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私の支配獣が最下級? いいえ、最上級の神獣ですよ?

掲載日:2025/11/18

前編


 このドルス国には“貴族の令嬢は獣を手懐け、支配獣として従えよ”というしきたりがあります。そのため、令嬢だけが通う王都女子学園には、動物を持ち込んでいいという校則があるのです。


 その学園でのお昼休み――


 突如として支配獣自慢が始まりました。上位貴族の令嬢達が、自分の支配獣を教室中に見せびらかします。私はそんな令嬢達へ顔を向けることなく、話し声だけを聞いていました。


「見て下さる? 私の新しい支配獣は南国で発見された新種の小鳥ですのよ?」

「私の新しい支配獣は耳が垂れた兎ですわ。どうです? 可愛いでしょう?」

「いえ、私の新しい支配獣なんて、もっと小さくて珍しい鼠なんですの」


 新しい新しいって、前の支配獣はどうなったのでしょう……? まさか処分された訳じゃないですよね……?


 嫌な想像に身震いながら、羊のメイを抱き締めます。この子は、私の可愛い支配獣なのです。するとメイは顔を上げて、私を慰めるように体を擦り寄せてきました。


「うふふ、メイはふわふわね?」


 私が柔らかな毛を撫でていると、自慢話をしていた令嬢達がこちらを睨みました。


「教室が家畜臭くありませんこと?」

「ええ、図体のでかい家畜が居ますものねぇ?」

「本当に臭いわ。お昼休みくらい出ていってくれないかしら?」


 私は唇を噛むと、メイと共に教室を出ました。


 メイとは毎日一緒にお風呂に入っているし、白い羊毛には汚れひとつありません。むしろ良い匂いがするのに――


「メェ……」

「ありがとう。慰めてくれたのね、メイ」


 私達がそんな会話をしながら歩いていると、威圧的な声が響きました。


「――あら? 誰かと思ったら、伯爵令嬢セシリアと羊じゃない?」


 顔を上げると、公爵令嬢ヴェネッサ様が取り巻きを連れて歩いてくるところでした。やがて彼女と取り巻きは私達の前で止まると、わざとらしく鼻を摘まみます。


「やだぁ、臭い。家畜の匂いがするわぁ」

「大きな動物を支配獣にした馬鹿がいるわよぉ」

「小動物の支配獣が流行してることも分からないのねぇ」


 取り巻きは私達を侮辱し、ニヤニヤと笑っています。その時、ヴェネッサ様が優越の笑みを浮かべながら尋ねてきました。


「ねえ、セシリア。最下級の支配獣の主人ってどんな気持ちなのかしら?」

「最下級……? 支配獣に階級なんて存在しませんが……?」

「あらあら、頭が悪いのね。階級は存在するわ。御覧なさい、私の小猿を。この子は世界一可愛くて賢い生き物なの。まさに最上級よ」


 セシリア様は肩に乗せた小さな猿を見せびらかします。以前はイタチを支配獣にしていたはずなのに……いつの間に変えたのでしょうか。


「ヴェネッサ様、以前のイタチはどうしたのですか?」

「ああ、アレ。死んじゃったのよ」

「死んだ……? なぜですか……?」

「クッションと間違えて座ったら、死んだわ。だからこの子を支配獣にしたの」


 ゾワァッ……と全身の毛が逆立ちました。怒りに任せてヴェネッサ様に掴みかかりそうになりますが、羊のメイが私のスカートを咥えて止めます。


「メェ……」

「分かったわ……」


 私は引き下がり、ヴェネッサ様と取り巻きを無視して立ち去りました。しかし彼女達はこちらを見たままヒソヒソと何かを囁いていました。


(……何なの、あの態度……)

(……伯爵令嬢の癖に、生意気だわ……)

(……少し痛い目に遭わせた方がいいみたいね……)







 それから数日後、学園で豊穣祭が開かれました。


 お昼の部では、大道芸や演劇などを見て、屋台の食事を楽しみます。しかし夜の部では、学園の広間で舞踏会を開催して、豪華な食事を味わうのです。ここは女子学園ですが、舞踏会には婚約者や恋人の男性を同伴することが許可されています。そして支配獣は、その時だけ学園が用意した檻に入れなければならないのでした。


