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暴君ラオ  作者: あーる
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聖地留学2


 ラオには、留学前の挨拶をしておきたい人物がいた。母方の祖父であるガジュマルである。 


 ガジュマルは子供の頃から本当に可愛がってくれていた。ラオの母親はラオが3歳の時に流行病で死んでいる。そして父も妻の死を忘れるように戦いに明け暮れ、ラオの幼少期はとても孤独なものであった。そんなラオを厳しくも優しく育て導いてくれたのが、乳母のリンドウとガジュマルであった。

 もうかなりの年寄りで新年の儀にも姿を現す事もなく、体調の方も心配である。もしかしたら、これが今生最後となるかも知れない。

 ラオはアゲハとセキバを伴い、ガジュマルの屋敷を訪問した。


「ラオ、久方じゃの。また背が伸びたのでは無いか?セキバも元気そうで、リンドウから二人の話はよく聞いておるよ。」

 ガジュマルは大きな声で笑いながら、ラオ達を出迎えた。

「祖父殿、新年の儀にもお顔を見せてくれませんので、心配していたのですよ。でもお変わりないようで。」

 久しぶりに見る祖父の顔が元気そうで、ラオは安心した。

「新年の儀と言っても、ただの宴会じゃからな。儂はああ言う席は好かんのじゃ。」

 ガジュマルがニヤリと笑う。

 ラオは、豪快で一番の理解者であるこの祖父が大好きである。ラオとセキバも宮中の息苦しさが苦手で、二人は幼い頃からこの豪胆な年寄りに懐いていた。

「セキバ、お前も相変わらずわんぱくそうで、リンドウがぼやいておったぞ。」

「ガジュマル殿を尊敬して育ってきたんですから、大人しい性格にはなれないですよ。でも、自分より弱いものを守れるような男になれと言う、あなたの教えは決して忘れてはおりませんよ。」

 セキバはそう言うとニヤリと不敵に笑った。

「なかなか、口も達者になったもんじゃ。二人とも素直で元気に育ってくれた。儂も誇らしいと言うもんだ。」

 豪快に笑うガジュマルにそう言われて、二人もニッコリ笑う。


「ところで、その娘が噂の妃候補じゃな。」

 ガジュマルの鋭い視線に、アゲハの緊張が伝わった。

「ガハハハ、そんなに畏まらんでもいい。あんたの事はリンドウから聞いておる。なかなか肝の座ったいい娘だと言っておった。

 ふむ、良い面構えをしておる娘じゃの。男ならすごい武将にでもなれそうな良い目をしておる。ラオにはこれぐらい気の強い娘の方が良いのじゃないのかね。」

 ガジュマルは破顔して、「ラオをよろしく頼む。」と言った。

「畏まりました。命の続く限り殿下をお支えする所存でございます。」

 アゲハは少し安心したのか、ガジュマルの目をまっすぐに見て微笑んだ。

「テムドが喚いているみたいだが、この娘とラオとならこの国の未来は安泰じゃろうて。」

 満足そうにガジュマルが頷いた。


「それにしても留学までの時間が短くて、支度をするのに大忙しです。テムドに怪しい動きがあると言うのに、この国を離れても良いものでしょうか?もしかしたら、俺は父上に信用されていなくて、厄介払いをしたいのかと勘繰ってしまいます」

 ラオは愚痴を言う。この無条件に信頼できる優しい祖父には、自分の素直な気持ちを伝えることが出来た。

「陛下にはお考えがあるのじゃろうて。」

 ガジュマルは小さな子供を諭すように優しく言った。

「しかし・・・、」

 反論しようとするラオを手で制し、ガジュマルは自分の考えを言った。

「これは儂の推論でしか無いが、お前に期待しているからこその留学だと思うぞ。」

 ラオにはそう思えない。ロジュンは自分の事が邪魔なのかと思えてならない。ラオは自分の気持ちを素直に打ち明ける。

「お前は頭が良いし、勇気もある。陛下のお前に対する期待は大きいと思うよ。じゃがな、お前は無鉄砲すぎるのじゃ。お前は、まだまだ世界というものを見たことが無い。政治というものも分かっているとは思えない。だから、客観的にこの国を見る為に、一度国を離れる方がいいと陛下が判断したのじゃ。

