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暴君ラオ  作者: あーる
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ジームスカンとの戦い13

「行くぞ!」

 ラオは、掛け声と共に目の前にいた男に切り込んだ。男はラオの剣を躱しそのまま剣を突き出してくる。それを払いのけ、男に向かいまた剣を振る。

 初めこそヘラヘラと笑っていた男の顔に余裕が無くなって来た。構わず何度も何度も剣を振る。そして、とうとう相手の剣を叩き落とした。カーンと甲高い音がして、相手が一瞬立ち止まる。その隙を逃さず、ラオは剣で脚を切りつけた。

男は、「ギャー!」と叫び、そのまま蹲ってしまった。

 後ろを振り返ると、ニシカゼが敵の腹部を突き刺して倒しているのが見えた。敵は断末魔の声と共に動かなくなる。

「ニシカゼは容赦がないな。」

 ラオは苦笑いして、次の敵へと襲いかかった。


 何人かの傭兵たちを戦闘不能に叩きのめし、少し息が切れる。周りを見ると、敵は全て片付いた様だった。

「流石に傭兵に来るだけあって、剣の腕は確かだな。」

 ラオが苦笑いする。

「予想以上でしたね。無法者だと油断していました。こ奴ら、しっかり剣術の訓練をしている。」

 ニシカゼはそう言いながらも顔色ひとつ変わらない。誰よりも激しく敵と剣を交えていたと思ったが、何事も無かった様に飄々としている。根本的に鍛え方が違うのだとラオは感心する。


 外の騒ぎを聞きつけたのか、屋敷の中から残りの傭兵たちが出て来た。彼らは自分の仲間が倒れていることに少し驚いた様だが、ラオたちの姿を見て睨んできた。

「これはどう言うことだ?お前たちは誰だ?」

 一番最後に現れた男が凄むようにこちらを見て来た。多分彼がこの傭兵たちのまとめ役なのだろう。明らかに他の者たちより落ち着いている。


「俺はテムチカンの王太子ラオである。義兄弟のハチドリ殿の要請でお前たちを成敗しに来た!」

 ラオが名乗りをあげる。

「それを言うなら、我々はジームスカンの王代理バンブー殿の命によりここを管理している。ハチドリはこの国を逃げた裏切り者ぞ?どちらに大義があるかは明らかだろう。」

 男は鼻で笑い、静かに恫喝する。

「近隣の村々を襲い、略奪だけでは収まらず村人の命を奪っておいて何を言う。それがバンブーの命と言うのか?そんな王など民は望まぬ!いや、そもそも即位もまだだったな。そんな中途半端奴に雇われているお前らも、相当情けないな。」

 ラオも負けじと、わざと相手を怒らせるように笑ってやった。

「何を!言わせておけば!」

 男の左横に居た頭の悪そうな傭兵が吠える。男はその傭兵を左手で制し、「怒鳴るな!」と一括した。

「しかし・・・。」

 傭兵は悔しそうにこちらを睨む。

「あんたが言うのも尤もだ。確かにバンブーは王の器では無いよな。ああ言ったものの、俺たちも別にバンブーの命で動いていない。」

 まとめ役が不敵に笑う。

「大方、クロヤノ族のワニガメの命令で、大陸の北部を引っ掻き回せとでも言われたのだろう。」

 ラオがそう指摘すると、まとめ役は少し表情を変える。

「へぇ、よく分かったな。テムチカンのラオ殿下の噂は聞いてるぜ。本当に気が強いんだな。」

 そう言った後、今度はニシカゼの方を見て、「あんたはミカヅキのところのニシカゼだな。」と溜息混じりに言った。

「おい!ここは俺らに分が悪い。剣を下ろせ!」

 まとめ役はそう言って、もう戦う意思がないと自分の剣を下ろした。


 まとめ役の男は今までとは打って変わり、言葉遣いも変え下手に出てきた。

「ラオ殿下、何も俺たちはハチドリ殿がバンブーを倒し王になってもらう事に反対している訳では無いんですよ。」

「バンブーを裏切っても構わないとでも?そもそも、お前たちはクロヤノ族族長のワニガメの指示に従っていると言ったでは無いか。」

 ラオには相手の意思が分からない。

「まあ、そりゃそうですよ。しかし、俺たちはもともとクロヤノ族では無い。我らの部族はクロヤノ族に滅ぼされたのでさぁ。言うことを聞かなければ殺される。だから、本当はやりたく無かったのだけど、バンブーを唆し略奪の限りを尽くして国民ごと滅ぼして来いと言われた訳で。殿下が我々を保護してくれるのなら、何もワニガメに従う謂れなど無いと言うことですわな。」

