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暴君ラオ  作者: あーる
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ジームスカンとの戦い3


 ハチドリは、ジームスカン兵が降伏するのを複雑な顔で見ていた。多分、戦いが終わって安堵したのと、総大将の自分ではなくラオが戦いを収めた悔しさが表情に表れているのだろう。

 それは、自分が今まで感じていた悔しさと同じ気持ちなのだと思った。ラオも、周りの経験豊かな者たちに助けられた感謝の気持ちと、自分の未熟さへの苛立ちに、ラオも素直に喜べない時が多々あった事を思い出す。

「殿下、流石でございます。それに比べて僕は・・・、頭に血が上り冷静になれませんでした。」

 ハチドリが項垂れる様に言って来た。

「いやいや、こんな大掛かりな戦いが初陣で、しかも総大将という大役を見事になされましたよ。」

 クロヒョウがそう言って褒めても、ハチドリは納得していなさそうである。


「俺の初陣は、もっと頼りなかったぜ。高い(やぐら)の安全な所から声を出していただけだ。それも人が死ぬ所を目の当たりにして、貧血を起こしそうになった所を、オニヤンマに支えられたという情けなさだ。

 ハチドリ殿は、周りの守りがあったとは言え、自身の剣でしっかりと戦っていた。俺は立派だったと思うよ。」

 ハチドリがハッとした顔をする。初陣ではラオもやはり怖かったのだと、ハチドリは思い至った様だった。

「誰でも、初陣となれば恐ろしいものなのですね。」

 肩の力を抜きつつ、ハチドリはため息と共にそう言った。

「我らでも戦は恐ろしいですよ。でもそれは大事なことだと思います。その恐ろしさを忘れると、人を人とも思えず相手を斬り殺しても、何も感じなくなってしまう。それではまるで鬼か何かで、人間の域を超えてしまいます。

 何事もそうですが、戦にも経験という物が必要となります。初陣の時から完璧にされてしまいましたら、我らの立つ背がありませんな。」

 ヒツジグモが笑いながらそう言った。ハチドリは納得できたのか、「そうですよね。」と言いながら何度も頷いた。

  

 野営地に戻った時、空はすっかり暗くなって夜になっていた。

「みんなよくやった。おかげで、敵に大勝利出来て嬉しい限りだ。今日は酒を用意いたから、無礼講で楽しんでくれ!明後日からはジームスカンの王宮に向かい、また移動が始まる。それまでゆっくり休んで、疲れを取っておく様に。」

 ミミズクが兵士たちを労って、皆が歓声を上げた。

「ハチドリ様!今日はご立派でございました!」

 兵士たちがみな褒め称えるので、ハチドリは困った顔をする。

「いやいや、僕はまだまだ未熟で、皆の足を引っ張らない様にするだけで精一杯だったんだよ。」

 眉毛を八の字に下げながら弁明するハチドリに、「そんなこというもんじゃないぞ。」とラオは言った。

「誰かに褒められたら、その言葉は素直に喜ぶってのも王族の勤めだと、俺の父がよく言っていたよ。いや、王族だけの話じゃないよな。誰だって、人の好意は無邪気に喜ぶ方が生きるのが楽しくなると思うぜ。」

 ハチドリは目を丸くしてラオの言葉を聞いている。

「そういうものなのですか?」

 そう聞いてくるハチドリに、思わず笑顔になる。

「顔を顰めてるより、笑顔の方が自分も周りも幸せだろ?そう言うもんだと思うよ。」

 その言葉は、思いの外ハチドリの心に刺さった様だった。

「ありがとうございます。」

 そう言って頭を下げるハチドリの行動に、ラオは戸惑いつつも、笑って見せた。

 ハチドリは、自分の行動に自信が持てないのだろう。始めに国から逃げ出したという負い目もあるのかもしれない。だから褒められて素直に喜ぶと言った、簡単な事にも戸惑ってしまうのだ。

 それでも自分の自信を取り戻そうと、ハチドリは必死に頑張っている。その姿に、彼の助けになりたいと本気で思った。

 

 戦いに勝利した夜の宴は夜遅くまで続いた。

「まだ先があるのに、こんなにはしゃいでも大丈夫なんでしょうか?」

 ハチドリが少し心配そうに聞いてきた。

「ハチドリ殿は真面目だな。みんな緊張していたから、しっかり結果が出た事に喜んでいるのだろう。」

 ラオにそう言われても、「羽目を外しすぎるのが少し心配です。」とハチドリは眉を顰める。

「これぐらいは大丈夫ですよ。それにこう言った場所でお互いの友好を高めることはとても大事なことなんです。」

 そばにいたヒツジグモが、話に入ってきた。

「どう言うことですか?」

 ハチドリは納得していない。

「ハチドリ様も、今日の経験で感じたでしょうが、戦場という場所は緊張の連続です。文字通り命懸けなんですな。仲間に自分の命を預けながら前に突っ込んで行かなければならない。だからこういう席で友好を深め、信頼を築き上げて行くことは、強い軍を作る時に欠かせないのです。

