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暴君ラオ  作者: あーる
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ジームスカンとの戦い4

 宴の次の日、ミミズクの捕虜への取り調べが始まった。彼らの話を聞きたいと、ラオとハチドリも一緒に参加する。ジームスカンの兵士や南から来た傭兵も大勢いるが、半数以上の捕虜たちはジームスカンで徴兵された農民である。彼らはこれからどうなるのかと、不安気にラオたちを見ている。

「そんなに恐れないで欲しい。別に其方たちを奴隷にするつもりは無いのだ。出来れば希望に沿って行きたいと思っている。」

 ラオがそう言っても、到底信じることは出来ないと、彼ら口を閉ざす。

「テムチカンが俺らに何をしたのか分かっているのか?テムチカンからの無茶な要望のおかげで、ここ2年ほど、俺らの生活はめちゃくちゃだよ。確かにアンタのせいじゃないかも知れない。でもな、俺らにとっちゃ同じテムチカンの人間なんだよ。それを信じるなんて出来る訳ないだろ!」

 農民の怒りがラオの心を突き刺す。彼らにとってテムチカンは憎しみの対象でしかないと、痛感させられた。

 他にも、ハチドリの事が許せないと彼等は言った。バンブーの行いがあまりにも酷すぎたのか、王族への不信感がかなり強く、ミミズクが「ハチドリ様は国民のことを考えている」といくら訴えても、「王宮でぬくぬく育った王子様に、俺らの何が分かる。」と頑なな態度を崩さない。

「俺らは捕虜だ。こんな調書取っても、どうせ殺されるか奴隷として売られるかのどっちかだろう?お前らなんか信じられるか!」

 開き直っているのか、恐怖を誤魔化すために虚勢を張っているのか、どちらにしても話がまるで進まない。さすがのミミズクもお手上げだと、溜息をついた。


「アカホシを呼んでくれ。」

 ラオは近くにいた兵に頼む。

「アカホシ殿は、交渉ごとに長けていると言うことは聞いている。そうだな、俺とアカホシ殿で根気よく彼らの話を聞いていくさ。どちらにしても、彼等の心を開くのは長期戦になりそうだけどな。」

 少し疲れた顔をしてミミズクはそう言った。

「その前に僕は、正式に彼らに謝罪したいと思います。兄が怖くて彼らを見捨てたのは、他でも無い僕なのです。彼らの不信感の原因は僕にもある。」 

 ハチドリは小さな声で震えてはいるが、それでもはっきりとそう言った。

 ミミズクはハチドリに優しく微笑む。

「謝罪は是非にお願いします。ご自身の過ちを認めることは大変勇気のいる事です。でも、そう言うことが民の信頼関係に大切なことは間違いありません。」

 ハチドリは静かに頷いた。


 ハチドリが彼等の前に立った。顔は青ざめて、少し震えているのが分かる。一度俯き、深く息を吐いて前を向く。そして、静かに彼等に謝罪の言葉を口にした。

「僕は本当に卑怯者だった。僕しか兄を止めるものがいないと言うのに、僕は一時的にしろ国を見捨てて逃げ出した。

 あなたたちにどう償いをすれば良いのか、今の僕にはまだ分からない。それでも、僕はもう逃げる事は止めた。これからは貴方たちを守る為、命を賭けて戦う事を誓う。今は信じられないかもしれないが、どうか、僕は貴方たちのそばに寄り添っている事を覚えていて欲しい。本当に今まですまなかった。」

 ハチドリは深く深く頭を下げた。農民たちはまだ不信感を隠そうとはしなかったが、それでも王族がこんなに深く頭を下げた事には、驚いたようだった。

「正直、我々は王族に失望している。でも、タチバナ王が我らの為に骨を折ってくれていた事は覚えています。我々に、ハチドリ様を信じるための時間を下さい。そして、バンブー様を倒して南のヤツらを追い出して下さい。そうすれば、我々もハチドリ様のことを信じられると思います。」

 一人の男が農民を代表してそう言ってきた。他の者たちも大きく頷いている。

「それで十分だ。僕は必ずジームスカンを取り戻し、元の豊かな国に戻すことを誓う。」

 ハチドリはそう言って、もう一度大きく頭を下げた。

 ハチドリの目に涙が浮かんでいる。謝罪したことでほんの少しではあるが、彼等の心が溶かされた様に見えた。


「ハチドリ殿、立派だったよ。」

 謝罪の一部始終を見ていたラオは、心から感動した。

「いえ、彼らの信頼を取り戻すにはまだまだこれからです。殿下、これからも義兄弟として俺を見ていて下さい。僕は必ずやり遂げて見せます。」

 そう言うハチドリの顔は眩しく輝くように見えた。

「確かに彼らの信頼を取り戻すのは、並大抵の事ではありません。しかし、国民にしっかり謝罪出来る姿は、彼等の心を解かすきっかけになり得ます。本当に立派でしたよ。

 支配者の中には気位が邪魔をして、目下の人に謝罪をすることが出来ない人が多いのです。でも、自分の失敗を顧みることが出来ない者に、人は付いて行こうとは思いません。そう言う意味でも、ハチドリ様の謝罪は、大切な意味を持つのです。」

