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第十四話 逃げた先は海の町

「…………何のつもりだ。」


ふと意識を取り戻した彼女は、後ろから自分を羽交い締めにしているエルフィーナに疑問を投げかける。頭痛がひどく、体も、※重ダル(重く、だるいの略)状態なので振り払う気力もわかない。


「ちょっと苦しいと思うけど我慢していてくれよ」


「は?」


どういう意味だと聞き返そうと彼女が口を開いた拍子に何かが侵入してくる。

慌ててその正体を確認するとなんとスライムが水を含んで巨大になった体の一部を管のように細くして自分の口に無理やり入ってきていたのである。彼女は慌ててスライムを止めようとするが、唯でさえ気を失うほど気分がすぐれないのに体を押さえつけられていればそれは叶わない。


「むぐ!!んぐぅっ……んぐぐっ……」


スライムは自在に形を変えてどんどんと彼女の喉を通り体の奥へと入って行く。

気持ち悪いことこの上ない。

と、ふいにスライムから水があふれだしを大量に彼女へと飲ませ始めた。……マズイ……彼女は焦る。何もしなくても吐きそうなくらい気持ち悪いのに、スライムが喉の奥へと侵入、そしてそんな状態で水を大量に飲ませられたら………………間違いなく吐く。

魔王としてのプライドが著しく削り落されるそんな行為は絶対にしたくない。

彼女はすべての水を必死に飲み下していく。


………………しかし、息継ぎもなしに飲み続けるのは無理なわけで、だんだんと酸欠状態に近づいていき、彼女は吐き気と酸欠から苦しそうに顔を歪ませる。吐くのも時間の問題だ。この時にはすでにエルフィーナもスライムも油断していた。しかし彼女はそれを見逃さない。

彼女は唯一、自由になる足でスライムの本体を地面にめり込ませるほど踏みつけ、エルフィーナがそれに驚き拘束を緩めたすきにそこから逃げ出す。


「…………貴様ら、一体何のつもりだ」


彼女は乱れた息を整えながらエルフィーナ達を睨みつける。とそれまでの様子を眺めていたガイコツが苦笑いして彼女の問いに答えた。


「魔王様、どうやら魔王様は毒草を食べてしまったようなんです。ですから我々は胃を洗浄しようとしたわけでありまして。無理なさらずに……ささ、続きを」


ガイコツの言葉で、エルフィーナとスライムは彼女を追い詰めるように一歩一歩近づいてくる。


「…………この、たわけめが…………」


彼女は苦々しい表情でそう言い捨てると、この場から逃げる手立てを考える。

彼女の目にここから少し離れたところでこちらを眺めているクロが映った。


「クロ!!逃げるぞ」


「洗浄しないと死ぬらしいぞ?」


「医者に行く。リチュレまで連れて行け!!」


…………無理だろ~…………とクロは溜息を吐くが彼女は素早くクロの方までやってきた。後ろからはゆっくりとエルフとスライムが迫ってきている。どうせ逃げられないと思っているのだろう。


「クロ、頼む」


「ったく…………仕方がない。リチュレの名産品で手を打とう。」


そう言ったかと思うとクロは彼女を背負って目にもとまらぬスピードで森をかけていく。あたかも疾風の様なそれはすぐに見えなくなった。



「まずいですねえ…………すぐに追いましょう」


「しかし…………本当に大丈夫なのか?見失ってしまったが…………」


「まあ、魔王様達はリチュレに向かっているはずですから私たちもそこへ向かいましょう」


残されたエルフィーナ達も彼女達を追いかけるべく走りだした。






***






「まったく、どうしたものか…………」


クロは小さくつぶやいた。魔王である彼女はクロの上で寝ている。

あの後クロは全力で走り続けた。エルフィーナ達が追いついてきそうな気配はない。まあ、クロが全力で走ったスピードについてこれるわけはないのだが。

クロはちらりと背中の彼女へと視線を向ける。彼女の体調は徐々に悪くなっているように見受けられる。クロにはあとどの程度彼女の命持つのかわからない。もう手遅れかもしれない。クロはとにかくリチュレへと急いだ。


