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目覚めた先は

 暗い暗い部屋の中。たった一つの光源である、ろうそくが照らす光の先に五名の人影が見える。

 老若男女を問わず集まった彼らは、息も絶え絶えとなっているワシのことを見下ろしていた。


「ねえ、本当にこんな形を取るしかないのかな……。いくらお師匠様のお願いだからって、正しく発動するかどうか確認できていない、未完成の魔法を使うだなんて……」

「だが、そうするしか方法が無いのはお前も分かってるだろ? これから先の世界に俺たちはいない。俺たちが築き上げてきた力が、必ずしも使われているとは限らないんだ」

「脈々と受け継がれていくことを期待したいけどねぇ……。その時に対抗手段がないことを考えると、念には念を入れておくしかないんだよ……」

 悲しそうにつぶやく少女を、男女が説得する声が聞こえてくる。


 とはいえその声には覇気が無く、とても説得に至れるものではない。

 案の定少女は食って掛かり、二人は困ったようにうめき声をあげてしまう。


「良いじゃねぇか。俺たちに優しくない現世に別れを告げて、良くなっているかもしれない世界に旅立てるんだからよ。俺が変わってほしいくらいだぜ」

「あ、アンタねぇ……! お師匠様がどれだけ悩み、心を痛めたと思ってるのよ!? 問題、わだかまりを解決するために研究をずっと続けて……! こんな、こんな状態になってまで……!」

 生意気なことをつぶやく少年に向け、少女は涙声に怒気を込めてぶつける。


 いつもであれば彼女の怒りをのらりくらりと躱す少年だが、今日ばかりは反論の言葉も出てこないらしい。

 こういう時の彼は、誰よりも悲しみ、落ち込んでいる。


「よさぬか二人とも。こやつは我らを信じているからこそ、自ら魔法の被検体となることを志願したのじゃ。こやつが蒔いた種を我らが育て、遥か未来で花開くであろうそれを利用し、奴を止められるのはこやつ以外ではおらんのじゃから」

 老齢の男性が、改めてワシらの目的を皆に説明している。


 幼い頃より恐れられ、迫害されたワシのことを守り、導いてくれた恩人。

 そして、思うように守れなくなった後も共に魔法を探究し、心のよりどころとなってくれた人。


 彼には、本当に世話になった。


「さあ、始めようぞ。遥か未来の世、我らが育てた花を、彼女が美しく彩ることを願おう。そして、新たな命となって生まれ来る彼女を祝福しようではないか」

「グス……! 分かったわよ……! お師匠様! 私の名前は未来の世界でも生きているようにするから! 新しく生まれてこられたら、必ずそれを探して……!」

「アンタから教えてもらった魔法は、全て強化して未来に送ってやるよ。強力すぎて、扱えないとか言うなよな!」

 魔法の詠唱を始めた五人の杖が仄かに輝きだす。


 その光は次第に大きく膨張し、部屋全体を明るく照らしていく。


「魔法は人の役に立つと広めさせてもらうよ。アタシがお師匠に教えてもらったように、たっくさんの人にね!」

「多くの人が魔法を学ぶ機会を得られる方法を模索させてもらう。技術を継承していくのは、未来に生まれ来た人々だからな」

 ワシの視界が、白い光に包まれていく。


 呼吸が、鼓動が聞こえなくなり——


「今日はパパのお手伝いをするって言ってたでしょー! 早く起きなさーい!」

 突如として、女性の大きな声が聞こえてきた。


 老化で詰まっていたはずの耳が、正しく音を拾っている。

 怒りを有した音であろうと、まるで七色の音色のように美しい。


「う~……。もうあさぁ……?」

 幼い少女の声が聞こえてくる。ワシと同様、大声で目覚めてしまったのだろう。


 眠気で重いまぶたを瞬かせると、ぼやけていた世界が明瞭となっていく。

 人の顔を見ることすら苦心していた瞳が、天井だけとはいえ鮮やかな景色を映していた。


「お着替えをしたらご飯よ。ご飯の前に、ちゃーんと手とお顔を洗うこと。良いわね?」

「はーい……。分かったよ、ママ……」

 もぞもぞと、ベッドから少女が出て行こうとする音が聞こえる。


 ワシも彼女と同じく起きるとしよう。

 そう思ったものの、なぜか手足が動きだす気配がない。


 正しく生まれ変われているのであれば、ワシは赤子のはず。

 体をうまく動かせないのも当然かね。


 動けないことにはどうしようもないので、親が抱き上げてくれるまでもうひと眠りしようかと思ったその時。


「よいしょっと……。さ、おきがえしよっと! 今日は何をきようかな~」

 突如として視界が大きく動きだす。


 服を取ろうなどと考えていないのに、足が勝手にタンスの方へと動いていく。

 両腕は己の肌を守る寝間着へと伸び、上下ともに剥ぎ取ってしまった。


 な、なんだいこれは!? 一体、ワシはどうなって——まさか!?


「お出かけようだから、これとそれと……。あ、これもいいかな!」

 タンスからいくつか取り出した服を握りつつ、ワシの瞳は部屋の片隅に置かれた姿見へと向けられる。


 そこには茶色い髪を肩くらいの長さにまで伸ばした、五歳程度の少女の姿だけが映っていた。

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