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暴君ラオ  作者: あーる
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ジームスカンとの戦い2

 小高い崖の両側より、矢が雨の様に降り注ぎ、ジームスカン軍が混乱している。


 冷静にそれを見ていたクロヒョウがハチドリに号令を促した。頃合いを掴めずにいたのだろう、ハチドリが慌てて号令を出す。

「今だ、突っ込めー!!奴らの殆どは、バンブーの手の者か南の傭兵である。遠慮することはない。叩きのめせ!但し、降参する者には手を出すなよ。安全な場所へ案内しろ!」

 ハチドリが的確に指示を出す。

「横にクロヒョウ殿が控えているとは言え、ハチドリ様は実に堂々としておられる。」

 戦い前のあの怯えた姿からは考えられないと、ヒツジグモが呟いた。

「ハチドリ様は、しっかり覚悟を決めたんだろうな。彼は良い王になれるでしょうね。」

 アカホシも同感だと、ニッコリと笑った。


 右側の崖の上にミミズクの姿が現れ、手を挙げて救護班の準備が整っていることを合図して来た。それを見たラオが、兵士たちに大声で指示する。

「負傷者は敵味方関係なく、隊の横に避難させろ!」

 歩兵達の中の何人かが、怪我人を集めて脇に寝かせる。すると岩の隙間に隠れていた他の兵士が、その怪我人を運び始めた。

「オニキス夫人が、この戦に同行して頂いて本当にありがたいことです。」

 ラオの近くで怪我人を保護している兵士の一人がそう笑いかけてきた。

「叔母上がいれば、本当に安心して戦える。」

 ラオも嬉しくなり、笑い返した。

「それにしても叔父上は、しっかりと状況を見ておられる。敵がこちらに迫れば矢を撃ち、下がれば止める。これなら敵兵の被害も最小限に出来そうだ。」

 ラオは大満足である。

「敵とはいえ、ハチドリ様の大事な国民ですからね。普段農業をしている所を、無理矢理徴兵された者もいるはずです。彼らに敵意があるわけではありませんからね。」

 アカホシがそう言うと、「全くだ。ある意味一番の被害者なのかも知れん。」とヒツジグモも同情的に応えた。


 敵将のイタチが、周りに怒鳴り散らしている。

「これぐらいの矢で逃げるな。逃亡は死罪だぞ!」

 いくら叫んでも、敵兵たちは聞いていない。農民だと思われる兵が我先にと軍の後ろへと走り出した。

 しばらくすると、「ぎゃー!!」と恐ろしい声で叫ぶ声が聞こえた。驚いてそちらを向くと、傭兵らしき者が容赦無く逃亡兵に切り付けているのが見える。

「おい!何をする。味方に刃を向けるとは正気か?」

 驚いたラオは思わず大声で叫んだ。

 敵軍はますます混乱を極め、誰も統率など出来そうにない状態である。

「不味いな。敵が自滅するのはいいが、余計な被害が出る。」

 ヒツジグモが顔を曇らせる。


「無理やり参加させられた我が民が殺される!」

 ハチドリが、我慢できないと言うように単騎で敵陣の奥へと突っ込んで行く。

「やばい!・・・仕方ない、俺らも後に続くぞ!」

 ラオも慌てて後を追う。

 ラオとその周りに居た兵士たちが、ジームスカン軍の中央を貫くように突進する。ラオがハチドリに追いつき、剣を抜いた。

 向かっってくる敵に剣を振り下ろす。その隙をつかれ、相手の槍が頬を掠めてヒヤッとするが、避けざまに相手の首を目掛けて剣を突き刺すことが出来た。

「一人倒した。」

 ラオはゼイゼイと息を荒げ、尚も敵兵めがけて斬りつける。周りを見る余裕など無かったが、それでもハチドリが気になる。

「我が民を守るのだ!」

 ハチドリは何度も何度もそう言って、無我夢中で剣を振り回している。いつの間にかヒツジグモがハチドリを守るように横についているのが見えた。こちらに気が付いたのか、「殿下の側を離れまして申し訳ございません!」と叫んで来る。

「俺は自分でなんとかするから大丈夫だ。なんとしてもハチドリ殿を守るんだ!」

 ラオがそう応えると、ヒツジグモはしっかりと頷いた。


 しばらくは、ただ向かってくる敵に剣を振り下ろし、我を忘れて戦っていたラオだが、馬で相手を蹴散らしているうちに、だいたい状況が分かっていた。ラオは肩で息をしながら、冷静に周りを判断する。

 ハチドリも少し頭が冷えてきたのか、ヒツジグモの指示に素直に従っているようだ。救助係の歩兵もちゃんと機能しているようで、安心した。

 しかし、敵は今だに混乱の中にいて、イタチの怒号が響き渡っている。中には敵と味方の区別もつかなくなっったのか、味方に剣を振り下ろす様な者さえいた。

「敵はかなり混乱している様だ。ハチドリ殿が動いて焦ったが、作戦はうまくいきそうだな。」

 ラオは独り言を言う。不思議なもので、自分の言葉で本当に大丈夫だと確信が持てた。


 激しい斬り合いが続く中、敵の後方から大きな銅鑼の音が鳴った。イタチが驚いたように後ろを振り向く。

 そこにはニシカゼが率いる、3000騎もの騎馬兵の隊列がいた。

「敵の中で逃げたいものは逃がしてやれ!こちらに刃向かう者には、徹底的にぶちのめせー!」

 ニシカゼの大きな号令がこちらにまで届く。

 罠にかかったことに気がついたのか、イタチの顔が真っ青になっていくのが分かった。ジームスカン軍はますます混迷を深めていく。

「ジームスカンの諸君!我々は逃げる者降伏する者に、手を出す気はない!右手を挙げて投降すれば、速やかに避難場所へと誘導する!しかし刃向かうものには容赦はしない。それでも良いのならかかってこい!」

