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暴君ラオ  作者: あーる
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戦の準備3

 各地からの報告を吟味した上で、アーギタスの戦への方針を練って行く。ラオたちは毎日兵舎を訪れ、軍の上層部たちと話し合った。


 アーギタス軍の常駐は約1万人、この規模の都市としてはそんなに多くは無い。しかも、総督であるミミズクの圧倒的な交渉力で、今まで大きな戦を経験したことが無かった。それでも軍備を怠ることも無く、数は少なくても、厳しい訓練で精鋭たちを育ててきた。それに加えて、間者たちを駆使して情報を集める事にも余念が無く、戦い慣れたニシカゼから見ても、かなり手強い軍隊に感じるようだ。


 アーギタスの総司令官のクロヒョウという男は、なかなか冷静沈着な男で、ラオたちの持って来る作戦を細かく分析してくれる。

 そのクロヒョウが気になる事を教えてくれた。

「ジームスカンからの報告によりますと、こちらの想定より軍備は進んでいる様ですね。どうも、南の部族らしい兵士もチラホラ見かける様です。ハチドリ様にお聞きしたいのですが、ジームスカンは昔から傭兵を雇うような伝統があったのですか?」 

 クロヒョウの指摘にハチドリ首を捻る。

「そんな話は聞いた事が無い。」

「もしかしたら、テムチカンのウミネコの仕業かもしれないな。」

 ラオは、ミミズクがウミネコとクロヤノ族のワニガメが繋がっている可能性を言っていた事を思い出した。

「なるほど、これは少し厄介かもしれませんな。」

 ヒツジグモが難しい顔で唸った。

「もう少し綿密に作戦を練ったほうが良さそうですね。」

 そういうニシカゼの顔も少し引き攣っている様に見えた。


 他にも、ジームスカンからの気になる報告はいろいろ上がって来ている

「この二日程で、ここアーギタスに逃げてきた者たちが増えて来ている。ジームスカンの治安は急激に悪化してきている様だな。

 税に苦しむ農民たちが、生活の為に窃盗団を組織しているとも聞くし、南から来たであろう者たちが、市中で乱暴を働いているとも聞く。だが、不穏な空気の市中に対して、王宮は不気味に静まり返っているらしい。一体何をどうしたいのか、まるで分からんな。」

 ミミズクが難しい顔をして、ジームスカンの街の様子を伝える。

「ジームスカンの都は、音楽が流れあちらこちらで文学の議論が聞こえるような、文化の中心でありました。その華やかな都がそんな風になっているだなんて・・・。」

 ミミズクの話に、ハチドリが絶句する。

「無茶な税の取り立てをしているから、国民が煤さんで行くのでしょう。ジームスカンを取り戻したとしても、前の豊かな国に戻すのは時間がかかるかも知れませんねぇ。」

 クスノキが溜息をつく。彼は最近杖で歩行が出来るようになり、兵舎の話し合いにも毎回参加している。彼はジームスカンの行末を嘆いている様だった。


「アーギタスに逃れてきた者たちはどこにいるのですか?僕はその者たちと会わねばなりません。」

 ハチドリが面会を希望する。

「それは是非、顔を出して頂きたい。今、500人ほどが、港近くにある仮設住宅に避難しています。生活に困る様なことは無いはずですが、やはりジームスカンの行く末に、皆が不安がっておりますから。後で案内いたしましょう。」

 ミミズクがにっこりと微笑んだ。

「その者たちは、やはり農民が多いのか?」

 今度はラオが質問する。

「農民らしい者はそんなに見かけないな。元々王国の兵士だったが今のバンブー政権に逆らい、投獄されそうになった所を逃げてきたと言う者が結構いる。まだ俺も、詳しくは聞いていないが、ハチドリ様がここにいると聞いて、ここににやって来たと言っているとか。彼らにもしっかりと話を聞く必要があるな。」

「僕が居るから、ここに来たのですか?」

 ハチドリが意外そうに聞いてきた。

「貴方様とジームスカンを取り戻したいと、決死の覚悟でここに来たのですよ。」

 ミミズクがニッコリと笑った。

「ソテツと言ったか、クスノキ殿を逃がしてくれた者と言い、ジームスカンにも気骨のある兵士が多いのだな。」

 そう言う者がいると言うだけで、力が湧いてくる。

「軍事的にあまり強い印象はありませんでしたが、それでも命を賭けて大事なものを守ろうとする者がいると言うのは、心強いもんですな。」

 ヒツジグモも同じ様に思っていたのか、嬉しそうに笑った。


 昼食の後、ラオはハチドリに同行して、ジームスカンの難民の避難場所を尋ねる事にした。

 港近くに、簡易な住居が所狭しと建っている。ジームスカン難民を受け入れるために、大急ぎで建てられたその家々は、少し狭くはあったが親子4人ぐらいなら快適に暮らせそうで、難民たちの表情は思いの外明るかった。

