ジームスカンとの戦い15
出発してから3日目の午後、ハチドリたちが帰って来た。。ハチドリの顔つきが出発した時と明らかに違う。何か思い詰めたような、それでいて覚悟を決めたような、緊張と決意がその表情に表れてた。
「ガルカットで何かあったのか?」
その変わり様に驚き、ラオは思わず聞いてしまう。
「はい、ガルカットの人々の話をしっかり聞くうちに、僕はもう逃げられないと悟りました。」
ハチドリが静かにそう言うと疲れたと、早々に自分のテントへと戻って行った。
「いったい何があったのだ?」
ハチドリの変わり様に動揺しつつ、ガルナンへ詰め寄る。
「民衆の王家への不信感は思った以上に深かったのです。彼らは残った傭兵たちの公開処刑を望みました。そして、ハチドリ様の連れてきた者たちより、アーギタス軍の方がはるかにマシだとも訴えました。民衆にとっては、ハチドリ様だろうがバンブーだろうが変わらないと言う事でした。
ハチドリ様は、民衆に土下座までしてバンブーの暴挙を詫びたのです。王子だと言う誇りをかなぐり捨ててまで、民衆に詫びたのです。」
ガルナンはそこまで言って、目から流れる涙を拭った。
「そんなことが・・・。」
ラオは絶句した。ガルナンは続ける。
「それでも根気よく、住民たちとの話し合いは続けられました。そして、残りの傭兵たちはとりあえず連れて帰る事と、ハチドリ様がいち早く王に即位をし、バンブーを打ち倒すこと。ただし、その戦いに国民を巻き込まない事などを誓い、住民たちからの猶予が貰えました。それでも先の全滅した村の事もあり、民の信頼を戻すのは並大抵なことでは無さそうです。」
ガルナンは溜息混じりに話してくれた。
「ハチドリ殿にとっては屈辱的だとも言えるな。」
ラオは心からハチドリに同情した。しかしガルナンは、ハチドリの強さも話してくれた。
「帰り道のハチドリ様は、確かに悔しさで涙ぐんでいました。それでも、より一層の覚悟は決まった様です。
『僕は王を名乗る事をもう恐れない。ガルナン時間が無い!クスノキが帰る前に出来るだけ暫定政府の仕組みを整えよう。そして、各地に散らばっているであろう、僕に付いてくれる者たちを大急ぎで集めていくことにしよう。今までの様な甘えは許されない。』
ハチドリ様は帰り道、しっかり前を向きながらその様に仰られていましたよ。」
今の状況から逃げないと、ハチドリはキッパリそう言ったのだ。ラオは自分の立場と重ね合わせて考える。
(自分の覚悟とは何だろう。)
自分の寝床に帰った後、ラオは一人で自問する。
ガルカットから帰ってからのハチドリは、人が変わったかの様に毎日アカエイ、ガルナンとの議論に明け暮れた。暫定政府を立ち上げた後どの様に国を建て直して行くのか、時にはラオやヒツジグモ、アカホシも議論に加わり、クスノキが到着する前に出来るだけの案を出して行こうと言う事だ。
「テムチカンの俺や、マーマタンの者たちを参加させても良いものなのか?」
最初は戸惑っていたラオではあるが、アカエイからの、「テムチカンは大陸北部の中心になる国です。」と言われた。
「クロヤノ族がすんなり我らの懐に潜り込んだのは、我々がバラバラの状態だったからです。無事ジームスカンを復活させたとしても、我々が一丸とならねばワニガメはまた我らにちょっかいを出す事でしょう。殿下がテムチカンを取り戻した時、クロヤノ族率いる南部の部族たちと戦うことは避けられ無いと、殿下も思っておられるのでしょう?
思えばタージルハンのクワガタ殿が、殿下にタージルハン王にと要請したのも、この事があるからだと思われます。もしかしてクワガタ殿は殿下に、北部を統一して欲しいと望んで居るのでは無いでしょうか。それは亡きロジュン様の悲願だとも聞いております。確かに、我々が属国になる事には今は反対でございますが、強固な連合体制を敷いて行くことは大事だと思っております。」
アカエイは年齢を感じさせない力強さでそう訴えてきた。確かに亡き父王は、皆の平和の為には北の大陸の様な統一国家が必要だといつも言っていた。
ラオは改めて考える。
(果たして、自分に大陸を統一する力が本当にあるものなのか?)
