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異世界で贖罪と呼ばれた俺は  作者: YKRふろすと
第1章 レミロート帝国
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第2章 8話 魔獣と魔人

「まぁ、最初はそんなもんでしょ。使ってれば力加減も分かってくると思うし」


 眠そうな声を出しながらロラフは俺を見た。


「問題はここからどーやってミナト君をミハイム共和国まで連れていくかなんだよねー」


 ヤタカ教からすれば俺は指名手配されているようなものだ。

 ここがどこかは分からないが一刻も早くミハイム共和国に逃げ込むべきだろう。


「そういえばロラフがここまでテレポートさせてくれた魔法あるじゃないか。あれでミハイム共和国まで行けないのか?」


「それは無理、あの転移魔法は天使しか使えないの。さっきはまだ半分天使だったから使えたけど」


 そう言うとロラフは翼を出し見せてくる。

 儀式の間で見た白黒のまだら模様ではなく今は真っ黒、光をも吸収しそうなほど黒い羽になっていた。


「そもそも転移魔法自体賭けに出過ぎなのよ。もし失敗してたらどうするつもりだったの?」


 リーシェが腕を組みながら不機嫌そうにロラフを見る。

 

「転移魔法ってそんな危険な代物なのか?見た感じすごい便利そうだったけど」


「危険なんてものじゃないわ。転移先は自分で選べないし下手すれば土の中や湖の底、空中に放り出されることだってあるの。今回は本当に運が良かっただけ」


「まー、ほら。人生は冒険って言うし、あれ以外にあそこを抜け出す方法思いつかなかったからさー、許してほしいな?」


 上目遣いでリーシェに迫るロラフ。

 それでもリーシェはロラフに一瞥もくれず真っすぐ続く道を指さす。


「取り敢えず【壁】も見えないからレミロート帝国の外なのは確実でしょ、暗くなる前にどこかで情報収集しなきゃ」


「壁?壁ってなんだ?」


「通称鎖国の壁、第二次魔法大戦が集結した時にレミロート帝国が外交を一切しないっていう意思表明で、帝国を囲んだ壁の事だよ。表向きは魔法が使える人が少ないから魔獣や魔人から国を守るためっていう事にしてるけど」


 なるほど、確かにレミロート帝国はどこを向いても遠くに壁が見えた。


「さ、壁の事はもういいでしょ。早く行かないと野宿するハメになるわよ」


 歩き出すリーシェに、俺とロラフはついて行った。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「そもそもさ、帝国以外の人たちは転生者とか贖罪についてどのくらい知ってるんだ?」


 無言で歩き続ける2人に問いかける。


「私の国では転生者がいることくらいはみんな知ってるわ。でも贖罪についての儀式や終焉の封印が解かれてるってのは一部の偉い人達しか知らないでしょうね」


「ねんで?」


 はぁとため息を付きながらリーシェは口を開く。


「あんたばかぁ?さっきの話きいてた?そんなの全員が知ったらすぐに帝国に攻め込むでしょ。そしたら不完全でも終焉がでてきてまたどっかの国が滅ぼされるかもしれないし、そこまでいかなくても何万、何十万って人たちが犠牲になるでしょ」


 頭の中で赤いピチピチスーツに身を包んだ少女がよぎった。

 いやそんな事を考えてる場合じゃない。


「あー、確かにそれもそうか。そうそう、さっきの話といえば魔獣とか魔人ってなんなんだ?」


「魔獣ってのは魔力に当てられた獣の成れの果て、魔人ってほんと色んな種類がいるからざっくり話すと魔法を使って人類に害を成す人間かな?」


「へー、てことは帝国もそんな奴らが寄ってくるのか。魔獣とかに攻め込まれたらすぐ壊滅しそうなもんだけど」


「そのための帝国軍がいるっしょ?まーじで強いんだから」


 帝国軍・・・。

 イザベルも常人よりは強いんだろうがリーシェに圧倒されてたしな・・・。


「でも剣王とかって言ってたイザベルもリーシェに負けてたけど」


「ミナト、何も知らないから今の言葉が出たんでしょ?次そんなこと言ったらぶった切るから」


 何か逆鱗に振れたのかリーシェがすごい形相でこちらを見てくる。


「リーシェちゃんはね、あの時ガリルっていう魔法を使ってたの。身体強化の魔法で自身を何倍もの力にできるんだけど、あの時リーシェちゃんは大気中の魔力をほぼすべて使って何千倍にも力を増してたんだけど互角よりちょい強い位にしかなれなかったから悔しかったんだよ」


「ロラフは黙ってて」


 ため息を付きながらリーシェは足を止めた。

 

「あれは私のだせる最大の力だったの。もしイザベルが少しでも魔法に対する知識があれば隙を付かれて私が負けてた。もちろん素の私がイザベルと戦えば一言発する間もなく首が飛ぶでしょうね」


 ということはイザベルは相当手練れの剣士ということか?

