充電する女
最悪の金曜は意外な展開で幕を閉じた。いや、マンションに着いた頃は日付が変わっていたから土曜日含む、だ。
見慣れた天井なのはここが私の家と同じマンションの一室だからか。
違うベッド、違うカーテン、違う家具たち。
そして何も知らない男の子。
各務くん。下の名前は悠斗と言うらしい。
教えてもらったのはこれくらい。
「しょうがねーな」
悠斗はそういって玄関で座り込んでいた私を抱き抱えてベッドへ運んでくれた。
そして傷ついた右足に絆創膏を貼ってくれる悠斗の顔を上から見下ろすようにまじまじと観察させてもらった。
長い睫毛が影を作ってる。ぱっちりとした二重のイケメン君は見ず知らずの女に臆する事なく介護できるほど女に慣れてる模様。
この整理整頓された部屋もきっと彼女がやってくれてると信じたい。
そうでなければ可愛いげがなさすぎるよ、君。
「ったく、本当に面倒な女だなアンタ」
それでも、口の悪い年下のガキんちょは突然やってきた訳の分からないアホな女に親切すぎるほど親切で。
この都会で人の優しさというものに触れるなんて…としんみりしてたら押し倒された。
「言っただろう?何されても文句言うなって」
ああ、無常。
でも、彼がそう言わなきゃ私が手を伸ばしていたかもしれない。
助けてくれって。
きっと私もさっきのケイタイ同様、だいぶ前から電池切れかけてた。
電気泥棒上等。今は一次凌ぎだろうと充電させて欲しかった。
男の子の髪ってこんな感触だったのかぁと胸を愛撫する彼の頭を撫でてみる。
「ねぇ、君いくつ?」
「歳聞いてどうすんの?やめんの?」
あら、そんなことはしないわよ。まぁ、行きずりに歳は関係ないけどさ。
「良好なご近所関係のためにも一応…ね。流石に10代ではないとは思うけど」
だとしたら私は豚箱まっしぐらよ。最近の若い子は大人っぽいから見た目じゃわかんないの。
おばちゃんからみたら皆若い子。
「…20代」
「あら私と一緒。首の皮一枚のギリギリ20代。」
慣れてるとはいえ熱っぽい手つきにこちらも興奮しだす。
男の子と男の人の丁度中間かな。大学生か。
「アンタ、首筋から良い匂いするね」
「ミキ、よ。名刺渡したでしょ。ちゃんと額に飾ってよね」
ふっ、と笑った時彼の腹筋が目に入った。あぁ、私にない男の体。
それに反応した私の中の女。だいぶ長いこと眠らせてた本能が燻りだす。
「ねぇ」
「もう黙れよ」
形のいい唇が重ねられ言葉は出なかった。
眠ったのは朝方で、まだ3時間ほどしか経っていないが私の目は完全に冴えていた。
隣の悠斗はまだ夢の中。ふっ、3〜4時間の睡眠に慣れた企業戦士を舐めるなよ。
ベッドから起き上がって鞄のメモ帳を取り出し彼へ感謝の言葉を書き残す。
いやぁ、散々迷惑おかけしましたよっと。
まさか年下男子まで食せるなんて棚ボタもいいとこ。
ごちそうさまでした。
もう管理人が来てる頃だ。とりあえず帰ろう。目と鼻の先に待つ散らかった我が家へ。