表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/10

第3話「初めて触れたら心臓アウト」


 月曜日。

午前の授業を終えた麗奈は、表向きはいつも通りだった。

黒髪は艶やかに揺れ、ノートは整然と並び、先生からも後輩からも「さすが麗奈さん」と言われる。


けれど、心の奥では別のことばかり考えていた。


(……17時から。今日は月曜シフト。……絶対、クマしゃんは正座してる♡)


学院では完璧なお嬢様。

だがその胸は、正座男子の登場を待ちわびるただの女子高生だった。


***


駅ナカのコンビニ。

自動ドアを抜けると同時に、胸が高鳴る。


飲料棚の前。

やっぱりいた。

ぽっちゃりした体で床に正座し、段ボールを抱えているクマしゃん。


「ふぅ〜……んしょ……」


おっとりした声。

不器用に汗を拭いながら、ペットボトルを一本ずつ並べていく。


(はぁぁ……。今日もかわいい……! その手でアゴの下ポンポンしたら絶対気持ちいい……。……って、なに考えてんの私っ!)


口元がゆるみ、頬が熱くなる。

お嬢様らしさはもう限界だった。


***


そのとき。

段ボールの角から一本のペットボトルがコロコロと転がり出した。

床を転がり、麗奈の足元へ。


「っ!」


反射的に屈み込む。

同じタイミングで、熊田も「あらら……」と手を伸ばしてきた。


指先と指先が、ふっと触れ合う。


「……あ」

「……っ」


一瞬の出来事。

けれど麗奈の脳内は爆発していた。


(に、肉球っ……!? なに今の……っ! ふにっとした感触……。……え、かわいい……っ! いや、これ完全にアウトでしょ……!)


心臓が暴れ、耳まで真っ赤になる。


熊田は「すみませんねぇ」とのんびり笑い、ペットボトルを拾い上げていく。

その声がまた胸を直撃した。


(無理無理無理……! “すみませんねぇ”じゃないのよっ! 私の寿命30年縮んだんだからっ!)


麗奈は固まったまま、頬を覆ってごまかすしかなかった。


***


帰宅後。

ベッドに飛び込み、枕を抱きしめてバタバタ。


「ふへへっ♡ ゆ、指がぁぁぁ……っ! 肉球みたいに……っ! やばっ、可愛すぎぃ……! 死ぬってばぁぁぁ!」


観察ノートを開き、必死に書き込む。


〈ペットボトル転がる=奇跡〉

〈指先接触=肉球的やわらかさ確認〉

〈『すみませんねぇ』=殺し文句〉


ペン先が震え、文字も歪む。

顔を隠しながら転げ回り、また声を漏らす。


「ふひゃっ……♡ こ、これが恋なんだ……! 恋って、指先から肉球感じちゃうことなんだぁ……っ!」


誰もが憧れる学院のお嬢様は、この日も自室でただの恋(と信じ込む)女子高生に崩れ落ちていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