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暴君ラオ  作者: あーる
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ジームスカンとの戦い11

 ミミズクとオニキスがアーギタスへと帰る事が決まった。


「アカエイ殿には本当に世話になる。まさか船まで貸していただけるとは。それにしてもセイムの町は小さく見えるのですが、豊かな財政力がある。他国の、それもアーギタス総督の私にこんな所を見せても大丈夫なのですかな?」

 ミミズクはアカエイに感謝しつつも、不思議で仕方が無いと言った。アカエイは不敵な笑みを浮かべ、「もちろん、私どもの利益を考えてのことですな。」と言い放った。

「実はタンガの村はただの漁村ではありません。タチバナ王の命を受けて、密かに整えた軍港でもある訳です。」

 アカエイの告白に全員が驚嘆した。なかでもハチドリの驚きは大きかった様だ。

「そんな話は聞いたことがない!」

 大声でアカエイに問いただす。

「それは当然です。私がこの計画を知らされた時、あなたはまだ産まれたばかり、バンブー様も小さなわんぱく坊やでしたからね。王は、あなた方兄弟の元服に合わせてお伝えようとしていた様ですが、どうもテムチカンの様子がおかしいと言う訳で、もうしばらくここのことは秘密にしておく事にしたのです。

 ハチドリ様も知っての通り、テムチカン同様バンブー様の様子も明らかにおかしかった。ヤシガニ殿とどうも裏で繋がり、良からぬ事を考えていると言う疑いがありました。この港の事もどこから漏れるとも分かりませんでしたから、タンガの港は私と王の二人だけの秘密であったのですよ。崖の上から見るとどこにでもある田舎の漁村にしか見えません。

 あなた方はこの町の治安の良さにも驚かれていた。それもそのはず、こことタンガ村の住民の三分の一は私がタチバナ王から預かった精鋭の兵士たちです。このことを知っているのは、私と息子のソテツだけでございます。」

 アカエイはタチバナの事を思い出しているのか、遠い目をしながらそう説明してくれた。


「その大事な秘密を、我々に教えてまで得たいと言う利益とは何なのですか?」

 ミミズクが興味深そうに質問する。アカエイは、思いかけず真剣な眼差しで答えてくれた。

「ハチドリ様にお伝えするのに良い機会だと思った訳です。それに、我々にはもう後が無い。息子もあの通りで、もう前線で戦う事は望めません。元々脆弱だったジームスカン軍を骨抜きにされてしまっては、今の王宮を我々だけで止めることはもはや無理でございます。ラオ殿下がこちらに加担して頂けると言うのは、まさに千載一遇の転機なのです。

 殿下にははテムチカンを奪還すると言う大義があり、そのためにはヤシガニが暗躍する今のジームスカン王宮では都合が悪い訳でございましょう。お互いに大きな利害の一致がある訳でございますな。それなら、港の秘密をアーギタスと共有することに、なんの躊躇いがございましょうぞ。」

 アカエイの言葉に、ラオは大きく感銘を受ける。

「それはすなわち、我々の事を心より信頼していただけるという事ですね。ありがたい。」

 深く頭を下げるラオに、アカエイは優しく微笑んだ。

「ハチドリ様と義兄弟であらせるラオ様ですぞ。もちろん信用していますとも。そして、殿下も私を信頼していただいていると、私は確信しております。ラオ殿下、ハチドリ様のこと本当によろしくお願いいたします。」

 アカエイも深く頭を下げる。その場にいた者たち全員から自然と拍手が起こった。セイムの町とアーギタスは正式に同盟関係で結ばれたと実感し、ラオはその光景を感慨深く眺めていた。


 船出の日、夫妻をに見送る為に皆でタンガへ向かった。

「殿下、俺はしばし離れますが、お互いの情報の行き来はしっかり出来る様にしますので、安心してください。アーギタスに戻ればタージルハンを始めとした他の地域の情報の入りやすくなると思います。」

 皆でミミズクが帰った後の事を確認する。そして、アカエイに向き直り、改めて二つの町の硬い同盟関係を誓い合った。

「ミミズク殿とは、これからいろいろ話し合いたい事も多くございます。奥方様にも、息子の事でお世話になる。本当にありがたい。」

 アカエイはそう言って握手を求めてきた。

「私こそ、アカエイ殿の経験に学びたいことが多くございます。我らの友情を末長く続けていきたい。」

「私の診たところ、ソテツ殿なら義足を使いこなせると思います。ソテツ殿は普段より体を鍛えておりますので、きっとうまく行くでしょう。早急に義足技師を向かわせますので、しばらくお待ちくださいね。」

 オニキスがそう言ってニコリと笑う。

「聖地で医術を学ばれた奥方がそう言ってくださって安心でございます。息子にはまだまだ出来る事がある、こんなに嬉しいことはございません。」

 アカエイは本当に嬉しいのだろう。目に涙を潤ませながらオニキスに感謝の意を示した。


 やがて、出航の鐘がなった。

「殿下それにハチドリ様、なるべく早く戻りたいと思いますので、しばし国に帰ることをお許し下さい。クロヒョウ、留守の間を頼んだぞ。」

 ミミズクは、アーギタスに帰る喜びと軍を立ち去る心残りとで、複雑な表情をして別れの挨拶をした。

「しばらくは、他の地域の治安回復に努める。ジームスカン王宮に攻め込むのはその後だ。王宮を攻め込むまでの間、叔父上にはアーギタスの政に専念していただきたい。ジームスカンの町や村々の事はアカエイ殿とソテツ殿の意見に従いながら、我々で頑張って行きます。」

