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暴君ラオ  作者: あーる
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ジームスカンとの戦い6

「ガルナン、ハチドリ殿を頼む。」

 ハチドリの様子を心配したラオは、ガルナンにハチドリを頼む。

「あの光景を目の当たりにした後、農民たちに怒りをそのままぶつけられたんだ。彼らも、ハチドリ殿は悪く無いって分かっていると思うのだが、王族に対して恨みを言わずいられなかった。ハチドリ殿にそれを受け止めるだけの余裕は無くてね。今は、静かなところで休ませてやってくれ。」

「わかりました。ハチドリ様、奥のテントで休みましょう。」

 ガルナンはハチドリの背中を支えるようにして、ハチドリのテントへと連れて言った。


「ハチドリ様の気持ちも考えずに、余計な事を言いました。申し訳ございません。」

 憔悴したハチドリを見送り、クロヒョウが青い顔で謝ってきた。

「いや、彼らの恨みを買ってしまったのは事実だし、ハチドリ殿もそれを乗り越えなければならない。自分でも分かっているんだ。

 でも、ハチドリ殿は真面目だからね。それに、誰よりも国民の幸せを考えているのに、南の傭兵の行いで憎まれるのは本当に気の毒だね。」

 ラオは、クロヒョウの頭を上げさせそう言った。

「まあ、ハチドリ様はガルナン殿に任せよう。」

 ミミズクは溜息をついた。

「それより、村の警護を早く実施しないと困った事になるな。急遽、間者をジームスカン全体に派遣したが、南の奴らの暴挙に間に合うかどうか。

 しかし、俺も失念していたよ。まさか傭兵がこんな暴挙に出るとはな。このままでは国全体が立ち行かなくなるのに、バンブーは何を考えているのか。」

 ミミズクがそうぼやいている所に、ガルナンが戻って来た。


「ハチドリ殿は大丈夫なのか?」

 ラオは心配である。

「ハチミツを入れ温めた乳を飲ませました。今は落ち着いています。一人でいたいと言う事で、人を呼んで入り口近くで様子を見てもらっています。しかし、繊細な方なので、今日の事は流石に参っているみたいですね。」

 ガルナンはそう言って、力無く笑った。そして、一つ深呼吸をして、「イタチ殿を呼んでいただけますか?」と要望した。

 ラオも、聞きたい事が山ほどある。すぐに近くの兵士にイタチを連れて来るように指示をした。


 連れて来られたイタチは、明らかに不貞腐れている。

「俺に何を聞こうってんだ?あれ?ハチドリがいねぇな。あいつ気が小さいから参っているのか?全く、あの坊ちゃんは本当に神経質だな。あれでよくバンブーに楯突こうだなんて思ったもんだ。」

「黙れ!」

 ハチドリを侮辱され、ラオは思わず叫ぶ。

「俺に話をさせる為に呼んだんだろうが、何を言ってるんだぁ?」

 太々しく悪態をつくイタチに、ラオは冷静さを失ってしまう。後ろからミミズクに肩を掴まれ、「挑発に乗ってはいけない。あいつは自分がどうなるか不安で、こちらを威嚇しているだけなんだから。」と諭された。ラオは大きく深呼吸をして、イタチを睨みつける。


「イタチ殿。今ハチドリ様から今日の出来事を聞きました。あなたが言うようにハチドリ様は大変繊細なお方です。それで気分が悪くなっておられますが、現実をしっかり受け止めていらっしゃいます。ただ弱いだけの方じゃ無いですよ。

 反対に、あなたは今日の出来事について何を思ったのです?なんでも、『傭兵たちが勝手にやった。』などと言ったとか。王太子であるバンブーの側近でいるのに、国民に対して責任感は無いのですか?」

 ガルナンが静かにイタチを避難する。

「俺たちは、王都が潤えばそれで良いと思ってたさ。農民は家畜と同じ扱いで構わないと、農民なんて掃いて捨てるほど居るのだから、多少死んだところで気にする必要は無いってな。オコジョが言ったんだよ。・・・まあ、それを真に受けた俺らがバカだった訳だな。」

 イタチは苦い顔でそう言った。いくら乱暴者とは言え、さすがに今日見た事に衝撃を受けたのかも知れない。

「オコジョとは誰だ?」

 初めて聞く名前である。

「ヤシガニが連れてきた女芸人さ。」

 イタチは、ぶっきらぼうに答える。

「それなら、テムチカンの人間なのか?」

 そう言えば、テムドの取り巻きどもは宴会に芸人をよく呼んでいた。アゲハも、元は宴会に呼ばれた踊り子だった事を思い出す。

「どうだろな。結構南の訛りがキツかったから、ワニガメに依頼されて連れて来られたんじゃ無いか?」

 ここでもやはりワニガメの名前が出る。奴はどれだけ周到にこちらへ進入しようとしているのか。ラオは少し薄寒いものを感じた。


「確かに、オコジョはバンブー様に寵愛を受けていると聞きます。彼女は美しく、踊りや歌など芸達者ですからね、バンブー様もお気に召していらした。確か側室に入る予定ではなかったですか?