「我らと取引をしたいと言うことか?」

 クドクドと言い訳じみた話を聞き、ニシカゼが面倒くさそうに口を挟む。

「まあ俺らを逃がしてくれれば、そちらが聞きたい話もいろいろあるだろうってことですな。」

 まとめ役はニヤニヤと笑いながらそう話す。ラオにはその笑い顔がとても邪悪に見えた。


「俺にはどうも奴のことが信じられない。言っていることが矛盾している様にも見える。ニシカゼはどう思う?」

 ラオは小声でニシカゼに意見を求める。

「俺も同じ気持ちです。のらりくらりと話して時間を稼いでいる様にしか・・・。」

「あっ!そう言うことか。」

 ニシカゼの言わんとした事は、ラオにもはっきり分かった。

「では、奴らの気が済むまで時間をかけてやろうじゃないか。」

 ラオはそう言ってニヤリと笑う。

「とても意地悪い顔になってますよ。」とニシカゼは苦笑いをした。


 かなりの時間、傭兵たちとの意味の無い交渉が続く。遠巻きに見ている民衆もヤキモキしているのだろう。あちらこちらからヤジが飛ぶ。

「アイツらをやっつけてくれるんじゃ無いのか?さっさと打ちのめしてくれよ!」

「所詮ジームスカンの事など、どうでも良いんだろう?俺たちは騙されたんだ。」

 民衆は騒ぎ始めた。

「まずいな。民衆が暴れると収拾がつかない。」

 ラオは少し焦りを感じたが、ニシカゼは民衆のことを冷静に見ていた。

「大丈夫ですよ。大体の者たちは冷静に判断出来ている。我々の意図は分からずとも、今、町から外に出ている奴らが帰って来ると大変だと、ちゃんと理解しているようだ。そうなるとこの人数では太刀打ちできないですからね。その時に俺たちがちゃんと交渉してくれるかを見極めようとしているんですな。ほら、だんだん人が減って来ている。怖くなって家に帰って行く人が増えて来た様です。」

 そう言われて改めて確認すると、なるほど人が減っている。ラオは少し安心出来た。


 半分以上の民衆が家に避難して屋敷の前が静かになって来た頃、町の門の方から雄叫びが聞こえた。

 雄叫びを聞いた瞬間、傭兵隊が剣を構えこちらに嫌な笑い顔を見せてきた。

「仲間が帰って来た様だな。そんな少ない人数で俺たちを倒せるとでも思ったのか?」

 ニヤニヤ笑いながら、まとめ役がゆっくりとこちらに向かってくる。

「降参しても良いんだぜ。でもなぁ、命を助けるわけにはいかないかぁ・・・。」

 そこまで言って、まとめ役の顔色が変わった。

「おい!どうなっているんだ!」

 驚くのも無理はない。広場に現れたのは、彼らが期待した傭兵では無くアーギタスの兵士たちだったからだ。


「まさか他に人が居ただなんて!アイツらはどうした!」

 まとめ役は顔を真っ赤にしてそう叫んだ。

「村を攻撃しようとしていた連中は、全滅させた。お前らに勝ち目は無いぞ!」

 アーギタス兵を率いて来たクロヒョウが吠えた。

「降参しても許さないよ。」

 ラオは精一杯意地悪な顔をして傭兵どもに笑って見せた。

 傭兵たちの体から力が抜けていくのが見てわかる。皆あんぐりとだらしなく口を開け、周りを囲む兵士たちを見ていた。中には絶望の為か意味の無さない叫び声を上げる者もいる始末だった。

「もう勝ち目はない。潔く剣を降ろして降参しろ!」

 ラオがそう叫ぶ。

「くそっ!」

 まとめ役が悔しそうに唸ると、「降参してもしなくても、俺たちは殺されるって訳だ。それならば!」と剣を振り上げラオ目掛けて走り出し、数歩動いた所で取り押さえられた。まとめ役はさらに叫ぶ。

「どうせ殺されるんなら、今すぐ殺せよ!」

 目は血走り、ものすごい形相である。

 まとめ役の声に反応するように、ラオは静かに前に歩き出す。そして、持っていた剣を心臓に深々と突き刺した。まとめ役は一瞬ビクリと体を震わせて、そのまま動かなくなった。恐怖で濁った目でラオを睨みつけたままで。


「殿下!」

 ラオの思いかけない行動にニシカゼが駆け寄った。

「なぜ、いきなり殺したのですか?」

 流石のニシカゼも狼狽えている。そばにいたクロヒョウもあまりの出来事に何も言えないらしく、呆然と成り行きを見守っている様だった。

「どちらにしても、此奴は死罪を免れぬ。死ぬのを少し早めてやったまでの事。」

 自分でも驚くほど冷静にラオは答えた。

「しかし、何も殿下自ら・・・、」

 そう言いかけたニシカゼを制止、ラオは答える。

「俺はこれからも、何人もの人間に死を与える事になるのだろう。王者とは綺麗事では済まされぬ。俺自身が手を下さなくても、俺の一言で何人もの人間が死ぬ事だってあるはずだ。それが必要な事だと言うのなら、しっかり人殺しの覚悟をつけたかったのさ。」


 これは人の命を左右する事へのケジメなのだとラオは思った。今までも戦にて人を斬った事はある。しかしそれは殺意というよりもその場の勢いの様な気持ちだった。相手が致命傷なのかどうか確認した事も無い。

 しかし、今回は明らかに殺意を持って相手を刺した。じっくりと力を込めて剣を差し込んで行く。夢に出て来そうなぐらいラオにとっても恐ろしい感覚であった。

 ラオは自分の言動で、人の運命はおろか生死さえも自由に出来てしまえる立場に恐怖していた。豊かで平和な国を作りたいという気持ちはこれからも変わらない。それは絶対に自信がある。しかし、王者になるということは綺麗事では済まされない。

 だから、自分の手で相手の命を奪ったという今日の出来事は、言葉であろうと自分の手であろうと、人を死に追いやることに変わりないと言う覚悟であり、王者とは善行だけでは治まらないという、決意表明でもあったのだ。



 


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