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暴君ラオ  作者: あーる
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ジームスカン王5

 数日後、アカウシとジョロウグモを始めとする、かつてジームスカン王宮で働いていた者たち十数名が、セイムの町に到着する。皆、オオナマズより年上にも関わらず、本当に元気そうである。聞けば、ジームスカンは長生きする者が殊の外多いらしい。


「お年寄りが長生きできる国と言うのは、豊かさの証なんです。早く元通りのジームスカンに戻したいものですな。」

 オオナマズがそう言って、力強く笑った。

「それこそが、父が憧れたジームスカンの本当の姿なのであろうな。」

 ラオが感心していると、ハチドリが少し驚いたように聞いて来る。

「テムチカンを大国に押し上げた功労者であるロジュン王が、小国である我が国に憧れていたのですか?」

「父上はいつも言ってたよ。『ジームスカンは確かに小国である。しかし国土の豊かさと文化の高さは南の大陸随一である。私は、北大陸全体をそう言う国々で埋めて行きたい。そうすれば、北の帝国にも負けない強く美しい国になるであろう。』と」

 ラオが父王の言葉を告げると、ハチドリは納得した様な顔になる。

「私は幼少期、テムチカンはいつも戦をしていると思っていました。なぜ同盟国には寛大でも、敵対国には容赦が無いのか不思議だったのですが、ロジュン王は自分の理想の為に戦っていたのですね。 殿下もロジュン王の意思を継いでいきたいとお考えですか?」

 ハチドリの質問に、ラオはふと考える。

 ロジュンは南大陸の天下統一を目指していた。父はその後、どうして行こうと考えたのだろう?そして、自分はその後どうすれば良いのだろう?

「俺は父上の意志を継いでいきたいと思っている。でも何が正解なのか、もっと父上と話をしておきたかったな。」

 ラオは急に淋しい気持ちにになる。

 ハチドリも同じく父親を亡くしている。彼は「そうですね。」と静かに頷いた。


 到着した一行が挨拶の為、ハチドリの執務室を訪れた。

「よくぞ参られた。朕に力を貸して貰えるとはとても有難い。其方らの参加に心から礼を言う。」

 ハチドリはニコニコと彼らを迎える。

「ハチドリ様の即位、誠におめでとうございます。」

 アカウシが代表してハチドリに祝福の言葉をかけ、深く頭を下げ臣下の礼をとった。他の者たちも続いて臣下の礼をとり、正式に暫定政府の一員として働く事になった。


 その夜、歓迎の宴がアカエイの屋敷で行われた。

「まだ暫定政府が出来たばかりと言うことで、何も大した事は出来ない。身内だけのささやかな宴ではございますが、どうぞ寛いで下さい。」

 アカエイが宴の前に挨拶する。

「心がこもったお持てなし、嬉しく思いますわ。アカエイ殿もお元気そうで、またお会い出来て本当に嬉しいです。」

 ジョロウグモがニッコリと微笑んだ。

「一緒に王宮で働いていた者たちに再会出来て、本当に喜ばしいですな。」

 ジョロウグモの言葉に続き、アカウシもニコニコ笑いながら再会を喜んだ。

 ジョロウグモは背が高く、やや痩せ型でスラリとした女性である。反対に、アカウシはやや小太りのいかにも好々爺と言った面持ちで、人の良さそうな顔で笑っている。

「何日かはここでゆっくりしてもらい、その後で赴任先の町へ案内する事にいたそう。今日は皆で楽しく飲もうではないか。」

 ハチドリはそう言って、皆を労った。

 

「ソテツ殿が生きておられて本当に良かった。死んだと言う噂を聞いた時は、もうこの国も終わりなのかと思いましたぞ。ソテツ殿がハチドリ王と共に、ジームスカンの為に立ち上がったと。それを聞いて、儂も最後の仕事として、ハチドリ王の力になりたいと馳せ参じた次第ですじゃ。」

 アカウシはソテツの顔を見て、感無量と言った様子でそう話した。

「お陰様で、こうして皆様の前に出る事が出来ました。足を無くした時はもう自分の人生も終わったのだと思いましたが、アーギタスの支援のおかげでまた歩ける日が来るかも知れないと、今は鍛錬の毎日でございます。」

 ソテツはそう言って明るく笑う。

「ソテツ殿は昔からそうやって努力してましたものね。天があなたにはまだまだ働いて貰いたいと、助けてくれたのでしょう。」

 ジョロウグモは、ソテツにはまだまだ役割があるのだと言う。ソテツは、その言葉を噛み締めるように頷いた。


「ハチドリ王がこんなに立派に御成になられて、私見違えましたわ。元々お優しい人でしたが、そこに逞しさが加わった。ジームスカンにまた良い王が生まれたことを嬉しく思います。」

 ジョロウグモは、ハチドリの成長を心から喜んでいるようだ。ハチドリは嬉しそうに頷き、まだまだこれから学ぶ事が多いと言った。

「僕は、まだまだ経験不足で間違える事も多い。オオナマズにもしょっ中怒られてる。ここにいる皆たちにもいろいろ教わりたいと思っているので、よろしく頼むよ。」

「ハチドリ王のその謙虚なお姿は、本当に好ましいと思います。かと言って人の意見を丸呑みにするのでは無く、しっかりとお自身でも吟味なさる。ちゃんと納得するまで何度も話し合う姿勢、その姿は我々に希望を与えてくれる。ジームスカンの未来を明るく照らしてくれるのです。」

