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暴君ラオ  作者: あーる
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ジームスカンとの戦い12


「殿下が奇襲に加わるのは危険ではないですか?何かあったら、ミミズク殿に申し訳ない。」

 ガルカット攻略の話し合いの時、アカエイは困ったような顔をして止めて来た。 

「殿下なら大丈夫ですよ。腕前は俺が保証します。それに、殿下は結構な頑固者で、ご自身で決めたなら絶対に引き下がる事は無いのです。」

 ニシカゼが苦笑いの様な表情でそう言う。

「俺は、出来る限り最前線で戦いたいのだ。それに、ニシカゼのことを信頼しているからな。」

 ラオがニヤリと笑って見せると、ニシカゼが照れたように頭を掻いた。その様子を見ていたアカエイも、思わず吹き出した。横にいたハチドリだけが心配そうに見ている。

「アカエイ!笑っている場合じゃないよ。ちゃんと止めなきゃ!。」

「心配はなさそうですよ。」

 一人焦るハチドリを、アカエイが宥める様に言った。ハチドリは皆に説得される形で溜息をつき、「分かりました。ラオ殿下もそれぐらい余裕があるなら大丈夫でございますね。」と渋々といった表情でそう言った。

「ニシカゼの見立てでは、そんなに時間はかからないだろう。ハチドリ殿、留守の間よろしく頼むよ。アカホシもハチドリ殿の手助けをやってくれ。」

 そう言って、まだ不安そうにこっちを見ているハチドリに笑いかける。

「あまり無茶な事だけはなさらぬ様に、気をつけて行ってらっしゃいませ。」

 頑固なラオに少し呆れたのか、ハチドリは苦笑いで応えた。


 早朝、まだ日が昇らぬうちにセイムを出る。途中早めの昼食を取ったが、ほとんど休む事もなく大急ぎでガルカットへと向かい。昼過ぎには、草原の先に町の城壁が見える所まで来る事が出来た。

 周りに守る物が無い地形の為なのか、頑丈そうな石造りの高い壁が町の周りを囲んでいる。南側に街道が通り、大きな門が見える。見た感じ、他に町へと入る場所は無さそうだ。

「あれがガルカットの町か、セイムの町とは違い質実剛健と言った佇まいだな。」

「この地形だと、あれぐらい守りに徹しないと危ないのでしょうな。」

 ヒツジグモは納得したかの様にそう言った。


「そろそろ二手に別れましょうか。」

 ニシカゼがそう提案してきた。

「そうだな。ではクロヒョウ、作戦通りにイム川の川底にて待機せよ。」

「ははぁ。」

 ラオの命令に敬礼で応え、クロヒョウは軍団を率いて川の方へと向かって行った。残された者たちは南の藪へ向かい、そこで身を潜め町の門を見張り奇襲する機会を伺う事にした。 しばらくして、クロヒョウからの伝令が戦いの準備が出来た事を報告して来た。

「これでいつでも飛び出せそうだな。」

 ラオは満足げにその報告を聞いた。

 ガルカット南にある藪の中に、ラオとニシカゼ、ヒツジグモと選び抜かれた精鋭20人が隠れる。少人数ではあるが、腕に覚えのあるものたちばかりである。

 後方のイム川の川底には500人の兵士が隠れている。ラオたちが奇襲で町を混乱させ、後陣が一気に傾れ込む作戦である。


 しばらく町の様子を見ていると、町の門が開くのが見えた。

「町に何か動きがあった様だな。」

 ラオがそう言うと、ニシカゼが黙って頷く。

 やがて門が全開すると、中から傭兵と思われる者たちがゾロゾロと出てくるのが見えた。隊列を組む訳でもなく、ダラダラと70人ほど歩いている姿を見る限り、正規軍からの任務には見えない。

「あいつら、また近辺の村を襲うつもりなのか、それは見過ごせないな。しかし、情報ではこの町の傭兵は100人程らしいから、手薄になった今なら簡単に町を制圧出来そうだし、どうしたら良いものか。」

 ラオはニシカゼに相談する。

「それならば・・・。」

 ニシカゼが何か思いついたのか、ヒツジグモを連れて後ろに控える隊の方へ歩いて行った。そして、すぐにニシカゼだけが戻って来た。

「何を指示したんだ?ヒツジグモはどうした?」

 ラオが質問すると、「二手に別れて、両方倒してしまおうと思いましてね。勝手なことをして申し訳ありません。」と頭を下げながら自信が考えた作戦を教えてくれた。

「後方の者たちに今出て行った奴らを追わせて、こちらが町に攻撃を加えるのに合わせて、連中を襲わせようと言う算段です。クロヒョウ殿は奇襲に慣れていませんので、念の為にヒツジグモをあちらに連れて行きました。」