「ごめんなさいね、メイ。舞踏会の間、ここに居てね?」

「メェメェ」


 メイに檻へ入ってもらい、私は舞踏会の準備をしに更衣室へ向かいました。すると同じクラスの男爵令嬢ニコルと子爵令嬢クレアが、心配そうな表情で近付いてきたのです。この二人は自分の支配獣を大切にしているし、無口で不愛想な私にも声をかけてくれる優しい子達です。


「二人共、どうしたの?」

「セシリアさん、気を付けてちょうだい」

「実はヴェネッサ様から手紙を預かったの」


 そう言ってニコルとクレアは一通の手紙を差し出しました。


「ヴェネッサ様の取り巻きに渡されたのだけど、とても嫌な感じだったわ」

「早く読んでみた方がいいわよ。何が書かれているか確認しなくては」

「……そうね。開けてみましょう」


 そして私達は手紙を開封しました。


 そこに書いてあったのは……――




+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+


 愚かなセシリアへ


 よくも公爵令嬢の私に失礼な態度を取ったわね? 私は、あなたの支配獣を殺すことに決めたわ。これは高貴なる私へ無礼を働いた罰よ。あなたの羊は、あなたの愚かさの所為で死ぬの。


 そもそも家畜を支配獣にするなんて、馬鹿げてるわ。あの汚い羊の死体は公爵家の使用人へ与えます。きっと美味しく食べてくれるでしょう。あなたが望むなら、その料理を味見させてあげるわよ?


 もう二度とこの私を怒らせる真似はしないことね。


+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+




 それを読んだニコルとクレアは衝撃のあまり硬直します。


「そ、そんな……あの羊ちゃんを殺すだなんて……!」

「支配獣を殺して食べるなんて……残酷過ぎるわ……!」


 彼女達はわなわなと震え、ついには泣き出してしまいました。私は手紙を強く握り締め、そのまま引き裂きます。ヴェネッサ様はどこまでもクズのようですね。


「ニコル、クレア、嫌な手紙を見せてしまってごめんなさい。でも私のメイは絶対に殺されたりしないわ。あの子は――普通の獣ではないの」


 私がそう告げると、二人は驚いたように顔を上げました。


 ええ、あの子は決して殺されません。それにしても、ヴェネッサ様は私を怒らせたようですね。勿論、ヴェネッサ様だけでなく、共犯者の取り巻きも許しません。いえ、いっそのこと支配獣を粗末に扱う令嬢全員を裁いて差し上げましょう――


 ヴェネッサ様……心無き令嬢達……今宵の舞踏会を楽しみにしていて下さいね……?

------------------------------------------------------------

中編


 そして豊穣祭の夜の部である舞踏会が始まりました。


 準備をしていた所為で、少しだけ遅れてしまったようです。広間には、すでに大勢の男女の姿がありました。そんな中、私は愛する人にエスコートされて入場します。すると広間中の視線が、私達に集まりました。


 令嬢達は私の恋人を見て、蕩けます。


「まあ……! 何て素敵な殿方……!」

「高身長、程よい筋肉、美しい顔……最高の男性だわ!」

「好きだわぁ……私、あの殿方に恋をしてしまったわぁ……」


 そんな令嬢達は自分の婚約者や恋人を捨てて、こちらへ駆け寄ります。そして私を無視し、隣にいる恋人を取り囲みました。


「きゃあ! 近くで見ると、もっと素敵ね!」

「よろしければ、わたくしと踊って頂けませんか?」

「ちょっと! 抜け駆けしないでくれる!?」


 白銀の髪と漆黒の瞳、美の極致ともいえる顔立ち、引き締まった肉体……確かに私の恋人は、女性にとっての理想なのでしょう。しかし彼は令嬢達には目もくれず、私をダンスに誘いました。