 なのに力量差があるからってあんなにあっさりと決着がついたあたり、魔法というのは戦闘の上で重要な要素なんだろう。



 その時遠くから呼びかける声がした。

 声のする方をみるとボロボロの装いに身を包んだ老人が立っている。

 声の低さからして男だろう。


「お嬢さんたち見ない顔だねぇ。どこから来たんだい?」


 正直に答えていいものだろうか。

 ヤタカ教の追手という可能性も否定はできない。


「さすらいの旅人なんです。次はミハイム共和国に向かいたいと思っているんですが道に迷ってしまって・・・。」


 俺と話す時より2オクターブくらい高い声でリーシェが答える。

 お前は電話に出る時の母ちゃんか。


「ミハイム共和国?本当に行くのかい?ここから歩いて三か月はかかるよ」


 三か月?歩きで?とても正気とは思えない。


「はい、もう決めたことなので」


 ふむ、と言いながら老人は顎を触った。


「もう少しで日が暮れる、この道も夜になれば魔獣がでて危険じゃ。今夜はうちの村に泊まるといい」


「いいんですか?じゃあお言葉に甘えて・・・。2人もいい?」


 振り向くリーシェに俺とロラフはうんうんと頷いた。

 ヤタカ教の関係者という疑念は拭えないがランダムでテレポートした俺たちをピンポイントで狙いにくるとは思えない。

 ここはこの老人にお世話になるとしよう。

 では、と言いながら歩く老人の背中を追い、俺は歩き始めた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 先ほどまで明るかった景色も村に着くころには既に薄暗くなっていた。

 切り開かれた森の中に数軒の家が見える。

 帝国で見た家よりも大分簡素な作りで木が主に使われていた。

 外を出歩いている人はいなく、代わりに家の中から明かりが漏れている。

 恐らく晩飯とかの用意をしているのだろう。


「少々お待ちを、今魔獣除けの結界を解きますので」


 そう言うと老人は近くの木に手を当てる。

 しばらくその姿勢のまま動かず、「はて」と言いながら手を離した。


「うーん、何故か結界が解けませんな。村のものも家の中にいて声が届きそうにない。申し訳ないが誰か結界破りの【アウヘーブ】を使える方はおりませんかな?」


 ロラフを見ても首を横に振り、リーシェも首を横に振る。

 打つ手なしということだろうか。


「ミナト君は使えるはずだよ、ボア魔法は習得の有無は関係ないからねー。ってことでお願いします!!」


「えー、でも寿命が・・・。」


「いいじゃんちょっとくらい」


 こいつぅ人の寿命だからって!


「そもそもどのくらい寿命消費で結界破れるかも分からんし」


「魔法って結局は想像力が重要だからさ。これはエナ魔法もなんだけど消費する魔力より魔法の効果をイメージして使う方が扱い易いよ。例えばここでもこの結界を破るってことを強く意識して魔法を使うイメージ。まぁものは試しでしょ、やってみよー!」


 俺は言われるがまま木に手をつけ心の中で結界を破るイメージを作り出す。

 ここで破れなきゃ下手すりゃ今日は野宿コースだ。

 よし、イメージは出来た。


「ボア・アーー」

「待って」


 リーシェはそう言うと村の方に向かって歩き出した。

 目の前の木から結界があるのかと思っていたがそうではないらしい。

 事実、リーシェはもう家まで10数mの距離まで近づいていた。


「なんだよ、もう解除するとこなんだからちょっとくらい待ってろよ」


 リーシェは「やっぱり」と呟くとこちらを向いた。


「確かに、その木を境に結界が張ってあるわよ。【魔獣除け】のみの効果しか持たない結界がね。ねぇおじいさん、なんで人間が村に入るだけなのに魔獣除けの結界を解く必要があるの?」


 リーシェがそう言った瞬間、俺はロラフに腕を引っ張られ結界の内側に引き入れられた。


「あなた、魔獣ね。もし違うというなら結界を超えてこっち側に来なさい」


 え?なになに?どゆこと?


「うーん、歳を取るとボケていけませんな。確かに魔獣除けの結界を破る必要はない」


 そう言いながらおじいさんが結界に手を伸ばした瞬間、手が青い炎に包まれた。

 叫び声と共に老人とは思えないスピードで走り始める。


「逃がすわけないでしょ!エナ・セイバー」


 走り始めた老人の足が宙を舞い、そのままバラバラの肉片になり不快な音を立てて地面に落ちた。

 色鮮やかな肉片は急激に変色し真っ黒になる。


「ああいう風に絶命した瞬間黒くなるのは魔獣の証拠だねー。さっすがリーシェちゃんナイスだよ!」


 もし結界を解いていたらと思い俺は恐怖していた。

 こんな騙し打ちのようなことが日常化しているような世界で、平和な日本から来た俺は生きて行けるのだろうか?

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