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音楽ギルド・ナハトムジーク⑤

 その女の人は、俺よりも背が高いくらいの長身で、長い赤髪。

 黒い服に赤い外套をまとい、高いヒールを履いている。

 年齢は……30代だろうか。視線が鋭く、その立ち居振る舞いで只者ではない事がわかる。

 

 その女の人を見て、〈モノクロ〉が直立不動で固まっていた。


「アオ。この国で一番の〈魔女〉ヴィオレッタさんだ」

「『黒の』に『白の』。面白いことをやっているわね」


 低く、落ち着いた声。

 

「は、はい! し、ししょう!」

「修行、が、がんばてます!」


〈モノクロ〉のふたりが幼い頃から恐ろしい修行をさせられていたと話していた師匠か。

 

「『黒の』に『白の』、ライラとサラサが面白いことをやってると、記録(ログ)で見てね。様子を見に来たんだ。君が、音楽ギルド〈ナハトムジーク〉ギルドマスターのアオ・マイナ?」

「え、ええ。ギルドマスターをやらせてもらってます」

 

 なるほど……。威圧感がある。


「……師匠。あの、これは……」


 ライラとサラサが一生懸命説明しようとする。


「安心しなさい。お前たちを叱りに来たんじゃないわ」


 その一言に〈モノクロ〉は安心したように息を吐いた。


「それより、さっきの――あれは、君がこの子たちに指導してやらせたの?」

「ええ。俺がふたりに歌を教えて、やってもらいました」

 

 頷くと、彼女は細く笑った。


「面白いわ」

「ありがとうございます」

「音に魔法を乗せて効果をもたせるという発想が素晴らしい」

「え?」

「最初に歌っていた兎人種(ラビットイヤー)の子は魔法は使っていなかったようだけど、鳥人種(バードアイ)の子。彼女は()()()()()()()()()いたわね。これは学術的にも研究されていることだから、珍しくないわ。でも、ライラとサラサは違う。この子たちにはそんな自覚はないもの。あれはあなたの発想ね? この私でも音をヒュレーにする発想はなかったわ」

 

 ヴィオレッタは、淡々と続けた。

 

「あなたはどんな魔法体系からそんな発想を思いついたのかしら。この国にはない魔法体系だし、聞いたことがないわ」

「いえ。俺は、魔法は使えません」

「……そうなるとますます面白いわね」


 そして、ヴィオレッタはこちらを忘れたように独り言を呟き始める。

 

「たしかに音は共鳴するし、波動があるというわね……。魔法体系を知らずに、いいえ、知らないからこそかしら。術者が発声する音を関手(ファンクター)とするとは……これは魔法の真髄に近づけるかもしれない」

  

 しばらく沈黙。

 思考しているのが、はっきりわかる沈黙だった。

 やがて、彼女は結論を出すように言った。


「しばらく、君たちの様子を見させてくれないかしら」

「様子……ですか?」

「ええ。研究、というほど大げさなものじゃないわ」

「君たちがやっていることを、近くで見たいだけ」


 そう言って、〈モノクロ〉のふたりの頭に、軽く手を置く。


「安心しなさい。この子たちが歌うのを辞めさせようってわけじゃないの。むしろ――ここは、この子たちも居心地が良さそうだもの」


 断れる空気ではなかった。

 けれど、脅されている感じもしない。

 それが、逆に怖い。


「私はしばらく〈ファルノヴァ〉に滞在することにするわ。必要な知識があれば力になるわ。君たちに拒む理由がなければ……協力しましょう?」


 それは提案の形をしていたが、実質的には決定だった。

 こうして俺たちは、〈魔女〉の注目される存在にもなってしまった。


 ――それでも。


 今日は、この世界に初めて「アイドル」が生まれた日だ。

 たくさんの人が笑って、声を上げて、同じ時間を共有した。


 胸の奥に残った小さな違和感には、今は目を向けないことにした。

 今はただ、喜んでいい。

 そう思いたかった。


 これで、もっと多くの人に音楽を届けられる。


 ……その他のことは、今は必要ない。考えなくていい。

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