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暴君ラオ  作者: あーる
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聖地留学6

 夏が来て、前から楽しみにしてきた月祭りの日が近づいてきた。 

 テムチカンより北にあるとは言え、聖地の夏はそれなりに暑い。特に港のある海岸近くは山からの風が熱風となって吹き下ろし、もしかしたらテムチカンより熱いかも知れない。それでも、ラオ達がいるルマ山中腹まで来ると気温は下がってきて、晴れていると本当に気持ちが良い。


「今日もいい天気だね。風があるから洗濯物もよく乾きそう。」

 休日の朝、アゲハがご機嫌に洗濯物を乾かしている。

「本当にいい天気だ。俺も早く洗濯物を干そうとするか。」

 ラオもアゲハの横に並び洗濯物を干し出した。その様子を見てアゲハがフフッと笑った。

「なんで笑うんだ?」

「なんだか不思議だなって。テムチカンでは考えられないでしょ?ラオがこんな風に洗濯物を干しているなんて。

 国に帰ると、もう二度とこんな日は来ないんでしょうね。今が本当に幸せ。この思い出とラオがいれば、私何にでもなれそうな気がする。」

 そう言って微笑むアゲハにドキドキした。でも、今日はなぜか素直にアゲハに微笑むことが出来た。

「俺もアゲハと一緒なら良い国を作れそうな気がする。ずっと隣でいて欲しい。」

「うん。」

 アゲハは少し恥ずかしそうに頷いてくれた。


 二人で洗濯物を干していると、シャクラムが声をかけて来た。

「今日は二人か?セキバはどうした?」

「リイシアのお父さんの具合が悪いって、手伝いに行きましたよ。」

 夏になってからリイシアの父親の体調が悪く、力仕事が出来ないと言うことでセキバが手伝いに行っている。

「急にどうしたんだろう。心配よね。」

 アゲハの表情が曇る。

「・・・これは聖地に生まれた者の宿命だからね・・・。」

 シャクラムが淋しそうにそう言った。

 どう言うことだろうとラオが疑問を口にする前に、シャクラムからお使い事を頼まれた。

「アリストが手伝ってくれないかって言って来たんだ。もうすぐ月祭りなのに準備が進まないって。悪いが月宮まで言ってくれないか?」

「俺たちに出来ることなんでしょうか?」

「ああ、月祭りには特別な飾り付けがあってね。それを手伝って欲しいらしい。」

「分かりました。行って来ます。」

 それなら自分たちにも出来そうだと、ラオは快く了解した。


 月宮に行くとアリストが待っていた。

「休みの日にすまないね。」

 アリストは、この島の最長老で学舎の校長を兼任している。最長老と言ってもまだ50歳になったばかりで年寄りには見えない。そう言えば、聖地の人でお年寄りの姿を見たことがない。ラオは昔から囁かれている、「肌の色と寿命を引き換えに知恵を選んだ。」と言う伝説を思い出し、あながち嘘でも無さそうだと考える。

 アリストは普段、妻のボーミエと月宮に暮らしている。いつもは柔和な表情なのだが、時々ドキリとするほど鋭い眼差しをすることがあり、怖く感じる時もある。シャクラム曰く人一倍厳しいが生徒達への愛情は誰よりも深いらしい。

 アリストの妻、ボーミエは大図書館の館長をしている。頻繁に図書館を利用するラオ達の良き相談相手であり、つまらないことでも一生懸命に聞いてくれるボーミエは、故郷から離れた留学生に母親のように慕われている。

 そんな二人は、夫婦揃って学生からだけではなく島の人間全てから尊敬されているようだ。

 

「月祭りには湖を囲むように香が炊かれるんだ。ルマ山の裏側にある薬草を使ってね。

 いつもなんとか大人達でやろうと思うんだけど、湖を香炉で囲むのは大変なんだ。結局、毎年学生達にお願いする事になる。」

 アリストはボヤきながらもそう説明してくれた。少し離れた場所にトルファも来ていた。さっそく近付き声をかける。

「トルファも来ていたんだ。」

「ああ、なんか大掛かりなんだな、月祭りって。」

 トルファは、集まった人数に驚いているようだった。

「なんでも、聖地を象徴するような祭りらしいからね。俺は今から楽しみで仕方ないよ。」

 ラオがそう笑うと、「俺も楽しみだ。こうやって手伝える事すら光栄に思えるな。」と返してきた。


 月宮の入り口には膨大な数の香炉が置かれていた。

 香炉自体は小さく、普段使うティーポットぐらいの大きさしか無い。香炉には脚が付いていて、大人の頭の高さぐらいある。持ってみると意外に軽く2、3本まとめて持てそうである。

