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ファルノヴァの歌姫⑦

 〈ファルノヴァ〉の南東にある森を迂回するようになっている新しい林道。

 

 俺達は、その迂回の原因になったという〈びよんびよんの根っこ〉があるという場所から森に分け入る。

 昼なのに陽光がほとんど届かない。風の流れが低く、木々のきしむ音が異様に重い。

 開墾が途中で放棄された跡が残っている箇所があった。

 

「このあたりだ」

 

 ルゥガが立ち止まり、地面を指差した。

 そこには――岩に張って太い黒い“根” が姿を見せていた。

 まるで金属。


「……これ、木なのか?」


 俺がそっと触る。見た目は木の根とそう変わらないが……。


「ナタを振ってみろ」


 ルゥガに促されてふるってみる。


 ――ガチィッ!


「いっ……! 固っ!!」


 アルブが震えながら言った。


「アオ……これ、木の音じゃない……“金属の音”に近いよ」


 ジャルコが目を細め、根を軽く拳で叩く。


「……密度が異常だ。腱とは次元が違うぞ」

「ルゥガ、例の音って?」

「これだ」


 ルゥガが地上時出ている部分を引き抜き、根を軽く弾く。


 ビヨン……ッ――。


 妙な、耳の奥に響く弾力音。


(……これ絶対、ベースに使える素材だ……!)


 ジャルコが工具を構えた瞬間――。


 ズズ……。


 地面が不気味に揺れた。


「……え?」


 根が、わずかに動いた。


「アオ、下がれ!」


 ルゥガが俺の腕をつかんだ次の瞬間――巨大なカマキリのような昆虫 が姿を現す。

 緑の複眼がぎらりと光り、前脚は鎌のように鋭く、全身を硬質な皮で覆われていた。


「これ……!」

「〈鎌守虫(カマモリ)〉だ!」


 ルゥガが叫ぶと同時に、〈鎌守虫(カマモリ)〉の鎌が振り下ろされる。


 ズガァン!!!


 地面が砕け、破片が飛び散る。


「ひっ……!」


 アルブがすばやく俺を引いて避ける。


「来るぞ!!」


 〈鎌守虫(カマモリ)〉が突っ込んできた。

 ルゥガが正面に立ちふさがり、斧で鎌を受ける。

 

 ガァン!!!


「足の関節を狙え!」

「了解!」


 ジャルコのハンマーが〈鎌守虫〉(カマモリ)の前脚を折る。

 アルブは耳を伏せて、木陰に逃げ込んだ。


「アオ、今!!」


 が、俺はどうしていいかわからず、オロオロするだけだ。


 (ここでやられたら、ベースどころの話じゃないぞ……)


 そんなことを思っているとジャルコが一撃。

 

「りゃっ!!」


 ガスッ!!


 ジャルコの2撃目に〈鎌守虫(カマモリ)〉が大きくよろめく。


 その瞬間、ルゥガが叫んだ。


「――とどめ!!」


 大きな斧を両手で握りしめ、思い切り振り下ろす。


 バギィン!!


 〈鎌守虫(カマモリ)〉が甲高い音をあげ、崩れ落ちた。

 緑の光が静かに消える。


「ふぅ……はぁ……倒したな」


 ルゥガが息をつき、斧を肩に乗せる。


「……ごめん。俺、何もできなかった」

「気にするな。誰でも最初はそうだ」


 しかし、ジャルコが忠告する。

 

「しかし、アオよ。前から気になってはいたんだが、この〈王国シャプテ・チェターツィ〉にいるつもりなら、最低限、自分の身を守れる程度には体を鍛えた方がいいぞ。今みたいな動物や昆虫もそうだが、人間にもいろいろいるからな」

「〈闇の魔王〉アルバストル、それに、ヴルペ……」

「そう。〈ファルノヴァ〉は自治評議会が強いから、この辺りは国の連中も手を出せないだろうが、近頃、怪しい噂を聞くからな」

「そ、そうだよな……」


 ジャルコの言うことももっともだ。

 

「そうだ。アオ。道作るの手伝ってみるか? 筋肉が自然につくぞ!」


 ルゥガは自慢の筋肉を示して来た。


「えー。アオは今のまんまでもいいよー」


 (俺、ライブの会場設営のバイトでさえ、ケーブル運ぶのキツくて1日が限界だったのに、絶対無理……)


「う、うん。ありがとう。考えとく」


 ・

 

「さて、ジャルコよ。この辺りの節から切り出していいな?」

「ああ、そのあたりだ」


 ルゥガが斧を振り下ろす。


 ガンッ!!

