表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界で贖罪と呼ばれた俺は  作者: YKRふろすと
第1章 レミロート帝国
7/8

第2章 7話 逃げた先は

 レミロート帝国から遠く離れた山道に1人の男と2人の女が突如として現れた。

 空に大きく描かれた魔法陣を見て、近くの村民はまた山の中にいる魔法使いが悪だくみをしていると勘違いしたが、それはまた別のお話。







「で、これって状況説明してもらえたりするわけ?」


 リーシェの声を目覚ましに俺は目を開けた。

 

「うーん、まぁ簡単に言うと私が成し遂げたかった目標がいくつかあってー。1つはリーシェちゃんとミナト君を助けること。もう1つはミナト君を絶対に贖罪として捧げないこと」


「だったら最初からそう言えばいいじゃない!いきなり出てきて誘拐して!私最後やられっぱなしで納得行かないんだけど!!」


 子供のように地団太を踏むリーシェを宥めながらロラフに問いかける。


「ロアとの会話聞いた感じだともう契りとやらはないんだろ?だったら知ってること全部話してくれるよな?」


 ロラフはこれまで何を聞いても契りがあって、といって話してくれなかった。

 しかし先ほど「自身の契りを全て無効化できる」とロラフは言った。

 彼女の言葉を借りて言うと、もう話しても命がぶっ飛ぶレベルのやばい約束事はもうないということだ。


「そーだね、じゃあ話していこうかなー」


 長い長いロラフの話を纏めるとつまりはこうだ。

 

 レミロート帝国に住む住民はかつては皆別の国で暮らしていた。

 しかし、ある時より体に魔力を一切持たず、大気中の魔力を魔法に変換する術も持たない子供が産まれ始めたらしい。

 その子供達は、命を宿した時に神様から授かるはずの「特権」を忘れてきた存在として【特権忘れ】と呼ばれ迫害されはじめた。

 これまでも魔力を一切持たない人もいたが、特権忘れという差別用語が出来たあたりから魔力を持つ者たちとの溝が産まれ、やがてその溝は修復不可能なほどに深く大きくなっていた。

 そしてある時、国から特権忘れを追い出そうとした王が暗殺され世界各国で戦争が勃発した。

 これを【第一次魔法大戦】と呼ぶらしい。

 結果、特権忘れ側が敗北し両者で今後関わることを禁止するという条約を結んでレミロート帝国を建国した。

 でも戦争で起こった悲劇や憎しみ、苦しみは簡単に消えるものではなく人々はレミロート帝国に恐怖した。

 その結果、レミロート帝国を滅ぼすという結論にいたり【第二次魔法大戦】が勃発。

 帝国の人口は3分の1にまで減った。

 その時、帝国の魔法研究学者達がある1人の魔女を作り出した。

 それが【終焉】である。

 終焉は侵攻してきた軍を壊滅させるだけでは飽き足らず3つの国を滅ぼした。

 それに恐怖した人々は魔法使いを集結させ帝国にて終焉を封印した。

 しかし両者被害甚大でこれ以上の戦争続行は不可能という結論に終わり、第二次魔法大戦は終戦する。

 帝国は自国防衛の要である終焉の封印を解くことに成功するが、魔力のコントロールが不可能になっており、暴走するたびに災厄を引き起こしていた。

 だが、ある時突如として現れた転生者は魔力に強い耐性を持っており、終焉と融合させることで災厄を止められるということを発見する。

 魔法研究学者の見解によると終焉と転生者が融合することで終焉にも魔力耐性ができ、10人の転生者を融合させれば大戦時の終焉ほどまで魔力コントロールができるという。

 それを聞いた終焉は、「10人の転生者を取り込んだ時、願いを1つかなえてあげる」とヤタカ教教団長と契りを交わした。

 ヤタカ教はこの契りを遂行するため、災厄が迫れば転生者を呼びよせているらしい。

 いいご迷惑である。


「つまり、俺はあんたらのいざこざに巻き込まれて転生してきたってわけだ」


「まー、そーかな?」


 ロラフが首をかしげながら答える。


「で、もし俺があそこで終焉とやらと融合してたらどうなってたの?」


「終焉は本来の力を取り戻し、場合によっては第三次魔法大戦が起きてた可能性があるわ」


 リーシェが言ってた世間知らずってのはこれか。

 だとしたら帝国民は俺と終焉が融合することによって本来の力を取り戻すってことを知らないのか?


