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暴君ラオ  作者: あーる
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戦の準備1

 ハチドリがアーギタスに来てから半月ほど経ち、ゆっくりと時間をかけ皆と打ち解けて行った。

 その間にもミミズクを中心として、間者を各地へ派遣してカントを始めマーマタンやタージルハンへの連絡を密に取り、情報は共有され始めて行った。マーマタンへの距離が心配ではあったが、カントのカジキが上手い具合に調整してくれ、連絡は頻繁にできる様になった。

 他にも、オニヤンマがタージルハンのクワガタと連絡を取り合い、最高司令官のムササビにローグを含む、アーギタスまでの途中の反乱軍の支援を要請している。


「皆が連絡を取り合ってくれるから、本当に万全の準備が進みそうだな。」

 各地から入ってくる情報に、ラオは満足そうに笑ったがすぐに顔を引き締め、「だが、油断は禁物だ。」と自分に言い聞かせた。

「此度の一斉蜂起はかなり大掛かりな作戦になりますからな。」

 傍らにいたヒツジグモも緊張しているのか、最近表情が硬い。

「俺たちも御三家の家長に独自に連絡をとっていますが、アケボノ様はかなり大胆な作戦を考えているようですね。流石に一気にテムチカン王都奪還とは行かないでしょうが、それでもカントまでを攻略するつもりのようです。」

 それはカジキからの手紙にも書いてあった。カントを落とせれば、こちらの優位性は確実のものになる。

「アケボノ殿は強気だな。」

 ミミズクが苦い顔でそう言った。彼はジームスカンを先に落としてから、ゆっくりとテムチカンを攻めようと考えていたらしい。

「叔父上、ここからタージルハンの間に暮らしている者たちが、首を長くして待っています。彼らの生活はギリギリで、我慢もそろそろ限界です。俺としても一気に攻めて、テムド叔父に圧力をかける事には賛成です。」

 ラオが意見を出すと、ミミズクは首を横に大きく振りながら、「分かっている。」と答えた。

「それにしてもカントまで攻めるの、行き過ぎのような気がするのだ。」

 ミミズクはこれまで、大きな戦に参加したことが無い。だからこそ慎重に攻めていきたいのだと、自分の考えを言った。


「もちろん慎重に事を運ぶ事は大事です。でも今のこの機会を逃すと、これだけの兵を集める事も無くなるかも知れません。もちろん、もっと連絡を密にして計画を練る必要はありますが、大胆に攻める姿勢は兵たちの士気にも繋がります。俺は、突き進むべきだと考えていますよ。」

 オニヤンマも、一気に攻める事には賛成のようだ。ラオは、カマキリ討伐にはあれほど慎重だったオニヤンマの意見に、いささか驚いた。

「慎重に行く時と大胆に行く時の違いは何だ?」

 ラオは素朴な疑問としてオニヤンマに質問する。

 オニヤンマは頭を掻きつつ、「口で説明するのは難しいですね。それこそ長年の勘としか。」と言った。

 

 ミミズクは、オニヤンマの勘というものに興味を持ったらしい。

「今回の戦いに勝機があるとお考えか?」

 ミミズクの質問にオニヤンマは力強く頷いた。

「勝てる見込みの無い戦を仕掛けるバカはおりませぬ。それはただの向こう見ずと言うもの。しかし今回は、あのアケボノ殿がいけると思っているのです。彼の噂はミミズク殿も知っておられるでしょう。

 私は一度彼にお会いしたことがあるのですが、なかなかの策士でございますな。流石にあの厳しい砂漠で栄えるマーマタンを纏めるだけはある。彼に勝算があるのなら、それは信用して良いと思います。」

「アケボノと言う御仁は、それほどまで大した男なのか。いや、父やカワセミの手紙からも、それは分かるのだが・・・。」

 ミミズクは、まだ会ったこともないアケボノに、恐れのような気持ちも持ち始めて来ているようだ。

「叔父上、アケボノ殿は父が義兄弟の絆を結んだお方です。その方を疑うことは父を疑う事に他ならないと、俺は思うのです。

 確かにアケボノ殿には底知れぬ何かを感じますが、俺はまだまだヒヨッコで、どう相手と渡り合えるのかもよく分かっておりません。それでも今は、父とアケボノ殿の友情をただ信じていたいのです。」

 ラオが熱く語る姿に、ミミズクも覚悟が決まった様だった。

「お前がそこまで言うのなら、俺も信じてみよう、」

 ミミズクは大きく頷いた。


「全く。兄さんは慎重なのは良いけど、それじゃあ何も動かないこともあるのよ。でも、坊やの今の顔、陛下にそっくりだね。

 何度か戦場でご一緒した時のことを思い出す。陛下は側から見れば強引にも思える作戦でも、自らが鼓舞して皆の戦意を高め、不可能を可能にして戦っていらした。戦場で気持ちで負けると、もう戦うことは出来ない。陛下はそれをよく知っていて、ご自身がいくら不安だろうとそれを心の奥にしまって、一番先頭で戦っていらした。その姿勢は本当に神々しささえ感じたものだよ。」