「セシリア、踊ろうか」

「ええ、喜んで――」


 そして演奏が始まりました。


 私達は曲に合わせて踊ります。どの令嬢も私の恋人に見惚れていて、踊るのを忘れているようでした。そのため、広間は私達だけのダンスフロアとなったのです。


「僕達はまるで王子と姫君のようだね?」


 注目の的である彼が、嬉しそうに語りかけてきます。


「そうかしら。あなたは王子だけれど、私は姫君じゃないわ」

「姫君じゃない……? なぜだい?」

「私は姫君に相応しい少女じゃないの」


 地味で可愛くもない私に、派手で格好良い恋人は不釣り合い……皆そう思っていることでしょう。しかし彼は理解できないといった様子で、返しました。


「何を言っているのかな? 君ほど美しい少女はいないよ?」

「そんなことを言うのは……あなただけよ……」


 そして演奏とダンスが終わりました。大拍手を受けた私達は、お辞儀を返します。どうやら多くの令嬢は私の恋人のダンスに感激したらしく、涙を流しながら手を叩いていました。


 そこへヴェネッサ様が、取り巻きを連れてやってきました。彼女は私達をジロジロ眺めると、高圧的な態度で言い放ちました。


「そこのあなた、次は私を誘いなさい」

「僕? もしかして僕と踊りたいの?」

「ええ、踊ってあげるわ」


 ヴェネッサ様は鼻を鳴らして笑います。


「ふんっ、嬉しいでしょう? 地味な伯爵令嬢より、麗しい公爵令嬢である私と踊りたいでしょう? 早く私の手を取りなさい」

「嫌だよ。君と踊るくらいなら、誰とも踊らない方がマシだね」

「……はっ? 何を言っているの?」

「君は最低だと言ったんだ」


 その途端、ヴェネッサ様の表情が屈辱に歪みました。そして扇子を握った手を振り上げると……悪態を吐いた彼へ投げつけようとしたのです。


 しかし――


「貴様ッ! 何という無礼を働いておるッ!」


 背後からの怒鳴り声に、私達は振り返ります。そこにはヴェネッサ様の父親であるフェアクロフ公爵が立っていました。ヴェネッサ様は父親の姿を目にすると、嬉しそうに微笑みます。


「まあ、お父様! わたくしのために怒って下さるのね!」


 きっと公爵が、私の恋人を怒鳴ったのだと思ったのでしょう。しかし公爵はヴェネッサ様の目の前まで歩いてくると、こう叫んだのです。


「貴様のことだ、ヴェネッサ! もう娘とは思わん! この愚か者めが!」

「お父様? どうして私を怒るのですか?」

「怒って当然だ! お前の所為で、我が公爵家はお仕舞だ!」

「それは、どういう意味ですか……?」


 その時、広間の人々が騒めき始めました。扉の方を見ると、よく知った人物の姿が見えます。その人物はこちらへ真っ直ぐ歩いてくると、私達へ向かって深々と一礼しました。


「メイ様……! セシリア様……! ご無沙汰しております……!」

「お久しぶりです、国王陛下。来て下さったのですね」

「ん、国王か。久しぶり」


 そう返すと、国王陛下は泣きそうな表情で頭を上げました。ヴェネッサ様はそんなやり取りを見ると、理解できないといったように叫びます。


「どうして!? どうして国王陛下が、こいつに頭を下げるの!?」

「黙れッ! 死にたいのか、貴様ッ!」

「フェアクロフ公爵、教育を誤ったようだな?」


 国王陛下に睨まれた途端、公爵は土下座しました。


「もッ……申し訳ありませんでしたあああああああああッ!」

「馬鹿者がッ! 儂にではなく、メイ様とセシリア様に謝れッ!」

「ひッ!? メ、メイ様ぁ……セシリア様ぁ……申し訳ありませんッ!」


 私達は公爵の謝罪を受け、顔を見合わせます。確かに、公爵は教育を間違ってしまったのかもしれません。しかしヴェネッサ様は十六歳という成人年齢に達しています。自分ひとりで責任が取れる大人なのです。


「公爵様に謝られても、困ります」

「そうだね。本人は反省していないからね」


 しかしヴェネッサ様は私達を無視して、公爵に言いました。


「お父様、冗談ですわよね? これは余興なのでしょう? あっ……分かったわ! 国王陛下がいらしたということは、私と第一王子様の婚約が決まったのね! それを発表して驚かせるために、こんな演技をしているのですね! うふふ!」


