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少女と共に歩むもの

 暗い暗い森の中、生え放題となった茂みの奥から煌々と輝く温かな光が溢れている。

 その光の発生源はたき火らしく、火にくべられた薪がパチパチと音を鳴らしていた。


「ししょ~。本当にこの森を抜けなくちゃダメなの~?」

 不安と不満、恐怖といった感情をないまぜにし、愚痴っぽく言葉を発する一人の少女。


 誰かと共にこの森を進んでいるのだろうか。

 だが不思議なことに、彼女の周りに人影はない。


 茶色い髪を側頭部で一つに纏めている彼女の表情には、あどけなさが残っている。

 若いというより、未熟であろう彼女がこのような森を進む理由は何なのだろう。


「ワシらの目的地は陸の孤島でね。高くそびえる山を越えることや、流れが激しい大河を渡るよりかはこの森を進んだ方が楽なんだ。空も気流が激しいしね。アンタも険しい道は進みたくないって言ってただろ?」

「そうだけど~……。こんな暗くてお化けが出そうな森を通ることになるとは思わないじゃん……」

 少女とは別に、突如として聞こえてきた声。しかし彼女の周囲を見渡しても声の主は見当たらない。


 少女の周りにあるものと言ったら、たき火にくべられた鍋、旅道具が詰め込まれていると思われる大きなカバン。

それと過酷な旅には似つかわしくない、いくつかの可愛らしい人形だけだ。


「モンスターと戦ってきてるのに、いまさらお化けなんかが怖いのかい?」

「怖いものは怖いの! ししょーだって、お風呂に入るの嫌がるじゃん!」

「そりゃワシは——おっと、アンタが大声を出したせいで、面倒な奴らがやって来たみたいだよ。それとも、料理の匂いに引かれたのか……。まあ何にせよ、修行の成果を見るチャンスだね」

