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暴君ラオ  作者: あーる
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ジームスカンとの戦い10

 歓迎会の次の日の朝、ラオたちは早速タンガの村へと向かう。今日も、オウムが案内してくれた。


「険しい崖に見えるけど、こっちからは安全に行けるんですよ。」

 オウムはそう言いながら、ゆるい坂道を進む。少し歩いた所に、木製の頑丈な門があった。門の前には町の警備兵が一人座っている。

「あれ?坊っちゃんお客さんですか?」

 兵士が間延びした顔でそう聞いて来た。町の外は戦で荒れていると言うのに何とも長閑な事だろうと、少し呆れながらもこの町の平和がしっかり守られている事に感心する。

「何言ってんだよ。昨日通達があっただろう?ハチドリ様とテムチカンの王子様を父さんの所へ案内するんだ。」

 オウムの言葉に、兵士は慌てて椅子から立ち上がる。

「申し訳ございません。えーっと、聞いていたのですが、まさかいきなりタンガへ行かれるとは・・・。」

 敬礼しながらしどろもどろで弁明するその姿に、ラオは思わず吹き出してしまった。

「セイムの町は本当によく守られているんだなぁ。アカエイ殿の手腕がどれほどのものか感心するよ。」

 ラオがそう言うと少し安心したのか、兵士はでへへとだらしなく笑った。


 門を過ぎると、九十九折(つづらお)りの道が下の村まで続いているのが見えた。坂道は急ではあるものの、石でしっかり舗装され道幅も十分あった。道の両脇に滑車と綱が設置されているのが見える。綱には何かを引っ掛ける為なのか、鉤が等間隔についている。綱の下には四角い凹凸(おうとつ)が付いたブロックが、上から下まで隙間なく一直線に並んでいた。

「これはなんだ?」

 ラオが不思議に思い、オウムに尋ねる。

「重い荷物を運ぶ時に使うんです。道の曲がり角のところの滑車をみんなで回して縄を引っ張ったり、危なくないように、降ろす時は抑えたりしてるんです。ここ専用の荷車の車輪についた歯車を、端っこの凸凹(でこぼこ)に噛ませて下に滑らない様になっているんですよ。これは祖父ちゃんが考えたんです。」

 オウムの説明に一同は驚いた。説明を聞いてもう一度見てみると、九十九折りの折り返す所に、荷車の方向転換する場所が確保されているのが分かった。

「荷物運搬には不便だと思っていたけど、すごい工夫がされているんだな。いやいや、アカエイ殿がこの町で尊敬されるのは当たり前だ。」

「全くすごい御仁ですね。味方について貰って頼もしい限りです。」

 ラオの言葉に、ヒツジグモも驚嘆の声を上げた。


 タンガの村は、後ろの崖と前の海が防御壁の役目をしている為か、他の村に見られるような塀が無い。こじんまりとした家々と、船を格納する為の小屋が散財しているだけだった。

 ただ、海風や高波から家を守る為なのか、それぞれの家は小さいながらも頑丈な造りになっている。

 村のすぐ前にある小さな砂浜は波も穏やかで、爽やかな風が吹いていた。波打ち際で子供達が数人、楽しそうに遊んでいる。その中の一人が、オウムを見つけて手を振ってきた。

「オウムにいちゃん、こんにちは。その人たちはだあれ?」

 子供達は、オウムの後ろから歩くラオたちを不思議そうに見てきた。

「ああ、この人たちは父さんに用事があるんだ。」

 オウムがそう返すと、子供達は急に緊張した顔になり、ペコリとお辞儀をしてきた。

「急にどうしたんだい?そんなにカチコチになって。」

 ラオが驚いて聞いてみた。

「だって、ソテツさんのお客さんならとても立派な人だと思うもの。父ちゃんにソテツさんの恥になるから、お客さんが来たらお行儀良く挨拶しなさいって。」

 一番年少だと思われる男の子が恥ずかしそうに答えてくれた。

「そうか、えらいぞ。そんな風にちゃんと礼を知っていると立派な大人になれる。」

 ラオは優しい気持ちになり、子供たちを褒めてあげた。

「長閑で良い村だなぁ。」

 ラオはそう言って、大きく伸びをした。

「本当に、セイムの町でも思いましたが、ジームスカンの混乱が嘘の様でございますな。」

 ヒツジグモも、穏やかな顔で笑った。


「ここが、父さんが療養している家です。」

 村の一番奥まった家をオウムが指さす。そして家まで駆け出し扉を軽く叩き、家の中へ呼びかけた。

「父さん、お客さんを連れてきたよ。」

「俺に客?、いいから入ってもらいなさい。」

 扉の向こうから、低く力強い声が返って来た。

 オウムが扉を開き、一同を中へ引入れる。土間と大きな部屋が一つだけの簡素な造りであったが、窓が大きく取られとても明るかった。部屋の中は日用品をしまう為の棚とテーブル、そして中央近くには比較的大きな寝台が置いてあった。