 その発言に、国王陛下と公爵が硬直しました。

------------------------------------------------------------

後編


 重々しい空気が、広間に満ちていました。


 しかしヴェネッサ様は不思議そうに首を傾げ、取り巻きは“ご婚約ですか!?”と大騒ぎしています。やがて石像のように硬直していた国王陛下と公爵は……そうっと私達の方を向きました。


 国王陛下が、死を覚悟した瞳で訴えます。


「メイ様。セシリア様。最早、謝罪の言葉もありません。全ては国王であるわたくしが責任を取ります。どうか国を亡ぼすことだけは、なさらないで下さい」


 フェアクロフ公爵が、運命を受け入れた顔で語ります。


「国王陛下が命を投げ出すのなら、わたくしも共に死にましょう。しかし死ぬ前に、この馬鹿娘を殺します故、どうぞ国を見捨てないでほしいのです」


 私達は顔を見合わせ、再度伝えました。


「ですから、国王陛下と公爵様にそう仰られても困ります」

「そうだね。本人が反省しないとね」


 それを聞くなり、国王陛下と公爵は泣きました。ただ、静かに泣きました。


「これは……どういうことです……? セシリアは何者なのですか……?」


 そこで、ようやくヴェネッサ様は事の重大さに気付いたようです。狼狽えた様子で、国王陛下と公爵を交互に眺めます。


 すると国王陛下が、冷たく告げました。


「愚かなる公爵令嬢ヴェネッサよ、聞け。こちらのメイ様はドルス国へ豊穣を授ける最上級の神獣である。そしてセシリア様はメイ様に選ばれし神獣の主人である。このお二人は、普通の生活をするために身分を隠して学園に通っていたのだ」

「えぇ……!? 神獣って……人間にしか見えませんが……!?」

「本来のメイ様は、白き羊の御姿をしていらっしゃる」

「羊ってまさか、さっき取り逃がした……」

「そうだ。先ほどお前達が殺そうとして逃げられた羊こそが、神獣である」


 ヴェネッサ様の顔色がみるみるうちに青くなります。取り巻き達も理解したらしく、小刻みに震え始めました。


 そこで公爵が、怒りを滲ませて尋ねます。


「ヴェネッサ。お前は神獣を殺し、使用人に食わせようとしたそうだな?」

「お、お父様……! 違います……! そんなこと私は……――」

「セシリア様へ宛てた手紙を読んだぞ。言い逃れするな」

「ひぃ……ごめんなさいいいぃ……!」


 ヴェネッサ様はその場に座り込み、頭を抱えました。それを見た国王陛下と公爵は苦虫を噛み潰したような表情をして、尋ねます。


「メイ様。セシリア様。この娘を処刑することでお許し頂けますか……?」

「もし直々に殺したいのでしたら、喜んで差し出しますが……?」

「いえ、それは結構です。殺すだなんてお止め下さい」

「命はいらないよ。この子と同じことをする気?」


 メイが睨むと、国王陛下と公爵は震え上がりました。


「で、では……国外へ追放してはどうしょうか……!?」

「共犯者と共に、国から追い出しましょう……!」


 その提案にメイは頷きます。


「それが妥当かな。僕を殺そうとした者が、僕の恩恵を受けて生きていくなんておかしいからね。貴族という身分を捨てて、国から出ていってもらうしかないよ」

「メイ、良い案があるわ。国外追放した後は、ログト国の修道院に入ってもらうの。そこで自分の行いを反省してもらいましょう」

「うん、修道院なら命の大切さを教えてくれるね。国王、手配してくれる?」

「修道女に苛酷な修練を積ませるあの修道院ですね! 畏まりました!」


 そこで、ヴェネッサ様は顔を上げました。その瞳は絶望に染まり、手が激しく震えています。


「や、やだやだぁ……! 私、公爵家から勘当されちゃうの……!? 国外追放されて、修道院に入れられちゃうの……!? 苛酷な修練なんて嫌よおおおぉッ!」


 泣きながらそう訴えますが、返事をする者はいません。取り巻き達はショックを受けた所為か、茫然と立ち尽くしています。


「それと、国王陛下」

「何でしょう? セシリア様?」

「支配獣を保護する法律を見直して下さい」

「それは、どのような形で……?」


 そして私は言いました。


「支配獣の虐待、殺害、そして何度も買い替える行為を厳しく罰して下さい。一年間、この学園で令嬢達の支配獣への扱いを見てきましたが、許せない者が何人もいました。その者達には指導を行い、支配獣を大切にする心を叩き込んでやって下さい。そしてできるだけ早く保護法を強化し、令嬢達の罪を調べ上げてほしいのです」

