこの道の先に病院があったと…………思います。……」


少女は突然声をかけられたからか、ワタワタと顔を赤くしながら男へと説明する。

男はそれに微笑んで礼を言うと、少女はさらに顔を赤くさせて走って行ってしまった。


「ククク…………人間とは…………まあ、なんとも扱いやすいものですねえ。」


男は一人、その顔を歪めて笑うと、少女の言っていた病院へと足を運ぶために歩き出した。



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