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暴君ラオ  作者: あーる
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ジームスカンとの戦い16


 毎日議論を繰り返していたある日、タンガの村からクスノキが乗る船が見えたとの知らせが来た。

「帰って来た船の他にも、アーギタスの紋章が入った帆を掲げた船が2隻一緒にやって来ました。」

 知らせに来た兵士の目に希望の光が見える。まだ何も詳しい事は話しては居ないが、連日の議論の事を知っているので、これから何が始まるのかと期待が膨らんでいるのだろう。

 そう言えば、元々賑やかなこの町も一層活気がみなぎっている様に見える。みんなジームスカンの行く末に不安があったのが、希望が見えて来た様だ。


 ラオたちは急いでタンガの村へ降り、船が近付いて来るのを見守った。やがて、3隻の船がゆっくりと港に入って来る。


「クスノキ、待っていたぞ!」

 船から降りて来ようとするクスノキを待ちきれないとばかりに、ハチドリが駆け寄る。

「ハチドリ様、少し会わないうちに何とも逞しい顔つきになられましたね。」

 クスノキは早くもハチドリの変化に気付いた様だ。

「戦いもあったし、民たちの話も聞いた。僕はどれだけ甘えていたのかと思い知らされたよ。でも、僕は決心した。クスノキ、来て早々悪いが話を聞いてくれるか?」

 今までに無く熱く語るハチドリに少し驚いた様だが、クスノキはしっかりと頷いた。

 

 クスノキは出迎えた人たちを嬉しそうに見渡し、その中にアカエイの姿を確認して破顔した。

「クスノキ殿!久しぶりだ!また会える日が来るとは嬉しい限りだぞ!」

 アカエイがクスノキの手を取りながら、再会を喜んだ。

「アカエイ殿!本当に久しぶりです。私もあなたに会って、ソテツ殿のことを詫びたかった。私を逃すために彼は・・・。しかし彼は生きていた!こんなに嬉しい事はありません!私がこの国に帰ってこれたのは、ソテツ殿のおかげです。」

「この後すぐにでも息子に会ってやってくれ。ヤツもクスノキ殿が帰る日を待ち侘びていたのだから」

 クスノキは嬉しそうに何度も頷いた。


 クスノキは船を降りたその足で、早速ソテツの療養する家へと向かった。

「ソテツ殿!本当に生きておられたとは・・・。自身の危険を顧みず、私を助けてくれた。あなたは本当に命の恩人です。」

 ソテツの顔を見るなり、クスノキの目からは涙が溢れた。

「クスノキ殿も、よくご無事で。あなたが無事でアーギタスに辿り着いたおかげで、こうして支援を受けられ、ハチドリ様の王都奪還に向けて軍を出していただけた。私があなたの恩人なら、あなたはジームスカンの恩人です。」

 ソテツはそう言って豪快に笑った。


 二人の邂逅に感動したのか、ハチドリが感極まった様に熱く語る。

「ソテツ、クスノキ、二人の功績は計り知れない。僕は本当に臆病で、逃げることしか考えられなかったのだ。それなのに、こんな僕を見捨てずにジームスカン奪還を助けてくれる。いや、二人だけでは無く、僕を義兄弟と認めてくれたラオ殿下をはじめ、アーギタス人々やマーマタンの方々、ここを拠点とすることを許してくれたアカエイやセイムの住民。僕はどんなに恵まれているんだろう。

 僕は、そんな人たちの期待に応えたい。もう逃げる事はやめて、正々堂々と兄バンブーに立ち向かうことにする。そこで、僕はジームスカン王を名乗り、セイムの町に暫定政府を立ち上げる事を誓う。」

 クスノキは最初驚いたようにハチドリを見ていたが、やがて涙で顔をグシャグシャにしながら喜んだ。

「ハチドリ様、よく御決心なされました。このクスノキ、ハチドリ様の助けとなる様に全力で邁進する次第でございます。」

 クスノキはハチドリに正式に臣下の礼を取った。杖を壁に立てかけ、ややふらつきながらの不恰好な礼ではあったが、ラオにはどんなものよりも誇りに満ちた、美しいものに思えた。


 事前に準備が進んでいたこともあって、今すぐにでも暫定政府の立ち上げが可能だとクスノキは判断した。

「バンブー様を恐れて、王都から逃げ出した者たちも何人か知っています。彼らを呼び出してこちらの基盤を固めましょう。ハチドリ様には明日にでも王の名乗りをあげて頂きたい。

 ここにはテムチカンのラオ殿下や、マーマタンの使者の方々もおられます。ラオ殿下におきましてはタージルハン王代理でもいらっしゃる。例え、今はテムチカンを追われる身だとしても、私どもの暫定政府を承認して頂けるには申し分が無い。」

 クスノキは急かせるようにハチドリを説得する。

「俺も、早いほうが良いと思う。ハチドリ殿がジームスカン王を名乗れば、俺の立場の安定するし、お互いの同盟を強硬にする為にも、お願いしたい。」

 ラオも一生懸命に訴えた。

 ハチドリはニッコリと微笑んだ。そして深く頷きながら、「では、明日の正午に町の者たちを集めましょう。」とハッキリと言い切った。

 ハチドリの顔にはもう迷いは無かった。


 次の日の昼近く、町中の人々が続々と広場に集まって来た。

「ついに王宮との戦いになるのか?ハチドリ様はどういうお立場に立っていこうとしているのか?」

 町の人たちは一体これから何が起こるのかと、期待と不安を一緒に抱えた様な表情で噂しあっている。

 広場に野営を貼っていたアーギタスの兵たちも人々の中に混じり、ハチドリが下すであろう決断を見届けようと遠巻きに演説が始まるのを見守っている。

 

