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暴君ラオ  作者: あーる
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聖地留学5

 


「・・・何で助け舟を出した?」

 トルファが少し睨むように言って来た。

「俺は、己の力でもない事で威嚇するような奴が嫌いなんだよ。」

 ラオも素直になれず、ややぶっきらぼうに答える。

「お前だって王太子という身分は自分の力ではないだろう?」

「だから俺はここに学びに来た。確かに王太子になったのは、父親が王だからそうなっただけだ。だからこそ、俺は国を治める知恵と力が欲しいんだ。俺の肩には何万人とも言える民の幸せが掛かっている。父上が大きくした国をさらに大きく、そしてしっかりと守れる強さを求めて俺はここに来た。」

 ラオは胸を張り、そして誇らしげにそう言った。

「なるほど・・・、お前もあの貴族の息子達と同じだと決めつけていたけど、違うのか。・・・どうも誤解していたようだな、悪かった。」

 素直に謝るトルファに少し戸惑いつつも、「気にしてないよ。アゲハやセキバはお前がいい奴だって言ってた。俺もお前のこと誤解していたみたいだ。」とトルファを許した。


 あの一件の後、トルファはラオ達と行動を共にする事が多くなった。少しぎこちなくはあるが、それでもだんだんと本音を言える仲になってきた。

 改めてトルファの人となりを見てみると、ラオと価値観が似ている事が分かってくる。そして、皮肉屋ではあるが、本来は純粋で真面目な性格だと感じた。皮肉を言うのは彼が幼い頃から、周りに安心できる大人が少ない中で育った為だと知った。実の親も三男のトルファにはあまり関心がなさそうだったとトルファが教えてくれた。

 トルファは親戚の力で聖地に来たものの、その親戚が亡くなってしまい帰ったらどうするのかと途方に暮れているとの事だった。

「もし良ければ、一緒にテムチカンへ来ないか?確かにテムチカンでも身分を傘にかけて好き放題しようとする者はいる。父上の機嫌をとって自分の思い通りにさせようとする輩も多い。俺はそれが許せないでいる。

 俺はいずれ大陸を統一したいと考えているのに、あいつらは目先の儲け話にしか興味はないんだ。民への扱いも酷いもんだ。民に不満が溜まると国として立ち行かなくなる。なぜそれが分からぬのかと。

 でも、今の俺には力も知恵もない。だからここで勉強をして、一緒に国を作ってくれる仲間を探そうと思っているんだ。

 確かに、最初は父上の命令でここに留学に来た。でも、ここに来て本当によかっったと思っている。まだ来たばかりだと言うのに、俺の理想が固まって来たんだ。

 トルファ、俺を手伝ってくれないか?」

 ラオは熱くトルファを誘う。最初こそは戸惑っていたトルファだが、だんだんラオの熱意に心動かされて来たようだ。


 ある日の授業の後、月宮の図書館で調べ物をして遅くなった事があった。

「すっかり遅くなってしまった。食事当番の時に遅くなるとヤバイから、気をつけないと・・・。」

 独り言を言いながら家路を急ぐ。

 玄関まで来ると、中から賑やかな笑い声が聞こえた。アゲハともう一人女の子の声のようだ。

(誰か来てるのかな?)

 ラオは不思議に思いながらも、玄関の扉を開ける。食堂まで行くとそこには見覚えのある少女がいた。薬学を習っているリイシアだった。

「リイシア、来てたんだ。」

「あっ。ラオおかえりなさい。」

 リイシアがニコリと笑い挨拶してきた。

「自分で栽培してる薬草がうまく育たなくて、シャクラム先生に相談に来てたの。でも、もうこんな時間かぁ。」

「早く帰らないと、お母さんが心配するわよ。」

 アゲハがそう言って微笑んだ。

 リイシアは聖地生まれで、自宅から学舎に通っている。

 背中の中ほどまで伸びた髪は明るい栗色で、ふわふわと柔らかそうなくせ毛である。垂れ目がちの大きな目をして、ニコニコ笑うその姿はいつも周りを和ませる。

「すっかり暗くなったからね。気をつけて帰りなさい。」

 シャクラムが優しく微笑み、リイシアを玄関まで見送った。


「ここに来るまで、聖地の人たちはただ肌が白いぐらいしか知らなかった。でも本当に色んな人がいる。性別を選ぶって感覚はここに来て初めて知ったよ。」

 リイシアを見送った後、ラオはポツリと呟いた。

「私に言わせれば、他の人の見た目が気になる方が不思議だけどね。血筋に関係なく色んな子供が生まれてくるこの土地柄のためか、ここでは個人の自由を尊重する文化が育ったのかもしれないね。」

