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第一話 闇色の少女と黒い犬

薄暗い大広間に宗教色の強そうな服を着て、人間が何人か集まっている。


「我々の世界に舞い降りて、今、救いの光を!!」


1人の男が、そう叫ぶと集まっていた人間達の中心に描かれていた陣の様なものに光が集まる。その光を見て集まっていた者たちは皆、歓喜の声を上げたが、光が薄れてその場にあったものを見て、皆は悲鳴に近い声でさわぎだした。

そこには、闇色とも呼ばれる黒い衣を身にまとい、漆黒の髪を持ち、真っ黒な眼を見開いた1人の少女がいたのだ。


***


黒井真央(くろいまお)は訳が分からなかった。

確か自分は、学校から家に帰宅する途中だった筈なのだ。なのにここはなんだ?

訳のわからない服を着た人たちが自分を見て、驚愕と恐怖で悲鳴に近い声を出している。

驚くべきなのはこちらだと思うのだが。

まず彼女は、自分の身を確認した。服は学校の制服で帰宅途中と変わりはない。持っていたはずの鞄はなかったが、そんなこと気にしている余裕はない。

今は特に襲われた様子はないが、この人間達が誘拐犯の様なものだとしたら大変だ。

自分の身が安全なのを確認すると、彼女はここから逃げ出すために、周りの様子を再度確認した。


「言い伝えによると、黒い衣をまとった娘は災厄をもたらすと言われているぞ!!一体どうするのだ!!」


「おお、恐ろしい……早くこんな娘など殺してしまえばいいのだ!!」


物騒な言葉を聞いて、彼女は体を震わせた。

小説やテレビでしかお目にかかれない状況に現在進行形でおかれているのだ。

そんな中、1人の老人が声を上げる。

「まて、この女子を殺してこそ何が起こるかわからん。ここはこの娘の記憶を抹消し、早急に代わりの救世主を天より呼ぶしかあるまい」


記憶を消す?一体何のことを言っているのであろうか。

薬か何かで廃人にでもされるのであろうか…………、


呆然としている彼女に、若そうな者が、彼女を拘束するために、近づいてくる。


「いやあ、来ないで!!」


それを見て、彼女は恐怖で震える足に鞭打ち、その場から逃れようとするが、それよりも早く若者の手によって、肩を掴まれる。

そしてその直後、腹部に強烈な痛みが走る。

そう、1人の若者が彼女の腹に鋭い蹴りを放ったのだ。

しかしそれでも足りずに、殴る、蹴るを複数の者に繰り返され、彼女は鼻から血を出し、さらに吐血するはめになった。


「は……っぐぁ…………」


鼻と口から出る血で上手く息が吸えない彼女は、泣いて許しを請うが、全く聞いてもらえないどころか、更に彼女に対する暴力は強烈になる。


「そろそろ良いじゃろう」


先ほどの老人が口を開き、彼女には理解できない何かの言葉をしゃべりだす。

彼女は、すでに動けるような状態ではなかったが、強烈な頭痛によってその場で悶え始める。


 いたいいたいいたいいたいいたいいたいいたい!!…………誰か……助けて!!


