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暴君ラオ  作者: あーる
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戦の準備2

 テムチカンのマーマタン進軍の知らせが届く。彼らは大河マーガの三角州を目指しているようだ。そこから南へと進軍するらしい。

 カジキの報告によると、テムチカンの半分以上の兵をマーマタンへと向かわせているとの事だった。


「テムチカン軍はあの湿地帯へ向かうのか?」

 ラオは自分の耳を疑った。聖地からマーマタンへ向かう時の、不快で辛かった記憶が蘇る。

「どうも、マーマタン側と思われる者たちが、街道沿いを進むのを妨害しているらしい。」

 カジキからの報告に目を通しながらミミズクが言う。

「一体どうやって?」

 ラオは聞き返す。

「ミカヅキ様が南の部族を使い、テムチカンの街道への進軍を妨害していた様ですね。テムチカン軍の統率力の無さも相まって、湿地帯を越えるまで、後一月以上は時間を稼げそうです。」

 ニシカゼがそう言った。

「ミカヅキ殿は蛮族に繋がりがあるのか?」

 さっきから驚く様な話ばかりだ。

「南の部族と言っても一つではありません。彼らは大体3つぐらいの勢力に分かれているのです。その一つとミカヅキ様は商売上の付き合いがあります。彼らは報酬さえしっかり払えば、仕事は確実にしてくれます。敵にすると厄介ですが、取引と割り切れればとても頼もしい存在ですね。

 このアーギタスでも、航路を使って南の連中と交易をしている。ですから、ミミズク殿も彼らの事は詳しいですよね。」

 ニシカゼがミミズクに確認するように聞いてくる。

「もちろん知っている。彼らは独自の文化を持っていて、決して蛮族などでは無いぞ。

 こちらを好戦的に見ているのは、中央にいるクロヤノ族とそれに服従しているいくつかの部族だな。クロヤノ族族長のワニガメは、かなり気性が激しく周りからも恐れられているとの噂だ。それだけでは無く頭もかなり切れるそうで、周りの部族を罠にかけるように服従させているらしい。本当に恐ろしい男だと聞いている。」

 ミミズクはワニガメの事をを警戒していると言った。

「タージルハンに、いつもちょっかいをかけて来るのも奴らの仕業ですな。」

 オニヤンマが渋い顔をする。

「まだ未確認だが、ウミネコと繋がりがあると言う噂もあるし、油断出来ない男だよ。」

 ミミズクは吐き捨てる様にそう言った。


「マーマタンへの兵力が多い様に感じるが、それは、こちらがジームスカンへ攻めるのに都合が良いと言う事か?」

 ラオには、これが自軍に有利なのかどうかは判断出来ない。

「ジームスカンの兵力を当てにしているのでしょうか?確かに兄が、兵力増強を父に訴えていましたが、そんなに早く兵力が集まるとも思えない。農民を徴兵するつもりなのかも知れませんが・・・。」

 ハチドリが心配そうに聞いて来る。

「武器類は、テムチカンからかなり流れていると聞いてはいるが・・・。奴らの狙いがよく分からないな。」

 ミミズクが唸る様に言う。

「マーマタンとカジキからの連絡を待ちましょう。兵士たちの準備をいつ出撃しても良いようにしておけば、慌てることもない。」

 ヒツジグモがそう進言して来た。

 確かに憶測で物事を考えても仕方ない。こちらはいつでも戦える事を各地へ連絡して、その返事を待つ事にした。


 10日ほどして、各地からの情報が続々と届き始めた。

 

 まずは一番近くにいるシンジュより報告が上がる。

「ローギを始めとするこちらの町々は、普段通りで一見平和に見えます。しかし水面下では、スイギュウたち反乱軍が準備を着々と進め、いつでも蜂起することが可能であります。

 彼らの大半は、普段各々の町で警備兵などをしています。表向きは町の支配者に対して忠実に働いており、支配者たちが油断しているのが見て取れます。

 支配者たちに、他の地域の情報は届いていない可能性が高いと思われます。テムチカンでは、彼らのことが忘れられているのかも知れません。テムチカンが混乱しているのか、それとも元々眼中にないのか、それは分かりません。」

 ミミズクが、シンジュの報告を読み上げた。

「まあ、こちらには好都合ってもんでしょう。どの町も、自分たちの贅沢をする事しか考えていなさそうな、そんな感じが伝わって来ましたからな。本来、町を管理する能力なんて持っていなさそうでした。」

 オニヤンマが、少し憐れむような表情でそう言った。

「叔母上はかなり信頼されていましたけど、軍を纏める力はどうなんですかね。」

 ラオは、シンジュがいつも単独行動しているように思え、心配になる。

「あぁ、それは大丈夫だと思う。あいつは南の部族同士の揉め事にも、いろいろ首を突っ込んでいて、かなり大掛かりな軍を率いたこともある。」

 軍事面において、ミミズクはシンジュに全幅の信頼を持っているらしい。


 次に来たカジキからの報告は、此度の戦を攻略する上で、かなり嬉しい知らせであった。

「ラヨンド族のアシゲ殿が、協力してくれるとの事になりました。カントには、テムドに反感を持つ兵士たちが続々と集まっていて、アシゲ殿が供給してくれる馬を使い、いつでも動ける様に準備が整って来ています。」

