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暴君ラオ  作者: あーる
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ジームスカンとの戦い14

 ガルカットに兵たちをを残し、ラオとヒツジグモの二人だけで急いでセイムの街へ戻る。

「こんな事なら、ハチドリ様をお連れするべきでしたね。」

 ヒツジグモは少しぼやく様にそう言った。

「荒事になると分かってたからなぁ。ハチドリ殿には、あんまりそう言うものを見せたくは無かったんだ。」

 少し情けない顔つきでラオは言い訳をする。

「ハチドリ様にも、殿下の様な覚悟がいずれは必要なのかも知れませんがねぇ。」

 ヒツジグモは苦笑いでそう返した。


 ガルカットの傭兵を倒した後、町の住民たちの興奮は大変なものであった。住民たちは、このままラオがガルカットを統治するのだと思ったらしい。

「俺はハチドリ殿の要請で、あやつらを退治しに来ただけで・・・。」

 住民たちの熱意に、さすがのラオもしどろもどろになる。傭兵を倒すことしか考えていなかったので、交渉に優れたアカホシをセイムに残したのが悔やまれる。

「町長もあいつらに殺されて、町を収める者も居なくなった、俺たちはどうしろと言うのです。それにこのまま帰られて、また傭兵が来たらと思うと不安で仕方ない!」

 口々に訴える住民たちの言い分も尤もである。警護に兵士を残すつもりであったが、馴染みのないアーギタス兵の事をどれだけ信用して良いのかも、決めかねているようだ。

「皆の言い分は分かった。しかし俺は他国の人間で、其方たちの事については何も権限はない。急ぎセイムへ戻り、ハチドリ殿の意向を聞いてくる。その間兵士たちは警備の為に置いておくので、戻るまで待っていて欲しい。」

 ラオは頭を下げながら、やっとのことで納得してもらい、クロヒョウたちに後の事を頼み急いでセイムの町へと戻る事にした。


 とりあえず町長の屋敷に一泊して、早朝からヒツジグモと二人馬を走らせセイムへ戻る。

 午後には町に着いたが、こんなに早く戻るとは思っていなかったであろう見張の門番が、驚いたようにラオを出迎える。

「もうお帰りなのですか?他の人たちはいない様ですが?何か大変な事でもあったのですか?」

 門番が慌てた様に聞いてくる。

「ガルカットの傭兵どもの事は解決した。しかし訳あって他の者たちはガルカットに残して来たんだ。早急にアカエイ殿とハチドリ殿とで相談したいことがある。急いでそれを伝えに行ってくれ。俺はこのままハチドリ殿の所へ行く。彼は今何処に居るのかな?」

 焦るラオの様子に驚いたのか、門番は慌てて代わりの者を呼びに行き、そのままアカエイの屋敷へと走って行った。

「ハチドリ様は広場にいるはずですよ。」

 代わりに来た門番がニコリと笑い、ハチドリの居場所を教えてくれた。

「ありがとう。ではこのまま広場へ行く。」

 ラオはそう言うと、広場へと向かった。


 広場に着くと、ハチドリとガルナンが他の兵士たちと談笑しているところだった。

「殿下?早いお帰りで!もうガルカットは方がついたんですか?」

 ラオに気付いたハチドリが素っ頓狂な声をあげて驚いている。

「それにしては慌てている様子ですが?何か不都合なことでもありましたか?」

 ガルナンが心配そうに聞いてきた。

「傭兵たちは一人残らず成敗出来た。ガルカットの安全はひとまず大丈夫だ。」

「それではなぜ?」

 ハチドリが訝しげに聞く。

 

 何から話そうと思案している所に、急いで来たのか顔を赤くしたアカエイがやって来た。

「殿下。どうしたと言うのです。」

 少し息を切らしながらアカエイが聞いてきた。

「実は・・・。」

 ラオは、ガルカットの民衆の不安について伝えた。

「ガルカットの町長は殺されていたのですか。会った事は無かったですが、町を纏めるには少し優しすぎるのだとタチバナ王がおっしゃっておりましたな。」

 話を聞いたアカエイは、少し戸惑った仕草をして考え込んだ。

「それでも町の人たちからはかなり信用されていた様だな。導き手が亡くなったと皆が不安がっていた。彼らで町の代表を決めさせるのも手かと思ったが、それは俺の決めることでは無い。だから、大急ぎで帰って来たと言う訳だ。

 ガルカットでは、町長の他にも町の役人たちが根こそぎ殺されたらしい。傭兵たちが居なくなり、余計に混乱している様に見えた。奴らにゴマを擦って良い思いをしていた奴らに対しての恨みもあって、いつ暴動が起きてもおかしく無い。クロヒョウとニシカゼに治安の維持を頼んできたが、それもいつまで持つかだな。」

 ラオがガルカットの状況を詳しく説明する。

「アカエイ殿、誰かガルカットへ派遣出来る様な人物はいませんか?」

 ヒツジグモの質問に、「とりあえず儂の部下を派遣するしか無いが、一時凌ぎにしかならんかな。」とアカエイも腕を組み考え込んだ。

「確かに、それで彼らの不安が無くなるとは思えないな。それにガルカットだけでなく、これから他の町を解放した後、同じ様なことが起きるのではないか?もっと根本的に考えないと。」