 寝台の上には男が一人座っていた。髪は整えられ清潔な寝巻きを着ている。なかなか迫力のある顔つきで、太い眉毛に大きな目、鼻も口も全てが大きい。

「ハチドリ様・・・。」

 男は大きな目を見開き、ハチドリの顔を凝視した。

「ソテツ・・・、よく生きていた。」

 ハチドリは早くも涙で顔がグシャグシャである。

「ジームスカンにお戻りでございましたか。」

 ソテツは泣き笑いの様な顔で笑い、再会を喜んだ。  


 感動の再会の後、ハチドリがラオ達のことを順番に紹介した。

「テムチカン王太子のラオ様でございますか。なんとむさ苦しい所へ来ていただきました。寝台に座ったままの姿で申し訳ありません。」

 ソテツは恐縮するように言った。

「我らこそ、いきなり訪問して申し訳なかった。其方のことはクスノキ殿から聞いていた。命懸けで彼を逃がしてくれたと。ソテツ殿が無事と知ったら、クスノキ殿もさぞかし喜ばれることでしょう。」

 ラオは笑顔でソテツへ話しかける。

「クスノキ殿が無事にアーギタスへ逃れたと聞いて、本当に嬉しかったです。彼もまた、足を怪我しているとか。元気でやっておられるのですか?」

「クスノキはかなりひどい状態でアーギタスへたどり着いたらしいが、僕が再開した頃には杖で歩けるぐらいには元気になっていたよ。ソテツが生きていると聞けば、もっと元気になるはずだ。」

 ハチドリは満面の笑顔で、クスノキの今の状態を伝えた。ソテツは嬉しそうに、本当に良かったと何度も頷いた。


 一通りの挨拶の後、ソテツはクスノキを逃がした後の話を聞かせてくれた。

「クスノキ殿を逃す為、追っ手を蹴散らそうと剣を振りましたが、そこは他勢に無勢で大きな怪我をすることになってしまいました。あの時、クスノキ殿が逃げ切る所まで見定めた後、俺の命運もこれまでと、そのまま倒れ込んでしまったのです。敵は私が死んだと思ったのか、倒れた俺をそのままに立ち去っていきました。一晩ほど俺はそのままで気絶していたようで、記憶はありません。昔俺の部下だった男がたまたまそこを通らなかったら、俺は確実に死んでいた事でしょう。

  親父も何かを察していたようで、俺の周りを探っていた様なんですね。そして、俺が倒れているのを発見したと言う知らせを聞いて、俺に迎えを寄越してくれました。俺は気付けば実家の寝台に寝かされていたのです。」

 改めて、アカエイの凄さを見せつけられた気がした。アカエイは王宮で何が起こっているかなんてお見通しだったと言う訳である。しかも、表向きは王家の臣下として立ち回り、見事息子の救助に成功した。

「アカエイという人はなんという傑物なんだ!」

 ラオは溜息をつく様にそう言った。


「俺はクスノキ殿を逃し時から、ジームスカンの裏切り者です。死体が無いのを見て捜索されている事でしょう。それに、右足を無くしてしまい、もう歩くこともままなりません。こんな体で戦うことは出来ない。いっそこのまま殺してくれと親父に泣きついたのですが、親父はそれを許してはくれませんでした。」

 そう言ってかけてある毛布を捲りあげ、己の足を示した。右足の膝から下が無くなり、包帯でぐるぐる巻きにされている。ハチドリが小さく悲鳴をあげた。

「歩くことも出来ない俺をタンガに隠してなんの意味があると、俺は父に言いました。しかし父は『お前は生きてここに戻ったのだから、きっとそれには意味がある。』と言ってくれたのです。戦う事は出来なくても、まだ天命があるのだから生かされているのだと。」

 ソテツは涙ぐみながらそう言った。

「あなたには、今まで軍団長として国を守ってきた知恵がある。ジームスカン軍のことを何より知っているあなたには、是非我が軍に協力していただきたい。」

 ラオがソテツに歩み寄り、手を握りながらそう訴えた。

「ありがたいお言葉でございます。」

 ソテツはラオの手を握り返し、何度も何度も頷いた。 


「俺の妻を寄越しましょう。」

 今まで黙っていたミミズクが、いきなり大きな声を出したので、みんなが驚いた。

「あなたは・・・?」

 ソテツが不思議そうにミミズクを見た。

「失礼致した。俺はここからずっと南にあるアーギタスの総督をしているミミズクと言うものです。」

「あなたが?いや、噂では聞いております。街を大きく発展させた立役者だとか。そうか、昨日上の町が賑やかそうに見えたのは、あなた方が来られたからなんですね。」

 ソテツは、ここでやっと今日の訪問に合点が言ったらしい。

「俺の妻は医術に長けています。おかげでアーギタスの医療技術は南大陸随一だと自負しております。妻なら元通りとは行かないまでも、今よりは自由に体を動かせる方法を知っているかも知れない。それと言うもの、我が街には義足という技術があるのです。無くなった足の代わりに、竹で作った義足を付けるわけです。かなり大変な訓練がいるとは聞きますが、実際にそれで歩ける様になった者を俺は見ている。」

「そんな事が可能なのですか?」

 信じられないという表情で、ソテツが話を聞いている。

「俺は専門外なので断言は出来ない。明日にでも妻を寄越して診察させましょう。」

 ミミズクはそう言ってニッコリと笑った。

「よろしくお願いします。」

 ソテツは涙ながらに何度も何度も頭を下げた。




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