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暴君ラオ  作者: あーる
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ジームスカン王3

 各地に散らばる文官たちの情報が多く届く様になると、ハチドリとクスノキは大忙しで書簡を送り、彼らのとの繋ぎを取ろうと動いた。

 その中で、クスノキを喜ばせる人物の情報が入る。


「ジームスカンの最北の村アーべに、オオナマズ殿が隠遁生活をしている事が分かりました。」

 セイムに来た兵士からの情報に、クスノキが目を輝かせる。

「どう言う人物なのだ?」

 喜ぶクスノキの様子に、ラオは興味を持つ。

「ある意味伝説の人物ですよ。頼もしい人なんですが、厳しくて皆から恐れられていました。でも誰よりこの国のことを憂いていた。」

 ハチドリがそう説明してくれた。それにしても伝説とはどう言うことなんだと、ラオの興味はさらに大きくなる。

「彼は怖い物知らずと言いますか、タチバナ王やジームスカンを訪れた他国の賓客にも遠慮なく意見出来る人でした。でもその根底にあったのは、絶対的な愛国心と正義感だと思います。

 ロジュン様亡き後、テムチカンからの無理な要求にも一人で突っぱねた。ただ、その後テムチカンからの武力を使った脅迫に、タチバナ王は屈指してしまった。オオナマズ殿は一人反対したのですが、王の、「戦争になったら勝ち目がない。」と言う説得に負け、王宮を後にしていたのです。

 私は密かに行方を探していたのですが、まさかアーベに居ただなんて。」

 クスノキは感慨深そうにそう言った。

「しかし、オオナマズは力になってくれるだろうか?とんでもない頑固者だぞ?」

 ハチドリはオオナマズの事が苦手なのか、繋ぎを取る事に消極的に見えた。ラオがそのことを指摘すると、ハチドリはなんとも情けない顔をした。

「苦手と言うか、ちょっと怖いですよね。父でさえ叱りつける事が出来る、凄い人なんですよ。でも、まあ・・・、全ての事に筋が通っているから、怒られても仕方ないんですがね。」

 ハチドリは苦笑いでそう言った。

「私は若い頃からオオナマズ殿の下で働いておりました。確かに厳しい人ではありますが、とても人情に熱い人ですよ。それにハチドリ王が新しく建てる政権を安定させるには、絶対必要な人だと思うのです。」

 クスノキはそう熱く語った。

「そんなすごい御仁なら、是非にでも会ってみたいものだな。」

 ラオは興味深くそう言った。

「殿下なら、すぐに打ち解けるかもしれませんね。僕も会いたいのに嘘はないですけど、どうも彼の情熱についていけないところがある。」

 ハチドリは頭を掻きながらそう言った。


 早速アーべに使者を送る事とした。

「私に迎えに行かせて下さい。」

 一人の警備兵が名乗りをあげる。彼はイナホと名乗った。ニキビの痕と赤い頬が印象的な若者である。ラオとはあまり歳が違わない様に見えた。

「何故其方が名乗りを上げたのだ?」

 まだ経験も浅い若者が危険な任務に立候補する事に違和感があると、ハチドリが問いただす。

「私の父が、オオナマズ殿に大変世話になったのです。彼が居なければ、私の父は生きてなかったでしょう。その御恩のなる方を、是非私が迎えにいきたいのです。」

 イナホは直立不動の姿勢でそう言った。

「イナホの父親は、バンブー付きの警備兵で後宮の警備にも当たっておりました。それがどう言うことか、バンブー様お気に入りのオコジョに恨まれましてな。有る事無い事バンブーに吹き込み、無実の罪で処刑されそうになったのです。それをオオナマズ殿が必死に止め、儂がこの町に連れてきたと言うことがあったのです。」

 アカエイが事情を教えてくれた。

「気持ちは分かったが、お前はどうも経験不足で心配だよな。」

 事情が分かっても、ハチドリは彼を送り出す事に躊躇する。


「俺も一緒にいきましょうか?」

 話を聞いていたニシカゼが、突然そんなことを言い出した。

「あなたは、殿下の護衛では無いですか。殿下を差し置いて、そんなこと頼めませんよ。」

「俺は別に構わんよ。と言うか、ニシカゼが一緒なら安心だし。」

 慌てて止めようとするハチドリを遮り、ラオはニシカゼの同行に賛成した。

「しかし、お前からそんな事言う出すなんてな。どういう風の吹き回しだ?」

 ニシカゼは軍事においては天才的な働きをする。しかしそれは、ラオの助けになる事に於いてのみであり、それ即ち元々の主君であるミカヅキの命令に忠実なのである。それが、まだ若く実力不足の兵士を助けたいと言ったことが意外であった。

「俺は向こう見ずなヤツは嫌いじゃ無いんですよ。彼は、父の受けた恩に報う事を期待してこの任務に手を挙げた。自分の力を過信しているとも思えますが、それでも彼の情熱は本物だと思います。たまには、そんな無茶な事に付き合うのも悪くはない。」