 ガッ! ガッ! ガッ!


「…………切れない!!」


 ジャルコはノミで試す。


 キィィィィィン……!


「ノミが……欠けた……なんて堅さだ」


 アルブの耳が震える。


「これ、多分……金属より、硬い……」


(これを切るには……通常の工具じゃ“絶対”無理だ)


「ジャルコ、金ノコとかないの? 金属を切る道具なんだけど」

「かなのこ? なんだいそりゃ。聞いたこともない」


(だよな……レーザーもウォーターカッターもあるわけないし……)


 ――となると。


「バーナー……火で焼き切るしかないか」

「ばーなー?」


 ルゥガが首をかしげた。


「音って、広がる音と、指向性――まっすぐ届く音があるんだ。あれと同じ要領で、火の魔法の出力を絞れないかな」

「んん? しこうせい? 聞いたことない言葉だな」

「ああ。そっか。ごめん。えっと、火の魔法をそのまま使うんじゃなくて、“細く絞って”方向を一点に集中させるんだ。そうすると、火はたぶん高温になって赤から青に変わる。その熱で焼き切る。ベルンさんやゾラが火を出せるし、ジャルコも出せるだろ? あれを細くすれば――」


 ジャルコは鼻で笑う。


「火は火だ。炎は広がるもんだ。細くなんて出ねぇし、炎は青じゃなくて、赤いもんだ」

「出せるよ」


 俺は確信していた。


「見せて。ジャルコの火魔法」

「……まぁいい。これくらいなら」


 ボッ、と手のひらから炎が出る。

 広がって、空気に散る、“無指向性の火”。


「そう、これ。広がってるだろ? だから温度が上がらない」


 俺はジャルコが出す炎を示して説明する。

 

「火は広がるもんだろ?」

「違う。火は本来“形”を持てるはずだ。広げるだけが火じゃない。細く、長く、尖らせ……“絞る”んだ。それで温度は跳ね上がるはずだ」


 俺は地面に枝で描く。


 ――無指向性。方向をあっちこっちに広がる火(=温度が低い)

 ――指向性。方向を一点に絞った火(=温度が高い)


「こんな感じだね。ジャルコ。あと少し、火を指向性(こっち)の“細いイメージ”にできない?」

「……“細い火”ねぇ……。やったことねぇが――」


 ジャルコが目を閉じる。


「……こうか?」


 すると、ジャルコが出す火の色、そして、音が変わっていく。

 

 ――シィィィィィッ!!


 そして、“針のような細い炎”が、青白く現れた。


 アルブの耳が跳ね上がる。


「アオ! 音が違う! 熱の“鳴り”が……すごく鋭い!」

 

 ジャルコも驚いていた。


「……なんだこの青い火は……! 赤い火よりずっと熱そうだぞ……!」

「やった……! 今だ! ジャルコ。これを根にかざして!」


 すると、最初は黒く焦げた円が広がり、やがて真ん中から赤くなっていく。


「根が赤くなってきた……!」

「まだだ! 全体が赤くなるまで待て! これは鉄と同じだ!」


 やがて、根の炎が当たってるところが真っ赤になった。


「今だルゥガ! そこから切るんだ!!」

「おおおッ!!」


 ルゥガの斧が振り下ろし――。


 ガンッ!!!


 硬すぎてビクともしなかった根が、ジュウッ……と赤熱し、パキィン!! と裂けた。


「切れた……!! やったぁ……!」


 アルブがぴょんと跳ねた。


「アオ、これ……アオの“音の考え方”だ! 火を“絞った”んだね!」

「……しかし、この青い火はいろいろなところに使えるぞ……いいことを教えてもらった」

 

 ジャルコは苦笑いしていた。


「魔法……か……」


 もしかしたら、俺にもできることはあるのかもしれない。

 そんな言葉が頭をかすめた。

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