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「大人になったら結婚しようね!」
そういって四葉のクローバーの指輪をはめてくれた彼は、純白のタキシードを身にまとい、同じく純白のドレスで着飾られた女性にキスをしていた。
今日は結婚式に参列している。新郎家とは家族ぐるみで交流のあった私は、家族で挙式から参列していた。彼は、家が隣で、小学校から大学まで全て同じの幼馴染だ。新婦は大学の同級生にあたる。私は学部が違うため知り合い程度ではあるが。
フラワーシャワーにより退場していった新郎新婦はとても幸せそうな笑顔を振りまいていた。もう間もなく披露宴が始まるだろう。ウエルウェルカムボードには、入籍した時に撮ったのだろう、婚姻届を持った2人の写真が飾られている。
私は彼と恋人として交際していた過去はない。ましてや、あんな子供の頃の口約束を信じていたわけではない。ただ何となく、彼と私が結ばれる未来は失われたのだと、少しセンチな気分に浸ってみている。
結婚式なんて写真だけ撮って最近はしないカップルも多いのに。ご祝儀のせいで懐が寒くなってしまった。新郎家と家族同然に育ってきた私は、それなりの額を出さなければならない、らしい母曰く。
披露宴が始まった。入場曲に合わせ、華やかな色打掛を身にまとった新婦と、紋付袴の新郎が入場してきた。日本酒好きの彼が唯一希望を出したのが鏡開きだそうだ。そのため披露宴の入場は和装にしたらしい。大好きだと豪語している新潟の銘柄の樽が、高砂でその時を待っている。
司会者の掛け声で、新郎新婦が樽酒の蓋を木槌で叩いて割る。歓声が沸き、乾杯のが挨拶が行われた。友人や親せきたちが新郎新婦のもとへ順番に集まり和気あいあいと話をしている。
お色直し後の再入場は再び洋装と変わり、新郎が皆の前でプロポーズを披露していた。余興は、新郎側は大学の友人たちでダンスを披露し、新婦側の友人は古くからの知り合いから最近の友人達までのメッセージムービーだった。
プロフィールムービーでは、さすがに長い付き合いだ、やはり私もちょくちょく映っていた。
新郎新婦によるスピーチでは新婦父が大号泣。エンドロールも挙式からの映像により作成されており、挙式に参列できなかった人も楽しめただろう。
ひとことで言って、感動的な式であった。
2次会も終わり、私は帰途についた。やっとのことで一人暮らしをしているアパートにつき、パンプスを脱ぐ。ストッキングも脱いで、むくんでいる足を軽くマッサージする。もうだいぶ酔ってはいるが、鼻唄を歌いながら一人晩酌の準備をする。
新郎新婦がいつ私からのサプライズに気付いてくれるのだろうかと思うと酒が進む。
私と彼はいわゆるセフレである。交際してはいないが、初めては彼で、彼も私が初めての相手だ。昨日は地元の友人たちと、結婚式の前祝をしていた。もちろん私も参加した。その後ホテルにいった。彼との『最後』の夜のために。
そして、彼が事後眠りについた時背中につけたのだ、キスマークを。
今頃初夜は行われているだろうか。新婦は気づくだろうか。気づくとしても明日だろうか。気づいたらどう思うのだろうか。彼はどう反応するのだろうか。
彼との連絡は格安スマホを私名義で契約し、彼に渡していた。それはもう回収して契約解除もしてある。スマホは初期化され私の手元にはない。私のスマホの彼とのやり取りもすべて削除し、証拠はもうない。
彼女は昔から人の彼氏を取るのが、いや、人の彼氏が自分になびくようにするのが好きな女性だった。それにより実際に別れた人も多いが、その誰とも彼女は付き合うことはなかった。彼女にとって単なる遊びで、趣味だったのだから。友人には何人かいたが、私は彼女に彼氏をとられたことはないし、彼女のことを疎ましくも思ったことはない。もともと彼との関係は高校の頃から続いていたものし、お互いに今まで恋人ができてもなにも変わらなかったし。
彼には彼女から珍しくアプローチしたらしい。彼を落とすのに苦労したようだ。まぁ、きっかけは彼がそれなりに有名企業に内定を貰ったからだと思うけど。
ただ、彼女と彼が付き合うようになっても、彼と私の関係は続いていた。昨日まで。
必ずしも気づかれなくても別にいい。気づいたら面白いな程度のいたずらだ。
あぁ、今夜は気分がいい。お酒が美味しい。