 ラオは、ミミズクを力一杯抱きしめてそう言った。その力に感慨深そうな顔をして、ミミズクが笑った。

「ラオ、本当に逞しくなったな。ではしばしの別れだ。お互い出来ることをしっかりやって行こう。」

「はい!」

 ミミズクの言葉にラオは元気よく返事をした。

 ミミズクたちが船に乗り込み、船はゆっくりと港を離れて行った。

 ラオは船が見えなくなるまで手を振り続けて見送った。


 セイムの町には、クロヒョウとマーマタンの3人、そしてハチドリとガルナンが残され、ラオを含めてこれからの事を決めて行く。

「ソテツ殿に話が聞けるのは助かるな。彼はなんと言ってもジームスカン軍の中心にいた人物だ。」

 ラオの言葉に、ハチドリも大きく頷いた。

「次の船でクスノキも合流することになり、僕としても本当に心強いです。」

「南の傭兵が占拠している村の攻略に、いろいろ知恵を借りられそうですな。報告ではここから南東に馬で1日の場所にある、ガルカットとい言う町に傭兵どもがいるそうですな。人数は100人ほどだとか。」

 クロヒョウが、傭兵たちの動向を報告する。

「ガルカットは、この間全滅させられた村からも近いですね。周りを遮るものが何も無く、草原にポツリとある小さな町です。敵に見つからず攻略するのは難しそうですね。」

 困った様な顔をして、ハチドリが町の説明をする。

「正面から行くと、町の人を人質に取られかねないと言う訳か。やっぱり、ソテツ殿とアカエイ殿の意見を聞かねばならんな。」

 ラオもそう言いながらため息が一つ出てしまった。

「まずはアカエイ殿の話を聞きましょうよ。彼も独自の情報を持っているはず。」

 ガルナンが提案して、皆でアカエイの所へ行くことにした。


「ガルカットですか。あの周りで野営するとすぐ敵に見つかり、厄介ですな。」

 皆の話を聞き、アカエイは唸る様に言った。

「良い方法はないものか。」

 ラオはすがる様な気持ちでそう聞いた。

 アカエイはしばし考え込んで、ふとある事を思い出したように話し始めた。

「確か、ガルガットのすぐ南に人の背丈ほどある草が生い茂る藪があります。大人数で攻める事はできませんが、奇襲をかけるには良い場所かと思います。」

 ハチドリは少し不安そうだ。

「少人数で町を落とす事など出来るだろうか?」

「でも、やるしかないんだろ?俺はその作戦で良いと思う。」

 ラオが元気づけるように笑ってそう言った。

「でしたら、息子に詳しい事を聞いて下さい。ソテツならあの辺りの地形にも詳しいでしょうから。」

 アカエイはそう言って、ソテツに相談する事を勧めてきた。

 ラオたちは、早速崖を降りてタンガの村へと向かい。ソテツの意見を聞く事にした。


「ガルカットは、周りを草原に囲まれて畑よりも牧畜が盛んな土地です。土地の起伏が少なく、親父が言う通りに隠れる所は南の藪ぐらいしか無さそうですな。

 しかも、もうすぐ秋が過ぎ冬に近づいています。あそこら辺の草は殆どが冬になると枯れてしまう。そうするともう隠れる所はありませんな。多分、草が枯れるまで、あと10日ぐらいしか時間は残ってはおりますまい。」

 ソテツは難しい顔で唸る様に言った。

「それは急がねばならんな。」

 ラオは焦りを感じた。そして、ニシカゼの方を見て意見を聞く。

「ニシカゼなら奇襲戦法も詳しくないか?傭兵の数は100人、お前ならどう攻める?」

 ニシカゼは質問を受け、ガルカット周辺の地図を睨み、しばらく眉間に皺を寄せながら考え込んだ。

「ソテツ殿、この南の藪のさらに南にあるこの川の様に見える筋はなんですか?」

 それを聞いたラオも地図を確認する。なるほど、藪の絵の少し下の方に薄らとではあるが、うねうねと蛇の様な線が引かれている。

「それは春から夏限定で流れるイム川ですな。そうか。」

 ニシカゼの指摘に何か閃いたのか、ソテツの声が少し楽しそうに聞こえる。

「この川は今は枯れていると言う事ですね。川底の深さはどれぐらいですか?」

 ニシカゼは冷静に質問を続ける。

「その川は春にはかなりの激流で、川底を深く抉るのです、傾斜はそんなにキツくはありませんが、川辺から川底までは大人の背丈ぐらいの深さはありますな。」

 ソテツがそこまで言うと、ニシカゼは不敵に笑い、「ならば、2段階に分けて攻撃するのがよろしいかと。」と、進言して来た。

 



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