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異世界で贖罪と呼ばれた俺は  作者: YKRふろすと
第1章 レミロート帝国
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第1章 6話 ピンチ

「全員動かないで!!」


 リーシェの声が儀式の間に響き渡り、反撃に出ようとした白装束も動きが止まる。

 小さな彼女の背中が、今は誰よりも大きく、強く感じられた。


「エナ・セイバー」


 磔がバラバラになり体の拘束が解ける。

 落ちる体をリーシェはまるで猫を抱きかかえるように、優しく、軽く受け止めた。


「ごめんね、もう少し早く気づくべきだった。今楽にしてあげる」


 エナリフレインとリーシェが呟くと先ほどまで鮮血を溢れださせていた傷口が閉じ痛みが引いていく。

 傷が治るのを見ながらこれで貸し借りはチャラね、と言いリーシェは微笑んだ。


「誰よ、あなた。私への贖罪に魔法なんて穢れをかけてどういうつもり?」


 終焉が肩を震わせている。

 俺は恐怖で腰が抜けそうになるが、リーシェは一切身動きせず終焉を睨みつけた。


「私はリーシェ・アドルフ、ミハイム共和国の者です」


 異教徒だ。

 周りの白装束がざわつき始める。


「これ以上の無用な争いはやめて、全員投降しーー」


「我々を迫害し、この国へ追いやった張本人の1人が自国を守るための神聖な儀式を”無用な争い”と言うのは、非常に非常におかしな話しだと思いますが」


 リーシェの言葉を遮り、ロアが口を出す。

 何の話をしているのか理解できないが、全員がリーシェに敵意をむき出しなのは分かる。


「だから、私達はレミロート帝国と手を取り合いーー」


「我々の同胞を無残に殺しておいて何を言うか!!!!」


 ロアは地面に横たわっている白装束を指さしながら声を荒げた。

 それを最後に皆口を噤む。


 血の絨毯は広がり、死体は10はくだらない。

 白装束は次々と懐から武器を取り出し間合いをじりじりと詰める。

 リーシェもエナソードと呟き魔法陣から自分の背ほどの大剣を取り出す。

 無力な俺はただリーシェの背に隠れてキョロキョロと周りを見ることしかできない。


 

 一触即発の中、呑気な欠伸が沈黙を破った。


「はぁ、なーんかしらけちゃったわ、儀式はまた今度にしましょう。その憎たらしい女の首は私に頂戴ね、部屋に飾っておくわ」


 そう言いながら終焉は粒子のように細かくなり消えていった。


「聞いたな信者よ、その女の首を取れ」


 ロアの一声と同時に白装束は一斉にリーシェに襲い掛かった。

 リーシェは一瞬で白装束に囲まれ見えなくなる。

 なにもできない。

 俺にはなんの力もない。

 ただ呆然と見つめる事しかできない。

 リーシェが死んだらどうなる?

 次は俺の番か?

 殺されるのか?

 また、磔にされて・・・


「鬱陶しい」


 群がっていた白装束が突如として消えバラバラになった何かがあちこちに飛散していく。

 まるで血が宿主を探しているかのように霧になり飛散していった。


 返り血を全身に浴び、赤く染まったリーシェが鋭い眼光のまま立っていた。


「イザベル」


 ロアが名前を呼ぶ。

 ビクッとイザベルの肩が震えた。


「やれ」


 はい、と短く答えるとイザベルは剣を抜く。


「やめなさい、あなたは私に勝てないわ」


 リーシェが大剣を構えながらイザベルに話しかける。


「なにを根拠に・・・」


「イザベル・カイザー、17歳」


 リーシェが淡々と喋り始める。


「剣王、アレスト・カイザーの元に生まれ幼少期から剣技を教わる。15歳にして当時の帝国軍師団長を模擬戦にて討ち破り師団長になる。16歳の時に父、アレストが急病で亡くなり剣王の座を引き継ぎ、今に至る」


「よく、ご存じですね」


「ちゃんと調べてるから、私が言いたいのは子供のころから剣しか触ってこなかった世間知らずが私に勝つのは無理ってこと」


 リーシェが言い切った瞬間、イザベルの鋭い一太刀がリーシェに迫った。

 金属と金属がぶつかり合う激しい音が聞こえ耳にキーンという残響を残す。


「いきなり何も言わずに切りかかるのはどうかと思うけど」


「黙ってください!私はーー」


 リーシェの蹴りがイザベルを吹き飛ばす。

 激しく上る砂煙の中、イザベルは空気を切り裂きリーシェに剣を振るう。


「帝国一の剣士という自覚を持っています」


 また激しい金属音が鼓膜を揺らす。

 素人には2人の動きを目で追うのがやっとだ。


「帝国一でこれなら、随分レベルが低いね」


 巻きあがる砂煙で2人の姿がたちまち見えなくなっていく。

 その中でも激しい金属音だけが響き続ける。


「あなたは何をしにここに来たんですか!この儀式が終われば私たちはようやく自由になれるというのに!!!」


「だから世間知らずって言われるの。終焉を作り出したくせに終焉については何も知らないのね」


「黙れ!終焉様は私達を救おうとーー」


 鈍い金属音と共にイザベルの剣は宙を舞い持ち主の足元に刺さる。

 イザベルは右腕を抑えながら苦痛の表情を浮かべる。

 腕の鎧は湾曲し、鎧の隙間からは血が流れ出していた。


「分かったでしょ、今私はあえてあなたの腕を落とさなかったの。自分より年下の子を痛めつける趣味はないから」


「まだ、左腕があります」


 そう言いイザベルは左手で剣を拾い上げる。


「私の剣技は剣王である父より授かったもの、帝国一の剣士として膝をつくのは命を落とした時だけです」


 覚悟を決めたように、闘志が燃える目でリーシェを睨みつける。


「立派ね、もう手加減はしない」


 リーシェは剣を低く構えイザベルに向かって地面を蹴る。

 