 シャクラムも、地域の考え方の違いに興味を持っているようだ。


 聞いた所によると、聖地の子供は性別が不安定で産まれてくる事がほとんどらしい。だいたい3歳ぐらいまでに安定してくるらしいのだが、タクトスは最初から男の子として産まれたと言う。

 反対にシャクラムは、15歳を過ぎても性別が安定しなかったらしい。普通その場合は、島の特産である薬草で性別を固定する事が多いのだが、シャクラムのように性別をあえて決めない人間もいるようだ。本人の気持ちが最優先だと言うことで、周りの人間もそれを受け止めている。

「これだけ産まれ方にも違いがあるなら、他の人と比べても仕方ないと思う様になるのかもしれないな。」

 ラオは、なぜ聖地の人達が他の地域の人たちを躊躇いなく受け入れることが出来るのかが、分かった様な気がした。


 アゲハの夕食の準備を手伝っていると、セキバが帰ってきた。

「ただいま、良い匂いだな。外まで匂いがきていてお腹が空いちゃったよ。」

 帰るなり慌ただしいセキバに、アゲハが笑う。

「もう直ぐ食べられるわ。」

 今日のメニューは芋とベーコンのスープである。鍋の中身を見てセキバが喜んだ。

「やったあ!俺、これ好きなんだよ。」

「お前はなんでも大好物だって喜ぶじゃないか。お前がこんなに食いしん坊だなんて知らなかったよ。」

 ラオが呆れた様に笑う。

「俺、ここでの食事が合ってるのかもしれないな。それにみんなで話しながら食べるご飯ってやっぱり美味いんだよ。」

 それはラオも感じていた。宮中では食事一つとっても作法を気にして黙って食べていた。ここではいつも四人揃って、今日あった事などを話しながら賑やかに夕食を摂る。

「本当にみんなで食べるご飯は美味しいよな。」

 ラオもしみじみとそう答えた。


 シャクラムも含めみんなで夕食を食べる。今日の話題からさっきまでリイシアが来ていたと言う話になった。

「えーっ。俺も会いたかったな。」

 セキバが羨ましそうに言う。

「セキバは、リイシアの事が気になるのかね。」

 いつもは微笑みながら話を聞いているだけのシャクラムが、面白がっているのか興味深げに聞いてきた。途端にセキバの顔が赤くなる。

「気になるって言うか・・・、まあ、あの子可愛いよね。なんか、フワフワと軽やかで優しげで・・・。」 

 今まで、セキバのそう言うところを見たことが無かった。あまりに分かりやすいので、つい揶揄ってしまう。

「リンドウとは全然違うじゃないか。お前は誰から見ても孝行息子だから、てっきりリンドウみたいな子が好きなんだって思ってた。」

 セキバは頭を掻きながら、答える。

「そりゃ、母さんは世界で一番だと思ってるさ・・・でもさ、妻にしたら怖そうじゃん。だから、リイシアみたいな優しい感じの子がいいんだよ。」

 セキバの顔はもう真っ赤である。

「リイシアは本当に優しい子よね。私に対してもなんの蟠りも無くお友達になってくれる。わたしもリイシアのことが大好きよ。

 セキバ!私セキバとリイシアがうまく行くように応援する!リイシアに、セキバの事褒めておこうか?」

 アゲハが目をキラキラさせながらセキバに言った。セキバは慌てて手を振る。

「おいおい。止めてくれよ。そんな事されたら恥ずかしくて、リイシアの前でどうしたら良いのか分からなくなる。」

「セキバ、君は思っていたより純情なんだね。」

 シャクラムが珍しく声を上げて大笑いした。

 ラオとアゲハも吊られて大笑いする。セキバの頬が膨れる。

「悪かった。もう揶揄わないよ。黙ってお前のことを応援するさ。」

 ラオは、笑いながらセキバのことを宥めた。



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