第十二話 適材適所
エルフは一瞬彼女の問いの意図が分からずに怪訝そうな顔をするが、少しして質問へと答えた。
「私の名は…………レイフォード・エルフィーナだ。」
「そうか……」
自分から聞いておきながら彼女はエルフィーナの答えにそっけなく答える。
彼女とエルフィーナの間に居心地の悪い沈黙が訪れ、それに耐えられなくなったエルフィーナは彼女にぎこちなくだが話しかけた。
「そ、そんなことより…………お前達は旅をしているようだが、何か目的があるのか?」
「なんだ?気になるのか?……エルフ」
彼女はエルフィーナの答えに曖昧に答えるが、エルフィーナにはどうしても見逃せない点がある。
「どうしてエルフなんだ!!私の名前はエルフィーナだ、聞いてきたのはお前だろうが!!」
「思った以上に長かったのでな……れい……レイ…………なんだったか?」
「レイフォード・エルフィーナだ!!覚えるのが無理ならエルフィで構わない。仲間からはそう呼ばれている。」
エルフィーナは呆れたように彼女に見るが、彼女はそれに全く気にする様子もなく黒い笑みを浮かべるとエルフの質問へと答える。
「ふむ、目的か…………強いて言えば私の臣下を集めるためだ。魔王には臣下が多くいるものらしいからな。」
「……手下を集めて何をするつもりだ?……」
彼女の言葉を聞いてとたんにエルフィーナの表情が曇り、先程までと打って変わって低い声で彼女へと口を開いた。どうみても彼女に対して警戒心をあらわにしている。そんなエルフィーナの様子に彼女は挑発的な笑みを浮かべるとあえてエルフィーナの神経を逆なでするようなことを口にした。
「そうだな……まず手始めにどこかの村を滅ぼすのもいいかもしれん……魔王とはそういうのが仕事なんだろう?」
「…………やはり…………魔王なのか。まさかエルフの国の事件に関係しているんじゃないだろうな……」
彼女の挑発に簡単に乗ったエルフィーナはさらに彼女に対する警戒心をむき出しにして彼女と距離をとる。ちょっとからかっただけで態度が豹変したエルフィーナに彼女は小さくため息を吐くと、自分の忠告したことをすでに忘れているであろう目の前のエルフに口を開いた。
「感情に流されすぎだ、エルフィーナ。それに私はお前の国の事件の記憶などない…………いやこれでは語弊があるか…………関係しているか分からないといった方がいいのか?」
「分からないだと?」
怪訝そうな顔をするエルフィーナ。先程よりいくらか感情が抑えられたが、まだ警戒を完全にといたわけではないのか彼女に対して身構えている。
「私には昔の記憶がないのだ。だからはっきりと関与していないとは言えない。しかし…………いくら私が残虐非道だとしても国一つ潰すほど酔狂だっただろうか、まあ記憶喪失以前の自分とは価値観も違うだろうがな…………仮に私がその時の魔王だとしたらエルフの国を滅ぼした時の臣下が私を放っておくとは考えにくい。しかし今の私には臣下と呼べるのは………………こいつらだけだからな。多分違うと思うのだが。」
彼女は未だにさわいでいるクロ達に視線を向け、ため息とも何とも言えない息をつく。
エルフィーナも、そんな彼女の言葉に納得したのか苦笑いしながら構えをといてその場の緊張した空気はおさまった。
「まあ、お前みたいな気の抜けた奴だと復讐する気も失せるから、こちらとしても違っていてくれた方が助かるよ。……ところでそちらの名前を聞きたいのだが、教えてもらえないだろうか?」
「魔王だといったはずだが?」
彼女はエルフィーナの言葉に呆れた顔をして、何やらかわいそうなものを見るような視線を送る。
「そ、そんな目で見るな!……私はお前の本名を聞いているんだ。」
「本名?……本名か…………う~む………………」
エルフィーナの慌てながらの言葉に、彼女は首をひねって考えるが全く思い出せないのか、しばらく唸った後エルフィーナに「好きに呼べ。」と投げやり気味に言うと半分スライムに喰われかけているクロを軽く叱り付ける。
「何をしている。さっさとここから離れるぞ。また魔物がやってきたら面倒だ」
「だったら早くこいつらを何とかしてくれ!!!」
***
何とか、クロはスライムの猛攻とガイコツのいびりから逃れられた。
しかしその後、彼女が移動するための乗り物にされているから救われない。
「クロ!!遅いぞ、きびきび歩け」
「やかましい!!!そんなに嫌なら自分で歩かんか!!!!重いっ!!」
腰をかけてくつろぐ女性とそれに耐えながら歩く野良犬にしか見えない魔物、何とも滑稽な図である。
しかし、彼女はクロの言葉を聞いて眉間にしわを寄せるとわざとクロに体重をかける。
「私が重い…………だと?この私がか?」
「おい!!そんなに体重をかけるな!!…………あ、こら!!……ごほっ!!」
