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暴君ラオ  作者: あーる
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ジームスカンとの戦い7

 疲れていたのか、皆黙って夕食をとった。村に同行した者の中には、帰ってからも涙が止まらなかったり、食欲がなく寝込んでしまった者も何人かいたらしい。

「せめて温かい物だけでも飲ませましょう。」

 オニキスがそう言って、柚子と蜂蜜を入れたお茶を皆に入れてくれた。なんでも心が落ち着く作用がある薬草も入れているらしい。ラオも一杯飲んだが、爽やかな香りと甘酸っぱさで美味しく、お腹の中から温まった。

「これでゆっくり眠れるわよ。」

 兵士たちに感謝されたオニキスは、そう言ってニッコリと微笑んだ。


 夕食の後、ラオはミミズクを呼び止める

「叔父上、相談に乗ってもらいたい事があります。出来れば二人で話し合いたいのですが。」

「分かった。」

 ラオの真剣な眼差しをしっかり受け止める様に、ミミズクは頷いた。

 

 二人で話をしたいと言われたミミズクは、自分のテントにラオを招き入れた。

「話とはなんだ?」

 ここでのミミズクは、優しい叔父の顔である。彼は羊毛で出来たフカフカの敷物にラオを座らせ、熱いお茶を淹れてくれた。

 お茶を一口飲んで息を吐き、ラオは自分の中にある不安を口にした。

「俺は、クロヤノ族のワニガメが恐ろしくて仕方ないのです。彼には大きな野心があるように思える。南大陸を統一したいと言うだけなら分かります。父上も同じように考えていました。。

『南も、北の大陸のように統一されれば戦も無くなり、皆が平和で豊かに暮らせる。』

 父はいつもそう言ってました。だから、この大陸を統一するのであれば、俺でなくても良いのでは無いかとさえ思っています。

 しかし、ワニガメが目指しているのは平和な世の中ではなく、己の欲望だけで北の方にちょっかいをかけているだけの様に感じるのです。それも、かなり強引で残虐な方法を使って。

 我々は、いつかワニガメと全面戦争に発展して行く事になるのでしょう。皆が平和に暮らせる為に、ワニガメを倒すことは絶対に避けられません。でも俺はそれがとても恐ろしいのです。」

 ラオはそこまで言うと、深くため息をついた。

「お前はそれを、一人で背負う気でいるのかい?」

 優しい目でミミズクが聞いてくる。

「俺はそのつもりです。確かに俺には、助けてくれる人が沢山います。みんな、惜しみなく俺に力を貸してくれる。本当にありがたい事です。でも、最終的に決断するのは俺の責任です。もし俺が失敗した時に、皆を巻き込みたく無いと言う恐れもあるのです。」 

 ミミズクは、うんうんと頷きながらラオの話を聞いてくれた。


「ラオ、確かにお前は一番責任を負う立場になろうと頑張っている。しかしな、人間一人で背負えるものには限界がある。もっと周りに頼って良いじゃないか。俺たちのことが信用出来ない訳でも無いだろう。」

「もちろんです。でも・・・、どう説明すれば良いのか、俺の言葉は簡単に人の人生を狂わせてしまいます。それは俺がテムチカンの王太子だからです。もし俺が無責任な命令を出し、その人の人生を狂わせる事になったらと思うと、とても耐えられません。

 でも、ワニガメは俺の都合などお構いなくに、こちらへちょっかいを出してくる。それに対して心の準備が追いつかない。それが本当に怖いのです。」

 ミミズクは一人で背負い込むなと言ってくれるが、それは無責任な事だと思えてしまう。例えば、ワニガメと戦うと言えば、皆はきっと一緒に戦ってくれるだろう。しかしそれはラオの言葉ひとつで、皆を危険な目に遭わせてしまうかも知れないと言う事なのだ。

 ラオ自身、皆の意見は謙虚に受け止めて行くつもりではある。それでも、最終的に決断するのは自分である。皆の運命を決めかねないと言う事実に恐怖を持つようになったと、ミミズクに訴えた。


 ミミズクは目を瞑り、ラオの言葉を黙って聞いてくれた。そして、悲しそうな顔でラオの目を見る。

「確かに俺たちには、ラオの重責を全て受け止めることは難しいのかも知れんな。王者の道と言うものは孤独に耐えるものなのかも知れん。

 ハチドリ様と義兄弟になったのは本当に良かったな。多分、彼だけがお前の気持ちを理解出来るのではないか?」

 ミミズクに言われ、ラオは大きく頷いた。

「俺は、ハチドリ殿を守りたいと義兄弟の契りを結びました。でも、もしかしたら守って欲しかったのは、俺の方だったのかも知れません。」

 ラオがそう言うと、ミミズクは優しく微笑んだ。

「お前の自分の心を素直に認める姿勢は、何よりの美徳かも知れんな。だから皆お前について行こうと思えるんだよ。

 そうだな。お前がもし間違った決断をしても、俺たちがしっかり意見するさ。たとえそれがお前の逆鱗に触れようとも、命を懸けてお前を元の道に戻してやる。だから、心配するな。」