 そして、忠誠心を養う為にも有効な手段でもありますな。ここで締め付けるような事をすれば、指揮する者たちへの不満や不信感にも繋がる。身分に関係なく一緒に盃を酌み交わすということは、本当に大事なことなんですよ。こう言う時に大盤振る舞い出来るミミズク殿は、それがよく分かっていらっしゃる。」

 ヒツジグモの説明に納得できた様だが、それでもハチドリの表情は優れない。

「僕は本当にこういう場所が苦手なんですよ。王宮でも宴の時は極力逃げていたぐらいで、どうすれば良いのでしょうかね。」

 情けなさそうな顔で、告白して来た。

「ハチドリ殿は人見知りが激しいのだな。でも、王になるとそう言う訳にも行かないぞ?」

 あんまり情けない顔をするので、思わず揶揄う様に言ってしまったが、本人は悲壮な顔で訴えて来る。

「本当にそうんなんです。本気で国を纏めたいとは思うのですが・・・、はっきり言って自信はありません。」

 少し泣きそうな顔になるハチドリに、ガルナンが優しく微笑んだ。

「大丈夫ですよ。私やクスノキ殿、それに今は冷遇されているであろう、大臣たちが側にいますから。」

「本当に頼りにしているんだ。心からお願いするよ。」

 手を合わせてお願いするハチドリの姿がなんとも愛おしい。ラオは兄弟がいないが、もし弟がいればこんな感じなのかも知れないと微笑んだ。


「ハチドリ殿。俺と義兄弟の契りを結ばないか?」

 ラオの口から自然にその言葉が出た。ハチドリは目をまん丸にしてラオを見つめた。

「僕みたいに頼りにならない者が、ラオ殿下の義兄弟にですか?」

「俺はハチドリ殿の、真面目で自分の弱さを正直に告白出来るところが気に入った。自分の弱さを自覚しているということは、これからいくらでも強くなれる事だと思う。俺たちは心からの信頼を築けると思うんだ。」

 ラオは真剣にそう思っている。

「殿下とハチドリ様は真逆の性格だと思いますが、それだからこそお互いを理解すればとても良い関係が築けるのかも知れませんね。」

 アカホシが、二人の義兄弟の契りを祝福したいと拍手を送った。ハチドリはまだ状況が摘めないと言う顔で、ラオの真意を確かめようと恐る恐るこちらを見ている。


 この義兄弟という概念はこの南大陸独特のものであり、セキバのような幼馴染には使わない言葉である。違う国の王族同士など、お互い立場が違う者同士が友情を育み協力して行こうと、契を交わす習慣である。

 同盟の様な意味合いもあるが、どちらかといえば個人的な関係性を言う。それでも、権力者の義兄弟の契りとなると、それは国政にも大きく影響されることとなる。そして一度契を結ぶと、よほどのことが無い限り解消される事は無い。それゆえに、義兄弟の契りを結ぶと言う事は、責任と覚悟が伴うものなのである。

 かつて、ロジュンが交わした義兄弟の契りのおかげで、今でもアケボノはラオを助けてくれる。

 マーマタンのアケボノ、タージルハンのヤマネコ、そしてテムチカンのロジュン。この3人は滅多に会うことは無かったが、それでも会えば本当に嬉しそうに再会を喜んだ。心を許し合える友であり、お互いに切磋琢磨出来るその関係性を、幼いながらにもとても羨ましいと思っていた。

 

 確かにハチドリは、ラオの目からもまだまだ未熟で頼りない。それでも、ジームスカンの兵が傭兵に斬られた時、我を忘れて飛び出した事に、ハチドリの王者としての責任感のようなものを感じることが出来た。

 冷静に見れば、単騎で敵に飛び込むなど、狂気の沙汰であろう。しかし彼は、自国の民が理不尽に殺される事に我慢できなかったのだ。自分の命を顧みず、国民を守ろうとするその姿勢にラオは感動したのだ。

「僕は、・・・無鉄砲な事をしたと反省しています。殿下が来てくれなかったら、僕は死んでいたと思います。そうすればアーギタスの大義名分は消え去り、ジームスカンはどうなっていたのか分かりません。そんな僕が、殿下の義兄弟だなんて、烏滸(おこ)がましいと思います。」

 ハチドリは、泣きそうな顔で訴えてくる。

「確かにあの行動は、褒められたものじゃないさ。でもね、自制が効かないほど民を想っているあなたの心に惹かれたんだ。俺もまだまだ経験が浅く、周りに迷惑をかけたり怒られたりしているさ。でも、人の意見は素直に受け入れるようにしている。ハチドリ殿もそうだろう?自分の非をしっかり受け止めている。

 俺たちはまだまだ未熟で、周りに助けがないと何も出来ない。だからこそ、お互い成長できると思うんだ。だから、俺と義兄弟になってください。」

 ラオはそう言って、深々と頭を下げ握手の手を差し出した。

「そこまで、僕を信頼していただけるのなら・・・、」

 ハチドリも頷き、ラオの手を握り返した。


「これはめでたいな!」

 ミミズクが嬉しそうに手を叩くと、皆が一斉に大きな拍手をして二人の義兄弟の契りを祝福してくれた。

「なんだか、恥ずかしいもんだな。」

 みんなの祝福に、二人は照れながら礼をした。



 

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