もっと遠くへ⑪
〈ソルガラシ〉は、石と鉄の匂いがする街だった。
山を削って作られた街並みは無骨で、建物はどれも角ばっている。
地面は硬く踏み固められ、足音がやけに響いた。
「……寒いな」
吐く息が白い。
空気は乾いていて、肺の奥まで冷たさが入り込んでくる。
「鉱山の街ってのは、だいたいこんなもんだ」
ヴォセムが周囲を見回しながら言った。
人通りはあるが、どこか余裕がない。歩く速度が速く、目が合ってもすぐ逸らされる。
人はいる。だが、声は少ない。
必要な言葉だけが、短く交わされ、すぐに消える。
「……誰の声も響かない街、か」
ゾラが、耳を伏せたまま呟く。
酒場、露店、宿。
それとなく聞いて回る。
「少し前までは見かけたな」
「白い耳の女の子だろ?」
「最近は見ない」
返ってくる答えは、どれも曖昧だった。
「こんなところに何しにきたのかねぇ」
「出ていった、って感じでもないな」
ヴォセムが低く言う。
・
街外れの坑道の入り口で、年老いた鉱夫が工具を片付けていた。
俺たちが声をかけると、鉱夫はすぐに頷いた。
「ああ。兎人種の嬢ちゃんなら、知ってる」
「どこに行ったかわかりますか」
「この奥だ」
鉱夫は、暗い坑道の先を顎で示す。
「何日か前に坑道の奥にいったきり、戻ってきとらん」
「危険なんですか」
「古い坑道も多くてな。道がわからなくなって戻れなくなる者もいるし、別の出口から出て行く者もいる。……しかし、あの嬢ちゃんは……まだいるのかもしれんな」
一瞬、間があった。
「アルブはまだいるかもしれない……」
「しかし、それで騒ぐ者もいない。ここはそういう街だ」
その言葉に、俺の胸がざわついた。
・
俺たちは、アルブを探すため、坑道に入って、しばらく歩いた。
コツコツという靴底の音が壁に反射し、奥へと流れていく。
普通の声で話しても、声が反響してやたらと響く。
「なんだいここは。やたらと音が響くねぇ! 声を出してみたくなるよ」
ゾラがそういって大きな声を出すと声が反響してとても遠くまで響いていった。
「アルブー! いたら返事をしろー!」
俺の声も響いていった。
それから、俺たちは時々アルブの名を呼びながら奥へ奥へと進んでいった。
その時だった。
♪ こわくても わたしはうたう いつだって あなたにこえが とどくなら。
――聞こえた。
かすかだが、確かな旋律。
「これは……歌?」
「……聞こえる」
「ああ」
俺たちは立ち止まり、押し黙る。
その音は、消えずに流れてくる。
反響し、集まり、奥からこちらへ届いている。
「あの歌を歌ったりするのは……」
「アルブしかいない!」
俺たちは、歌を辿って走った。
・
そして、崩落した岩の先に、アルブはいた。
足を挟まれ、動けなくなっている。
だが、その手には、小さな鉱石が握られていた。
「アオ。みんな。きてくれたんだ。……これ……音をよく響かせる石なの……私の歌が届けるかもしれない。見つけたんだ」
アルブが小さく笑う。
「それを探していたのか?」
「うん。アオが音を響かせる道具の材料を探していたから」
ヴォセムとゾラが手早く岩をどかす。
「アルブよ。歩けそうか?」
「うん。大丈夫。野宿は慣れてるし、水と食糧は持ってたから」
「心配させないでくれよ……」
「……ごめん。でも、私は私にできることをしたくて……」
「こちらこそ、ごめん。アルブの気持ちを考えてなかった」
「アオは心配していて、皿洗い中もずっと心ここに在らずで、4枚も割っちまったんだぞ。それに、ゾラやルゥガも……な」
「あ、アタイはトレジャーハンターとして面白そうだから、付き合っただけで、心配なんかしていないし、アルブがずっとファルノヴァにいるなんて思ってないし」
「あはは。ごめんね。心配かけちゃった」
ここは、音の届く場所。
歌を遠くへ届ける確かな答えであり、アルブの歌を俺たちに繋いだ場所でもあった。
この鉱物を使って共鳴腔を作ったら、アルブの声もこれを響かせられるかもしれない。
それに、ケマーレの風魔法も乗せられたら……。
俺たちは〈ファルノヴァ〉に戻り、ジャルコに相談することにした。