 ラオがそう訴えると、アカエイは大きく頷いた。

「ハチドリ様、ラオ殿下の仰る通りでございます。まだまだ気持ちの整理もつかない事だとは思いますが、ご覚悟の程を!」

「覚悟とはどう言う事だ?」

 ハチドリの問いに、アカエイが力を込めて進言した。

「ここに、ハチドリ様を王とした暫定政府を立ち上げると言う事です。」

 ゴクリとハチドリが唾を飲み込む音が聞こえた。目には明らかに動揺の色が見える。いや、いつか覚悟を決めなければいけない事ぐらいは分かっていたはずだ。だけど、不安が大きくそれを自分の口からは言えなかったのだろう。

「王を名乗るのは、今だと言うのか?」

 力無く呟くハチドリに、「そうです。」とアカエイはキッパリと告げた。

 

 かなり長い時間、ハチドリは目を瞑り微動だにしなかった。

 しばらく苦しげな顔をして考え込んだと思ったら、「すまない、後10日程でクスノキがここに到着するのを待って欲しい。急に言われても、僕の気持ちの整理がつかない。ただ、ガルカットの件は急がなければなるまい。・・・。」と言って、ハチドリはまた考え始める。

 ラオはハチドリの発言が臆病に感じて少し失望した。確かにハチドリの性格では、行く行く王位に着くと分かっていても、なかなか決断する勇気を持てないのだろう。しかし、それを乗り越えなければいけないのでは無いか。

 ラオはモヤモヤとした気持ちで、ハチドリを見守る。しばらくしてハチドリはまた口を開き始めた。


「とりあえず、僕がガルカットへ向かおう。アカエイ、何人かの兵士と行政の心得のある者を貸して欲しい。今はその者たちに管理させようと思う。アカエイの言う通りその場しのぎにしかならないが、それでも僕はクスノキの到着を待ちたい。

 彼はああ見えて百戦錬磨の弁論家だ。政治に関しては誰よりも頼りになる。それに、彼は国民からの信頼も厚い。そのクスノキを待たずに準備も無いままで暫定政府を作っても、国民の支持を受けるとは思えない。

 クスノキやアカエイたちの力を借り、行く行くは国の基礎となる様にしっかり準備をしたい。それに王を名乗るには、国中に衝撃を走らせるぐらいに派手な方が良いと思うんだ。」

 そう言うハチドリの顔からは、不安の色は消えていた。アカエイの顔にも笑顔が戻る。

「なるほど、しっかりと準備をしてから王を名乗りたいと言うわけですな。」 

「その準備は電光石火の勢いで急がなければならぬがな。」

 ハチドリはアカエイをしっかりと見据えてそう言った。

「ハチドリ殿!すごいよ。冷静にそこまで考えられるなんて。俺なんかは勢いに任せて突き進もうとしてしまうから、反省しなけりゃいけないな。」

 ラオは心から感動し、ハチドリを臆病だと思った事を反省した。

「殿下の勢いのある行動に、僕はいつも感動してますよ。」

 ハチドリは照れ臭そうに笑いそう言った。


 次の日の朝、ハチドリとガルナンはセイムから派遣される者たちを伴ってガルカットへと向かった。ハチドリが帰ってくる間、ラオは気が気でなかった。広場をウロウロするラオを見かねて、ヒツジグモが苦笑いする。

「この国はハチドリ様の収めるべき土地。心配なのは分かりますが、ハチドリ様は自分のやるべき事をしっかり分かってますよ。もっと信じて待っていて下さい。」

「そんな事は分かっているよ。でも、心配なんだからしょうがないだろ?」

 ラオは頭を描きつつ言い訳する。ヒツジグモの言う事は尤もなのである。分かっているが、やはり気持ちが落ち着かない。

 そんなラオの姿を他所に、アカエイはずいぶん落ち着いている様に見えた。

「殿下は本当の弟のように思っていらっしゃるのですな。でも、ハチドリ様にはこれからしっかりして戴かなくてはいけない。此度の事ぐらい簡単に納めてもらわないと困りますからな。今は頼りなく見えても、あの方ならきっと大丈夫ですよ。」

 アカエイはハチドリに大きく期待しているのだと、笑った。


 夕飯の後、ラオはヒツジグモのテントを訪れ、話を聞いて貰う。

「ハチドリ殿は立派に決断したけど、俺はまだまだ中途半端だよな。」

 溜息をつきながらそう話すラオを、ヒツジグモは不思議そうに見つめる。

「ガルカットで、傭兵の男の心臓を貫いた時は驚きましたな。あれだけが殿下の覚悟の現れではなかったのですか?」

 ヒツジグモはラオが男を剣で貫いた時、驚きで何も言葉が出なかったと言う。後で、ラオの心境を聞いてこんな覚悟の決め方もあるのだと、やっぱり驚いたと言った。

「あれは、いくら大義名分があろうとも人殺しには違いないって、自分に言い聞かせたかったのさ。俺が言う覚悟は、国を治めるという事への躊躇いをしっかり断ち切らなければと言うことだ。

 思えば、タージルハン王の即位を引き伸ばしたのも、俺の覚悟が足りて無かったのかも知れないと思ってね。」

 ラオはそう言って溜息をついた。

「人にはそれぞれ頃合いと言うものがあります。殿下はまだその時では無いということではないですか?言ってはなんだが、殿下の肩に乗っている責任はハチドリ様より遥かに大きい。それでは時間が掛かるのも仕方ない事。焦っても良い事はありませんよ。」

 ヒツジグモはそう言って笑ってくれた。 

 

 

 



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