愛
「あ!こんなところにあった。よかったぁ」
ビーは黒いファイルを拾い抱きしめる。ビーは、愛を専攻する神の卵だ。
愛には様々な形がある。そして、障害を乗り越えた愛はより素晴らしいものになることも学んだ。そのケースを学んだときは、授業中なのに号泣してしまった。
しかし、歪んだ愛、訂正しようのない愛、救いようがない愛はどうしたらいいのだろうか。愛が消え去ってしまったら?不倫だって愛は愛だし、間違っているかって言われたら、ヴィーナス様もしてたしな、でも他の神々から罰をくだされていたからやっぱり間違った愛なのだろう。一方通行の愛だって限度を超えると危険になるし、性欲だって愛の一貫だけどこれもいきすぎると危ないし。愛って難しい…。けれど、ちなみにビーの好きなのは、両片思いがはれて両思いになる関係だ。覗きながら悶えている。こういう時は、やっぱり愛を専攻してよかったと思う。
神は一人前になると自分が管理する世界を持てる。現在はその実習中だ。ビーが作った仮想世界で発生された愛を見守り、時には刺激を与え愛をはぐくむこと、適切な愛とは言えなくなりそうなものを訂正処理すること、が実習の主な内容だ。が、本当にどうしようもない、手におえない件は悪化する前に取り出すことができる。ただ、取り出すのは成績判定に影響がでる。そのため渋る者も多い。ビーもその一人で、見極めを誤り取り除くのが遅くなったものがいくつか発生してしまった。そうなると、もっと成績に悪影響が出る。
事象を記載し、それにどのように対処、干渉すべきだったか反省をまとめ、実習担当者に報告する。本日はその途中報告の日だったが、それをまとめたファイルを紛失してしまい探していたのだ。ただでさえ結局7件も出してしまったのに、ファイルの紛失なんてばれたら、実習中止になってしまう。
「先輩に沢山おこられるなぁ~。ナーちゃんのとこの世界はうまくいっているのに私の世界は…。一人前になれるかな」
ビーはため息をつきながら、教室に向かっていった。
ところで取り出された愛はどうなるのかというと、先輩により再指導され世界に戻される場合もあるが、難しい場合は存在自体消滅される。そもそも実際の世界になったら取り除くことさえできない。だからその時々適切な対応の必要性を学ぶのがこの実習なのだ。
あの老夫婦とかは先輩の力で何とかなるかもしれないと期待している。思い込みのひどい人たちは…どうすればいいのだろう。既に犯罪者になってしまった人もいる。対応の仕方を先輩のから教えて貰わないと!
ビーは今日も一人前になるために世界を見つめている。