MANGAの海賊版は問題ですが、メリットがない訳じゃないのかもしれませんよ
夜のオフィス。
仕事中。
「僕は草原さんなら、なんとかしてくれるのじゃないかと思っていたのですが」
僕がそう言うと草原さんは「ハハハ……」と乾いた笑い声を上げた。彼はノートパソコンに向かっていて、メールの返信を書いているようだった。
「その為には国を相手にしなくちゃなりませんからね。流石に難しいですよ」
手を止めると、頭を掻いて彼は僕を見る。何故か情けない表情をしていた。
――近年、日本の漫画は、“MANGA”として世界的な人気を獲得している。がしかし、その一方で無料で読む事ができる違法な海賊版が横行していて、その被害規模は年単位で8.5兆円とも言われている。
僕は草原介達さんならば、この問題を改善させられるのじゃないかと考えていた。数年前から彼は漫画販売の海外戦略に関わっていて、とても優秀なのだ。
彼は再びノートパソコンに目を向けて、手を動かし始めた。チラッと画面が見えた。AIを使っている。英語だったから、きっと国外の人と何かやり取りをしているのだろう。奇抜なアイデアが彼の持ち味だから、僕は興味を惹かれた。
「どんな販売戦略で行くんですか?」
そう尋ねると、彼は「いえいえ」と言ってからこう続けた。
「これは販売の話じゃないですよ。実はヨーロッパで優秀なクリエイターを見つけましてね。漫画の連載の話を進めている最中なんです。オンラインですけどね」
僕はそれに驚いてしまった。
「ヨーロッパの人ですか? なんでわざわざ日本で?」
それを聞くと、彼は「“なんでわざわざ”って……」と意外そうな声を上げた。
「あなたも知っているじゃないですか。あっちじゃ、海賊版が横行しているのですよ。だからあまり稼げない。日本の出版社を通して、真っ当にお金を支払ってくれる市場で販売する方が利益が出ます。日本は印税を支払いますしね。日本なら、一発当てれば一財産築けます」
「ああ、なるほど」
「因みに、外国版も同時に売り出すつもりです。日本から出版する事になった経緯を含めてプルモーションするつもりでいます。海賊版に罪悪感を覚えていない人が、少しは反省してくれると良いのですが」
それを聞いて僕は「なんだ。ちゃんと海賊版対策を考えているじゃないですか」と言った。
反省してくれれば、真っ当にお金を出してくれるようになるだろう。ところが、それに彼は「いやいや」と返すのだった。
「そんな程度じゃ無理だと思いますよ。海賊版サイトでお金を稼いでいる人もいるでしょうし」
「そうですか……」と、それに僕は返す。残念だ。
それを受けて彼は言った。
「確かに海賊版は問題ですね。真っ当に漫画にお金を支払ってくれている人達の負担がその分、重くなってしまっていますし。固定費分は消費者が多ければ多いほど安価になります。だから、海賊版で漫画を楽しんでいる人達が真っ当にお金を支払ってくれるようになれば、漫画は安くなるのですよ。
――ただ、」
「ただ?」
「MANGAの海賊版は問題ですが、メリットがない訳じゃないのかもしれませんよ」
「メリットですか? それは宣伝効果ですか?」
海賊版サイトのユーザー達は、海賊版サイトの宣伝効果のお陰で、IPビジネスの活性化により利益が回収できていると主張しているのだ。
「いやいや、IPビジネスだけで十分に儲けられている作品はあまり多くないですよ。売り出し中の若手なんて絶望的です」
「なら、どんなメリットがあるって言うのですか?」
それを聞くと、彼は薄っすらと笑ってこう説明をした。
「韓国や中国で、インターネットゲームが発達したのは、海賊版の所為でコンシューマーゲームでは利益が出せなかったからだそうですよ。最近は少し変わってきましたけどね。つまり、海賊版が横行している社会では、市場が機能せず、産業は育たないのですよ……
国外にも優秀なクリエイターはたくさんいますが、健全な市場がなければ、彼らは活躍ができず、産業は育ちません。ですから、MANGAの海賊版サイトが横行している社会では、漫画産業は育たず、真っ当に漫画にお金を支払う健全な市場を持つ、日本が圧倒的な優位を維持できるのですよ」
「ああ、なるほど」とそれに僕は返した。
そして、自分なんか何にも漫画産業に貢献していないと思っていたけれど、ただ真っ当にお金を支払っていることで、ちゃんと貢献できていたのだと、ちょっとばかり嬉しくなったのだった。