「ありがとうございます。」

 ミミズクたちが命懸けで、意見せねばならないような日は絶対に来てほしく無い。常に正しい道を選べる王になりたいとラオは密かに思う。


「叔父上は、ワニガメをどう思われますか?やはり大陸の統一を望んでいるのでしょうか?」

 ミミズクにワニガメへの印象を聞く。アーギタスはクロヤノ族と敵対する南の部族と交流を持っている。彼らからワニガメの話も聞いている事だろう。

 ラオにとって、ワニガメは何か得体のしれない恐ろしい者にしか見えない。客観的に相手を知りたいと思うのだ。

「そうだな・・・、シンジュが南の部族に頼まれて、何度かクロヤノ族の軍と戦ったことがある。その時の話を聞くと、ワニガメと言う男は力に魅了されていると、己の力がどこまで行き渡るのか見てみたい、そう言う欲望に支配されているように見えたそうだ。」

「己の力を試したいと?」

 自分の力試しで、戦争を仕掛けていると言う事に衝撃を受ける。


「ワニガメに大義名分はないと言うのですか?」

 大義無くして戦を仕掛けると言うのが理解できない。

「だからワニガメは恐ろしいのだと思う。自分の野心のために人を道具のように使う。なのに皆それを喜んで受け入れているようなのだ。あの求心力は本当に神がかっていると、取引先の部族が恐れていたよ。クロヤノ族の民は、奴のことを英雄だともてはやしているらしい。」

「俺の思うワニガメは、冷酷で民の事をまるで考え無いと言う印象です。ですから、恐怖で民を支配していると思っていました。」

 自分勝手な野心に国民を使い、それが英雄扱いされると言うことが理解出来ない。

「いや、クロヤノ族は心からワニガメに対して忠誠心を持っている。彼は冷酷だが、国民には気前が良い。無料の食料を配ったり、見せ物小屋のような娯楽を与えたりと、大盤振る舞いだな。

 しかしその裏で、他の地域から攫ってきた者たちを奴隷にして、酷い扱いをしているとも聞く。」

 自国の民さえ満足すれば後はどうでも良いという考え方は、到底受け入れ難いとラオは思う。どうもワニガメとは、真逆の価値観を持っていそうだ。


「クロヤノ族の民たちも、ワニガメと同じように考えているのでしょうか?他の部族たちに何をしても構わないと。

 そんなことを続けて行けば、やがて支配される側の人口が大きくなり復讐されることもあるのではないですか?クロヤノ族はそう言う危険性を考えていないのでしょうか?」

 押さえつける力が大きければ反発する力も大きいと、ラオは思う。ワニガメは頭がよく回ると聞いているが、そう言う危機管理も考えているのだろうか?

「そこが、ワニガメの賢いところでな。彼は征服した民族を奴隷とするが、その全てでは無い。ごく少数ではあるがかなり優遇しクロヤノ族に迎えるのだ。そして、その優遇した者たちに、同じ民族の奴隷の管理をさせるのさ。」

 なんという悪知恵であろう。同じ民族間に亀裂を生じさせ、自分達に恨みが向かないようにしていると言うのだ。

「やはり、ワニガメとは恐ろしい男ですね。」

 ラオはなんだか薄寒いものを感じた。


「タージルハンが心配ですね。」

 ラオはポツリとそう言った。オニヤンマを送り出した時は、自分の戦いでそれどころでは無かったが、ワニガメの話を聞いて急に不安になった。

「中間地点の平定を終わらせれば、シンジュがタージルハンに向かうと言って来ている。どれぐらい時間がかかるか分からないが、持ち堪えてくれるといいな。」

 ミミズクもやはりタージルハンが気になるようだ。

 タージルハンは、南からの防御の要である。タージルハンが落ちると言う事はすなわち、大陸北部全てが侵略対象になると言うことだ。だからこそ昔要請があった時に、ロジュンとアケボノが急いで駆けつけたのだ。

 もちろんタージルハンの兵士たちは、自分達の責任を痛感して日頃の訓練を怠ることは無い。しかし、今の大陸北部は、大きな戦が始まっている。その混乱に乗じて攻め込まれれば、いくら百戦錬磨のタージルハン軍といえども、苦労するのでは無いかと思われる。


「ジームスカンを攻め込むにはまだ時間はかかりそうだが、マーマタンが早く決着をつければ、だいぶ情勢は変わって来るだろうな。」

 ミミズクが顰めっ面のままでそう言った。

「アケボノ殿もタージルハンへと向かってもらえると?」

 ラオは、戦いが終わった所から、順次タージルハンへの援軍を送って行くのかと思ったが、ミミズクの考えは少し違うようだ。

「援軍も期待できるが、その前にクロヤノ族が撤退するのでは無いかと思う。」

「どういうことですか?」

 援軍を恐れると言うことか。

「ワニガメは今、本気でタージルハンを落とそうとは思っていないのでは無いかな?こちらを混乱させるのが目的のように感じる。

 そしてラオ、お前の力を測っているようにも思えるな。ワニガメは、いつかお前と正面から戦う事になると考えているはずだ。だから、お前の動向をしっかりみているのだろう。」

 ミミズクの言葉に、ラオは震えた。それは恐怖なのか高揚なのか、今のラオには分からなかった。




 

 

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