 私はほとんど話したことが無かったのですが、なるほど、タチバナ王が警戒していた訳ですね。」

 ガルナンが何か納得したようにそう言った。

「ヤシガニに送り込まれた側室だと?あんた、それを怪しいとは思わなかったのか?明らかにバンブーを骨抜きにして、ジームスカンを混乱させようとしてるじゃないか!」

 流石にヤシガニの魂胆は見え見えである。横にいるガルナンも侮蔑の眼差しでイタチを眺める。

「オコジョは本当にいい女でさ。芸事が上手いのもそうなんだが、とにかく話が楽しい。バンブーの奴はすっかり彼女の言いなりだよ。俺も楽しかったからな、気遣いも出来て優しい女だったから、すっかり信用してしまったんだよ。

 俺たちは、タチバナ王からは嫌われていた。真面目なハチドリを見習えと、いつも小言を言われてた。そんな俺たちを正しいとオコジョは言ってくれたのさ。」

 イタチは自分たちが被害者だとでも言いたいのだろうか。ラオはイライラする。

「タチバナ王によく思われないのは、自業自得でございましょう。」

 ガルナンが厳しく言い放つ。

「あなたたちは国政を顧みず、いつも遊ぶことばかり考えていた。王宮を抜け出して、街で賭け事をしたり喧嘩をしたり、それを見て王がお怒りになるのはご尤もの事だと思いますが?」

 意外にもイタチは素直にその言葉を受け入れた。

「俺たちが愚かだったんだよな。今日の村の連中、俺のことを本気で憎んでいた。そりゃそうだよな、確かに俺がやった訳じゃないが、俺たちの行動が招いたのは間違いなくて・・・。」

 イタチという男は愚かで乱暴だが、人の痛みを感じる心は残っていたのかも知れない。それでも、彼の責任は重大である、決して許されるものでは無い。

「誰もアンタたちを許すことは出来ないんだよ。」

 ラオは、あえて冷たい声でそう言った。

「そうだな。俺たちは取り返しのつかないことをしてしまったのかも知れんな。」

 ここに連れて来られた時とは打って変わって、イタチは力無くそう答えた。


「ヤシガニとウミネコが、裏でワニガメと繋がっている事は間違いないようだな。テムドは何をしているんだ。ジームスカンだけじゃなくテムチカンまで危険に晒そうとしているのがどうにも解せない。」

 ラオには全く理解出来ない。 

「あんた、ハチドリと違って随分威勢が良いんだな。同じ王子様なのに随分違うもんだ。」

 イタチがボソリと呟いた。そして、何かを思い出したようにゆっくりと語り出した。

「タチバナ王が存命の時、港町のカントからの客人を招いた時があったんだ。その時、俺たちも同席していて、話を聞いていたんだけど、テムチカンの王はほとんど人前に出て来ないらしいな。元々人嫌いなところがあったらしいが、王位を簒奪して即位したと言うのに、それから後宮に閉じこもって出て来ないって噂だぜ?

 そして、バンブーが変わってしまったと言ったよなぁ。考え無しの俺から見ても、無茶な事ばかり言いやがる。そうかと思えば、一日中ボーッとしていたり、一体どうしちまったんだとヤキモキしてた。でも、今思えばオコジョが来てからなんだよなぁ。オコジョはヤシガニに送られたという蜂蜜酒をよく勧めてきたんだ。俺は甘い酒が苦手なんでほとんど飲まなかったが、バンブーは美味い美味いと良く飲んでいた。その時オコジョが言っってたんだ。『このお酒はテムチカンの王様もよく飲まれてますよ。』って。もしかしたら、俺たちはとんでもない奴に利用されていたのかも知れないな。」

 ラオは自分の頭から血の気が引いていく事を自覚した。唇がワナワナと震え出す。


「殿下、これは聞きづてならぬ話ですぞ!」

 ヒツジグモが叫ぶ。

「ああ、タージルハンのカワウソ殿、ジームスカンのバンブー、そして多分テムドも、皆同じように薬でおかしくなったのだろう。」

 全てはワニガメの策略なのだ。彼はウミネコとヤシガニを使いテムドたちを唆し、蜂蜜酒を使い彼らを意のままに操ろうと、動いていたのだ。


 ラオはもう一つ、前から気になっていたことを質問する。

「バンブーはなぜ王に即位しないのだ?てっきりタチバナ王を殺したことを隠蔽するためにそうしたのかと思っていたが、タチバナ王の死を隠す様子も無い。バンブー自身も王に即位する方がやりやすいだろうに、未だ即位する気配が無いのはどういう事だ?」

「そんなの俺が聞きたいよ!俺は何度も早く即位するように言ったんだぜ。なのに、今はまだ時期尚早だとかなんとか言ってはぐらかす。どうもオコジョが王太子のままの方が動きやすいとか、王になると自由が無くなって遊べなくなるとか吹き込んでいるんじゃないかって俺は思っている。

 蜂蜜酒を断って飲まないと言ってから、オコジョは明らかに俺を邪魔者扱いして来たしな。オコジョの言いなりになっているバンブーも、なんだか俺を遠ざけようとしていたんだ。だから、俺はバンブーの信頼を取り戻したくて、今回の大将に志願したのさ。」

 そう言うバンブーの顔は、少し怒っているように見えた。どうも今頃になって、オコジョへの不信感が確信に変わったかのようだった。

(今更気づいても遅いんだよ。)

 ラオは心の中でそう思う。


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