ラオはそこまで考え、左右に首を大きく振った。そして、出来るのかでは無くやらねばならぬのだと、改めて決意した。
「もう、俺にそんな力があるのかだなんて考えるのは止そうとその時思ったんだ。俺は天下を統一する!そう信じなければ、俺はこの先立ち行かなくなるであろうとな。」
これは後日、ラオがその時の決心をミミズクに語った言葉である。
話し合いを進めていく内に分かったことだが、アカエイは軍事面において絶対的な知識があるが、国の運営についてはあまり明るくは無い。ただ情熱的な人柄と、人を見る目が正しく優秀な人材を育てる力があると言うことだ。
「私の力でこの町が上手く行った訳ではありません。駐在する兵たちは自分で選びましたが、町の運営についてはタチバナ王が、役立つ人材を集めてくれました。当時彼らはまだ若く、情熱に燃えておりました。それぞれ得意な分野にて町の発展に尽くしてくれ、儂も彼らからたくさんのことを学びましたな。彼らは今ではこの町の重鎮として経済面からこの町を守ってくれています。」
「それは意外だな。タンガの村への運搬の仕組みなど、アカエイ殿が考えたのでしょう?軍事面だけだなんて謙遜しなくても。」
アカエイの言葉にラオは驚く。
「あれは、軍の大掛かりな武器を搬送する仕組みを取り入れただけの事。そんなに驚くような知恵でもありませんよ。」
アカエイはそう笑った。
「アカエイの凄いところは、皆を動かすその影響力なんだと思う。そこについてはラオ殿下にも通じるところがありますね。僕は王家の人間だから皆が一目置いてくれるけど、そんなに人に影響力は無いですもの。いつか僕にも威厳と言うものが備わって来るのかは、今でも不安でしょうがない。」
ハチドリはそう言って自虐的に笑う。
「何も力だけが王の価値を決めるものでもありますまい。ハチドリ様は何よりも、冷静に判断出来る知恵がある。戦乱の今は、その力を発揮するのは難しいですが、ジームスカンを取り戻し、平和になった時にはハチドリ様のような王が必要となるのです。」
アカエイは真剣な顔で、ハチドリにそう言った。
「早くそうなるといいね。」
愚痴を言った事を恥じたのか、ハチドリは頭をかきながら呟いた。
会議ではまず最初に、ジームスカンの中にどれだけこちらの味方になる者がいるのか、彼らとどう繋ぎを取るべきかと議論になった。
「まずは、協力してくれる者たちがどれだけ居るか分からなければ話にならない。」
ハチドリが腕を組み、唸る様にそう言った。
「王都からいち早く逃げ出した者たちが、各地に散らばっていると聞きます。」
「叔父上が各地においた間者たちからも、そんな話を聞いているな。」
アカエイの言葉にラオが反応する。
「問題は王宮に見つからないように繋ぎを取る方法だな。思っているより監視の目が行き届いている様だし、今回ガルカットを落としたことで、王都側も一層監視を強めて来ることは間違いない。」
ハチドリがそう言って頭を抱える。
「監視しているのは、傭兵だけでは無いと思われますな。ジームスカン軍も全軍上げての監視をしている事でしょう。彼らを取り込んでいくことができれば・・・、アカエイ殿から繋ぎを取れそうな者たちはいませんか?」
政治を司る文官たちを集める前に、軍部を切り崩せないかとヒツジグモが提案する。
「確かにその方が話は早そうだ。文官たちを集めるのは、クスノキ殿が帰ってから考える方が、いい知恵が生まれる気もしますな。」
アカエイはそう言って腕をくんだ。しばしの沈黙の後、「ソテツが繋ぎを取る方向でいきましょうか。息子が生きていることを各地に知らしめるのです。」と提案してきた。
ラオはアカエイの意見に驚く。
「そんな事をして良いのか?ソテツ殿やこの町が狙われる事になる!」
ラオが思わずそう叫ぶと、アカエイは「何を今更。」と笑った。
「殿下、もうすぐハチドリ様が王の名乗りをあげようとしているのですよ。なら息子の存在を知らしめる事に問題はないでしょう。いや、我が息子は父親の儂から見ても、ジームスカン兵たちから人望があります。ジームスカンの力を切り崩すには、これが一番効果的だと思いますよ。
それに、儂が知恵を絞って作ったこの町の防衛網は、我ながらよく出来ています。王宮からの攻撃が今すぐ来たとしても、容易く落ちるような町ではありません。」
アカエイはそう言って、はははっと大きな声で笑った。
「何とも頼もしい言葉じゃ無いですか。ねぇ殿下。」
ヒツジグモは何だか楽しそうにそう言った。
ラオはアカエイの豪胆な提案に、事を動かす力とはどういう物なのか分かったような気がした。
「クスノキが来るまではそれで行こう。集まった兵からも各地に行った文官たちの行方を聞けるかもしれないし。」
ハチドリがひとつ問題の見通しが付いたと、顔を綻ばせる。
「ソテツ殿には、司令官の役目をしてもらうのが良さそうですな。いくらアーギタスの助けがあると言っても、自国の軍が前面に立たねば、国民の信頼も取り戻せない。」
ヒツジグモが言うと、アカエイが大きく頷き、「その通りでございますな。」と笑った。