 ニシカゼが敵兵に向かいそう吠えた。


「逃げるのは許さんぞ!」

 イタチも負けずと吠え返す。

「イタチ!お前の軍はもうダメだ!観念して降伏しろ!」

 ハチドリが呼びかけるも、「うるさい!数では負けていないのだ!逃げるな戦え!」と頭に血が昇っているのか、状況を理解しようとしない。

 ラオはその様子を冷静に判断していた。よく見るとイタチの近くに敵兵は少ない。どうも混乱でイタチを守るどころではないらしい。


「クロヒョウ、俺はイタチを取るぞ!」

 ラオはそう叫び、イタチの正面へ躍り出た。

「誰だ!」

 イタチが叫ぶと同時に、ラオが剣を真正面に構え、そのまま馬で突っ込んだ。剣がイタチの肩を貫く。

「ギャー!」

 イタチが落馬して悶絶している。そこへ近くにいた歩兵たちがイタチの身柄を確保する。イタチの乗っていた馬が、恐怖の為か周りの者を蹴散らしながらどこかへ走って行った。

 痛さのせいか足をバタバタさせて暴れていたイタチも、数人で押さえ込まれ、やがて静かになった。

 それを見ていた敵の兵たちは呆然として、明らかに戦意を失った様だった。

「大将の身柄は押さえたぞ!お前らこのまま降伏しろ!命は保証する!」

 ラオが叫ぶと、兵たちはゾロゾロと手を上げ始め、降伏の意思を示し始めた。

 こうして戦いは、終わった。


 終わってみれば、こちらの死亡者が48人に対し、敵側は512人、捕虜が約2000人とこちらの圧勝であった。

 あちらこちらに散らばる死体を見て、ラオは悲しい気持ちになる。

「戦に勝ったとは言え、死んだ者たちを見るのは悲しく虚しいものだな。」

 誰に言うでもなくポツリと呟くと、聞こえていたのかヒツジグモが「そうですね。」と答えた。

「だから、戦いの準備は大切なのです。敵味方関係なく被害を最小限に抑えることが、戦いの後に響いてくるのですね。どうか、今の気持ちを忘れないでください。殿下がそう思ってくれるなら、我々もどこまでも付いて行こうと思えるってもんです。」

 ヒツジグモはそう言って、優しく笑ってくれた。


 救護用のテントに1000人以上の兵士が担ぎ込まれたと報告が上がる。

「叔母上が大変だな。」

 怪我人の数を聞いてラオは目を丸くする。

「衛生兵はかなりの人数を連れて来ていますからね。オニキス夫人なら大丈夫ですよ。」

「すごい信頼だな。」 

 大丈夫だと言い切るクロヒョウに、ラオは感心する。

「意外にもアーギタスは、地震や嵐による水害など自然災害が多いのです。何年かに一度は大きな被害が出る。その度にオニキス夫人が陣頭指揮をとって我々を助けてくれたのです。アーギタスの民は皆、心からオニキス夫人に感謝していますよ。」

 クロヒョウは誇らしげにそう言った。

「叔母上の働きもそうだが、ここまでの軍隊を用意出来るアーギタスの経済力も凄まじいものがあるな。そりゃテムド叔父の取り巻きたちが、喉から手が出るほど欲しがる訳だ。」

 ラオが唸りながらそう言うと、「あのご夫婦は我らの誇りですよ。」と、クロヒョウはますます嬉しそうに笑う。 

「アーギタスは独立してもおかしく無いほどの力があるのに、俺に対して忠義を示してくれているの。本当に感謝の気持ちでしか無いよ。もし、アーギタスが独立して南の大陸の派遣を狙い始めたら、今の俺では太刀打ちできないし、大陸全体がとんでも無いことになる。」

 これはラオの本音である。


 マーマタンのアケボノもそうだが、ミミズクも覇王になれる力があると思っている。それなのに、こんな若造のラオを盛り立ててくれていることが、不思議に思うことがある。確かに、母方の親戚で子供の頃から可愛がってくれてはいた。しかしテムドやバンブーの様に、家族であろうと容赦なくその地位を脅かす者を目の当たりにすると、血の繋がりと言うものは、あまり当てには出来ないような気もする。

 この忠義心は亡き父の人徳によるものなのか、そう考えると自分の力の無さが歯痒い。ヒツジグモやオニヤンマなんかは、まだ若く経験が少ないので仕方ないと慰めてくれるが、それでもやはり焦ってしまう。

「何があっても動じない、そんな知恵と勇気がもっと欲しい。ちゃんと一人で決断できる強い王に俺はなりたい。」

 ラオはまだまだ強くなりたいと心から思う。



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