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暴君ラオ  作者: あーる
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ジームスカンとの戦い5

 出発してから次の日の昼を少し回った頃、田畑が広がる場所に出た。馬車が一台通れるぐらいの細い道の向こうに、一つの村を確認出来た。村は土塀に囲まれ、塀の中に家の屋根が見える。

「あれが一つ目の村か。結構頑丈な塀に囲まれているんだな。やっぱり国によって村の作り方も変わるのか。」

 ラオは、あまり見たことのない村の形に興味を持った。

「ここら辺は夜に大型の狼などが出るんです。夜行性の肉食動物から村を守る為に、結構頑丈な塀を作ることが多いですね。」 

 ハチドリがそう説明する。

「それは危ないな。狼を駆除するとかはしないのか?」

 ラオは素直に、やっつければ良いのではないかと言ったが、ハチドリは首を横に振る。

「確かに狼は危険ですが、彼らは農作物を荒らす鹿などを食べてくれる、ありがたい存在でもあるのです。狼を退治すると、余計に酷い事になる。」

 ハチドリの説明には驚いた。

「自然と言うものは、うまく出来ているものなんだな。」

 ラオは素直に感心する。


 村の正門に近づいた時、明らかな異変がある事に気がついた。

 まず、門扉が大きく外れているのが見え、その後門の前に人が一人倒れている。その人物は全く動こうとしない。遠目からもすでに息絶えていることが分かった。

「まずい!」

 ミミズクが慌てたように何人かを連れて、村の中に急いで入って行った。

 ラオはあまりに予想外の光景に呆然となったが、ミミズクの行動で我に返り、「ハチドリ殿!我々も急ごう。」と二人でミミズクの後を追った。


 村の中に入ると、そこには凄惨な光景が広がっていた。

 逃げ惑っていたところを斬られたであろう、あちらこちらに背中を斬られた無惨な骸が転がる。

 軍に取られて、成人の男が少なくなっていた所を狙われたのか、年寄りや子供、中には赤ん坊の死体もあった。ただ、女の死体はほとんど無い。多分奴隷として連れて行かれたのだろうと、ミミズクが辛そうに言った。

「酷すぎる・・・。」

 ラオは言葉が出ない。ハチドリも顔面蒼白で震えている。


「一体何が起こった!!」

 後から入って来た男たちの叫ぶ声が聞こえた。後ろを振り返ると、この村の出身だと思われる捕虜たちが、呆然と立ちすくんでいる。やがて家族のことを思い出したのか、慌ててそれぞれの家へと走り出した。

 しばらくすると、悲壮な顔をして男たちは戻って来る。顔を見るだけで、家族がどうなったのかが分かった。

 一人の男が泣きながら訴えてくる。

「俺たちが・・・、俺たちが何をしたって言うんだ。俺の子供はまだ乳飲み子だったんだぞ!それを・・・、それを・・・、それをあいつら壁に叩きつけやがった。あの子の成長が俺の生き甲斐だったのに・・・。」

 男はそこまで言って、地面に頭を擦り付けるように蹲り動けなくなってしまった。


「もしかしたら、一昨日の戦いの帰りにこの村を襲ったのか?」

 ラオは不安になり隣のヒツジグモに質問する。もしそうだとしたら、自分達の過失だと思う。

 大将を失い統率の出来ていない軍を、そのままの野放しにしておく事の危険性を考えたことも無かった。

 ラオがそう言うと、ミミズクが深く反省したような顔になり、「尤もだ。」と唸るように言った。

「いえ、いくつかの死体を確認しましたが、かなり腐敗が進んでいる。結構以前に襲われたのではないですかね。」

 ヒツジグモは状況を冷静に見ている様だ。

「殿下の心配もご尤もです。しかし、普通は傭兵に来た国の村なんて襲わないですよ。雇い主からの信頼が無くなりますから。だから、この現状はバンブーも黙認しているとしか考えられない。」

 ヒツジグモは恐ろしいことを言う。それを聞いたハチドリが卒倒しそうによろけた。隣にいたラオは慌ててハチドリを支え、続けてヒツジグモの見解を求めた。

「バンブーたちは、傭兵たちにわざと村を襲わせているとでも言うのか?」

「そこまでいかなくとも、徴兵で男がいなくなった村を教えている可能性はありますな。」

  ヒツジグモは鎮痛な面持ちでそう答えた。

「では、この村の男たちを徴兵して、抵抗される心配が無くなったのを良いことに、このような行いをしたと言うのか?なんて残虐非道なんだ!」

 いつもは穏やかなミミズクも、この現状には(はらわた)が煮え繰り返っている様だ。


「イタチを連れて来い!彼にこの現状を見せて、ジームスカンが何をしたいのかしっかり聞きたい!」

 ラオが側にいた兵士に命令した。

「奴に聞いて、どうなるのですか?」

 ずっと青い顔で呆然としていたハチドリが、理解できないとばかりに聞いてきた。

「ヤツが少しでも人の心を持っているのなら、この現状に何を考えるのか気になるな。」

 ラオがそう答えると、「反省するとは思えませんが・・・。」とハチドリが弱々しく呟いた。

「この申開きの出来ない状況で、奴を尋問するのは良い考えかも知れませんね。昨日、奴を見て思ったのですが、イタチは上から命令するだけで、自分の指示がどういう結果を招くのか、まるで分かっていないのかもしれません。自分達の命令が、この悲惨な状況を招いた事について、ぜひ意見を聞きたいものです。」

