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暴君ラオ  作者: あーる
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ジームスカン王4

 オオナマズが来てからというもの、暫定政府の取り組みが一層加速した。自分にも他人にも厳しいオオナマズは、ラオやハチドリにも遠慮無しに意見してくる。


「元気すぎて人間離れしているとイナホが言っていたけど、その意味が分かるな。」

 ラオは苦笑いを浮かべてハチドリにそう言った。

「オオナマズは、僕が子供の頃から本当に厳しかったんですよ。」

 眉毛を下げた情けない顔でハチドリが応える。

「でもなぁ。言っていることは筋が通っているし、俺らの考え方の覚束ない所ををしっかり正してくれるのは、ありがたいと思うべきなんだよなぁ。」

 ラオは、口喧しく意見してくるオオナマズのことは嫌いじゃない。寧ろ、この暫定政府をどう運営するべきか、一番分かっているのだろうと、本当に頼りにしている。それは同じ気持ちだと、ハチドリも同意する。

「でも、子供の頃から怒られてばっかりで、ちょっと怖いんですよね。」

 そうぼやくハチドリの姿に、ラオは思わず笑ってしまった。


 会議の中で、皆で地図を凝視しながら次に開放するべく町を吟味する。

「王よ。貴方様が各地のことを詳細に調べていたのは知っていましたが、その情報は本当に役に立ちますな。」

 オオナマズがハチドリをそう褒める。

「オオナマズから褒められるとなんだか照れ臭いよ。王宮の中には、王都が無事ならそれで良いと考えるものが多かったからね。他の地域が蔑ろにされている事が気になっていたんだ。」

 ハチドリは、全国の状況を把握することの大事さを、訴えた。

「タチバナ王も良くそう言っておられましたな。バンブーにはそれが理解出来なかった。奴は元々悪人では無かっただろうが、視野が狭すぎた。そう言うところをあのオコジョに漬け込まれたのでしょうな。」

 オオナマズは渋い顔で、バンブーのことを嘆いた。


「僕は最近、クスノキと一緒にイタチの元へと通っているんだ。もう聞いているとは思うが、兄はオコジョから蜂蜜酒なるものを飲まされ、今はもう廃人のように腑抜けになっている可能性が高い。あの乱暴で疑り深い兄が、いとも容易くオコジョの言うがままになった事が、未だに信じられないんだ。」

 ハチドリは、自分の気持ちを正直に吐露する。

 オオナマズはラオにも分かる様に、バンブーの幼少期とオコジョが現れた時の事を話してくれた。

「バンブーも幼少の頃は、わんぱくでも弱い者いじめを許さない様な、正義感の強い子供だったのです。しかし、解決方法はいつも力尽くでした。勇気と暴力を履き違えてしまったのですな。タチバナ王は、話し合いで解決することをいつも言い聞かせておりましたが、どうしてもそれが理解出来なかったのです。

 その暴力性で、周りのものから疎まれ始めたことも感じており、ますます暴れる事になる。本当に悪循環でした。

 そんなおり、歌も踊りも天下一品の有名な芸人だと言って、ヤシガニがオコジョを連れて来ました。奴は最初、タチバナ王に召し抱えられる様にと画策した様ですが、タチバナ王は知っての通りの堅物で、オコジョには全く興味は示しませんでした。

 その様子を見ていたバンブーが、『ならば俺が貰っていく。』と彼女を自分の屋敷へと連れ帰ったのです。確かに美しく艶やかな娘でしたからな、バンブーが気に入るのも仕方なかったのかも知れん。」

 オオナマズは、まるで出来の悪い息子のことを嘆いている様に見えた。

「オコジョという女は、人を良い気にさせる術に長けている。バンブーの様な単純な者を操るなど、簡単な事だっただろうな。」

 そこまで言って、オオナマズは大きな溜息をついた。

 

「私はバンブー様の幼少の頃、彼の世話役をしていた時期がありました。確かにわんぱくではありましたが、決して聞き分けが悪い訳ではありませんでした。私が小言を言う事がありましても、素直にごめんなさいと言える子供だったのです。

 しかし成長するにあたって、将来の王としての立ち振る舞いを人々から求められる様になり、その重圧に負けてしまったのでは無いかと思っております。」

 だから、クスノキはバンブーを諦め切れないのかと、ラオは納得する。しかし重圧に打ち勝つ事は、王者になるには大事な事である。ラオ自身幼少期から、将来の王として父を始め周りの者から厳しく育てられたし、それが当たり前だと思っていた。

 ラオがそう言うと、「ロジュン王はしっかりと教育されて来たのですね。」とオオナマズが言った。

「タチバナ王は、為政者としては本当に立派な方です。しかし子供達には少し甘いところがあったのは事実です。」

 ハチドリが、思い当たる事があるのか首を竦めた。

「確かに、父は僕にも甘かった。だからと言う訳では無いが、アーギタスに辿り着くまでの僕は、目も当てられない程臆病だった。カントから聖地へと逃げる事しか考えられなかったもの。」