「はっ……お言葉通りに致します……!」

「これからの罪だけでなく、過去の罪も罰して下さいね」

「勿論です……!」


 ふと人垣を見ると、新しい支配獣自慢をしていた上位貴族の令嬢達と目が合いました。彼女達は顔面蒼白で、ドレスを強く握り締めています。私は彼女達の名前が含まれた指導対象者メモを国王陛下に渡し、すぐに指導を開始するようお願いしました。


 それを見届けたメイは、国王陛下と公爵に声をかけました。


「さて、もういいかな。国王と公爵は罪人を連れて帰ってね」

「メイ様……! セシリア様……! それでは失礼致します……!」

「お二人の意向に沿うよう、全力を尽くします……!」

「頑張ってね。二人共、責任を取るつもりで国王と公爵を辞めちゃダメだからね。今までと同じように豊穣は授けるからさ」


 するとようやく国王陛下と公爵の表情が緩み、二人は帰っていきました。泣きじゃくるヴェネッサ様と取り巻きと指導対象の令嬢達を引き連れて――




 それを見送ると、ニコルとクレアが嬉しそうに駆けてきました。


「ああ! 無事だったのですね! 羊ちゃん……いえ、メイ様!」

「あの羊さんがこんなに素敵なお方だったなんて、驚きました!」

「ふふふ、あんな小娘に傷付けられる僕じゃないよ」

「「きゃあ! 格好良い!」」


 神獣だと聞いたはずなのに、フレンドリーですね。この二人、意外と度胸があるのです。私はついつい愉快な気持ちになって、笑ってしまいました。


「セシリアさん、いいなぁ……私のモルモットも人間にならないかなぁ……」

「私のハリネズミくんはきっとイケメンに違いないのですよ!」


 ニコルとクレアがこちらを見詰めて、そんなことを言います。


「ん? 支配獣を人間にしたいの? 今日だけなら、いいよ」

「本当ですか!? できるのですか!?」

「わあ! 是非お願いします!」

「勿論だよ。支配獣を大切にする子達には、ご褒美だよ」


 メイが指を鳴らすと、檻にいたはずの支配獣が現れました。しかもニコルとクレアだけでなく、広間にいる令嬢全員の支配獣も現れたのです。


 そしてメイがもう一度指を鳴らすと――


「わあああ! 私のモルモットはやっぱり美少女だったわ!」

「あぁ……ハリネズミくん……! 何て格好良いの……!」


 ニコルのモルモットはふわふわ髪の美少女に、クレアのハリネズミはワイルドな美青年に、そして他の令嬢達の支配獣も、ドレスやタキシードを着た人間になったのです。


「さあ、演奏を――! 今夜は豊穣祭だ! 皆に幸福を贈ろう!」


 メイが指揮者のように両手を上げると、華やかな演奏が始まりました。皆、人間となった支配獣と手を取ってダンスに興じます。誰もが夜空の星々みたいに輝いていて、まるで美しい絵画の中にいるようでした。


 しかし私はひとり佇み、指を指揮棒のように振っているメイに尋ねます。


「メイ……」

「どうしたの、セシリア?」

「ヴェネッサ様や令嬢達に殺された支配獣はどうなったの……?」

「僕が一匹残らず天国へ送ったよ。生前の苦痛は消え、幸せになっているよ」


 それを聞いた途端――私は泣いてしまいました。


「セシリア、僕は神獣だけど全ての命を救える訳ではない……。でも君が国王へ進言してくれたお陰で、多くの支配獣の命が救われるはずだ……心から感謝するよ」


 そしてメイは“君は世界一綺麗なんだよ、僕の姫君”と口づけをくれたのです。


 人間となった支配獣との舞踏会は明け方まで続き、主人と愛すべき獣達の笑い声がいつまでも聞こえていたのでした。




―END―

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