 正午ピッタリに、ドラが威勢良く鳴らされた。

 ハチドリはラオと並んで広場に入ってきた。すぐ後ろにはクスノキとアカエイが続く。

「クスノキ様だ!本当に彼が戻って来たんだ!」

 町民の一人がそう叫び、皆が一斉に拍手を送る。

 そして、最後尾からマーマタンの3人が広場に入ってくると、人々は緊張した面持ちで、演説台に注目しながらこれから何が行われるのかと話し合った。

「静粛に!」

 アカエイの言葉に民衆たちは、固唾を飲み込み静かになった。そしてハチドリの方へと視線を集中させる。


 ハチドリは一度聴衆を見渡し、大きく息を吸って大声を張り上げた。

「朕はこれより、ジームスカン王としてここに暫定政府を立ち上げる事を宣言する!」

 一瞬の間が空き、広場に怒涛のような歓声が起こった。

「ハチドリ王万歳!」

「我々の王の誕生だ!!」

 民衆が口々に喜びの声を上げる。

「私は、ハチドリ殿の勇気ある決断を支持する。今は故郷を追われる身だが必ずテムチカンを奪還し、ジームスカンと永遠の友情をここに誓う!」

 続けてラオがジームスカンとの同盟強化を表明をすると、大きな拍手と共に皆がハチドリとラオの名を連呼して、二人の決意を喜んだ。


 クスノキが、民衆の歓声が落ち着いた頃を見計らって壇上に上がり、高らかハチドリの即位を宣言した。

「これより、ハチドリ様の王即位を宣言する。まだ王宮奪還の途中であり、簡易的なものではあるが、テムチカンのラオ殿下及びアーギタスのクロヒョウ殿、そしてマーマタンからのお三方の承認により、ハチドリ様をジームスカンの王とする。」

 クスノキの言葉に応える様に、ラオとハチドリは硬く握手を交わす。

 続いて、ヒツジグモがマーマタン族長の書簡を持って、ハチドリに恭しく礼をする。

「これは、マーマタン族長よりジームスカン王への友情を示す書簡です。ここにアケボノ様の印章があるのでご確認を。この書簡の引き渡しを持って、我がマーマタンは正式にジームスカンと同盟を結ぶ事と致します。」

「これは本来、父であるタチバナ王に渡すべきものと聞いております。父亡き今、私がしっかりと父の意思を受け継ぎ、マーマタンとの末永い友情をお約束いたします。」

 ハチドリはヒツジグモとも硬い握手を交わし、正式に同盟を結ぶ事に同意した。

「ハチドリ殿・・・、いやハチドリ王、立派な即位式だよ。」

 ラオは感極まったかの様にハチドリに話しかけ、そして集まる民衆に向けて熱い思いをぶつけた。

「私は、ハチドリ王と義兄弟になれたことを本当に誇りに思う。テムチカン奪還を成し遂げた暁には、我々の友情はより強固なものとなるであろう。

 私はジームスカンの民たちも、自国の民と同じ様に大事に思う。まだ戦は続くだろうけど、今は我慢して欲しい。私とハチドリ王とで、其方たちの幸せの為に命をかけて頑張ることをここに誓う。」

「これにて、朕はジームスカン王となる。この事を国の内外に広めよ!そして、一刻も早く兄であるバンブーからこの国を取り戻す為、皆の協力を頼む。」

 ハチドリはそう言って民衆に向かい拳を挙げた。

「ハチドリ王万歳!」

 皆が一斉に忠誠を誓った、ハチドリは嬉しそうに、民衆に向かい手を振る。




「私も側で見てみたかったですわ。」

 メノウはそう言って、微笑んだ。

 昼過ぎの庭、王都の騒ぎはここまで届かない。

 もうすぐ、東海将軍ハヤブサが建てたトウチカンの軍隊が押し寄せて来ると、テムチカンの王都は大混乱である。

「逃げたい住民はそのまま逃がしてやれ。」

 ラオはそれだけを命じて、そのまま王宮の中で最後のひと時を楽しんでいる。


「あの時のハチドリは本当に立派だったよ。」

 懐かしい気持ちで、不覚にも涙が出そうである。

「竹馬の友のセキバ殿と言い、殿下には本当に信頼できるお友達がいたのですね。」

「全て、手放してしまったがな。」

 メノウの言葉に、自虐的な表情でラオは答えた。

「私が残ったではありませんか。」

 メノウはイタズラっぽく笑う。

「ああ、お前が居てくれて、俺は本当に救われたよ。」

 宮殿の外の喧騒が気にならない筈は無いであろうに、あくまで明るく振る舞うメノウが愛おしい。


「それで、暫定政府はどうやって王宮を奪還できたのですか?」

 メノウは話の続きを聞きたがる。

「そうだな、やはりクスノキの働きは大きなものだったよ。」

 ラオは話の続きを静かに語り出す。







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