 カントより戻った間者の報告に、ラオたちの頬は緩んだ。

「ラヨンド族は、俺の幼馴染セキバの父方の親戚筋にあたる。セキバの父親がテムチカンの武将として戦死して以来、こちらとは距離を置いていたと聞いているが、ありがたいことだ。」

 ラオはラヨンド族の協力を素直に喜んだ。そして、改めてカジキからの手紙を読み、さらに驚く事になる。


 カジキの手紙には、アシゲがこちらに加わった理由が詳しく書かれていた。

「ラヨンドの民は少数ながら昔からの遊牧民族で、馬の産出の他にも優秀な馬具を作り出す技能集団でもありました。そんなラヨンド族がテムチカンと距離を置いたのは、ロジュン陛下の意思でございます。

 陛下はかなり前から危機感をお持ちだったようで、自分がもしもの時には、殿下のために働いて欲しいと交渉していました。テムドたちを欺く為にも、表向きには距離を置いたほうが良いと判断されたのです。

 アシゲ殿の陛下への信頼は高く、陛下の頼みを快く引き受けてくれました。彼は、敵方勢力になり得る所とも普通に取引をしながら、我々隠密とは綿密に連絡を取り合っていた次第です。


 マーマタンでも優秀な馬はおりますが、やはりラヨンド族の馬の扱いには負けると言うことで、ラヨンド族より人を何人か派遣してもらう事になりました。

 何日か前、アシゲ殿はマーマタンへ赴き、リンドウ夫人とセキバ殿に面会したと聞いています。

 セキバ殿は何も聞かされていなかった様で、父方の一族に疑いの目を持っていたそうですが、リンドウ夫人の取りなしもあり無事に和解できたと、喜んでおりました。これでより一層の協力を期待出来ると、我々も胸を撫で下ろしております。」

 セキバは、母一人子一人で育ってきた。母を亡くし、戦で忙しい父と滅多に会えなかったラオとは、お互いの孤独をよく理解している。そんな彼が親戚との誤解を解けたことが、我が事のように嬉しく思うラオであった。


 さらに手紙は続く。

「テムチカンでは、ウミネコとヤシガニの横暴に反感を持つものが増えていて、特に軍の上層部からは不満の声が大きくなっています。我々は彼らに接触をして、カント攻略の機会を狙っていきたいと思っています。

 此度の戦いは大規模にて長期戦となりましょうが、お互いの武運をお祈りいたします。」

 カジキの手紙はそう締めくくられていた。

「カジキ殿は大活躍ですな。ロジュン陛下が彼を信頼していた事がよく分かる。」

 ヒツジグモが嬉しそに言った。

「俺にも最初から教えて欲しかった。父は俺よりカジキを信頼していたのか?」

 ラオは、自分よりテムチカンの内情を把握していたカジキに少し嫉妬する。

 頭の中では、カジキの忠誠心に対する信頼と、息子のラオへの愛情を比べるものでは無いと分かっている。結局は父王の用意周到さと、それに見事に応えるカジキの優秀さを、己の未熟さと比べて悔しいだけなのだ。

 そんなラオの気持ちがわかったのか、ミミズクがラオの頭をポンポンと叩き微笑んだ。

「お前はまだ若くて経験も浅い。でも、しっかり自分で決断出来ているじゃないか。これからまだまだ色んなことが、お前の身に降り掛かるだろう。でもお前にはそれを乗り越える力と、皆を引き寄せる魅力があるんだ。

 俺は、お前が陛下にも負けない偉大な王になれると信じているよ。」

 ミミズクの言葉に、ラオは静かに頷いた。


 最後にマーマタンからの報告が来た。


 マーマタンからの報告によると、全てはアケボノの作戦通りに進んでいるとの事だった。街道を妨害していた南の部族もそのまま傭兵として軍に加わるらしい。テムチカンの2万人に対してこちらは1万7千人、数では少し劣るが地の利は完全にマーマタンにある。

 他には、アゲハがマーマタンの衛生隊をしっかり纏めていると報告書に書いてあった。

「衛生兵と言う概念は今まで無かった。これなら、怪我や病気に対しても安心して戦える。アゲハ様とアーギタス総督夫人に心からの感謝を伝える。」

 アケボノからの言葉に、心からアゲハのことを誇りに思うラオであった。


 マーマタンからの報告は簡潔で、必要なことしか言ってこない。

「これは、アケボノ殿の自信の表れなのだろうか?」

 ラオが、溜息混じりでそう言った。

「あの方の懐の大きさは、我々にも計り知れないところがありますからな。マーマタンでは、『戦は前準備で全てが決まる。』との格言がございます。ですから、余計な事を言って来ないのは、準備が整ったと言う事だと思います。」

 ヒツジグモがそう誇らしげに言う姿を見て、ラオは信頼しあえる主従関係を羨ましいと素直に思った。


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