序章 ウイルスコード『0』
――報告書――
二XXX年某月某日 黒田研究機関はあらゆるネットワークをシャットダウンする事が可能な
ウイルスコード『0』の開発に成功。
ウイルスコードの効果は絶大であり、次々にネットワークを壊滅させ、各国の経済を攪乱、
崩壊させた。
翌月 日本を中心に国際政府機関『アジェスタ』を発足。
同月 黒田研究機関の全機能を停止。
アジェスタの投入により研究機関の壊滅に成功。
しかしウイルスコードは見つからず、開発責任者の黒田博士の自殺と共に事件は迷宮入り
し、現在も捜査中。
なお、経済崩壊による恐慌状態が今もなお続いており、諸国では戦争、冷戦、地域紛争が
勃発している。
「……ふぅ~」
アジェスタ本部。
その広大な本部の小さな喫煙室でアジェスタ第一班隊隊長の天野一樹は煙草を吸いながら報告書に目を通していた。
『コード0事件』
世界のネットワークを壊滅させた結果、経済を壊滅させ、世界中で戦争の引き金となってい
るこの事件。
しかし、ウイルスコードの消失と共に未解決となっている事件でもある。
「たった一つのウイルスコードで世界崩壊か……脆いものだな」
彼はこの事件の捜査の中心人物だ。
だが、彼は報告書に目を通す度に呆れて返ってしまう。
何度も言うが、ネットワークの崩壊と共に経済は崩壊した。つまり、人間は機械に頼りきり、
もう機械を手放す事は不可能だという事を示している 。
そんな現状に、天野はうんざりしていたのだ。
「アナログの重要性というやつだろうか……」
全てがデジタルの時代。
だが、その進化の元にはアナログという物がある。
だからこそ、彼はアナログは大切だと考えている。
天野は携帯電話やパソコンは操作出来るものの、プレゼンテーションでは企画書を作成し、
今でも通勤前に新聞紙を読んでいるのだ。
アナログの恩恵を忘れないために。
「隊長、そろそろ捜査会議です」
「ん?あぁ、今すぐ行く」
アジェスタの隊員に呼ばれ、天野は吸っていた煙草の吸い殻を灰皿の上で潰し、喫煙室を出
る。
会議の内容は勿論、『コード0事件』の事で間違いないだろう。