 アカホシは厳しい顔のままでそう言った。


 イタチが呼ばれ、村の中央にある広場に引き摺り出された。イタチはあちらこちに散らばる死体を目の前にして、目を背けた。

「まさか、こんなにひでぇとはな・・・。」

 そう言って絶句する。

「お前らのやって来た結果の一つがこれだよ。」

 ラオはイタチを睨みつつ吐き捨てた。

「俺は、こんな命令は出してないぞ!傭兵どもが勝手にやったことだろう!」

 イタチは反論する。

「碌に報酬も与えないで、兵士を放っておけばどう言う事になるか考えもしなかったのか?」

 ミミズクは静かだが、厳しい声でそう言った。

「俺たちが考え無しだったとでも言うのか?大体あんなクセの強いヤツばかりの南の奴らなんか、制御出来んだろうって俺は言ったんだ!なのにバンブーのヤツ、大丈夫だの一点張りで聞きやしねぇ。」

 イタチはバンブーに毒づいた。二人は親友でとても仲が良いと思っていたであろうハチドリが、不思議そうな顔をしてバンブーに問いかける。

「兄が、バンブーがあの傭兵たちを呼んだのか?おまえはそれに反対していたと?」

「アンタはなるべく避けていたから知らなかっただろうが、バンブーが王を殺める前、ヤシガニから頻繁に手紙が来ててな、それでクロヤノ族のワニガメに渡りをつけて貰ったんだ。

 当然、タチバナ王は大反対さ。でもヤシガニは口が上手いんだよ。それですっかり唆されて、タチバナ王まで殺めちまった。

 流石にやり過ぎだって、俺は言ったんだ。でも、バンブーの奴すっかり人が変わった様になってしまったよ。俺は親友だからさ、ちゃんとと側にいたかったんだよな。」

 意外にも、イタチは素直に心境を話し出す。この村の現状はイタチにとっても衝撃的だったのかも知れないと、ラオは妙に冷静でイタチを観察することが出来た。


「お前らのせいで、俺の家族は死んだんだ!」

 一人の男が大声で叫んだ。そして、道ばたに落ちている小石を拾い、こちらへ目掛けて投げて来た。さっき、子供が壁に叩きつけられたと泣いていた男である。

「やめろ!そんなことして何になる!」

 ラオが止めようとしたが、男は興奮して石を投げ続けようとした。

「やめろよ。お前まで殺されちまうよ。」

 同じくこの村の出身なのだろう。近くにいたもう一人の男が必死になって止めに入る。

「離してくれ!俺は・・・、俺は赤ん坊の敵を討ちたいんだ!」

 男はそう言って蹲り、また大きな声をあげて泣き出した。


「そこのイタチの大将さんはともかく、アンタらが悪いくないのはコイツだって知ってますよ。でもね、やっと村に帰って来てこの有様じゃあ、あんまりなんですわ。俺らはこのまま、村の人たちの弔いをしますんで、もうこの村から出て行ってくれませんかね。」

 投石を止めさせた男が、睨みつける様にそう言って来た。

「我らは、あなた方に支援したいと思っているのだが?」

 ミミズクがそう提案するも、男は静かに首を横に振る。

「今は、アンタらに関わりたくは無いんでさぁ。ハチドリ様、アンタ俺たちが不憫だと思うなら、どうかバンブーの野郎を討ち取って下さい。そして、南から来たヤロウどもを追い出して、元のジームスカンを取り戻して下さいよ。こんな酷いことが、ずっと続くなんてことはあってならないんでさぁ。」

 男は泣き笑いの様な顔で、そう言った。そして、「それまで俺たちのことは放って欲しい。だから、早くここから出て行ってくれ!今はあんたらの顔なんて見たく無いんだ。」

 その顔は、はっきりとこちらを拒絶していた。


 一行はなす術もなく、村を離れる。皆が鎮痛な面持ちで、誰も言葉を発することは出来なかった。

 野営地に戻ったラオたちは、よほど酷い顔をしていたのだろう。留守番をしていたクロヒョウが、「何があったのですか?」と心配そうに聞いてきた。

「村人が全員惨殺されていた・・・。」

 ラオはそれ以上自分の口からは言えなくなってしまった。ミミズクが変わって説明をする。

「そんなに酷い有様だったのですか?」

 クロヒョウが驚いたように聞いてきた。

「ああ、同じ人間があんなに酷い事が出来るなんて思えなかった。まだ若い殿下とハチドリ様にとって、かなりの衝撃だっただろうな。俺だってこんなに動揺している。」

 ミミズクは眉間を摘み、苦しそうに首を振りつつそう答えた。

「徴兵されて、帰って見れば家族が殺されて・・・、彼らの無念は計り知れないものがありますね。」 

 クロヒョウがそう言うと、ハチドリがびくりと体を震わせ、無言で俯いた。ハチドリにとって、今日の出来事は耐えきれぬものだったのだろう。





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