 ニシカゼはそう言ってニヤリと笑った。

「なんだか、ニシカゼらしいな。」

 ラオは思わず吹き出した。

「ハチドリ王、俺はニシカゼに任せても良いと思う。ニシカゼなら、オオナマズ殿を無事にセイムまで連れ帰って来れるだろう。」

「殿下がそこまで仰られるのでしたら・・・。」

 ハチドリは渋々と言った感じではあったが、イナホとニシカゼをアーべに送る事に同意した。


 二人はアーべへと旅立ち、10日ほどでオオナマズを伴いセイムへと戻って来た。

「随分早かったんだな?」

 ハチドリは驚いたように、オオナマズ到着の知らせを聞いた。

 

 町役場に急遽造られたハチドリの政務室にオオナマズが訪れる。初めて会うオオナマズはもう70歳を超えていると聞いていたが、背筋はしゃんと伸び矍鑠としている。声にも張りがありよく通る。

「此度は、暫定政府を立ち上げ王に即位なされたと、まずはハチドリ王に祝福の言葉を述べさせて頂きます。」

 部屋に入るなりオオナマズは、そう言って頭を深く下げた。そして、ラオの方を向き直り、「テムチカンの王太子、ラオ様でございますな。」と眼光鋭く見つめてきた。

 ラオはその眼力に少したじろぎながらも、しっかりと相手の目を見て頷いた。

「いかにも、先のテムチカン王ロジュンの息子にて王太子、タージルハンの王代理でもある。ハチドリ王とは義兄弟の契りを結び、共にジームスカンとテムチカンの奪還を目指し戦おうと誓った。」

 ラオの言葉に、オオナマズの表情が崩れ「ガハハハ」と豪快に笑い出した。ラオとハチドリが驚いていると、オオナマズは楽しそうに話だす。

「若い王と王太子がこの様に勇ましくなさっておられると言うのは、本当に気持ちが良いものでございますな。このまま隠居してしまおうと思っておりましたが、儂にもまだ出来る事があると仰られるのですかな?」

「立ち上げたばかりのこの暫定政府だが、朕は将来もしっかり考えて運営出来るようにしたいのだ。それが、元の豊かで平和なジームスカンに戻せる近道だと思っている。父王の下で其方がどれほど力になって来たのか、朕はしっかり見ていたつもりだ。だからこそ、其方の手を借りたい。」

 オオナマズはしっかりと頷き臣下の礼をとった。

「もちろんそのつもりでここに来ました。この老耄がどこまで出来るかは分かりませんが、命の限り尽くして行こうと思っております。」

 オオナマズの言葉にハチドリはホッと胸を撫で下ろしたように、「ありがとう。助かるよ。」と笑った。


 オオナマズとの面会を終え、ラオは町役場を出る。

「全く、あの人たちが同じ人間なのが信じられないよ。」

 入り口近くで話す声が聞こえた。見ると、オオナマズを迎えに行ったイナホが門番相手に愚痴を言っている。イナホは顔中傷だらけで、なんだか酷く疲れている様に見えた。

「誰が人間じゃ無いみたいなんだ?」

 思わずラオは会話に入る。

 イナホはしまったと言う様な顔をして、「いや・・・、あの・・・、」としどろもどろである。

「別に怒らないから言ってみろよ。」

 イナホの反応が面白く、つい揶揄いたくなる。

 イナホは少しバツが悪そうに話し始める。

「ニシカゼ様とアーベに向かったのは良いのですが、ニシカゼ様とは体力の差がありすぎて・・・、僕は必死で付いて行ったんですけど、普通なら10日ほどかかる行程がたったの5日ですよ。途中、王宮軍らしき者にも狙われて、僕は肝を冷やしたんですが、彼は顔色一つ変えずに敵を倒していきました。」

「ニシカゼがいて良かったな。彼ほどの手だれが一緒だと安心だ。」

 ラオは笑いながら、イナホの話を聞く。

「そりゃ、安全は確保されていましたけど、なるべく自分の身は自分で守れって言われました。恥ずかしながら、僕は実戦の経験がなかったので、随分怖い思いをしました。

 あっという間にアーベに着いて、ちょっとぐらい休めるのかと思ったら、今度はオオナマズ殿にお尻を叩かれる感じで、蜻蛉返りでセイムに戻って来たんです。」

 イナホは情けない顔で続ける。

「それでもオオナマズ様はお年寄りだから、もう少しゆっくり進めるのかとも思ったのですが、オオナマズ様は、ニシカゼ様より元気なぐらいで、行きよりも早く、4日で帰って来ました。あの人たちの体力に、僕は付いて行くだけで本当に必死だったんです。」

 旅の辛さを思い出したのか、最後は半泣きになって来た。ラオは、その情けない顔に思わず声を出して笑ってしまった。

「笑うなんて、ひどいじゃ無いですか。」

 イナホが恨めしく言ってくる。

「すまんすまん。だけど、お前はそれで随分鍛えられた様じゃ無いか。アーベに旅立つ前とは顔つきが違う。なかなか頼もしく見えるぞ。」

 ラオはそう言ってイナホの肩を叩いた。

「・・・!そうか、僕はニシカゼ様に鍛えられたんだ!確かに、大概の事には負けないような自信が付きました。ニシカゼ様とオオナマズ様にお礼を言わなくては。」

 イナホはそう言ってラオをに敬礼をし、そのままどこかに走り去って行った。

「単純なやつだなぁ。」

 さっきまでイナホの愚痴に付き合っていた門番が、呆れたように言うのを聞いて、ラオは大笑いした。

 





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