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暴君ラオ  作者: あーる
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ハチドリ4

 ハチドリは、自分の素性がバレたことが納得出来ていない。そこで、カジキに質問してみた。

「なぜ僕がジームスカンのハチドリだと分かったのですか?」

 カジキはニヤリと笑い、「簡単なことです。」と言ってきた。

「私は、ロジュン陛下に付いて何度かジームスカンへ行っています。その時にハチドリ様にお会いしていたので、元々お顔を知っていたのです。おかげで街に入ったその日に、しっかり貴方様を確認する事が出来ました。」

 カジキの言葉に驚く。ハチドリには全く記憶が無い。

「僕は全く覚えていない。」

「そりゃそうです。私は隠密でございますゆえ、人の記憶に残らないように心がけています。」

「隠密と言うのはそんなことも出来るのか?」

 果たしてそんな事は可能なのか?ハチドリには信じられない。

「子供の頃からそう訓練しておりますからね。」

 誇らしげにそう言うカジキの姿に、ハチドリは何故か信用して良いと思えた。理由はよく分からないが、心から安心出来ている自分に気がついたのだ。

「あなた方を信じましょう。」

 ハチドリがそう言うと、カサゴとカジキが満足そうに微笑み、頷いた。


 自分はあまり武芸に才能はないと自覚はある。それでも、幼い頃から稽古は嫌がらずにやって来た。それは自分が王族であることの証の様に思っていた。しかし歳の離れた兄のバンブーは、非力な弟のことが気に入らなかったらしい。幼い頃からいじめられた記憶しかないし、この暴力的な兄には恐怖心しか残っていない。

 アーギタスに行ってラオに会うと言う事は、その兄に喧嘩を売ると言うことだ。果たして自分は己の恐怖心に負けず、ジームスカンを奪う事が出来るのか?。



「それでも今は、やるしか無いのだと思っています。僕にはこれしか道はない。」

 ラオは、ハチドリの話をじっくりと聞いた。彼は感情を隠すことも無く、自身の弱さも赤裸々に語ってくれた。

「人には向き不向きというのもがあるからな。ハチドリ殿はどこから見ても学者肌の人間に見えるし、そう意味ではジームスカンに居なくてはならない人物だと思う。しかし、バンブー殿の暴挙で、それが叶わなくなってしまった。 それに関しては、心から同情する。本当に逃げる事なくここに来てくれた。それだけでも貴方の勇気を讃えたい。」

 ラオは本気で、ハチドリが決心してくれた事を喜んだ。一方のハチドリは、神妙な顔をしている。

「僕が戦で力になれるとは思いません。しかし、ジームスカンの民を救いたい気持ちはあります。怖くて逃げようとしましたが、やっと戦う決心が付きました。

 僕の立場を如何様に利用していただいて構いません。それに対する責任も、全て自分が引き受けます。僕にはこれぐらいしか役に立てない。」

 昨日感じたハチドリへの違和感は、自分を好きに利用してくれという覚悟と、それで自分に降りかかる事への不安がグチャグチャに混ざり込んだ、複雑な心境の現れだったのかも知れない。


「俺は、自分を信じてくれるものを決して裏切らない。これからハチドリ殿に、辛い思いをさせる事もあるかも知れない。でも、決して貴方を裏切らない。俺を信じて欲しい。」

 紅潮した顔でラオはハチドリにそう言った。まるで求婚の言葉のようである。しかし、その真剣さにハチドリは安心出来たようだった。

「殿下、ありがとうございます。僕は逃げることだけしか考えられなかった。その自分が恥ずかしい。でも今では、自分の出来ることはしっかりする覚悟が出来ています。

 僕は貴方を信じます。兄の暴走を止め国に安寧をもたらすことにご協力ください。お願いいたします。」

 ハチドリはそう言って、ラオに深く深く頭を下げた。

「貴方を落胆させるような事は絶対にしたくない。俺は全力で戦うことを誓う。それに、ハチドリ殿が陣営に入った事で、俺もテムチカンの包囲網が完成する。

 叔父のミミズクは、これは俺とテムドとの代理戦争でもあると言った。今ならその意味が分かる。だからハチドリ殿、俺も貴方に助けられているという事なのだ。俺に遠慮する事は無い。」

 ラオの言葉で、ハチドリの顔がパッと明るくなった。彼は、今まで自分が迷惑になっていると思っていたらしい。しかし、自分もラオに必要とされている。その言葉が嬉しいとハチドリは涙ぐみながらそう言った。

 ラオも貰い泣きしそうになりなるのを堪えて、ハチドリの手を取り、これからの友情を確認した。


 軽く昼食を摂った後、クスノキも交えてお互いの情報を再確認する事にした。まずはハチドリがカントで聞いた話を報告した。

「カサゴ殿は、カントに逃げてきた反テムド派の人たちを匿っておられます。僕も何人かと話をして知ったのですが、兄はテムド様の取り巻きの一人、ヤシガニに唆されたみたいですね。」