意識を失う直前、彼女は誰かに呼ばれた気がした。


***




意識を失った彼女を確認して老人は言う。


「ふん、では地下牢にでも連れて行くがいい。残りの者は早速、次の救世主を呼ぶ準備じゃ……」


皆がそれに頷き、各々の仕事に移ろうとした時、その場に若い男が駆け込んでくる。


「た、たいへんです!!ま……魔物の群れが!!魔物の群れがここにやってきます!!」


「何じゃと!?ここは魔物にはわからぬように結界を張ってあったはずじゃろう!!」


「やっぱりあの小娘のせいではないか!!」


「だからはやく殺しておけばよかったのだ!!」


先ほどまで、落ち着いた雰囲気だった広間は、少女が現れた時よりもさらに、混乱してしまう。


「皆の者、落ち着け!!ここは早急に逃げ…………」


混乱を落ち着かせようと、リーダー格らしい老人は指示を出そうとしたが、その言葉を最後まで言い終わる前に、老人は動かぬ屍となっていた。


「ひいいい!!化け物だあ!!助けてくれえ!!」


老人を殺した異形の化け物達はその場にいるものを手当たり次第に殺し始めた。



***




マオ…………マオ…………起きなさい!!……


なんだかひどく聞きなれたような、だけども何年も昔に聞いたような不思議な声が彼女の耳に届いた。


その声によって起きた彼女は、辺りを見渡す。

そこは多くの魔物に襲われ、あっけなく死んでいく人間達の断末魔であふれかえっていた。

しかしそれを見ても、彼女はまるで感性が抜け落ちてしまったかのような表情のない顔であたりを見渡すだけ。

そこで、ふと後ろに人気を感じて、振り返ると、怪物に襲われているのと同じ格好をした生き物が彼女を血走った目で睨みつけている。


「この黒い娘さえいなければ……しねぇ!!」


そう言うと何か鈍器のようなものを彼女に向かって振り下ろしてくる。

彼女は、紙一重でそれを交わすと、この地獄の様な場所から逃げるため走り出した。


彼女を襲った男は、追いかけようとしたがあっけなく怪物に襲われ、息絶えてしまった。


***


しばらく無我夢中で走った彼女は、なぜ自分が走っているのか不思議に思い立ち止まる。


「私は何で走っていたんだっけ…………」


すでにここはどこかの森の奥。

何かが気味の悪い声で鳴いている。


「ほう、我が縄張りに人間の小娘がいるとは…………」


低いうなり声の様なそれが聞こえた方に彼女は首を向ける。

そこには巨大な黒い獣がいた。


「我を見ても驚かんのか、小娘……珍しいな…………」


不思議そうな顔で自分を見つめる娘に、少し驚きつつも、にやりとその獣は笑うと、大きく口を開けて彼女に襲いかかる。


彼女はぎりぎりでそれをかわすが、足首をひねってしまい、その痛みで顔をゆがめる。



「ふふふ……あっけなかったな娘よ…………」


黒い獣は、再度襲おうと彼女に向かっていくが、顔を上げた少女の瞳を見て何かの威圧を感じ、襲うのを躊躇してしまう。

対して少女は、獣を人睨みすると、今までの疲れが出たのか、そのまま倒れてしまった。


「おい!!どうした小娘!!……」


***



どのくらいたったのだろう。

鳥がうるさく、ちりちりと鳴く声で彼女の眼は覚めた。

脇を見ると小さい毛むくじゃらの生き物が丸くなって寝ている。


「あの大きいのはどこに行ったんだろ……」


そう呟くと昨日自分を襲ってきた巨大な獣と同じ声で小さい毛むくじゃらがしゃべりだした。


「貴様!!いったいあれからどれだけたっていると思っている!!そして俺に一体何の呪文をかけた!!」


「呪文?あさ?……一体何のこと?…………」


「何も覚えてないのか!!昨日貴様にかけられた変な呪文のせいでこんな妙チクリンな姿になってしまったではないか……さっさと戻せ!!」


「さっさと戻せと言われても…………」


「ほ……ほんとに昨日の記憶がないのか?」


「昨日どころか、自分が誰なのかもわからん……」


「な、なんだと!!というか俺のしゃべり方を真似するな!!!」


「まね?マネとはなんだ……私は真似などしない……お前のしゃべり方が移ったのだ」


クスクスと笑いながら毛むくじゃらをからかう彼女。話し方を直す気はないらしい。


「そのしゃべり方がまねていると言っているんだ!!もういい!!何か覚えていることはないのか……」


「覚えていることって言っても…………起きたら、わけのわからない場所だったからなぁ……」


うーんとしばらく考えて、ふと少女は思い出す……


「おお、確か、まお~と誰かに呼ばれていたような……」


曖昧な記憶を頼りに、彼女が答えると、黒い毛むくじゃらはびっくりした様子で大声を上げる。


「ま、魔王だと!!!あの時感じた威圧はそれか!!!」


「まおう?……」


話についていけない彼女を1人置いて、毛むくじゃらは、その場をグルグルと回りながら考え込んで、彼女に向かって口を開く。


「魔王というのは魔物たちの頂点に君臨するものだ。きっと何かの事情があって身を隠しているんだろう!?そうに違いない!!だが、まさか魔王にお目にかかれるとは!!昨日のご無礼をお許しいただきたい……」


そう言うと毛むくじゃらは頭を下げてくる。

なんだかよくわからないが、魔王というのはエライらしい。


そんな時、毛むくじゃらと同じ容姿の生き物がすぐ脇を通り過ぎていく。


「お前の仲間か? あれは」


「仲間?……ああ、あれは犬だよ。別に仲間ではない。」


「ふうん。だがそっくりだな……そうだ……お前、では味気がないだろう……イヌと呼んでやろうか?」

「イヌ!?それは俺の名前か!?い、いやだ!!お前の方がいい!!」


「まおーにたてつく気か!?」


「むぐううう」


やはりまおーというのはスゴク偉いらしい。

だが、ここまで嫌がる名前で呼ぶのもなんだかかわいそうだ。


「そういえば、お前は私と同じだな……」


一瞬何を言われているのかわからなかった獣は彼女が自分の服を指差しているのを見て何が言いたいのか理解する。


「確かに同じ黒色してるな。」


「くろ?……確か奴らも黒がなんとかとか言っていたような……」


「やつら?記憶が戻ってきたのか?」


何かを思い出しただろうかと獣は、期待を込めて聞くが、……それ以外全く思い出せん……という彼女の言葉を聞き落胆する。


「そうだ黒が良いんじゃないか?クロ~……響きもよい……」


「なんだか安直な気もするが、イヌ呼ばわりされるよりかはましだな……」


くつくつと笑う彼女に、クロは溜息を吐いた。


転生者の心の葛藤を描写するのが苦手な作者ですので、主人公には記憶喪失で好き勝手してもらうことにしました。

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