魔法と道具②
翌日。朝飯の客がひと段落した頃。
ギルドの扉をバタンと大きな音を立てて開いたジャルコが大きな包みを抱えて入ってきた。
「おい、アオ。さっそく試しに作ってみたぞ」
包みをほどくと――それはたしかに“ギターらしきもの”だった。
シルエットは近い。
弦も張ってある。
サウンドホールもある。
だけど。なんだか重い。それに――。
「……この弦は……麻ひも?」
「ああ。弦と言っていたからな。弓によく使われるものを使っている。どうだ? 試してみてくれ」
とりあえず弾いてみる。
ぼよんぼよんという音がするが、これはギターとは言えない。
「違いそうだなぁ」
「そうか。他にもいくつか用意しているぞ。南方の商人が持っていた綿ひも。それに、これはシニュー。鹿の腱だ。弓の弦に使う。よく矢が飛ぶんだ。それから――これは弱いし、高級な服に使ったりするんであまり薦めないが、ガットもある。これは山羊の腸だ」
それぞれ順番に試して行ってみる。綿ひもは……麻ひもと変わらない。そりゃそうだ。次にシニュー。ビンっという音はするが、音が太い。
「じゃあ、最後に、ガットで試してみていいかな」
「かまわんが、高級素材だからな。大事に扱ってくれよ」
バイオリンも羊の腸を使ってるというし、ギターも似た感じでいけるかもしれない。正直、これが本命だ。
弦を慎重にギターに張っていく。
見た目はいい感じだ。
期待を胸に、チューニングするためのペグを捻ると――。
ピシッ。
「あっ…………切れた」
「あ。おい!」
弦が張力に耐えられず、あっけなく切れた。
切れた弦は仕方ないとして、音程を調整して弾いてみる。
雰囲気は良さそうだが、音色がイマイチだ。
ジャルコが眉間を押さえる。
「言われた形にはしたんだが……」
「うん。でも、悪くないよ。もっと強いガットがあればいけるかもしれない」
弦は課題だな……。
それに――。
ボディを軽く叩いてみる。
ゴン……ッ。
(重っ……木が厚すぎて響かない)
「ボディも厚いな……。中で音の響きが死んでる感じがする」
「それは、わかってはいるんだがな。堅い木は、これ以上、薄くすると曲げた時に割れちまう。柔らかい木にすると、音が響かんようだ」
「やっぱり、柔らかくて堅い木材が必要ってことか……」
「そうなんだが、この辺の森で取れるようなものじゃないな」
ジャルコは髭をかきむしり、苦しげに唸った。
「……すまん。アオ。お前の言う“音の武器”を作ってやりたいんだが……」
「〈山羊のものよりも強い腸〉と〈堅くて柔らかい木〉か……」
その時だった。
「ねぇねぇ! 私……どっちも心当たり、あるかも!」
アルブがぱんっと手を叩いた。
「まず、〈山羊のものよりも強い腸〉ね。北の山脈で野生の大きな山羊に遭ったの。私、食べられちゃうかもって、ビックリして隠れたんだけど、あれくらい大きかったら、腸も強いんじゃないかな」
「なるほど……。〈ビッグホーン〉か……。たしかに、あいつらは雑食で何でも食うから腸が長いし強い。捕まえられれば、細く強いガットが作れるかもしれないな……」
ふたりは普通に話しているが、「アルブが食べられちゃいそう」なほどデカい山羊は近づいて大丈夫なのか?
「それから、〈堅くて柔らかい木〉。これは、変な形の椅子を作る職人さんがいたんだ。前に〈記録〉にしたら話題になったんだよー」
「あー。あの座れない椅子を作ってたっていう職人か……ヤツは〈ファルノヴァ〉から半日の森に工房を構えてる。ワシが行って話をつけてこよう。お前たちはなんとかして、〈ビッグホーンの腸〉を手に入れてくれないか?」
「いいけど……〈ビッグホーンの腸〉って、どこで買うんだ?」
俺の質問に二人は顔を見合わせる。
「〈ビッグホーンの腸〉を……買う? どこで? 誰から?」
「アオ? なんでも誰かから買えると思っちゃだめだよ」
「え。じゃあ、どうやって手に入れるんだ?」
「そんなの決まってるじゃん――」
【キャラクター紹介④ ジャルコ】
ジャルコ(52)
ファルノヴァに古くから住む鍛冶職人のドワーフの男性。ヴォセムと年齢が近いこともあり、旧知の仲。
一緒に旅をしていたこともあり、それなりの戦闘能力も持ち合わせている。
元々は武器職人だが、鍛冶以外にも様々なクラフト技術を持っており、
ヴォセムのギルドに寄せられる困りごとの修理の依頼などがあると、様々なものを作っている。
新しいものが好きで、アオのことを興味深く見ている。