 なるほど川底に待機している兵士たちで、今出て行ったぐらいの人数なら簡単に倒せそうだ。町にいる連中の数も知れている。とても効果的な作戦だと言える。

 ニシカゼの臨機応変な作戦の変更にラオは素直に感心する。

「勝手に作戦を変更して申し訳ございません。」

 ニシカゼはそう言いながらも、ニヤリをラオの顔を見る。

「ニシカゼのことは信頼しているし、お前の経験には敵わないよ。」

 ラオも苦笑いでそう返した。


 やがて、町を出て行った傭兵たちの姿が小さくなっていく。

「もう簡単には戻れなさそうだな。そろそろ行くとするか。」

 そう言うと、ニシカゼが頷く。それを確認して、ラオは大声で皆に号令を出した。

「皆の者!突撃じゃ!!」

「ウォオオオオ!」

 雄叫びが上がり、まだ開かれたままになっている門を目掛けて一斉に走り出した。

 敵の門兵が慌てたように門を閉めようとしたが間に合わず、最初に走り込んだ兵が門兵めがけて切りつけた。

「ギャー!」と凄まじい叫び声があたりに響き渡る。ラオたちはそのまま町の中へと雪崩れ込んだ。


 町に入ると、町民たちが何事かと立ち竦んでいる。

「我々は、ハチドリ殿の要請を受けこの町を解放しに来た。住民に被害を及ぶといけない。そのまま家の中へ避難して頂きたい!」

 ラオはそう叫ぶと、他の兵たちも町民たちに避難を呼びかける。

「誰か、傭兵たちの居場所を教えてくれ!」

 逃げ惑う町民の一人を呼び止め、ラオが聞く。

「傭兵は町長の屋敷にいます。」

 呼び止められた男が、緊張の面持ちで答える。

「町長の屋敷?それはどの辺りだ。」

 尚も質問するラオが恐ろしいのか、びくりと体を震わせ男が答える。

「この道をまっすぐ奥に行った突き当たりです。本当にハチドリ様の要請なのですか?彼は生きていたんだ。」

「ハチドリ殿は今セイムの町にいる。傭兵たちの横暴を許す事は出来ないと、我らをここに寄越したのだ。」

 ラオの言葉にやっと安心できたのか、男は表情を緩め「助けて下さい」と頭を下げた。

「あいつら、町長を家族ごとぶっ殺しやがった。優しい良い人だったのに。それなのに俺たちは恐ろしくてあいつらの言いなりになってしまった。本当に申し訳ありません。」

 男の目に涙が滲む。

「町民に戦う術がないのは仕方ない事。少しでも被害が出ない方がハチドリ殿も喜ぶさ。」

 ラオは微笑んで、男の肩を軽く叩き家に避難するように言った。


 言われた通り奥へと進むと、突き当たりが小さな広場になっていて、そこに周りの建物より少し大きく立派な屋敷があった。

「これが町長の屋敷だな。」

 ラオが独り言の様に呟いた

 屋敷の周りを確認していると、町の騒ぎを聞きつけたのか、見るからに凶暴そうな男たちが何人か出て来た。男たちはラオたちに気がつくと少し驚いた様だが、すぐに剣を抜き威嚇してきた。

「この町の者じゃ無いな。その軍服は見覚えがあるぞ!お前らアーギタス軍の奴らだな!」

 一人の男がそう言って凄んできたが、明らかに動揺している。こちらの人数を見て勝ち目があるのか見定めているようだ。

「俺は、テムチカンの王太子ラオである。義兄弟であるハチドリ殿の要請により、お前たちを成敗しに来た。」

 ラオが名乗りを挙げると、傭兵たちは驚いたように目を見開いた。まさか、王太子自らこんな所へ出て来るとは思わなかったのだろう。しばらく、呆然としていた彼らだが、やがて落ち着きを取り戻しのか、「王太子様自ら出て来るとは、よっぽど人手が足りぬようだな。」と嘲笑うかのように言ってきた。

「俺は、現場主義なんだよ。」

 ラオも負けじと連中を睨みつける。


 両者が睨み合っているその時、傭兵目掛けて石がいくつも飛んで来た。ラオが慌てて後ろを振り返る。そこには家の中に隠れていると思っていた町民が大勢押しかけていた。

「お前たち、危ないから家に帰るんだ。」

 ラオが制止しようと大声で叫ぶ。

「ここは俺たちの町だ。俺たちが戦わずしてどうする!」

 民衆の中央に立つ男がそう叫んだ。周りの連中のそうだそうだと叫んでいる。収拾が付かなくなるとラオは焦り、ニシカゼの方を見る。ニシカゼも最初は驚いていたようだが、やがて冷静にラオから民衆へ呼びかけるように促してきた。ラオは頷き、彼らに呼びかける。


「我はテムチカン王太子のラオである。

 あなた方の声が何よりの武器になり、我々に力を与えてくれる。しかし怪我をされるとハチドリ殿に申し訳が立たない。ハチドリ殿は何より、国民に被害が出る事を恐れている。私はハチドリ殿と義兄弟の契りを結んだ。その彼を悲しませる事はしたくない。だから、ここは私を信じてくれないだろうか。義兄弟であるハチドリ殿の名誉にかけても、そなたたちの納得できる形に収めてみせるから。」

「うるさい!王太子か何か知らないが、お前のような坊ちゃん育ちに何ができる!」

 傭兵たちががなり声で横槍を入れる。ラオは黙って傭兵を睨みつけた。その気迫に押されたのか、傭兵たちが黙り込んだ。

 その様子を見守っていた民衆の一人が、「あなた様に全てを委ねます。」と言ってくれた。それに続き他の者たちも納得してくれた様だ。石を投げる手を止めて、じっとこちらを見守るように沈黙した。

 ラオはニコリと笑い、「ありがとう。」と民衆に応えた。

「相変わらず殿下の言葉は説得力がございますな。」

 ニシカゼは笑いながらそう言う。

「そうか?」と問いかけるラオに、「それでこそ、王者に相応しい才能なのかもしれませんな。」と褒められた。

 普段、滅多に人を褒めないニシカゼにそう言われるのはなんだか気恥ずかしい気持ちになるが、ここは素直に喜ぶ事にした。








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