 ごめんなさい、と俺に謝るイザベルが頭をよぎる。

 悔しそうな顔をして、拳を握るイザベルが頭をよぎる。



 悲しそうな顔をした赤髪の少女と目が合った、声は聞こえず口だけ動いたのが見えた。




 に  げ  て



 激しい砂煙に目を瞑る。

 金属音はもう聞こえない。

 鎧を纏った少女は地面に倒れ、リーシェは、ただ地面に横たわる少女を見つめていた。

 逃げて、イザベルの最期の言葉だった。

 彼女は、本当にこの白装束や終焉と一緒だったのだろうか。

 聞きたくてももう聞くことは出来ない。



 リーシェは手元の大剣を見ていた。

 段々と地面に大きな影を作っていた大剣は影が薄くなり、やがて地面にもその姿を映さなくなる。


「イザベル、あなたは決して弱くなかった。恥じる必要もない、あなたは魔法に対する術なんて知りたくても知れなかっただろうから」


 そう言うとリーシェはイザベルに向けて両手を合わせた。


「さて、もう無駄だと分かったでしょ」


 しかし白装束はまだ次の攻撃を仕掛けるべく各々の武器を手に取る。


「無駄、ではないだろう。リーシェとやら」


 聞きなじみはじめたロントの声が聞こえた。

 いつの間にかロアに並び品定めでもするように顎を触る。


「この国の誰も、魔法に対する知識がないとでも思ったか」


 ロントの声にリーシェの顔が引きつり始める。


「恐らく、その体は魔力を殆ど溜めることができない。故に大気中の魔力を直接体内に取り込み力へ変換しておる。実際、周囲の魔力は明らかに儀式が始まる前より薄くなっておる」


 リーシェの顔が強張り一歩後ずさった。

 今日、初めてリーシェが一歩引いた瞬間だった。


「ほとんどの帝国民は魔法が使えないからと思って油断してたけど、あなたみたいな人もいるのね」


 ハハと短く笑い、ロントはまた顎を触る。


「例外なく、私も使えんよ。ただ、魔力を見ることはできる。事実先ほどまで軽そうに振っていた大剣も姿を消した。誰も魔法を使わないこの国では魔力濃度は非常に濃い。さぞ力を振るうことができたでしょうな。でもそれも終わり、犯した罪は償ってもらうぞ」


 白装束が詰め寄るのと同時にリーシェもまた間合いを広げる。

 

「ミナト、さっきあのおっさんが言った通りもう私は大した魔法は使えない。でも転生者のミナトは絶対にこの国から助け出さないといけないの。本当はちゃんと説明してあげたいんだけど時間がない。だから、私を信じてーーー」


 瞬きするとそこにリーシェの姿はない。

 後ろで呻くリーシェに気づき、ようやく攻撃を受けたことを理解した。

 白装束達に蹴られ殴られ切られ、まるで石ころが地面を転がるように吹き飛ばされ続ける。


「やめろよ!それ以上は死んじまうぞ!!」


 俺の声には誰も反応せず、ただ執拗にリーシェの体は弄ばれボロ雑巾のようになっていく。

 どうすればいい?どうすればいい?

 俺には何ができる?


「やめろっていってんだろ!!」


 白装束の1人に掴み掛る。

 その瞬間体が宙を舞い地面に叩き付けられる。


 白装束が弱かったんじゃない、魔法を使えたリーシェが強すぎただけだったんだ。


 己の弱さにミナトは打ちのめされていた。

 自分を助けようとした彼女すら救うことができない。

 うめき声を上げることも、苦痛から逃れることもできずただリーシェは傷を増やしていく。


 誰か、たすけてくれ・・・。


 目の前をふわふわと漂う白い羽。

 状況を理解しているのかしていないのか。

 笑顔を炸裂させながら彼女はリーシェをかばうように立ちはだかった。


「やぁミナト君。今ちょーピンチって感じ?」


「ロラフ!!」


「おーいリーシェちゃん大丈夫そ?今治してあげるからねー」


 エナ・リフレインとロラフが唱える。

 ロラフに抱き起こされたリーシェの体はみるみる傷が癒えていく。


「ロラフ、何をしているか分かっているのですか」


「お、ロア君おひさー。だめだよ、かわいい女の子を虐めちゃ!」


 人差し指を立て左右に振るロラフ。


「天使はヤタカ教と共存関係にあるはずです。なぜ天使のあなたがその忌々しい異教徒を助けるのですか」


「んー、だって自分たちがいい思いをしたいからって転生者を贄に捧げるのは狂ってるっしょ」


 リーシェについた土をほろいながら淡々と喋る。


「今更なにを!そもそも天使は終焉様との契りによって我々と敵対出来ないはずでは」


 ロラフはふふんと上機嫌そうに笑いながら、自分の羽を見せつける。

 一部が黒く変色しまるでまだら模様のようになっていた。


「まさか1人の転生者を助けるために、堕天使になったというのですか・・・!」


「そーいうこと、知ってる?堕天使の特権、自身の契りを全て無効化できる」


「もちろん知っています。天使の特権が永遠の命と無尽蔵の魔力だということも。なぜですかロラフ!」


「教えてあげなーい、女の子は秘密が多いの!じゃ、ミナト君、リーシェちゃん目を瞑って!ぶっ飛ぶよーーー!!!」


「え、ちょ、私聞いてないよそんなこと!!」


 リーシェの動揺する声と同時に空を覆いつくすような魔法陣が何重にも描かれていくのが見える。

 その魔法陣は何重にも重なり、小さくなり、ミナトを巻き込んだ

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