 アカホシは、ハチドリの謝罪を褒め称えた。

「ありがとう。そう言って貰えると勇気が出るよ。」

 緊張で強張っていたハチドリの顔に、やっと笑顔が戻る。


 ハチドリの謝罪の後、少しずつではあるが捕虜たちの調書を進めることが出来る様になった。

 彼等の多くは、このまま処刑されると思っていたらしく、これからどうしたいかと希望を聞かれて驚いている。アカホシとミミズクは、その誤解を解く所から始めた。

「貴方たちは、ジームスカンの大切な国民なのです。我らはジームスカンを侵略するのが目的ではありませんよ。ハチドリ様の要請を受けて、今のバンブー政権を打倒するのが目的です。ですから、貴方たちにも豊かに暮らして頂きたい。国民が豊かになって初めてジームスカンの復興が叶うのです。

 もちろん、貴方たちにもしっかり働いていただいて、ハチドリ様と一緒に国を豊かにするお手伝いをして頂きたいのです。」

 アカホシは、根気良く穏やかに捕虜たちの話を聞き、説得を始める。


 捕虜になった者たちの多くは、自分の村に帰ることを希望した。

「やはり、家族が心配なのだろう。こちらとしても、捕虜を受け入れるには限界があるし、彼等を帰還させて行くのが良さそうだ。しかし、ジームスカンの治安は、とてもじゃないが良いとは言えない。それぞれの村を警備する兵士が必要だ。

 そこでハチドリ様に臣従を誓うことを条件に、捕虜になった兵士たちに村々を警備してもらうのはどうだろうか?」

 ミミズクはそう提案して来た。

「敵兵だった者を信用しても良いものなのか?」

 ラオは素朴に疑問を持った。

「ハチドリ様がこちらにいる事を知らず、訳も分からず戦いに参加した者が結構多くいました。みな、ハチドリ様がこちらの総大将である事に驚いていましたよ。どうも、軍の末端の者には状況を伝わっていない様ですね。もしかしたらわざとそうしている可能性もあります。

 アーギタスに来ていた兵士たちは、それよりも少し身分は上で情報に触れることが出来た様です。小隊を率いた経験を持つ者を多かったので、彼等に任せて、村の警護をして貰うのは、いい考えだと思います。」

 アカホシが、ラオの懸念を晴らしてくれた。

「それは良いな。そうしよう。ハチドリ殿はどう思う?」

 ラオは目を輝かせ、ハチドリに同意を求めると、ハチドリも賛成だと言ってくれた。

「ここらかジームスカンまでの通り道でもありますし、僕も実際の村の様子を見てみたい。」

「では、その方向で調整していきましょう。」

 クロヒョウがニッコリと笑い、避難して来た兵士たちへ話を通してくれると言ってくれた。


「村の数はどれぐらいだ?幾つぐらい小隊を編成すればい?」

 ラオがハチドリとガルナンに質問する。

「ジームスカンの王都から南には、約30の村と4つの小さな町があります。今の状態は分かっていませんが、ここから北東にあるセイムの町は、周囲を川とい低い山に囲まれて防御面は悪くないと思います。しかし、後の3つの町は、10人も満たない警備兵がいるだけでした。」

 ハチドリは迷うこと無く、地図の上に町や村々の印をつけて行く。

「ハチドリ殿、よく覚えているな。」

 ラオが驚いていると、横からガルナンが教えてくれる。

「ハチドリ様は、国中の人たちの情勢をしっかりと把握出来るように、常日頃から人を送って調べているのです。それはタチバナ王の政務にも大変役に立つと、いつも誉められていましたよ。」

 ハチドリは、やっぱり武力より頭の良さで戦える者なのだと、ラオは感心する。彼が長男であったなら、タチバナもさぞかし安心していられただろう。

(もしかしたら、バンブーという男はハチドリのそう言うところを、妬ましく思っていたのかも知れない。)

 ラオはなんとなくそんな事を考えてみた。


 夕方になり、イタチへの聴取をとっていたミミズクから、気になる情報を聞かされる。

「ジームスカンは傭兵への報酬を渋っているらしくてな、それを不満に思っている傭兵どもが、近くの村に略奪をしているという噂があると言っている。」

 それを聞いたハチドリの顔が真っ青になる。

「どう言う事ですか?王宮はそれを許していると言う事ですか?」

 噛みつかんばかりに、ミミズクへ詰め寄った。

「ハチドリ殿、叔父上に言っても仕方ないだろ?ちょっと落ち着け。」

 ラオがそう言うも、ハチドリは動揺を隠せない。

「これが落ち着いていられますか!なぜ罪もない国民に、自分たちの怠惰な政治の失敗を押し付けているのか?」

 ハチドリは殆ど泣きそうである。

「まさか、ここまで酷い事になっているとは・・・、殿下、一刻も早く出発致しましょう。」

 ヒツジグモも、許せないと拳を握った。

「確かに、一刻の猶予もなさそうだ。急がねば農民たちの被害が広がるは目に見えている。叔父上、イタチの話も詳しく聞きたい。彼も同行させましょう。」

 ラオがそう言うと、「そうだな。」とミミズクも頷いた。

「では、明日夜明けと共に出発しましょう。」

 ラオはそう言って、各部署へ伝達する様に指示を出した。

 




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