重みに耐えられなくなったクロはその場に倒れたが彼女は全く退く気はないようで、未だにクロの上に腰かけているためクロは立ち上がれそうもない。
そんな様子にエルフィーナはクロへ憐みの視線を向けると、クロの上でふてくされたように居座っている彼女へと口を開く。
「これから一体どこに向かうつもりなんだ?この先に何かあるのか?」
「適当だ」
即答する彼女のあまりにもひどい、いい加減さにエルフィーナは一瞬めまいがして倒れそうになったが、ガイコツがけたけたと笑いながら口を開いたことで、そちらに意識が集中し何とか倒れるのは免れた。
「まあ、そうはおっしゃいますが、この崖を沿って歩けば、確かハンニ帝国の最東端であるリチュレという所につくはずですよ。多分崖の上を進んでいくより、直に進めるので到着するのは早いでしょう。1週間も歩けばリチュレに着くんじゃありませんか?」
ガイコツの言葉に彼女は軽く相槌を打つと無表情のまま辺りを見渡し口を開く。
半分忘れられている彼女の座イスとなったクロは顔色が悪くなっており、そろそろいい加減にしないと何かまずそうな雰囲気だ。
「つまり1週間はこの荒れ地で過ごさねばならんということだな。」
彼女の言葉で少しの間、草木が風に吹かれる音だけが辺りに響く。
その静寂は、クロから勢いよく立ちあがった彼女によって破られる。
あまりにも彼女が勢いよく立ったので敷かれていたいたクロは小さく悲鳴を上げる。
「我々はあいにく食料を持ち合わせていない。そうだな?」
彼女の言葉に小さくうなずくエルフィー達。
町からいきなり崖下まで来るとは思わなかったから食料を持っている者などいるわけがない。
「ふむ、ではこれから今日の夕食をこの場で調達だな。クロは食材集めだ。」
「な!!何で俺がそんな面倒なこと……………………がはぁ!!」
彼女の言葉に抗議の声を上げようとそれまでぐったりしていたクロは勢いよく立ちあがろうとするが、彼女はまたクロへと勢いよく腰をかけて彼の言葉をさえぎった。
「ふふん、異論は認めないぞ。少し運動して私を難なく運べるようになるんだな」
「あれは筋力の問題じゃな………………ぎゃ!!!」
「ガイコツよ、お前には火を熾してもらう。」
彼女は下から聞こえてくる悲鳴に表情を変えることもなく、ガイコツの役割を告げる。
ガイコツは彼女の言葉にうなずくとわざとクロの鼻面をかすめて歩くと、火を熾すための材料集めへと向かった。
「水玉、お前には水を持ってきてもらおう。出来るか?」
スライムは、彼女の言葉を聞くと、同意したのか体を小さく揺らすと川のある方へと飛び跳ねていく。
「意外と上手く手下を使えるんだな。ちょっと意外だよ」
エルフィーナは彼女の指揮の様子を見て軽い冗談を言う。
普通なら、彼女がここで冗談を返してくる筈なのだが、今回は違った。
「エルフィ!!」
「…………は、はい!?」
彼女はエルフィーナへと振り返ると真剣な面持ちでエルフィーナを見つめてくる。
突然のことに驚いてエルフィーナもつい敬語で返してしまった。
「お前料理は作れるのか?」
「…………え?…………」
「料理は作れるのかと聞いるのだ」
「え?…………料理!?…………簡単なものならできるけど……」
「ふむ、ではお前は調理係だ、分かったか?」
エルフィーナは突然のことに混乱したかのような様子だが、とりあえずうなずいた。
「だけど……本当に簡単なものしかできないぞ?」
「別にかまわん。手が空いているのなら、材料が来るまでガイコツの手伝いでもしておいてくれ」
エルフィーナは彼女の言葉にうなずくと、何を作ろうかと、小さくつぶやきながらガイコツの元へと向かっていく。
「クロ、何をしている。さっさと行かんか」
「人の上に居座っておいて何を言ってんだ!!…………というかお前は何をするんだ?…………どうせまた何もしないんだろう!?不公平だぞ!!」
「馬鹿め、クロ。魔王と貴様らが平等なわけがなかろうが。しかし…………私の慈悲の心がそれを許そうとせん。ちゃんと私の仕事も用意してある。 安心しろ」
「ほんとか!!…………な、なにするつもりだ!?」
クロは期待と不安を抱えながら彼女へと問う。帰ってきた答えは…………
「食べる係りだ」
「え?」
「食べる係り」
「……………………味見係ですらないの?」
「食べる係りだと言っておろうが」
「それって仕事しないのと同じじゃ………………ぐへっ!!」
どうも、お読みいただきありがとうございます。
ちょびっとずつじわじわとアクセス数が増えているようで嬉しいです。
この話もじわじわと盛り上がる…………はず…………
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