恋したあなたは幽霊でした
「あのっ! 好きです! 付き合ってください!」
「えっと……僕……幽霊なんだけど……」
恋したあなたは幽霊でした。
私には好きな人がいる。
進学した先の高校にいる先輩。確定した訳ではないが、同じ高校の制服を着ていて、同じ学年に見当たらないということはたぶんそうだろう。
なんでそんな不確定要素ばかりなのか。それは毎朝登校中に見かけるだけで話したことなどないからだ。
なんでそれで好きになったのか。一目惚れというか。イケメンで、所作が整っていて……ええい! 好きになるのに理由はいらない!
そして私は今日、ついに彼に告白することを決めた。ドキドキするが、彼に声をかけるぞ!
「あっあのっ!」
彼は気づかず歩いていく。ちょ、ちょっと待ってください!
「あのっ! そこの背が高くて、襟足がちょっとぴよっとなっている男の人!」
「え?」
そこで彼はようやく振り向いた。
「お話いいですか!?」
「僕?」
彼は自分を指差す。
「はい!」
彼は戸惑っているようだった。で、でも言っちゃうもんね!
「あのっ! 好きです! 付き合ってください!」
視線が私に集まる。まあ……登校中に告白したらこうなるよね。でも気にしない!
しかし、彼から返ってきた言葉は予想外のものだった。
「えっと……僕……幽霊なんだけど……」
「……え」
「ほんとだ……」
「ね?」
スマホでネットのニュース記事を調べると彼の顔写真と名前が交通事故で死亡した高校生と載っていた。
しかも……。
「触れない……」
彼の肩に触れようとするが、すかっと通り抜ける。
「信じてくれた?」
彼は優しく言ってくれる。
「はい……。でも私、幽霊とか見たことないんですけど、なんで見えてるんですかね……?」
「波長が合ったとか? よく言うよね」
うん、なら納得。
「ごめんね。だから付き合えないんだ」
しかし、こんなことで諦める私ではなかった。
「私、あなたが幽霊でも気にしません」
「え……」
「付き合ってください!」
恋に障害はつきものだ!
彼は少し考え込んだ後、言った。
「幽霊でもよければ……」
「もちろんです!」
こうして私達の奇妙な関係が始まった。
「それで宿題が全然わからなくて~……」
「南雲(みなも)ちゃん、南雲ちゃん……」
「なんですか? 北都(ほくと)さん」
「人のいるところで僕と喋ったら変な目で見られちゃうよ……」
私は周りを見渡す。視線が私に集まっている。登校中の人だかりである。確かに注目されるだろう。だが。
「北都さんと喋れるんですから、別にいいですよ」
北都さんは呆れたように笑った。
学校が終わって私達はゲーセンにやって来た。
「わ~……初めて来た……」
北都さんは感慨深そうにゲーセン内をキョロキョロする。
「え、初めてなんですか?」
北都さんはちょっと悲しそうな顔をして言った。
「親が行っちゃ駄目だって。勉強の邪魔だから」
「じゃあ、これからいっぱい行きましょう! もう北都さんは自由でしょう?」
北都さんは目を丸くした後、笑った。
「うん」
「このお菓子、どうやったら取れるかいっつもわからないんですよね~」
私はクレーンゲームの前で立ち止まる。北都さんもじーっと見てる。
「一回どんな感じかやってもらっていい? お金かかっちゃうけど……」
お? 北都さんもクレーンゲームに興味が?
「いいですよ。ゲーセンってお金かかるものですし」
私は百円を入れて操作をする。
ガタン。
景品は一瞬浮いた後、少しずれて台の棒に引っ掛かったままだ。
「ね?」
「南雲ちゃん、今、景品が斜めになったから、この右の角の所狙ってみて」
「え、はい」
北都さんに言われた通りにやると……。
ガコッ。
景品は見事に獲得口に落ちた。
「え!」
こんな簡単に落ちるものなの!? 私は興奮しながらはしゃいだ。
「すごい! すごい! なんでなんですか!?」
北都さんは照れながら顔を人差し指で掻いた。
「数学と理科を応用すれば……」
「北都さんかっこいい!」
北都さんは顔を赤くしていた。
休みの日、私はずっと来たかったパンケーキ屋さんに北都さんと来た。
北都さんは
「流石に店内で僕と喋るのはやめておこうね。パンケーキの感想は後で聞くから」
と言った。まあ、確かに穏やかな空気を乱しかねない。私はうなずいた。
そしてついにお待ちかねのパンケーキがやって来た。私はナイフとフォークで食べ始めた。
「ん~! 美味しい~!」
「ふふっ」
「?」
「パンケーキの感想、今聞いちゃった」
北都さんはおかしそうに笑う。
そうだった。けど……北都さんが楽しそうならいっか。
そうして一ヶ月が経った頃、私達には思い出がたくさんできた。かけがえのない、なんでもない日常。
「ねえ、南雲ちゃん」
「なんですか?」
下校中、北都さんは私に話しかける。
「僕、今とっても幸せだよ」
私は嬉しくなってにやけてしまった。
「私もです」
北都さんはぽつぽつと話し始めた。
「僕ね、生きてる間はずっと勉強勉強の人生だった。そんな中、交通事故で死んで、僕の人生なんだったんだろうって思ったら成仏できなかった」
「……」
私は何も言えなかった。
「でも、南雲ちゃんと出会えた」
北都さんは笑って私の顔を見る。
「南雲ちゃんとたくさん楽しいことをした。僕はもう満足なんだ」
「北都さん……?」
私は心配になって北都さんを見つめた。
「僕ももう前に進まなきゃ」
「それって……」
「成仏するよ」
そっか……。それはきっと良いことで。私との日々がそのきっかけになったなら、喜ばなきゃ。笑って送り出さなきゃ。
「ごめんね。恋人を泣かせるなんて彼氏失格だね」
「え……」
北都さんは私の頬を手で包み込む。感触は無い。けれど確かに暖かだった。そこで私はやっと自分が泣いていることに気づいた。
私はせきを切ったように泣きじゃくった。
「行かないで……! ずっと一緒にいたいよ……! 幽霊だってなんだっていい……! 私は北都さんと一緒にいられれば……!」
「南雲ちゃん」
そんな私に北都さんはキスをした。
「北都……さん……?」
「僕は、南雲ちゃんといられて幸せだったよ」
私も泣きながら言う。
「私もっ……! 幸せでしたっ……!」
北都さんは最期に笑って消えていった。
それから私は家族や友人達に心配されるほど落ち込んだ。
でも、私も前に進まなきゃいけない。じゃなきゃ北都さんも安心して天国で暮らせない。
北都さんはもういないけど、彼と過ごした時間は本物だから。
恋したあなたは幽霊でした。けれど、私は後悔なんてしてない。
北都さんとの思い出を胸に、私は生きていく。




