表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/4

脱力する女

若僧くん、改め各務くん。むこうが名乗ったわけじゃなく表札を確認しただけ。

歳はかなり若い。シュウちゃんと同じくらいだろうか。

男の部屋に入るなんて久しぶり過ぎて感慨深い。できれば胸キュンなシチュエーションが希望だったが酔っ払いが言えた身分じゃない。

とりあえず入れてもらえた玄関は意外と整理されている。靴なんかはキチンと並べられて恐らく普段使い以外は全て靴棚の中だろう。

そして玄関から見える室内も…キレイだ。性格が表れているならば私はコイツとは気が合わない。多少散らかっててこそ落ち着く我が家とは雲泥の差。

部屋に戻ったっきりの各務くんはこちらに顔を出すことすらしない。どうやら今日の寝床は本当にこの玄関のようだ。

こうなったら一番大事にしてそうな靴を枕がわりにして涎垂らしてやる。

そう思ってた矢先、ケイタイが鳴った。鞄の中で音はするが姿を見せないケイタイちゃんを探すために中身をポイポイと当たりに投げる。

ようやく姿現れた携帯ちゃん。着信はさっきまで癒しを与えてくれたシュウちゃん。

「もしもーし」

「ミキさん?お家ちゃんと着きましたか?」

そういえばタクシー乗る前にシュウちゃんから「家に着いたらちゃんと連絡してくださいね」と念を押されていた。

酔っ払って真夏の公園で夜を明かした事を笑って話してから心配性のシュウちゃんが私に義務付けた習慣だ。

「お家には目と鼻の先なんだけど強烈な運の悪さで阻まれたの」

「ミキさん、分かりやすく言ってもらえませんか?つまり家には着いてないってこと?」

いつも柔らかいシュウちゃんの声色が今はとても冷たく聞こえる。あー、怒られる。

「大丈夫。ちゃんと室内にはいるのよ?」

各務くんとやらの家だけど…

「怒らないからちゃんと言ってください」

痛くないからと言って注射針むけてくる医者ほど信じられないという心理。分かる?シュウちゃん。

「いや、だから」

言いかけてケイタイちゃんがピピピピとけたたましい音をだして臨終宣言。

助かった…

「おい、人ん家入ったら大人しくしてるんじゃなかったのかよ」

電池切れのケイタイを握り締めたまま顔を上げると家主の各務くん。

「っーか男いるんならソイツに助けてもらえよアホ女」

なんて気持ちのいい悪態つくのかしら。でもシュウちゃんは男じゃないの。可愛い男の子なの。

そう、こんなとき助けてくれる男なんてもっていないのよ。哀しいかな、アホ女と呼ばれたことに否定はできない。

仕事しか脳のない、女ではアホの部類。

仕事がなんだ。肩書がなんだ。何一つ救いになんてなりゃしないそれに縋るしかないアホで悪いか。

「なんとか言えよ…」

各務くんはそっと私の頬を拭った。

「ひでぇ顔」

ヤバイ、ついに体そのものに力が入らなくなった。各務くんの親指に水分。

ああ、あれは私から出た無力の表れだ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