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暴君ラオ  作者: あーる
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聖地留学4

 聖地に来て半月もすると、生活にも慣れて来てた。


 学舎は何箇所かあって、それぞれ別の教科を教えている。ラオ達もいくつかの学舎で政治哲学を始め地政学や経済学、それに軍事や農業など幅広く習っている。全ては自分の国を運営をする為の知識を得るためだ。アゲハは他にも薬学なども興味があるようだった。ここでは、学びたい事が自由に選ぶことが出来る。欲しい知識を思う存分吸収出来るこの環境は、本当に有り難いとラオは思っている。

「将来立派な王となりたいと思うのなら、幅広く知識を得てなるべく多くの人と議論すると良い。」

 シャクラムがそう助言してくれた。本当にそう思う。だから片っ端から授業を受けている。おかげでここに来てから本当に忙しい。


 当たり前の話なのだが、習う教科によって教師が変わる。専門的に研究している人間に聞いた方が、深い知識が得られるので、当然の事ではある。

 今まで勉強といえば、書物を読むかカワセミに教えてもらうかだったので、教科ごとの教師というのは新鮮に思った。

 これも当たり前なのだが、相性が合う先生と苦手な先生もいる事が少し驚きに感じるラオであった。


 ここに留学している学生は、北の大陸から来ている者がほとんどだ。彼らにとってラオは別に特別な存在ではなくて、同じ学生である。仲良く話せる奴もいれば、南大陸の人間に偏見を持つ者もいる。

 偏見を持っている奴は、何かとラオ達のことを馬鹿にしたような態度をとってくる。それを見て、南の大陸出身でラオの身分を知っている人間がオドオドとしているのが少し面白い。

 確かに、嫌味を言ってくる人間のことは腹が立つが、それもまた興味深いと思ってしまう。


 昼食が終わり、学舎の中庭にて3人は寛いでいた。

「王宮でどれだけ気を使われてたか、思い知らされた気がする。」

 そんな独り言が、つい口から溢れてしまう。セキバは笑うが、自分は孤独だったんだと思ってしまった。

「ここに来てから、何だかお前生き生きしてるよな。」とセキバは言う。

「ああ、いろんな人がいて本当に面白い。それだけでもここに来て勉強になっったと思えるよ。」

 ラオは素直にそう言った。

「アゲハは、ここでの生活は不自由はないか?」

 ラオの問いかけに、心から嬉しそうにアゲハは笑う。

「リンドウに文字を教えてもらうぐらいしか、勉強を習う機会がなかったから、今は本当に楽しいわ。知らないことを覚えて自分で考えて、毎日がワクワクするの。」

 素直に笑うアゲハにラオも微笑みで返すが、心配事もあった。

「でも、北の大陸の奴らがお前に嫌がらせしてるって聞いたぞ?」

 アゲハが踊り子出身で王太子に取り入ってここに来たと、嫌がらせを受けていると聞いた。

「そんな人には興味はないの。踊り子してた時もいろんな人に嫌な事をいっぱいされたし、そんなの慣れてる。いちいち気にして無いわ。

 それに・・・、ラジョ様の方がよっぽど怖かったもの。」

 アゲハはそう言ってコロコロと笑った。

 アゲハの過去は決して幸せだとは言えなかったのだろう。そして、その過去がアゲハを逞しい女に育て上げたのだ。アゲハは本当に強い女だと、ラオは思う。


 午後の授業の合図の鐘が鳴り響く。

「早く行かなきゃ、次は地政学の授業だし。」

 ラオが慌てたように立ち上がる。

「タクトス先生は厳しいからなあ。授業が面白いから好きなんだけどね、あの先生。」

 セキバもため息を吐きながら立ち上がる。

「父上よりも、気難しいのかも知れない」

 ラオがそうぼやくと、アゲハとセキバが大笑いした。

(ここは身分差が無くて、みんなが正直になれる。ほんとうにいい所だな。)

 そう思うと何だかおかしくなって来て、ラオも一緒に笑っった。


「王子様の御成りだな。」

 教室に入るなり、トルファが意地悪く絡んできた。トルファは北の大陸の出身で、下級貴族の三男だと聞いている。

 明るい茶色の巻毛を肩の辺りまで伸ばしている。北の大陸は太陽の光が弱いのか、聖地人ほどではないが肌が白い。頭から被るようにできている白いシャツと茶色のズボン、その上からやはり茶色の上着を着ている。北の大陸ではそれが普通の服装らしい。着物の前を合わせて帯を締めているラオ達とは、まるで服装が違う。

 北大陸では、貴族の相続は全て長男のものになるらしい。トルファも本来ならば出世は見込めず、せいぜい神官になるしか道はなかった。しかし子供の頃から頭が良かったので、親戚が聖地への留学生に推薦してくれてここに来た。しかしその親戚が死んでしまい後ろ盾を無くした。親からの援助も無く、ここでの生活も不安定になってしまった。今は聖地からの支援で勉強している。そう言う境遇を、親の力で留学してきた奴らに馬鹿にされ、色々嫌な事をされてきたらしい。