………………………………


クロはそれから走り続け2日後つまり、崖に落ちてから4日後に、とうとうハンニ帝国東端の町、リチュレにたどり着いた。



「おい、着いたぞ。」


クロは背中の彼女へと声をかける。反応は無い。

クロは上にいる彼女が落ちないようにゆっくりと歩く。

人目につかないように裏道を通りながらクロは町医者の家を探し回った。表の道では活気のある村人の声が聞こえる。

リチュレは海に面している町で、特に海産物が名産であり村人達には欠かせない食材ともなっている。海産物を調理するおいしそうなにおいがふと、クロの鼻に届いた。


「海の食べ物か…………うまそうだな。おい、約束覚えているだろうな?」


反応はないが気にせずにクロは彼女にとりとめもない話をしていった。そんな風に裏道を進んでいくと、医者の家らしき建物を見つける。


「お薬ありがとうございました」


そんな声が聞こえたかと思うとその建物から一人の女性が小さく微笑みながら出てきた。薬と言っているあたり、まず医者関係の建物と見て間違いなさそうだ。

出てきた女性がその場から離れるとクロは辺りの様子をうかがいながら女性の出てきた医者の家らしいところの前へとやってくる。


「ふん、約束は守ったからな」


クロは背中の彼女を建物の前へと下ろすと、その場を立ち去る。

海に近い町のせいか、クロの体に当たる風がなんだか冷たく感じた。




***




「息子さん、お大事に」


20代半ば程だろうか、若い男性医師ウェーブス・マックは息子が風邪をひいたらしい女性に微笑んだ。


「お薬ありがとうございました」


そんなマックの言葉に女性は小さく微笑み返すと、扉を開けて出て行った。

マックはそれを見届けると、一休みするためにカップに紅茶を注ぐとそれを口に運んだ。医師といっても彼はほとんどの仕事が薬の処方程度なので、彼は薬にかけてはかなり詳しいが、大きい手術や治療なんかになると全然手も足も出ない。


本来彼は、宮廷医師と呼ばれるハンニ帝国の王に仕える医師の家系の者であった。

しかし、彼は知識はあるが血を見ると気絶してしまう性分なので、まともに重症患者を見ることができないため、彼は宮廷医師にはなれずハンニ帝国の東端の町医者をやっているのだ。


彼がカップの紅茶を半分ほど飲んだ頃、外で何か物音がした。どうやら自分の家の前のようだ。最初彼は、薬を買いに来た客かと思ったのだが……なかなか中に入ってこない。

特に気に留めるようなことでも無いのだろうが、特に暇でやることもなかったマックは扉を開けてみた。


と、彼の目に飛び込んできたのは倒れた女性。


「え、…………えええ!!!」


彼は急いでその女性を抱き起こす。

漆黒の髪に黒い服のその女性は、彼がいくらゆすってもぐったりとしたまま動かない。

そして体も冷え切っていた。


「も、もしかして……し、し……死体!?」


マックは小さく悲鳴を上げた。

彼女を抱きかかえていた手を離し、ズササッと音が立ちそうなくらいの速さで彼女から距離をとった。どうしよう、どうしようと考えながら彼女へと視線を向ける。


やっぱり死体の様に動かない。…………しかし仮にさっきの物音が彼女だとすると何が原因でこの家の前で倒れたのだろうか。

見たところ特に外傷はないようだし……いきなり倒れるのは変ではないだろうか……とりあえずマックは自分の家の中に彼女を運ぶと、ほとんど使わない患者用のベットに寝かせた。


「それにしても…………こうしてみると、えらくきれいな人だな。」


見ようによっては眠っただけのようにも見える女性をマックは観察すると一応脈をとってみる。


「脈がない…………つまりは死人か…………あーもったいない」


しかしさっきのもの音があったということはさっきまでは生きていたということだろうか、それとも別の誰かがこの家の前に彼女を捨てたのか。

う~ん…………とマックは唸りながら考える。

しかし一応医者である自分のいる家の前に倒れていたということが何か引っかかる。


「何かの病でここに向かっている途中に倒れたとかかなあ…………でもここは大した薬を置いてるわけじゃないのになあ…………」


考えれば考えるほど混乱してきた。

まあ、彼にとっての救いは彼女が眠っているような自然な死体だったことである。

これが血とか何とかが出ていたら即、彼は気絶していた。

まあ、彼も曲がりなりにも医者であるし、代々宮廷医師をやっている血筋の者であるからこのようなことを調べるのも興味がないわけじゃない。


「ん~、とりあえず冷たくなって眠るように死ぬ原因を調べてみるかぁ」


役人への死体発見の報告はそのあとでいいや…………と彼は呟くと自分がまだ周りから期待されていた頃に、親が買い与えた医療書を見るために自宅裏の倉庫へと向かった。






なんか考えていた話とかなり違う…………


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