 仮設住宅の中心にあるちょっとした広場に皆は集められ、ハチドリが皆の前に姿を現す。

「皆が、思いの外元気なようで安心した。兄のバンブーの暴挙を許してくれ。兄に代わって謝罪する。」

 ハチドリがそう言って頭を下げる。王族が頭を下げたことに難民たちはひどく驚いた様だった。


「まさか私たちの所に来て頂けるとは、誠に光栄でございます。私はここの纏め役をしている、ナナフシと申します。」

 ナナフシと名乗る初老の男が、深く頭を下げて挨拶をした。ジームスカンの衣装である、袖なしの羽織と幅の細い袴を着ている。元々は鮮やかな色をしていたのだろうが、今は色は褪せ、所々にに綻んだところが見える。見渡してみると、みんな同じように古着を修理しながら来ている様だ。

 テムドが、ジームスカンへ圧力を掛け始めて2年近くになる。その間にジームスカンの生活はこんなに酷いものになっていたのかと、ラオは情けなさと申し訳なさで苦しくなった。

「俺の叔父のせいで、皆に苦労をかけている。本当に申し訳ない。」

 ラオがテムドの非道を詫び、そして声高らかに宣言した。

「俺はこのアーギタスと共に、ハチドリ殿のジームスカン奪還に協力することを誓う。」

「僕は兄を恐れ、ジームスカンから逃げ出そうとしてしまった。。今まで僕は弱虫で卑怯者だったと思う。でも、僕は戦うことを選んだ。民を苦しめる今のジームスカンを、元の豊かな国へと取り戻すんだ。その為にも、そなたたちの力が必要だ。みな、僕に力を貸してくれ。」

 ハチドリがラオに続けてそう宣言すると、大きな歓声が起こった。

「一緒に戦いましょう。」「我々はハチドリ様を信じます。」

 皆が口々にそう言ってくれる。

 ハチドリは感動で涙を流しながら、「ありがとう。ありがとう。」と何度も礼を言った。

 ジームスカンで兵士をしていた難民は、200人ほどと結構な数がいた。彼らはアーギタス軍へ志願してくれ、今のジームスカン軍の現状を詳しく教えてくれた。

「この情報は、とてもありがたい。」

 クロヒョウが喜びながら、彼らを丁重に受け入れた。


「やはり、ジームスカンへは真正面からぶつかるほうが良いかも知れないな。なるべく街の外で決着をつけて、王都の被害は抑えたい。」

 ラオは腕を組みながら、そう提案した。

「前の戦いでもそうでしたが、殿下は民の被害をなるべく抑えたいのですね。」

 ヒツジグモが頷きながら、ラオの意見に賛成してくれた。

「ジームスカンにあるのは王宮で、トルガを攻めた時の様にはいかないでしょうから、なるべく市街戦は避けたいのは俺も同じです。下手に被害を大きくすると、そこには怨みが残りますからな。後でハチドリ殿が苦労することにもなります。」

 オニヤンマがそう言ってハチドリの方を見た。

「ハチドリ様も、自国の民を傷つけたくはないでしょう。ただ、王都の民たちは王宮派と反王宮派で分裂しているとも聞きます。それを纏めていくお覚悟はありますかな。」

 真剣なオニヤンマの眼差しをしっかりと受け止め、ハチドリは頷いた。

「もちろんです。僕はラオ殿下のように勇気はありませんでしたが、ジームスカンの王族という誇りは持っています。どんなに困難でも国を建て直す事に人生をかけてでも挑みたい。クスノキ、ガルナン、僕を助けてくれるか?」

「しばらくの間に、本当に逞しくなられました。ハチドリ様のお役に立てるよう、このクスノキは命をかけましてもお仕えいたします。」

ハチドリの言葉に感激したようで、クスノキは涙を流しながら頷いた。

 

「やはり総大将はハチドリ様しかあり得ませんな。」

 オニヤンマにそう言われ、ハチドリは顔面蒼白になる。それを見ていたヒツジグモが心配そうだ。

「ハチドリ様、そんなに怖がられては兵士たちに恐怖が伝染します。」

 ヒツジグモの気持ちも分かるが、ハチドリはどうやっても総大将向きではない。しかし、彼はジームスカンの王子なのだ。ラオはハチドリに少し同情してしまう。

「副将の俺が、ハチドリ殿から離れないようにするのはどうか?」

 二人が一緒にいるのは危険だとは思いつつ、そう提案してみた。案の定ヒツジグモは渋い顔をする。

「お二方が一緒にいるのは、敵に狙いを決めさせるだけであまりにも危険です。」

 そんなことは分かっている。しかし恐怖に震える総大将を置くよりはマシなのでは無いかと、ラオは思う。


「我が軍の精鋭で周りを固めますから、ハチドリ殿はご心配なく。ハチドリ様はこの戦にて中心になるお方、そこに居るだけで皆の気合が入るってもんです。」

 クロヒョウがそう言ってきたが、ハチドリはやはり落ち着かない様だった。それでも、自分の立ち位置のことはしっかりと理解している。

「軍の皆様を信じます。」

 ハチドリは、ゆっくりと頷きそう言った。


 やがて、そろそろテムチカン軍がマーマタンに到着すると報告が上がって来た。

「さあ、いよいよ戦いが始まる。」

 ラオが皆に号令をかける。

「では、我々も参りましょう。」

 クロヒョウがそれに応えて、アーギタス軍は進軍を始めた。

 


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