 シンジュはそこまで言って、深く深呼吸をした。

「私がタージルハンへ行こう。途中の町々に寄りながら、どこでどう言う援助が必要か見て周り、タージルハンの助けを借りて、指揮を取って行こうと思う。」

 シンジュがそう提案して来た。

「タージルハンは俺の故郷です。俺が行く方がよろしいのでは?」

 オニヤンマが異議を唱えたが、シンジュは横に首を振る。

「タージルハンだけならオニヤンマ殿が適任でしょうが、道中の土地では私の方が信頼度が高い。それに、タージルハンを手薄にするわけにないかないので、戦への参加は最小限の援助と、後は連携の強化をお願いするのが良いと思われます。

 その旨を伝えに、王代理の殿下とオニヤンマ殿の書簡を携えて、クワガタ殿に会いに行こうと考えています。書簡の用意をお願いできますかな?」

 シンジュはそう言って、ラオとオニヤンマに礼をする。


「シンジュ!殿下を差し置いて、何を一人で決めているのだ。」

 ミミズクの叱責の声が響く。

「良いのです、叔父上。叔母上の言う事は尤もで、ここに来るまで出会った人達は皆、叔母上に絶対的な信頼を寄せておりました。彼らの信頼は我々の力になります。

 叔母上、早速書簡を書く事にしましょう。小さい町が点在していて、それを纏めるのは大変でしょうが、叔母上の人徳に期待しています。」

「命をかけましても、殿下の期待に添えるよう頑張ります。」

 シンジュは片膝をついて深々と礼をした。その光景を見てミミズクは、渋い顔をしながらも納得する。

「殿下、申し訳ありません。私は政の事は自信がありますが、どうも戦については素人の様です。やはり、私は後方支援に徹した方が良さそうですな。」

 ミミズクが自嘲気味に笑い、そう言って来た。

 ラオは、ミミズクの気分を害したのでは無いかと心配になる。そんなラオの心境に気がついたのか、シンジュが笑いながらラオの肩を叩いた。

「坊や、大丈夫だよ。兄さんは別に拗ねてる訳じゃ無いんだから。ただ、この人はなかなかの断固物でね、ちゃんと腹落ちするまで人一倍時間がかかるのさ。」

 そう言われたミミズクは真珠を睨み返す。そして、ラオの顔を見てニコリと笑う。

「ラオ、要らぬ心配をかけて済まぬな。まったく、シンジュには敵わん。俺はどうしても慎重すぎるのかも知れぬな。だが、後方支援に徹するのは、我ながら良い考えだと思っている。兵士たちに思う存分暴れてもらうのには、やはり後方の力も必要だろう?

 それから、敵との交渉ごとは任してくれ。それは俺が適任だと思う。絶対に有利な条件を飲ませる自信があるのさ。」

 ミミズクとシンジュは、叔父叔母と臣下という立ち場を行ったり来たりしながら、ラオと話をしている。二人は無自覚に切り替えている様だが、ラオを盛り立てる為に真剣に取り組んでいるが故のことに思えた。それほどラオに対し、て愛情と信頼を注いでくれている事に涙が出そうだ。


 マーマタンへの連絡網が確立されてしばらくしたある日、ラオ宛にマーマタンから手紙が届いた。差出人の名前を見た瞬間、ラオの顔に笑顔が溢れた。それは、婚約者のアゲハからの便りであった。


「ラオ殿下へ、

 カジキ殿の手紙で、殿下のタージルハンでのご活躍のことを聞きました。今はアーギタスにて、ジームスカンの王子ハチドリ殿と、戦の準備をなさっていると聞いております。

 ここでは皆が私に親切にしてくれます。その優しさに応える為にも、カワセミ殿とセキバ殿と共に戦の準備を手伝っているところです。

 私は、聖地で勉強した薬学で兵士たちの役に立ちたいと、マーマタンの奥方様たちと共に衛生兵の部隊を組織いたしました。

 聞くところによりますと、アーギタスの総督の奥方様は医師としてご活躍だとか、是非ご教授いただきたいと、別に手紙を添えてありますので、どうかオニキス様にお渡し願います。

 

 貴方が旅立って一年以上が経ち、やっと貴方の今の状況が詳しく分かる様になりました。貴方を信じていたのは本当ですが、ずっと心配でもありました。元気でご活躍していると聞いて、こんなに嬉しい事はありません。

 早く貴方に会いたい。これは私の我儘なのは分かっています。でも貴方が恋しくて仕方ありません。どうか一言でも良いのでご返事ください。待っています。」


 手紙からアゲハの愛情が伝わってくる。「貴方に会いたい。」その一言に堪らない気持ちになった。ラオも早くアゲハに会いたい気持ちは一緒である。でももう少し頑張らなければしけないと自分自身に気合を入れ、アゲハへの労いと共に手紙へ(したた)めた。


 祖父であるガジュマルの一族や、幼馴染のセキバ、そして最愛の婚約者であるアゲハ、皆がラオと心を一つにしててくれる。ラオは改めて、自分がどれほど恵まれているのかと感謝する。そして、その信頼を全て受け止めるだけの力が欲しいと切に願った。



 

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