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暴君ラオ  作者: あーる
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ジームスカン王6

 オオナマズとクスノキが暫定政府の人事に奔走している間にも、ソテツとアカエイはジームスカン各地の町と村の解放に動いていた。

 二人は話し合い、セイムに逃れてきた兵士たちを中心に、アーギタスの兵も借りながら、傭兵の討伐軍を送っている。傭兵たちの拠点となっていたガルカットを落としたことが大きいのか、どの町も少数の傭兵しかおらず、順調に暫定政府の勢力は広まっていった。

「俺も何度か討伐軍に参加しましたが、兵士たちの顔が生き生きとしてますね。それが愛国心なのか、ソテツ殿への信頼の証なのかは分かりませんが、あまり強い印象な無かったジームスカン兵がとても頼もしく思えます。」

 クロヒョウが、ソテツが纏める兵士たちの事をそう評していた。

「足を無くしても決して諦めない、ソテツ殿への尊敬の念がそうさせているのかも知れないね。」

 ラオ自身、当初ジームスカン兵にそんなに期待は出来ないと思っていた。しかし、アカエイとソテツの親子を見ていると、自分の考えが間違っていたと素直に認めざるを得ない。

 実際、ソテツが立ち上がった時の感動は、ジームスカン軍の底力を見たようで、これでこの国は大丈夫なんだと本気で思ったものだった。


「ソテツ殿の作戦が順調すぎて、人事が間に合いませんな。」

 クスノキがうれしい悲鳴だと顔を綻ばす。

「あの親子がこちら側についている事に感謝せねばな。アカエイの家系は元々武官の家、先祖代々王家を守って来たのですよ。」

 オオナマズも、ソテツの采配に驚嘆しつつも嬉しそうである。

「俺は、ジームスカンは文化を大切にする国で戦争を好まないと思っていたけど、しっかり軍備を整えていたのだなぁ。」

 ラオがそう納得していると、「私も、タチバナ王は軍の事には無頓着だと思っていましたけどね。」とクスノキは笑った。

「ですからアカエイ殿を表向き引退させて、この町を防御の要にとお考えであった事に驚きを隠せませんでしたね。」

「王は優しい人だったからなぁ。儂もこの町の話を迎えの者から聞いて、我が王もなかなかやるもんだと本当に驚いた。」

 オオナマズがそう言って豪快に笑った。

「タチバナ王と言う方は、なかなか底の見えない豪胆なお人だったんだなぁ。俺も会いたかったよ。」

 タチバナが一度だけテムチカンを訪問した事があったらしいが、その時ラオは聖地に留学していて会う事は出来なかった。まだ父王ロジュンが健在の時である。

 その時何が話されたのかは知る由もないが、ジームスカンの文化に憧れていた父と楽しい時間を過ごした事だろうと、ラオは感慨に耽る。


 ソテツが陣頭指揮を取り初めて2ヶ月ほど経ったある日の事、ラオとハチドリが一緒に朝食を食べていると、クスノキが各地の支配状況を報告しに来た。

「暫定政府の支配地域が多くなり、王宮側に付いているはアンムの町ぐらいになりました。」

「うむ、思っていたより早く進んだな。」

 ハチドリが返事をする。

「これだけ早く進むとなると、流石に王宮にも動きが出来てそうだよな。間者を増やして、王宮の様子をもっと詳しく調べた方が良くないか?」

 ラオがそう提案すると、ハチドリが「僕もそう思いますね。」と答えた。

「食べ終わったら、ソテツを含めて会議をいたしましょう。クスノキ、みんなに伝えてくれ。」

 ハチドリがそう指示を出すと、「分かりました。」とクスノキは一礼して部屋を出ていった。


「最近、クスノキ殿の歩みが早くなっていないか?」

 立ち去るクスノキを見て、ラオは呟いた。

「殿下もお気づきでしたか。なんでもソテツに触発され、体を鍛え始めたらしいです。今まで知らなかったのですが、クスノキは結構な負けず嫌いなのかも知れませんね。」

 ハチドリがくすくす笑いながら、そう教えてくれた。

「へぇ、結構いい歳なのにソテツ殿に負けたく無いなんて、思っていた以上に根性があるのだな。」

 ラオは素直に感心する。

「その根性でイタチを説得して、会話もしやすくなっています。昔いじめられてあんなに恐ろしく感じたイタチですが、最近は奴が何を考えているのか分かる気がして来ました。」

 そう言うハチドリはなんだか嬉しそうだった。

「クスノキ殿は根性だけじゃなくて、根気もあるんだな。イタチとちゃんと話せる様になったのは、良い事なんじゃないか?」

「そうですね。今までお互いの事を知らな過ぎたのだと思いました。確かに今でもイタチの短慮さに腹が立つこともありますが、悪人では無いと思えます。人の善悪とは相対的な物なのかも知れませんね。」

「一概に決められる物では無いと言う事だな。」

 どんな悪事に見えても、それぞれ言い分がある。善悪とはそう単純に決められるものでは無いのだろう。しかし、社会を安定させるには善悪の基準が必要である。

「王が全てにおいて正しいとは限らない。だから国を安定させるために、しっかりとした議論で決められた法律が必要なのだな。

 王の独断で決めてばかりでは、国民に不満が残る。その不満が溜まると、いずれ国家を揺るがせかねない問題になるのだと、聖地で地政学を教えていたタクトス先生が言っていた。」

