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あの日空は止まった

第2話 あの日、空は止まった

~2011年3月11日 Q400副操縦士任用訓練中~

第1章:任用訓練の朝

 2011年3月11日。冬の名残が残る東京の朝は、澄み渡るような青空が広がっていた。

 羽石健斗は目覚ましの音で静かに目を覚ます。27歳。副操縦士任用訓練中の彼は、今日は実機による離着陸反復訓練の日だった。

 自室の窓から見える羽田空港の滑走路は、朝日を受けて輝き、次々と離陸していく飛行機の姿が見えた。

 健斗は制服に袖を通し、鏡の前でネクタイを締め直す。今日も完璧にやりきる──そう心に誓った。


 朝食は簡単に済ませ、ANA訓練センターへと向かう。道すがら、携帯に同期からの励ましのメッセージが届いていた。


「今日も頑張ろうな。副操縦士、もうすぐだ!」


 自分の手に渡ったパイロットの第一歩を、誰もが期待し、励まし合っていた。



 午前9時、訓練センターのブリーフィングルーム。副操縦士訓練の教官が説明を始める。訓練機はQ400。

 ターボプロップエンジンの特徴、離着陸時の細かい操作、非常時の対応手順など、細部にわたりチェックが行われる。

「今日の目標は、離着陸の正確性と安全確認だ。機体は完全に整備されている。油断するなよ」


 教官の厳しい声に、健斗は身を引き締めた。自分が副操縦士としてやっていけるか、全神経を集中させていた。


午後2時40分。

健斗は副操縦士席に座り、教官の指示に従いながらQ400を滑走路に向けてタキシングを始めた。機体は静かに前進し、エンジンのトルク音がコクピット内に響く。

「離陸準備、完了。羽石、準備はいいか?」


「はい、教官」


滑走路に差し掛かり、フルスロットルをかける。機体は加速し、やがて風防越しに青空が広がった。


だが、その瞬間。管制から突如、不穏な声が響いた。


「管制塔から重要報告。空港周辺で地震発生。全機、直ちに着陸体制に入れ」


健斗の視界が揺れ、コクピットの計器が微妙に乱れた。


「地震か……」とつぶやき、教官が冷静に操縦桿を操作。だが揺れは強くなり、滑走路も揺れていることが明らかだった。


突然の強い揺れがコクピットを襲い、健斗の体が激しく揺らされた。


「緊急事態だ。すぐに訓練中止。全員退避しろ!」


機体が停止し、教官は機内の通信で訓練中止を宣言した。地上の混乱は瞬く間に伝わり、空港施設も一部被害を受けていることが判明した。

だが、健斗の胸には納得できない思いが渦巻いていた。


「教官、待ってください。このまま訓練を中止していいんですか?非常時だからこそ、空で冷静に判断し続ける技術が必要じゃないですか?」


教官は険しい表情で振り返る。


「羽石、お前の気持ちはわかる。しかし今は安全が最優先だ。混乱の中で訓練を続けるのは危険だ」


「でも、それが本物のパイロットの仕事です。俺たちが空にいることで、人を助けられるかもしれない。それを訓練で学ばないでどうします?」


その言葉に、教官の瞳が揺れた。


慎重な話し合いの末、最小限のスタッフと共に訓練の続行が決まった。

揺れる空港施設を背に、健斗は再びQ400の副操縦士席に座る。


「非常事態だが、ここからが真の訓練だ」


機体が滑走路へと進み、プロペラの音が力強く響く。


教官の指示に従いながら、非常時のチェックリストをこなす健斗。心は震災の被災者たちに寄り添いながらも、冷静な判断と操作を続けた。


第6章:空は、生きている

訓練を終え、健斗は空港のターミナルに向かった。

震災による混乱の中、多くの人々が不安げに集まっていた。


窓から見下ろした日本列島は静まり返り、被害の大きさを思い知らされる。


しかし健斗の胸には、強い覚悟があった。


「この空を、俺は絶対に守る」


静かに呟き、彼は次のフライトへと向かう決意を新たにした。


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