「女達は香炉に干したこの薬草を入れていってくれ。それを男達で湖の周りに置いていくんだ。」

 アリストが全員に指示を出す。

「不思議な香りの薬草ね。」

 アゲハが香草の香りを確かめた。

「これは男草と女草を混ぜたものなの。ルマ山の裏にある薬草で、この島にしか生えないのよ。」

 ボーミエが教えてくれた。

「では、これが伝説の性別を決めるための薬草ですか。」

 実物を見るのは初めてだ。

「それだけじゃ無いのだけどね。いろいろ使える大切なものなのよ。こうやって合わせて焚くと独特な甘い香りがするの。月の女神への恋文だと言われているわ。」

 月には女神が住んでいると言う伝説は、南の大陸でも古くから信じられている話である。


 月には王が一人で住んでいて、ずっと一人だったので空ばかり見て過ごしていた。

 そこへ怪我をした女神が月の世界に流れ着いて来た。女神は遠い世界から逃れて来たと言った。王は哀れに思い、女神を看病する。やがて女神が元気になると、二人はとても仲良く暮らし始めた。

 しかし、暫くすると女神かとても悲しそうな顔をするようになる。王が心配して、「なぜそのように悲しそうな顔をするのか?」と、問いかけた。

「地上の世界に、私の恋人が落ちてしまった。もう会えないのかと思うと悲しい。」

 女神が泣きながらそう話す。

 王は、女神に恋人がいた事に驚き悲しんだ。しかし女神の悲しそうな顔を見ることの方が苦しかった。

「ならば、流れ星で地上に手紙を出そう。もしかしたら気づいてくれるかも知れない。」

 王はそう提案し、この世界に流れ星の手紙を送った。

 流れ星はルマ山の頂上に落ちて湖が出来た。

 やがて、夏の満月に湖が輝くようになった。それはまるで湖に月が舞い降りたような光景で、月からもよく見えた。

 女神は、年に一度だけ届くこの光に癒されて、月の王とこの世界を見守っていくことにした。


「子供の頃に聞いたことがあったのを思い出した。そうか、それが月祭りなんだ。」

 ラオは、ますます月祭りが楽しみになった。

「多分、聖地からの旅人達が世界中に広めた伝説だと思うわ。そう思うと、なんだか太古の旅人に感慨深いものを感じる。」

 まるで少女のように目を輝かせながらボーミエが言った。

 話を聞いていたトルファが、不思議そうな顔をしてボーミエに質問する。

「赤い龍の目の話はここには伝わっていないのですか?」

 赤い龍とは初めて聞く話である。

「なんだそれは?」

 逆にラオがトルファに質問した。

「天の北極に見える赤い星の事なの。北の大陸ではひどく恐れられているわ。」

 代わりにボーミエが教えてくれる。

「ああ、あの星か。それなら南の大陸でも見えますが、龍の眼とは初めて聞いた。確かに赤く不気味な星ではあるが、そんなに恐ろしい話は聞かないな。」

 ラオにはよく分からない。

「北の大陸では、天高く赤い龍の目が見えるんだよ。特に冬至あたりは昼でもうっすらと見えるんだ。伝説では、竜はこの世界を飲み込もうと狙っているって言われているんだ。だから、創造主に命じられた月の王が、龍の力が落ちる夏の満月に世界の守りを固めるために聖地へと降りてくるって言われているよ。それに月の女神じゃなくて、月の姫と北では言われている。南では女神になるんだね。」

 トルファが詳しく教えてくれた。北と南ではそんなに違うとは思わなかったし、もっと話を聞きたくなった。

「面白いな。今度詳しく教えてくれよ。」

 ラオがそう言うと、「構わないよ。俺も南大陸のことをもっと知りたいし。」とトルファが応えてくれた。


 香炉を並べる作業は思いのほか大変であった。香炉自体は重くは無いが数が多すぎる。果てしなく続くかと思われた作業は、結局夜まで続いた。

「もう少しだが、今日はもう遅い。続きは明日にしよう。お疲れさん。」

 アリストが、終了の合図を送る。

「もう少しなんで、大丈夫ですよ。」

 ラオがそう言ったが、アリストは首を横に振った。

「ありがたいが、もう遅い。君たちは明日も授業があるのだろう?明日大人達で終わらせておくから、安心して帰りなさい。」

 そう言われれば帰るしかない。ラオは名残惜しく感じたが、素直に従う事とした。



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