 その為か貴族というものに憎しみの感情があって、ラオに対しても王族と言うだけで初対面の時から馬鹿にして来た。相手にしないようにしてはいるが、しつこく言われると流石のラオも腹が立つ。

 おかげで二人で殴り合いの喧嘩をしてしまい、ここに来た早々教師達にずいぶん怒られた。


「話してみると、結構いいやつなんだけどな。お前ら性分は似ているような気がするけど、だから仲が悪いのかな?」

 セキバが笑う。

 ラオには嫌味を言ってくるが、セキバとアゲハに対しては慣れない事を色々教えてくれてたりとかなり親切にしてくれると言う。それを聞いて尚更腹立たしく思うラオであった。

「なんだか、ラオに対して対抗心があるようなのよね。ラオの身分に偏見を持っているか、卑屈になっているかって感じよね。きっと今まで悔しい思いをしてきたのだと思う。」

 アゲハがトルファの肩を持つような事を言うので、ラオはとうとう臍を曲げてしまった。それを見て、セキバが声を出して笑う。

「お前、アゲハのことになると目の色が変わるよね。これだけ一途な性格だとは思わなかった。

 トルファは北の大陸の奴らともあまり話をしてないよな。なんか一人でいることの方が多いみたいだし、なんかとっつきにくい所はあるよな。でも、南の大陸出身だというだけで、見下してくるような奴らよりよっぽどいい奴だよ。」

 セキバの言う通り、トルファはあまり馴れ合いを好まないように感じる。嫌味は言ってくるが、授業など必要に応じてちゃんと協力し合えている。あからさまにラオ達を見下して、無視を決め込むような奴らよりはいい奴なんだろう。

「腹を割って、話せる日が来るのかもしれないわよ。一度信頼関係を築けたら、決して裏切ることの無い良い仲間になってくれそうな気がする。」

 アゲハはずいぶんトルファを評価しているようだ。今のラオにはよく分からない。


「何を騒いでいる、」

 教師のタクトスが、不機嫌そうに教室へ入ってきた。シャクラムと同じような白いマントを着ている。聖地の人たちはみんな同じような服装をしている。肌が白い分、日光の光が苦手なのだそうで、直射日光を避けるための服装らしい。

 タクトスは聖地の人間にしては珍しく、背が高く全体的に筋肉質で胸板も厚い。茶色い髪を短く切り、無精髭を生やしたその顔は、まるで兵士の様な強面に見えた。

「今日からは、北の大陸と南の大陸の違いを教えていく。後でグループに分かれて議論してもらい、後日それぞれの意見を発表してもらうから、しっかり聞くように。」

 タクトスがぶっきらぼうな顔のまま、教団に立つ。


 どの教師でもそうなのだが、授業の後に議論し合うと言う時間が設けられる。そうすることでより一層知識が理解出来るのと、生徒達の相合理解にも役に立つとの事である。

 いくつかのグループに別れ議論がは始まる。今日はトルファが同じグループに入った。

「お前、南の奴らしか仲良くしてもらえないのかよ。頭が良いってだけで聖地に来ると友達も出来なくて気の毒だなぁ。」

 いやらしい笑い方で、北の名門貴族の息子か何かがトルファに絡んで来た。好きになれそうに無いので、名前は覚えていない。名門貴族の長男だと言う事ぐらいしか自慢出来ないのかと、呆れてしまうが北の大陸では大事な事らしい。

 トルファの方を覗き見たが、表情からは感情が読み取れない。それが面白く無いのか、肘でトルファを小突きながら、なおも嫌味を言ってくる。

 いくらトルファのことが気に入らなくても、この態度には流石に腹が立った。

「貴族か何か知らないけど、学生はみんな同じ立場だろう?」

 ラオは思わずトルファを庇ってしまった。

「お前こそ王太子か何か知らないが、所詮南の大陸の野蛮人だろ?北の大陸のことに口を出すな!」

 相手が顔を真っ赤にして怒鳴ってくる。相手が興奮するのと反対にラオは冷静になった。ゆっくりと静かに相手を言い聞かせるように話す。

「ここは聖地だ。ここで身分を持ち出しても意味は無い。それともお前は親の身分が無ければ何も出来ないのか?

 確かに南大陸は北とは違う。しかし文化が違うだけで、見たこともないのに野蛮人だと言うのは了見が狭いのでは無いか?何より、お前は自分の実力では何も無いじゃないか。確かに俺とトルファの仲は良くないが、こいつが努力していることは知っているし尊敬もしている。

 俺には、お前の方が負け犬に見える。自分のやるべき事を分かっていれば、人に嫌味を言う暇なんてないはずだろう?」

 相手はますます顔を赤くして怒り出し、ラオに掴み掛かろうとして来た。

「そこまでだ!」

 タクトスが掴み掛かろうとする手を掴んで言った。

「血の気が多すぎる連中が多くて困るな。

 今のはラオの方が正しい。ここで身分の差なぞ何の役にも立たない。それに固執するなら、お前はここで何も得られないぞ?」

 タクトスが少し憐れむような目をして、相手に言った。

 彼は、悔しそうな顔をして部屋から出て行ってしまった。




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