最終話特別編「日曜は猫と一緒」
日曜日。
麗奈は机の上の観察ノートを見つめ、ひとつ息をついた。
(今日はクマしゃん、お休みの日……。会えないってわかってる……でも胸が落ち着かない……)
そう自分に言い聞かせながらも、気づけばバッグを手にして外へ出ていた。
***
駅から少し離れた小さな公園。
視線の先に、見慣れた背中を見つけた瞬間、麗奈の心臓が大きく跳ねた。
(……いた……! 日曜なのに……ほんとにいた……!)
ベンチの横。
クマしゃんが、片膝をついてしゃがみ込み、野良猫をなでている。
いつもの正座じゃない。ぎこちなく片膝を折った体勢。
なのに猫はすっかり安心して目を細め、喉をゴロゴロ鳴らしていた。
「よしよし……かわいいですねぇ」
その声に合わせて、猫のしっぽがふわりと揺れる。
(はぅ……♡ 今日は片膝……! 正座しか見たことなかったのに……新フォーム……! そんなのまで可愛いなんて、反則……! しかも猫ちゃんまで安心させちゃうとか……可愛すぎる……♡)
木陰に身を隠し、両手で口を押さえる。
心臓はもう大渋滞で、足までガタガタ震えていた。
***
(もし猫ちゃんが木に登って落ちても……もし風で袋が飛んできても……私がバッグで全部受け止める……! だってクマしゃんが可愛いから……守るのは当然……♡)
バッグをぎゅっと胸に抱きしめ、きらきらした目でじっと見張る。
通りすがりには意味不明でも、麗奈にとっては自然な行動だった。
***
「ふぅ〜……いい子でしたねぇ」
クマしゃんは猫を最後になでて、ゆっくり立ち上がる。
猫は満足そうにしっぽを振り、日なたへと歩いていった。
(最後まで優しくて……また可愛い……♡ しかも今日は新フォームつき……! もう可愛いが大渋滞だよ……♡)
木陰でへなへなと腰を落としそうになりながら、麗奈は胸を押さえた。
***
帰宅後。
観察ノートを開き、勢いよく書き込む。
〈日曜 特別編=片膝新フォーム+猫ちゃん撫で撫で=可愛いの極み〉
ページの端には、片膝で猫をなでるクマしゃんの落書き。
横に小さなコグマを描き、「新フォーム!?」と吹き出しをつける。
周囲は「尊い♡」「可愛い♡」「恋♡」の文字で埋め尽くされた。
ペンを置き、ノートを胸に抱きしめながら小さくつぶやく。
「……会えないと思ってたのに……会えた……しかも新フォーム……やっぱり恋なんだ……♡」
麗奈の顔は真剣で、幸せそうだった。
自分が奇妙に見えるなんて、これっぽっちも思っていない。
窓の外では、日曜の夕暮れが静かに色を変えていった。