 オオナマズが真面目な顔でそう言うと、照れ臭いのかハチドリの顔は真っ赤になった。

 

 和やかな宴の間、ラオは色んな話を聞くことが出来た。特に興味深かったのは、ジョロウグモの様に女性が政治の表舞台で活躍していた事である。

 テムチカンでも、身分の高い仕事をしている女性は沢山いる。しかしそれらは、後宮を取り仕切る女官であったり、神殿の巫女であったりと立場は限定的である。その事をジョロウグモに質問すると、「タチバナ王のお父上である先先代王が、そう言うお考えの方だったんですよ。」と笑いながら答えてくれた。

 ハチドリの祖父にも当たる先先代の王、名前をクロマツと言う。かなり風変わりだが、交渉術に長けたやり手の王だと言う話を、祖父のガジュマルに聞いた事がある。

「私はクロマツ王に見出され王宮にお仕えする事になったのです。『女だからと言って政治が分からない筈は無い。もし女の中に優秀な人物がいるのなら、勿体無いではないか。現に朕はジョロウグモを見つけることが出来た。』と王は私によく言ってくれました。私には何よりもありがたいお言葉でしたよ。

 しかし私が王宮を辞する頃には、女性を登用するような事は無くなってしまいましたけどねぇ。」

 ジョロウグモは懐かしむような少し淋しそうな、遠い目をしてそう答えてくれた。

「何故、女性の登用が無くなったのだ?」

 ラオは素朴に疑問を感じた。

「それだけ、ジームスカンには余裕が無くなったって事なのかも知れませんねぇ。」

 アカウシが右手で顎をさすりながらそう言った。


「国が余裕が無いと、女性の登用が出来ない物なのか?」

 ラオの質問は続く。ラオ自身、能力があれば性別は関係無いのではと思っている。

「ラオ殿下の身近には、シンジュ殿やオニキス夫人と言った、前線で働く女性がいるからそう思うのではないですか?」

 ハチドリが指摘する様に、大軍を率いて戦を仕掛けるような女傑であるシンジュや、アーギタスの医療現場を一手に統率しているオニキス、それに、マーマタンで衛生兵を組織しているアゲハなど、ラオの周りの女性たちは皆とても勇ましい。

「それでも、政治の最前線で仕事をするような女性はテムチカンにはいなかった。俺は先のクロマツ王の考え方に感銘を受けたよ。だからこそ、余裕が無いと言う理由で女性の登用が無くなったのが残念だと思う。」

 ジョロウグモが優しく微笑みラオの意見を聞いている。

「私も、自分を抜擢して頂いたクロマツ王にはいくら感謝をしても足りませんわ。しかし、その当時も周囲は女性の登用を反対する人が多かったのです。」

「王が決めた事に反対したのか?」

「それはジームスカンを始めとする、南大陸の文化に反すると思われたのですね。」

 ジョロウグモはあくまでも穏やかに説明する。


「男性が外で働き、女性が家庭を守る。確かに女性と言うものは子供を産みますので、それが合理的だと言えます。それに異を唱えるつもりはありません。昔から男女お互いに感謝しながら家庭は回って来ました。

 今でも小さな村は、そう言う家庭が集まってお互い協力しながら暮らしています。ほとんどの地域において、女性は家庭を守る事が美徳だと考えられているのです。ですから、クロマツ王や殿下のような考え方と言うのは、なかなか受け入れられないのが現状ですね。

 クロマツ王が統治していた時代、我ジームスカンは何も憂いのない本当に平和で豊かな国でした。だからこそ、王は女性を登用すると言う考えを実行出来たのです。その時代がもっと長く続いていれば、あるいは当たり前の時代が来たのかも知れませんがね。」

 ジョロウグモの顔は少し寂しそうに映った。

「確かに、女は子供を産みそれを育て、男はそれを外で働きながら守る。それが自然だと言う考えも間違っていない。しかし、それは外で働く方が偉いという意味では無いよな。」

 ラオがそう言うと、「勿論でございます。」とジョロウグモは答える。

「しかし悲しいことに、外で働く者が社会を動かすのです。ただの役割分担だったはずが、立場に違いが出来てしまい。社会を動かすのは男性にしか出来ないと言う風潮が生まれるのです。

 クロマツ王の母君は、とても聡明な方だったらしいです。幼くして王となられたクロマツ王の補佐として、国の内政だけではなく外交においても見事な手腕で国を治められていました。その姿を見ていたクロマツ様にとって、優秀な女性を登用するのはごく自然な事だったと聞いています。」

 本当にジョロウグモの話が興味深い。もっと彼女の話を聞きたいと本気で思う。ラオがそう言うと、「光栄ですわ。」とジョロウグモは微笑んだ。


 しばらくして、それぞれの赴任先へと彼らは旅立って行く。

 ラオとジョロウグモは、この後も手紙のやり取りをすることを約束した。そしてその交流は、ジョロウグモが亡くなるまで続く事になる。


 

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