 ガサガサ、ガサガサと茂みが強く揺れる。少女はその音を耳にして体を揺らすものの、素早くカバンに手を伸ばして何かを探り出す。


 カバンから現れたのは、小さな枝のような物体。

 彼女がそれを強く握るのと同時に、茂みからは二つの影が現れた。


 耳が大きく鋭利に伸び、口が頬まで裂けた小さな人型の生物。

 それらは少女が調理に使っている鍋を見つけると、握っているこん棒を振り回しながら踊りだす。


「それは私たちのご飯! 横取りなんて許さないんだから! 隠れ潜めていた姿現し、その力を顕現せよ!」

 少女が素早く言葉を発すると、枝のような物体は彼女の背丈と同等の大きさの杖へと変化した。


 杖の先端には青紫色に輝く結晶が取り付けられており、摩訶不思議な紋様が刻まれている。

 太陽にも見えるその紋様は、一定のリズムで輝いているようだ。


「小鬼たち! そのご飯を食べたいんだったらこの私、魔法使いリアを倒してからにしてみなさい!」

 自身をリアと名乗った少女は、小さな人型の生物たちを小鬼と呼び、挑発をする。


 小鬼たちはまんまと挑発に乗り、こん棒を地面にたたきつけ、金切り声を発して彼女に威嚇を始めた。

 一斉に敵意を向けられたことに対し、リアは小さく怯むものの、杖を胸元へと引き寄せながら何やら呟く。


「植物よ、敵対せし存在を縛り上げよ!」

 杖を大きく振り上げるのと同時に、小鬼たちがリアめがけて飛び掛かる。


 こん棒を振りかざして攻撃を仕掛けようとするも、それよりも早く彼らの四肢に細長い植物たちが巻きつき、動けなくなるのだった。


「生命そのものである植物を操るのは難しいというのに、なかなかやるじゃないか。操作魔法の扱いもだいぶ慣れてきたようだね」

「ししょーに十年近くしごかれたからね。さ、モンスターも縛り付けたし、ご飯食べよっと!」

 リアは杖を小さく縮めてカバンの中に収納すると、携帯用の皿に料理を盛り付けていく。


 献立の内容は、鳥の骨付き肉に野菜を塩ゆでした物と、果実のジュースのようだ。


「モンスターは倒さなくていいのかい? 襲ってくるタイプは、確実に退治しておけと言ったろう?」

「え~? こんなちっちゃい子たちの命を奪えないよ~。それにご飯も美味しくなくなっちゃうから、命を取るにしても後でね! それじゃ、いっただっきまーす!」

 師匠と呼ぶ存在の忠告を無視し、リアは食事を始める。そんな彼女に対して師匠はため息を吐くものの、それ以上の言及はしなかった。


 パクパク、モグモグとリアの手と口が動き続ける中、植物に捕らえられていた小鬼たちが何やら動きを見せる。

 彼らは頬まで裂けた口を大きく開き、奇声を発したのだった。


「う、うるさ……! 何よ急に!」

「あ~あ、だからさっさと退治しろって言ったのに……。来るよ、大物が」

 奇声が響き渡り、静寂に包まれていたはずの森がざわめきだす。


 ドシン、ドシンと重量のある何かが大地を踏み鳴らす音が近づいて来ると共に、振動が少しずつ大きくなっていく。

 リアは再度杖を取り出すと、不安に満ちた表情で周囲の様子をうかがっていた。


「小鬼たちの親、オーガってとこか。しょうがない、ワシが尻拭いをするとしようかね」

「し、ししょーが手伝ってくれるの!? 良かった、それなら一安心! どれ? どれで戦う?」

 リアは心底安心しきった様子で、傍らに置かれた人形たちを手に取る。


 どう見てもただの人形であり、武装の類も見られないのだが、彼女が師匠と呼ぶ存在はどのようにして戦うつもりなのだろうか。


「それなりに強敵そうだし、ドラゴンの人形を使うとするかね。おっと、もうオーガの奴が来たようだ。さっさと入れ替えをやっちまってくれ」

 師匠が言葉を終えるのと同時に、樹々が大きく吹き飛ばされる。


 その奥からは、人間の背丈を三倍以上大きくしたような巨大な生物が現れた。

 一般人でなくとも、一目見ただけで全身を恐怖が支配してしまうであろう恐ろしい容貌に加え、手にはこれまた巨大なこん棒が握られている。


 これを退治することは、大人が数人がかりで挑んでも容易ではないだろう。


「それじゃ行くよ! 惑いし者よ、依り代にその魂を宿し、我の力となり給え!」

 少女はドラゴンの人形を地面に置き、それに向けて杖を振る。


 すると人形は彼女が触れていないにも関わらず、自ら動き出す。

 綿が詰め込まれた小さな四足が地面を踏みしめ、作り物でしかないはずの黒い瞳がオーガを睨みつける。


 ドラゴンの姿とはいえただの人形だというのに、なんと口元からは焔が発生していた。


「アンタは子供たちに呼び出されただけかもしれないが、ワシの前に出てきた以上、容赦はしてあげられないね! グロアアア!!」

 人形の口元で揺らめいていた焔は、大きな火炎となって捕らわれていた小鬼たちごとオーガの体を包み込む。


 焔が消え去った後には彼らの姿はなく、ただ黒く焦げた大地が露出しているだけだった。


「さっすがししょー! でも、本気でやりすぎじゃない……?」

「取り逃がした結果、他の人間に危害を加えでもしたら寝覚めが悪い。害獣に等しい存在に、慈悲など向けてられないね」

 ドラゴンの人形は黒い煙を吐き出すと、木の根元に移動させられていた他の人形たちの元へと移動する。


 小さな尾をくるりと体に巻いたところを見るに、ひと眠りするつもりのようだ。


「あれ? 寝ちゃうの?」

「食事ができないのに、食事をしている風景を見せつけられるなんてたまったもんじゃないからね。休憩が済んだら起こしな」

 ドラゴンの人形は大きく口を開けて欠伸をすると、黒い瞳を瞼に隠して眠りにつく。


 カチャカチャと食器たちが動く音を枕にしつつ、少女と出会った頃の記憶を夢に見ながら——

ご覧いただきありがとうございます。


書いてみたい物語、第三弾です。

短いお話ですが、楽しんでいただけると幸いです。

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