「そこで逃げる事なく、よくぞジームスカンへ戻られましたな。」

 オオナマズは、ハチドリの変容に興味がある様だった。

「カントの町で、ラオ殿下の配下の人と会ったんだ。」

「カジキの事だな。」 

 ラオの言葉にハチドリは頷く。カジキは同じ隠密仲間のカサゴと一緒に、逃げてきたハチドリを匿いアーギタスまで送り届けてくれた。

「彼らから、ラオ殿下がジームスカンの為に動いてくれていると聞いた。確かにそれは、テムチカン奪還に必要な事だった。それでも王子の僕が逃げようとしているのに、他国の王太子が祖国の為に戦おうとしている。それを聞いて、僕は自分の不甲斐なさが情けなくなったんだ。

 ガルナンが今からでも間に合うって励ましてくれて、恐怖感が無くなった訳では無かったけど、アーギタスに行って殿下に会いたいって思ったんだ。」

 ハチドリはラオに向き直り、ニッコリと微笑む。

「アーギタスに行って本当に良かった。殿下に会って僕は勇気と言うものを覚えた。義兄弟にまでして頂いて、本当に殿下には感謝しているんですよ。」

 ハチドリにまっすぐに見つめられ、そんな風に言われたらラオは照れ臭くてしょうがない。

「ハハハッ。お二人の友情が固い絆で結ばれているのがよく分かりますな。ジームスカンとテムチカンの未来の為、末長くその友情が続く事を願います。」 

 オオナマズは楽しそうにそう言って、二人の友情を祝福してくれた。


 オオナマズとクスノキの白熱した議論が連日続く。二人とも色々乗り越え来た、いわば文官の猛者であり、側から聞いていると喧嘩でもしているのかと言うぐらい凄まじいものがあった。

「儂は、粗削りのままでも暫定政府を仕上げるのが先だと思う。王都奪還の後から、じっくりと政府を安定させても遅くは無い。形が出来ればどうにかなる物だ。それよりも急いで体制を作り上げるのが先決だ。」

 オオナマズがそう言うと、クスノキも負けずに「粗削りでは困ります。」と反論する。

「粗削りのまま支配地域の人選を行うと言うのは、先に遺恨を残しかねない。少々時間が掛かろうとも、最初からしっかりと政府を作り上げる方が安全に国家運営が出来ると思うのです。」

 どちらの言い分も尤もで、ハチドリが右往左往しているのが少し気の毒でもある。


「もう少し意見を合わせられないものか?」

 ラオも心配して、ヒツジグモたちにそう洩らしてしまうが、彼らにはそれが健全なやりとりに見えているようだ。

「あんなに本音で言い合える議論はなかなか無いですよ。」

 アカホシがそう言って笑う。

「喧嘩してる様にしか見えないんだよ。」

 ラオにはとても健全には見えない。

「僕は圧倒されて、何も口を挟めないんですよねぇ。」

 ハチドリも情けなさそうに、苦笑いした。

「そうですね。まあ、ハチドリ王はまだまだ経験不足なのは否めませんな。」

 ハチドリの様子に、ヒツジグモは笑った。

「しかし、彼らは別に仲が悪い訳では無いでしょう。この国を愛しているからこそ、激しい議論になるのです。大丈夫ですよ。彼らはちゃんと落とし所を知っている筈ですから。」

 ヒツジグモはそう呑気そうに言って、ハチドリを励ました。


「儂の古い仕事仲間の何人かが、解放した町の面倒を見てくれそうだ。」

 ある日の会議で、オオナマズがそう言ってきた。

「アカウシ殿とジョロウグモ夫人名前がある。もうかなりのご高齢だとは思いますが、確かに彼らなら、どこに行っても安心して町の再建を任せられそうです。」

 オオナマズの差し出した名簿に目を通し、クスノキも興奮している。

「彼らはどう言う人たちなのだ?」

 ラオが質問する。

「僕がまだ小さい時に、ジームスカンの大臣として父の補佐をしていた々です。みなさん、お元気そうで良かった。」

 オオナマズの代わりにハチドリが説明する。

「この人たちは、清廉潔白でタチバナ王の信頼が厚かった人たちですな。年齢を理由に引退されていたが、ジームスカンの危機とあって力を貸してくれると言うことです。本当に有難い。」

 オオナマズがハチドリの後を受けて、詳しく説明してくれた。

「そんなに頼りになる方々に力になっていただけるとは、本当に喜ばしいことなのだな。」

 話を聞き、ラオもなんだか嬉しくなってきた。

「年齢も年齢なので、そんなに無理はさせられませんが、本当にありがたい事です。」

 頼もしい味方の出現に、ハチドリもなんだかホッとした様だった。

「では早速迎えを行かせましょう。儂も久しぶりに彼らの名前を聞いて元気が出ますな。」

 アカエイはそう言って、早速迎えに行かせる者たちを送り出した。





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