 ラオはヤシガニの名前を聞いて不愉快な気持ちになる。

「ローギの町に親戚を派遣して、好き勝手しているヤツだな。規模は違うが首長を裏から操る事に長けているのか?」

「テムドの取り巻きは、ヤシガニとウミネコの二人で権力を二分している。奴らはテムドも良いように操っているのでは無いかな?」

 ミミズクの意見にハッっとする。確かに今までテムドの動向が、まるで分からなかった。各地で名を聞くのはいつもその二人である。

「テムド叔父は何をしているのでしょう?まさか、父を討ってそれで満足でもしているのでしょうか?」

「それは無いと思うが、多分後宮にでも入り浸るように、仕向けられているのでは無いかと思う。」

 ミミズクは険しい顔でそう言った。

「それでは、カワウソ様と同じではありませんか!」

 鬼のような形相でオニヤンマが叫ぶ。

「それが、いつもの奴らのやり口なんだろうな。テムドは今頃、後宮の奥深くで腑抜けにされているのでは無いかと想像に難くない。」

 眉間を指で摘まみながら、ミミズクは溜息をついた。

「テムド叔父はそれで良いと思っているのか?しかし、本当の敵がハッキリしたな。ウミネコとヤシガニがテムド叔父を操っているのだ。それで、テムドの罪が無くなる訳では無いが、とにかく奴らを最優先に倒すのが良さそうだ。」

 ラオは握り拳を突き上げそういった。

「まだ推測の域を出ていない事を忘れるなよ。」

 ミミズクが熱くなるラオに釘を刺した。


 ハチドリが、バンブーの性格を踏まえ、彼の行動を考える。

「多分ヤシガニは、兄も同じように丸め込もうとしているのでしょう。でもああ見えて兄は、全てを自分で管理したいと思う性格です。ヤシガニのやり方に、素直に従うとは思えません。」

「そうですねぇ。バンブー様は自分が一番と言う性格でございますから。」

 ハチドリの言葉に、クスノキも頷く。

「バンブー殿の政治手腕はどう思われますか?」

 ミミズクがクスノキに質問する。クスノキは首を横に振りながら、「あの性格ですからね。」と情けなそうな顔で溜息をついた。

「バンブー様は、とにかく腕力で従わせるしか考えていないように思います。上から押さえつければ、誰も反対しないと思っているのです。タチバナ王が何度もそれを窘めていたのですが、バンブー様には何も響いては無かったのかも知れません。」

 続けてハチドリが、バンブーとヤシガニの関係性を推察する。

「僕は何度か、ヤシガニに会った事があるのですが、やたら褒めてくる人でしたよ。僕は何だか苦手な感じでしたので、早々に退散しましたが、兄は何だか楽しそうにおしゃべりをしていましたね。

 ヤシガニ殿にとって、兄のそういう所は操縦しやすく思うのでしょう。現に唆されて、父上を亡き者にすると言う暴挙に出た。でも兄も結構頑固なので、そのままヤシガニの思い通りとはいかないのではと思います。」


「ヤシガニが接触して来たのは、いつぐらいなんだ?」

 ラオは、ヤシガニがいつから動き出していたのか気になった。

「そうですね・・・。僕が12歳ぐらいの時だから、6年前ってところでしょうか。それからは結構頻繁に来訪していたみたいです。」

 ハチドリの言葉に、ラオとミミズクは顔を見合わせる。

「俺がまだ元服する前じゃないか。でも、確かにテムド叔父に変な取り巻きが増え始めた頃に合致する。」

 ラオは腕を組みながら考え込んでしまう。

「陛下も、同じ頃から何か感じておられたのかも知れないな。それが確信になって、自分の手に負えないと悟った時、お前を聖地へと送り出したんだな。」

 ミミズクは当時を思い出しているのだろう。顔に悔しさが滲み出ている。そしてそれはラオも同じ気持ちであった。

「俺は自分が子供だった事が悔しいよ。でも、父上は俺を聖地へと送っってくれた。そこでの経験が絶対にテムチカンの役に立つと信じてくれたのだ。

 俺は父の信頼に応えなくてはならない。それがハチドリ殿の信頼に応えることになると思う。」

 ハチドリはラオの言葉に感銘を受けたようだった。

「殿下は本当に強いのですね。僕にその勇気の少しでもあれば、ガルナンにも苦労させなくてよかったのに。」

「それは違う。恐れつつも貴方は、バンブーに立ち向かうことを決めた。それだけでも本当に勇気あることだと俺は思うよ。」

 ラオの言葉にクスノキも頷きながら、「立派だと思いますよ。私はあなたについていきます。」と正式にハチドリへ臣下の礼を示した。

「私も、ハチドリ様を誇りに思いますよ。」

 ガルナンも満足そうに膝をつき、ハチドリへ礼をした。

「兄を倒してから、改めて二人からの礼を受け取るよ。今はまだその時では無い。」

 ハチドリは照れ臭そうにそう言って、ラオに向き直る。

「殿下、僕は殿下と共に戦います。不甲斐ないところを見せるかも知れませんが、よろしくお願いいたします。」

 そう言ってくれることが本当に嬉しく思うラオであった。






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