「聖地では本当にいろいろな事が学べるのですね。僕も一度訪問してみたかった。」

 ずっと聖地に憧れを持っていたハチドリは、少し羨ましそうにそう言った。

 

「こちらの支配地域も広がり、流石に王宮にも動きがあってもおかしく無いと思うのだが、どうだろう。」

 会議の席で、ハチドリは開口一番そう切り出した。

「話によるとクロヤノ族のワニガメは、もうジームスカンには興味が無いと聞きます。今王宮にいる傭兵どもは、ワニガメから梯子を外され後が無い。彼らが自暴自棄になると、ちと面倒でございますな。」」

 アーギタスからの報告を見て、クロヒョウがそう進言する。

「王都から逃げ出した兵士の話によると、傭兵どもはかなり荒れている様ですな。なんでも王宮から逃げ出そうとしたオコジョを捕まえて、バンブー共々軟禁態に置かれているとの噂が流れているとか。」

 ソテツが難しい顔で王宮の状態を報告して来た。

「今、兄は自由に動けていないと言うのですか?」

 ハチドリは驚いたような、それでいてどこか心配そうな複雑な表情を見せる。

「噂が本当なら、バンブー様の命は傭兵たちに握られていると言う事です。」

 クスノキも心配そうだ。


「傭兵どもに、兄の命を取られるのは朕の本意では無い。兄の命を奪うとすれば、それは国民たちの裁きと共に、朕がなさねばならぬ事だと思う。」

 ハチドリはしばらく考え込んだ後で、はっきりとそう言った。その目には覚悟の気持ちが伺える。クスノキは一瞬鎮痛な顔になるが、ハチドリの覚悟を受け入れた。

「バンブー様を裁くとすれば、それは国民と王であるハチドリ様以外あり得ないと言う事ですね。バンブー様が倒れる前に、正気を戻していただければ良いのですが、それも難しくなって来たのかも知れませんね。」

 そう悲しげに呟くクスノキに、ハチドリは優しく笑いかける。

「イタチがどこまで兄に寄り添ってくれるかによるのだと思う。奴は誰よりも兄のことを理解している。」

 イタチと話をするうちに、彼の中で兄への感情も変わって来ているのかも知れない。


「今、ほとんどの町が我々暫定政府に付くか中立を保つのかで、ハッキリと王宮側に付いている事が分かっているのは、町は王都の一番近くにあるアンムの町だけです。あそこは傭兵に取り入っているマムシが支配する町。王都の前にそこを落とせばもうこの戦は勝ったも同然と言えるでしょう。」

 ソテツがそうハチドリに進言してきた。

「王宮側の兵力はいかほどだと思う?」

 ハチドリが冷静に質問する。

「兵士の数だけで見れば五分と五分、ただ、兵士たちの士気が違う。気を付けなければいけないのは、自暴自棄になった傭兵たちが何をするのか分からない点ですね。」

「こちらとの兵数は変わらないのか。今、農民たちに徴兵出来るほど王宮に力がある様に思えないが、それでも1万は兵が残っている計算なんだな。」

 セイムに来る兵士たちがあまり多いので、ほとんどの兵がこちらに付いていると錯覚していたラオは、少し意外だと思った。その様子を見てソテツは苦笑いする。

「一概に兵士と言ってもそれぞれ事情がありますからね。それでも、一国の兵力の半分を取り込んだと言うことは、前代未聞のすごい事なんですよ。」

「そう言う物なのか。」

 ラオにはよく理解出来ていなかったが、それはすごい事らしい。そして、半数も取り込む事が出来たおかげで、これからも向こうの造反者が増えるだろうし、こちらも益々士気が上がると言う。

「では、この勢いでアンムを攻めるとしよう。10日で準備ができるか?」

 ハチドリがそう決断を下す。

「10日もあれば準備には充分、10日後の朝にでも出発出来るように致しましょう。」

 ソテツはそう言って杖を持ってゆっくりと立ち上がり、ハチドリに向かって敬礼した。


「では、この事をミミズク叔父にも伝えよう。王都まで一気に畳み込むのであれば、兵力増強も考えなければ。」

 ラオは、側にいたクロヒョウに手配するように命じた。

「アーギタスから、これ以上の援軍を頼むのは少し気が引けますが。」

 ハチドリは少し難色を示したが、「その方が国民の負担が減ると思うのだ。」とラオは言った。

「俺はタージルハンでも戦った事があるが、兵力に差をつける事はそれだけ戦が短くなる。戦いが短ければ短いほど国民の負担は減ると学んだ。ハチドリ王が遠慮してそう言っているのなら心配はいらない。早く王都を奪還出来れば、それは俺の為にもなる。叔父上もそれが分かっているから、貴方に協力を惜しまないのだよ。」

「ラオ殿下のおっしゃる通りですな。王都奪還に時間をかけるべきではない。」

 オオナマズにもそう言われ、ハチドリは納得する。

「なるほど、殿下と僕たちは一蓮托生という訳ですね。」

「そう言う事だな。」

 ラオはそう言ってニッコリと笑って見せた。


 





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