「うん、たぶんミナト君が考えてる通り。終焉が大戦時のようになるってのはロアとかあそこらへんの偉い人しか知らないんじゃないかな?殆どの人が災厄を止めるだけだって思ってるよ」


 これでロラフの動機は何となく分かった。

 要は終焉が世界を滅ぼす、その可能性を除却したかったんだろう。

 よくもわるくも天使って感じだ。


「私はある情報筋から終焉が力を取り戻す可能性があるって聞いたの。だから国の命令でミナトを救いに来たってわけ」


「その情報筋が私でーす」


 元気よく手を上げて答えるロラフ。


「本当はリーシェちゃんとミナト君が初めて会った時にもう国から連れ出して欲しかったの!でもミナト君がリーシェちゃんを押し倒したりしてるから時間なくなって結局離れ離れになっちゃうし!」


「ああ、そうだ、この男初対面で私の事押し倒してきたんだった。サイテーね」


 肩を抱きながらゴミを見るような視線を向けてくる。

 おい、やめろ不可抗力だろあれは。


「本当はリーシェちゃんの啓示でミナト君が贖罪ってこと教えたかったんだけど下手な事言って契りに触れるとあれだしと思って言えなかったんだよ、ごめんちょ!!」


 だーからあんなに啓示とかいう割に内容が薄かったのか。

 

「で、これからどーするの?私は国からミナトを連れ帰れって言われてるんだけど」


「私はもう天使でもないから自由かな。まぁみんなを巻き込んだ手前最後まで責任もって付き添うよ」


「俺はどうすればいいの?てかこっからどうなるんだ?」


「んー、転生者は1人しか存在できないらしいから、ヤタカ教の連中が血眼でミナトを探すでしょうね」


 あの白装束が一生追いかけてくると思うとぞっとする。


「だからミナト君もある程度自分の身は自分で守れるようになろうね?」


 そうだ、すっかり忘れていたが俺には戦闘スキルのかけらもない。


「ちなみに俺って魔法使えたりはするの?」


「あー、無理ね」「無理っしょ」


 2人仲良く俺を否定してくる。

 泣いちゃうぞ俺。


「ミナトは魔力を体内に蓄積できるけどその魔力を魔法に変換する器官を持ってない。私の魔力貯蔵庫として優秀なんじゃない?」


「嫌だよそんな役割」


「何か特権があるかも!特権はこの国で産まれた人も転生者も関係なく授かることができるものだから!」


 そう言いながらロラフは俺の心臓付近に顔を近づける。

 すると顔がみるみるうちに強張り、哀れみの表情を浮かべる。


「おい、なんだったんだよ」


「うん、いい話と悪い話どっちから聞きたい?」


「じゃあいい話」


 俺は好きなものは最初に食べるタイプだ。

 もちろん、この手の選択肢はいい話から聞いていく。


「ミナト君普通に魔法使えるよ。しかも私やリーシェちゃんが使うより強力なやつ」


 リーシェの肩がピクリと揺れる。

 

 ロラフやリーシェよりも強力な魔法?

 ただでさえリーシェがあんなに強そうだったのに?

 あれより強いのはもうチート能力だろ。

 俺の異世界無双始まっちゃうのかwoh!woh!


「あのー、悪い話の方なんだけどさ」


「いいぜ、なんだよ」


「そのー、ミナト君の魔法って私達みたいに魔力を消費するんじゃなくて、ミナト君自身の【寿命】を消費するんだよね」


「え?」


「私たちが使う魔法はエナ魔法って言って魔力を変換して魔法の術式を構築するの。でもミナト君の魔法はボア魔法って言って寿命を変換して魔法の術式を構築するんだよねー。天使とかがボア魔法を授かると無限の命とベストマッチしてえっぐい強さを誇るんだけど・・・」


「ボア魔法って本で読んだことはあるけど実在するのね」


「とーぜん無限に生成されていく魔力じゃなく、有限の寿命を消費するんだから代償に見合う強さだけど、使うのはおすすめはしないよねー」


 なんということだ、異世界無双物語ここにて終了だ。

 じゃあ帰って風呂入って寝るわ、と言いたいところだが帰る家もない俺は途方にくれることしかできない。


「てか、寿命を消費するって言ってたけど俺の残りの寿命とかって分かるもんなのか?」


 ロラフは首を横に振る。


「それを知っているのは特権を授けた人だけ。寿命の長さは順当に生きていって老衰か病気で死ぬときの長さなんだよねー。だからミナト君がどれほど健康体でいられるかによるんだよ。」


「じゃあ90歳まで生きられる予定だったとして、戦闘中に60年分の寿命とか使っちゃったら俺は30歳で死ぬってことか?」


 そうだね、と言いながらロラフは頷いた。

 なんとも使いずらい能力である。


「そもそもボア魔法ってどのくらいの寿命を消費するの?本にはそこらへん詳しく記載されてなかったのよ」


「別に1秒消費から魔法は出せるはず。最大火力は残りの寿命全てのはずだけど」


「残りの寿命全てって、魔法出した瞬間に死ぬんじゃ・・・」


「死ぬよ」


 歯に衣着せぬストレートな答えである。


「ものは試し、実際に使ってみればいいんじゃない?」


 リーシェはそう言うとミナトに近づく。


「ほら、空に向かってボア・ファドラって唱えてみて」


 手を握られ空へと向けられる。

 体が密着し思わず心臓が高鳴りはじめるのを感じる。


「ああもう、【ボア・ファドラ】」


 心の中で1秒で、1秒でお願いしますと唱える。



 指先から消えかけのライターよりも弱いようなかわいい炎が出て消えた。


「ザッコ・・・」


 リーシェの心無い一言が静かな山に響いた。

 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