 聖地には他の国、特に北の大陸からも、人が大勢学びに来ていると聞いておる。お前達の視野を広げる絶好の機会じゃ。

 だから、しっかりと学んで来い。それがお前のかけがえのない財産となるじゃろうし、この国にとっても新しい風が吹くことになるんじゃ。」

 ガジュマルはニッコリと笑い、「頑張ってくるのじゃぞ。」とラオの頭をぐしゃぐしゃと撫ぜた。そして、アゲハとセキバに頭を下げながら言った。

 「どうか、この利かん坊の孫をよろしく頼む。3人で世界を見てきて欲しい。そしてこの国を、いや南大陸を良いように導けるような、強い王になれるよう頼む。」

 アゲハは慌てたように、ガジュマルに頭を上げてもらった。

「滅相もごぜいません。元より殿下とどこまでも見てみたいと思っております。私は本当に幸せ者でございます。」

 横でセキバもうんうんと頷いて、「俺らは何があってもラオと一緒に歩いていくぜ?」と言った。

 ガジュマルは、満足そうに「ありがとう。よろしく頼んだぞ。」と言って、やはり豪快に笑った。


 ガジュマルの家を訪ねてから二日後、ラオ達3人はテムチカンの北にある港町カトンにいた。いよいよ、聖地に向かって船出をする時である。

 ラオは多くの人たちが見送りに来ているのに驚いた。王宮の臣下は元より、留学を聞き付けた多くの街の人達が、ラオとアゲハを一目見ようと集まってきていた。王太子が選んだ、元踊り子の妃がどれほど美しいのかと見物に来ている者もいれば、偉大なるロジュンの息子の門出を心から喜んでいるような人達もいた。

 広い桟橋でラオ達の無事を祈る為に、海神に捧げられる舞が奉納されている。普段、王宮でしか披露しない舞が珍しいのか、多くの人がそれを見ていた。

 人々を見渡しても、テムドとその取り巻き達の姿は無かった。父を孤立させるための策略も疑っていたが、テムドの性格ならニヤニヤと笑いながら船出の様子を見に来るはずである。


(やはり、留学は父上の希望なのだ。)

 ラオは、朝出発の挨拶をした時の父親のことを思い出していた。いつもの気難しい表情ではあったのだが、王の前を辞する時ふと振り返ると、そこに悲しげにこちらを見送る父親の姿があった。

 3年ほど父の元を離れる予定だが、それを寂しがるような父親ではない。ラオの心の中に不安が募る。

「父は何か心配事があるのだろうか?」

 アゲハとセキバに聞いてみる。二人も、最後に王が見せた表情が気になるらしかったが、どうしようも出来ないと言った。

「不安だが、留学に行くことが父上の命令なら仕方ない。祖父殿が力になってくれると信じるしかないのかも知れんな。」


 3人が不安そうに話しているところに、「めでたい船出の時に、なんて顔をしているのですか?」と声が掛かった。振り向くとカワセミが居た。

「そんな顔していたら、出発前に心細いのかと民達に笑われますよ。」

 ニカっと破顔して、ラオの頭をポンポンと叩いた。

「カワセミ、来てくれたんだ。出発前にあなたに会えて嬉しい。」

「見送りに来てくれるとは思わなかった。俺も会えて嬉しいです。」

「殿下達の門出なのですから、来るに決まっているではありませんか。今日は来れない祖父殿の代理でもあります。」

 ラオとセキバは子供のように喜んだ。

 カワセミは、ガジュマルの孫つまりラオの母方の従兄弟である。子供の頃から神童と呼ばれ、17歳の頃にはガジュマルと共に戦地へ赴いて成果を上げていた。そして教育係として、15歳も歳の離れたラオとセキバに武芸や学問色々教えてくれた。

 

 ラオは、今日の父王の様子を伝え不安であると訴えた。カワセミは、少し眉間に皺を寄せ考える仕草をしたが、すぐ笑顔に戻って言った。

「確かに、陛下は今難しい問題を抱えているのは間違ありません。ですが、殿下にはどうすることも出来ません。殿下に出来ることは、聖地にて多くを学び力をつけることです。陛下もそれを望んでおります。陛下のことは我々に任せ、どうぞ心置きなく聖地にて勉学に励んでください。

 そして、何があっても己の力で突き進めるようになって下さい。我々国民にとっても、それが一番の望みです。」

 カワセミにそう言われ、ラオもついに覚悟をきめた。そして、自分の不安を掻き消すように手を振りながら、船へと乗り込んだ。


 

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